前章のあらすじ
『異世界の管理者たちが揃ったようです』
外注さんの今日のひとこと
『管理者揃ったのに、終わりのお知らせってなんやねん』
目前に広がる散々たる光景から目をそらし、俺は現実逃避をしていた。
俺たちいつものメンバー、つまり俺、カオリ、鬼若、ベル、クロと、追加二名のアイリとガチャ神。
総勢7人が舞台へと上がったのが今から数十分前。
目の前には約500の群衆。彼らはこの世界の住民……いや、アイリによって選ばれたゲームの住人達だ。
彼らがどう選ばれたのかだが、アイリ達が「ネームドキャラ」と呼ぶ、このゲームに一体しか存在しないキャラクター達。
それに追加して「非ネームドキャラ」と呼ばれる、言葉を選ばず言えば「モブ」や「エキストラ」と言われるような、同じグラフィックの使い回しをされるキャラクターの代表者である。
代表者であるものの、ゲーム上の扱いで言えば、この世界の全住民だ。
その視線を一気に浴びながら「500人って言えば、1クラス50人としたら10クラス分か。全校集会の校長先生ってこんな感じなのかな」などどいった呑気な事を考えていた。
実際にアイリが用意した会場は階段状になっていて、後方にゆくほど席が高くなっているので、どちらかと言えば映画館での舞台挨拶に近いのだけど。
ともかく、そういった会場などのお膳立てをアイリにしてもらい、俺は重大発表をするに至ったのだ。
その内容とはもちろん、この世界がゲームであることと、それが間も無く終わりを迎える事についてだ。
しかし、そんな話を聞かされて「はいそうですか」と信じるヤツなんていない。
皆一様に「何言ってんだこのクマまくらは?」といった様子だし、鬼若でさえも「主様の言うことなので信じたいところですが……」と言葉を濁しつつも、内心「ついに頭の中までまくら化したのか?」とでも言いたげな様子だった。ま、当然の反応だよな。
それ自体は事前の打ち合わせでも想定していたし、アイリには理解してもらうのに時間が必要だと説明してある。
そのため今日一日ゲームはメンテナンス日という事にしてあるのだ。
というのも、こちらの世界とゲームが中途半端ながらも同期しているため、この説明会がゲームに影響しないよう、一般ユーザーがゲームに接続できないようにしておく必要があったのだ。
万一ゲームしようとしてログインしたら、キャラクターが「この世界ってゲームなんですよね」と言い出すなんて事態になろうものなら、ゲームの世界感ぶち壊しだからな。
いや、急に見たこともない、クマまくらのキャラが出てきて「この世界はゲームだ」と言い出す展開になるのだろうか?
そんな事になれば、スマホゲー史上最大の炎上案件になりそうだ。
しかし、配慮したつもりのそれが「どんな事をしても大丈夫」な状況を作ってしまい、悲劇を生み出したのだった。
「さて、どうやって信じてもらおうかな」
「……大丈夫、手はもう打った」
「ん? どういう事だ?」
「……キャラクターデータを書き換えた。
……世界の真実を知っている事にした」
「ちょっ……それは色々マズいんじゃ?」
キャラクターデータ、それはプロフィールの事だ。
けれど俺たち「普通の人間」とは違い、彼らは「ゲームキャラクター」だ。
そのため、俺たちの考えるプロフィールとは重要度が違う。
プロフィールとは通常「人となりを元に書く」ものだ。けれど、彼らゲームキャラクターは逆なのだ。
つまり「プロフィールを元に、人となりができている」のである。
考えてみれば当然で、設定を元にキャラクターが作られているのだから、設定先行以外の方法はあり得ない。
それを書き換える……。しかも「この世界の真実を知っている」なんて事にしてしまったら、自身が作られたモノでしかないと認識する事となる。
自らが「誰か」によって創られ、「誰か」の思惑によって動かされていた……。
自身の性格も、考えも、信念も……。
好きも、嫌いも……。
過去も、想い出も、悩み選んだ選択も……。
未来への希望も、不安も……。
全てが「ツクリモノ」だったと知らされて、正気を保っていられるだろうか。
ざわめいていた会場は一瞬の静寂に沈んだが、次の瞬間には突如自身のアイデンティティを失った者達の、悲鳴にも似た嘆きの声が湧き上がる。
「強制的に理解させる」とは、混乱すらもさせてもらえない。
一様に困惑した瞬間はあっても、即座に絶望の底へと彼らは叩き付けられた。
そういったワケで、目の前に散々たる光景が広がっていたのだ。現実逃避終わり。
せめてもの救いが、暴動に発展しなかった事だ。
群衆に暴れようとする者はおらず、ほとんどが机に突っ伏したり、頭を抱えたりといった状況だ。
この様子を見て「なんでもできるからと無茶をしてはいけない」と、全知全能予定の神様が反面教師としてくれる事を祈ろうか。
いや、運0の俺を創った時点で期待するのは無理か。
っと、また現実逃避しかけたが、この惨状をどうにかしないといけないな。
このままじゃ、世界が終わるどうこうの話ではない。
しかし、惨状は目の前で起きているだけではなかった。
舞台に上がった者達も、彼らと同じように衝撃を受けていたのだ。
「主様は……、全てを知っていたのですか……」
「まぁ……、な」
「知っていながら……、俺がツクリモノだと知っていながら今まで……」
「言ったって信じないだろ?」
「俺は……、俺は一体なんなんですか!
