爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

堀口裕子の見る世界 [10]

公開日時: 2021年3月23日(火) 18:05
文字数:2,375

「こういう時は、共通項を探すものよ」



 なんてそれっぽく言ってみたが、資料をまとめただけで昼休みは終わってしまった。

もっとも、5分くらいしか残されていなかったのだから当然だけどね。


 それでも印南君は、昼一番の訪問先へ向かう車内でも、それを穴が空くよう念じるかのごとく睨み続けている。

時折「共通点……共通点……」という念仏かもしくは呪文を唱えているが、車酔いしてしまわないかが心配だ。

私も運転しながら、頭の隅では失踪した彼女らの共通点を考え続けていた。


 共通点の1つめ、皆同い年の12歳であること。

2つめ、女の子であること。

3つめ、繁華街での目撃・防犯カメラの映像が最後の情報であること……。


 この3点くらいかしら。

昨日新たに失踪した子も同じ共通点を持っていた。これで9人目か……。


 けれど最後の共通点である、繁華街が最後の目撃証言というのは、彼女らに限らず他の失踪者の多くがそうである。

あの場所になにかがあるとは思うけれど、実際に何があるかは、何度か訪れているが分からないままだ。


 手がかりらしい手がかりもなく、何かピンと頭の中でパズルのピースが噛み合うことも無く……。

思考がゆっくりと鈍化し止るのと同期するように、車も赤信号を前に止まった。



「ナトさん、共通点考えたんですけど、みんな近いんですよね」


「そうね、最後の目撃場所はみんな同じようなものね。それは彼女たちだけじゃないけどね」


「いえ、そうじゃなくて、住んでる場所が近いなって思ったんです」


「あぁ、そっちね。確かにみんな私の担当地区だから、家も近いでしょうね」



 私たちはそれぞれ受け持つ失踪者の担当を割り振っているのだが、それは訪問がしやすいようにと地域ごとで分けている。

そのため、私の担当地区に多いということは、それなりに家も近い事になる。

それでも車で回る必要があるくらいには広いのだけれどね。



「一度地図で確認したいのですが……地図は持ってないんですよね。

 あっ、カーナビ使ってもいいですか?」


「いいわよ。でもナビで何をするの?」


「よく行く場所を登録する機能があると思うんです。

 それでマークしていけば、どの程度近いか把握できるんじゃないかと思って」


「へぇ。私には使いこなせそうにないけど、便利なものね」



 そんな機能があったのか、それなら何度も行く所を登録してもらおうかとも思ったが、考えてみれば私は一度行った場所ならなんとなく覚えられるし、別に使わないだろうなと考えなおした。

担当している地域が地元だからってのもあるけどね。


 そんなこんなで考えをめぐらせながら車を走らせていると、訪問先に着く頃には印南君はカーナビの操作を終え、マップには多数のピンマークが刺されていた。



「ナトさん、見て下さい。この9人、近いってもんじゃないですよ」


「えっ……。さすがにご近所と言うには遠いけど、かたまりすぎてるわね」



 指し示す先の密集したマークは、私の担当する地区のごく一部だった。

ざっくり円を描けば、直径が2駅分くらいの距離だろうか。

確かに訪問する時にこの辺によく来るとは思っていたけど、こんなに近かったとは意外だ。



「それにこのリスト、生年月日の所見てください」


「生年月日?」



 前に印南君が間違えて並び替えたリストだ。確かこのリストのおかげで、同い年の子達が失踪している事に気付いたのよね。

そう思い返しながら見ると、なにやら奇妙な事に気付かされる。

1月7日、2月24日、3月29日、5月8日、7月18日、8月30日、9月16日、11月20日と、同じ誕生月が居ないのだ。



「これってどういう事かしら? まるで全部の月を集めてるようじゃない」


「そうなんです。昨日の子は12月11日生まれ……。何か意味があるのかも」


「もしかすると、私の担当じゃないだけで残りの4・6・10月の子も被害に遭っているかもしないのね。

 一度、森口君にメールでこの事を知らせましょう」



 地図と名簿の画像を添付し、メールを送る。ここから先は私たちの出る幕ではない。

少なくとも森口君から何かしらの連絡があり、その上で手伝って欲しいと言われない限りは。



「それじゃ、返事があるまでは私たちは私たちの仕事するわよ」


「そんな悠長な事言ってる場合ですか!? 明らかに人為的なものですよ!?

 この子達は、今にも危ない目にあってるのかもしれないんですよ!?」


「印南君落ち着いて。

 解決を急ぐ気持ちは分かるけど、これが本当に関連のある事かどうかは分からないわ」


「でも、こんな事って普通ありえないでしょう!?」


「他の失踪者だってありえない話よ。それに、私たちが関連性に気付いてないだけかもしれない」


「そうかもしれないですけど!」


「あとね、そっちにかまけて、私たちのやるべき事をほっぽり出す事が正しいの?

 今も森口君は現場に向かっていて、私たちがとやかく言わなくても捜査しているはずよ」


「そう……ですが……」



 手柄を持たせて署に返してあげたいという私の老婆心は、彼を焦らせてしまったようだ。

だけど私たちはあくまで手伝い。何らかの情報を得られただけでも十分な成果だ。


 けれど彼はそれでは満足できない。根が真面目なのもあるけれど、助けを求める人に手を差し伸べたい、そう願う彼には、姿を消した彼女たちが待っているという想像に取り憑かれてしまった。

それは訪問先での対応のあいだ中も、彼のそわそわとした様子に表れていた。


「焦ったって仕方ないでしょう」という車内へ戻っての第一声。

私だって言いたくはないけれど、それでも彼を任された者として言わないわけにはいかない。



「スミマセン……」



 小さく呟き縮こまる姿に、なんだか私が悪者みたいじゃないとボヤきたくなる。

けれどこれ以上叱る気にもならないし……。

もうっ! 仕方ないわ! 彼のやりたいようにやらせましょ!

諦めのため息が漏れそうになるのをぐっと堪え、手帳で今後の予定を確認した。

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