爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

エンドレス周回 2

公開日時: 2021年1月4日(月) 14:05
文字数:2,989



(まくら様、見込みどおり戦闘が始まったようです)


(そうか。って、そういうの分かるもんなのか?)


(我の魔力の断片である羽衣を、鬼若とクロに身に付けさせてますので)


(そのための手袋だったのか? 親切心かと思ってたのに……)


(半々といった所ですわ。何も見返りの無い行動はいたしません)


(ベルらしいと言えるけど……。それで、問題なく勝てそうか?)


(相手は一人ですので、バトルであれば鬼若の初撃で決着かと)


(上方修正後の鬼若のチート感すげぇ)


(こちらもまもなく到着のようです。まくら様、お願い致します)



 アルダが亜空間トンネルをゆがめると、その先にサンタ工場が見えてくる。

俺達はそのままトンネルを抜けるが、アルダは工場の扉の前でしばらく立ち止まった。



「どうした? チヅルと会いたくないのか?」


「えぇ。今さらどんな顔をして会えばいいのか、と考えてしまって」


「そんなに思いつめる事でもないだろ? 事情を聞くだけなんだし」


「いえ、今まで私は自身の気持ちばかりで、チヅルやアーニャの事をちゃんと正面から見ていなかったのではないかと……」



 完全に自信喪失しちゃってるなぁ。無理もないか。

ベルの「人形遊び」発言は、そういう所を非難してるわけだしなぁ。



「では、今さら逃げると仰るのですか? 所詮、その程度の愛でしたか」


「追い討ちをかけてやるな……」


「その通りです。私はチヅル達を愛していると言いながらも、一番に大事にしていたのは、自分自身だったのかもしれません。

 けれど、だからこそ、ケジメは付けたいと思います」


「それって、俺達邪魔になるよな。どっかいってようか?」


「いえ、事の行く末を見守っていただきたいです」



 ちょっとかっこいい事言ってると思ったら、最後へにょりやがったな!?

いやでもね、俺はオチがなんとなく見えてるんで、この後修羅場にならないと思ってるけどね。


 なにせ「10歳の女の子が、クリスマスイブに例の6時間を過ごす」なんて展開さ、ゲームにできると思ってんの!? そんなんしたら通報もんですよ!?

というか、プレイヤーから顰蹙ひんしゅく買いまくって、運営本社爆破案件だよ!!