こうやって悩む事も、怒る事も、主様を想う気持ちさえも……。
全て……、全て偽物だと……」
「…………」
鬼若は、怒りと悲しみの間を落ち着き無く行き来するように、一貫性の無い声色で俺へと詰め寄る。
けれど、俺はその問いの答えを持ち合わせてないどいない。
俺自身も、ガチャ神によって創られた「実験動物」に過ぎないからだ。
ただ違いがあるとすれば、俺の過去が偽物、存在しないわけではない、という点か。
たった一つだが、その違いは大きい。
この世界の者達には、自らを構成する要素全てが不安定なのだ。
そうやって、返答に悩む俺に助け舟を出したのは、他でもないアイリだった。
「……それは違う」
「何が違うって言うんだよ!!」
「……確かにあなた達は創られた者達。
……だけどこの世界での日々は本物。
……少なくとも私が手を出せなかった時期、学園運営局が存在していた時期は本物と言える」
「そうだな、局長達には記憶改変なんてできなかったしな。
それに今も、これからもそれは変わらないよな?」
「……えぇ。
……今回は理解してもらうための特例処置」
「けど……。だからって……、それまでの俺は……」
アイリの言葉に少し持ち直したと思われた鬼若だったが、やはりそれだけでは納得などできはしないだろう。
この半年ちょっとの事しか、本物ではないと言われたのだから。
こうしたやり取りを見ていた群集の中から、見知った顔が舞台へと上がってきた。
三田聖夜こと、サンタの爺さんだ。険しい顔でつかつかとこちらへやって来る。
それとは対照的に、手を引かれ共にやって来た孫のアーニャは、目の焦点が合っていない、魂の抜けたような顔をしている。
人形のように可愛い子だとは思っていたが、本当に人形になってしまったかのようだった。
アーニャはしっかりした子だが、まだ幼いこの子にとって“強制的な理解”が、どれほどショックだったかは、想像するまでもないだろう。
「今までの話、嘘はないんだな?」
「あぁ、全て本当の事だ」
「少しばかり言いたい事がある。時間は取らせねえ」
「構わないよ。どうぞ」
それは“俺に”言う事かと思ったのだが、爺さんは演台の前へと歩み出した。
『はいはい、今回から二人での後書きやね』
「短い付き合いになるかもしれないけど、よろしくなんだぜ!」
『いや、今月で終わるから短いの確定やで』
「そういえば、そういう話してたんだぜ……」
『延長戦あるかもしれんけどな』
「!? もしかすると、世界が助かるルートがあるってことなんだぜ!?」
『それはない』
「どぉじてぞんなごどいうのぉぉおぉぉ~~~!!!」
『醜く叫ぶなや』
「でも考えてみればおかしいんだぜ!?」
『何がおかしいん?』
「世界はゲームができる前からあったんだぜ?」
『ソーデスネ』
「それなら、ゲームの終わりが世界の終わりになるのはおかしいんだぜ?」
『ソーイウ風ニ デキテルカラジャ ナイデスカネ?』
「なんでカタコトになってるんだぜ!?」
『……上神様居ないし言ってもいっか』
「おっ? まさか重大内容なんだぜ??」
『それじゃ、次回もゆっくり読んでいってね!!』
「いや! 教えて欲しいんだぜ!?」
『ネタバレになるし、後書きが終わってからな』
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