 というのが、メタい異世界人プレイヤー目線の推測だ。

まだガチャに登場させてない、アーニャの商品価値を落とす理由もないしな。

幼女キャラは、それだけでかなりの額が動くと聞くし。


 さて、それはともかくだ。アルダは深呼吸をして覚悟を決めたようだ。

すまぬアルダ、俺にとってはゲーム感覚だが、お前は本気なんだよな……。

この後まさかの展開からの修羅場が訪れないよう、祈る事にしよう。

力なくドアをノックするアルダは、この寒い風に少し汗ばんでいるようだった。



「はい、どちら様でしょうか」


「私です。アルダです」


「あら、あなた。バウムは見つかりましたか?」


「えぇ、それは問題ない。……。少し、話せないか」



  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 



「このたびは、娘の事で大変ご迷惑をお掛けしました」


「いや、なんとなくこんな事だろうと思ってたし、俺は大丈夫。

 それよりアルダの方が心配なんだが……」


「心配には及びません。しばらくすれば立ち直るでしょう」



 俺達はサンタ工場の休憩室で、チヅルと今回の顛末を話していた。

結局、爺さんの話は半分本当で、半分は嘘だった。爺さんのせいではないけど。


 アーニャが外泊するため“悪い子リスト”に入ったのは本当だった。

どうやらこの世界では、クリスマスの夜に親類以外の家で過ごすのはご法度らしい。

サンタの仕事が煩雑はんざつになるからという理由が、チヅルの見解だ。

そのため、外泊予定のある子は“悪い子”と判定し、プレゼントを配らないそうだ。


 そして、そのシステムを利用して、サンタを家に来なくさせたのがアーニャだ。

なぜそんな事をしたかと言えば、毎年サンタとして飛び回る爺様に、サプライズパーティーをしたいらしい。

あの爺さんの爺バカっぷりを考えると、嬉しさのあまりショックで死にかねんぞ……。


 そういう訳で、チヅルとアルダが不仲だという訳もなく、チヅルがアルダに教えなかったのも「あなたが嘘をつけると思ってませんもの」なんていう理由だ。

それに、「秘密を知る者は少ない方がバレにくい」というのも大いにある。この事は口外しないように、と口止めされたしな。


 この話を聞いたアルダは、嬉しさと安心感からか泣き出してしまい、今ではトイレの住民と化している。

いや、泣くためなんかにトイレ占拠すんなよ……。


 あと、俺の勝手な想像だが、教えなかった本当の理由って「アルダが爺さんに嫉妬するから」ってのもありそうなんだよなぁ。



「事情は分かったが、これからどうするつもりだ? 何か手伝う事はあるか?」


「そうですね……。私はここでの仕事を切り上げて、一度娘の所へ帰ろうと思うのですが、工場の業務が遅れている事が気がかりですね」


「しかしなぁ……。爺さんの様子次第では、このままクリスマスが中止の可能性もあるよな」


「いえ、中止になどさせる気はありませんわ。私にはサンタの能力チカラはありませんが、既に私財を投じて作業は行わせております。進捗は芳しくありませんが……」



 どうやらチヅルもちゃんと動いていたようだが、個人でできることには限界があるようだ。

詳しく聞けば、期間工エルフを雇い、プレゼントの入荷、分別、包装などは進めているらしい。

けれど出せる資金の問題で期間工エルフが少なく、例年より大幅に遅れているようだ。


 さらに言えば、バウムの訓練もできておらず、爺さんが戻らなければ届ける人も居ない。

“やれる事はやったが全て無駄だった”なんて結末が見え隠れしている状態だ。


 この展開には俺も少しの不安を覚える。

さきほどまでは去年と同じ感じで、サンタの爺さんを説得してクリスマス中止は撤回。

その後何らかの手伝いが必要になり、それが周回イベントになる……。

なんてストーリーではないかと考えていたのだが、この様子ではもう一つの可能性として、俺達がサンタ工場で準備をする事が、周回要素になるのではないだろうか。


 いや、それ以前にプレイヤーが不在にしたせいで、サンタの爺さんの結論が変わってしまい、現在このような状況に陥っている可能性もある。

だとすれば、俺はどういう選択をするのが正しいのか……。


 少なくともイベントを正常に進めなければ、ストーリーが破綻してしまう。

ゲームだったら選択肢を選べば勝手に進むし、その選択肢すらどれを選んでも問題がなかった。

うーむ……、困ったなぁ。

チヅルの話を聞きながら、考えを巡らせていると、工場に新たな来客があった。カオリ達だ。



「お疲れ様です、チヅルさん。ご心配をお掛けしました」


「おかえりなさいバウム。話は聞いています。父が迷惑を掛けました」



 チヅルはやさしくバウムを抱きしめ労っている。

アルダより、よっぽどバウムを心配していたんじゃないだろうか。

まぁ、この際トイレの住人アルダの事はどうでもいいか。それよりカオリ達だ。



「みんな、お疲れ様。いきなり本題で悪いが、爺さんはどうするって?」


「えっと、どこから説明すればいいのかな? とりあえず、クリスマスはやることになりました」


「そっか、それはよかった。……ってどうしたバウム? じっと俺の事見ちゃってさ」


「まくらがシャベッタァァァァ!?」



 バウムは全身の毛を逆立ててうろたえる。いや、その反応に俺の方がびっくりするわ!

そういえば、バウムは俺の事をただのまくらだと思っていたのか。説明してやらないとな。

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