前回のあらすじ
「道中の立ち話感覚で新事実を知らされたのじゃ」
ガチャ神の今日のひとこと
「爆破、つまり発破には、発破技士免許が必要なのじゃ」
アルダの杞憂。一応内容を聞こうと催促した俺達だったが、今はそれを後悔している。
今アルダは自身の中にある、全ての語彙を使い果たさんとするかのように、彼の妻の素晴らしさを語る。
いつまでも歩みを止めているわけにはいかないので、歩きながら話していたのだが非常に長い。
それはもう、目的地に着くほうが早いのではないかと思われるほどの長さだった。
「……っと、まだまだ語りつくせないのですが、この素晴らしい妻と私が対決すれば、我らの涙でこの世界は水没してしまうでしょう」
「いやホント長いわ……。かれこれ、20分くらい聞かされた気がするんだが」
「奥さんを愛してるんですね。それで、なんで対決するって話になるんですか?」
いやホントね、カオリってすげぇわ。この惚気話を聞かされて、なんでその言葉が出るかな。
俺ならキレるよ。契約主権限で「手短に話せ」って、ブチギレ命令出しちゃうよ……。
「えぇ、それなんですが……。妻というのが、チヅルと申しまして、まくら様の契約者なのです」
「あぁ、それで……。うん、ホント杞憂だ。無駄な20分だった……」
「まくら様、正確に申しますと、7分40秒ほどしか経っておりませんわ」
さすがベル、細かい事まで分かっている。優秀な侍女は、時間に正確なのだ。
結局、アルダが気にしていた事は、互いに違う契約主を持つ者同士が戦う事だ。
この世界に家族や仲間と共に来てしまったために、傷つけ合う。それを憂慮するのは当然か。
もしくはこちらで出会い、結ばれても、契約主の意向次第では敵同士となる……。
ふと目をやれば、惚気話に飽きた鬼若とクロは、二人で何やら楽しげに喋っている。
意外と仲良しな二人だが、彼らも敵同士になった可能性があったのだ。
事実、一度対立していたのだから、現状が奇跡と言えるだろう。
「そろそろ到着しますよ。サンタ工場はこちらです」
「まさかとは思うけど、チヅルの自慢をしたかっただけじゃないだろうな?」
「そんな事ありませんよ。自慢を聞くのでしたら、三日三晩は覚悟していただかないと……」
「うん、遠慮させてもらうよ」
そんなやり取りをしながら、アルダは次元のトンネルを歪めている。
関係者しか入れないようになっているようで、これはアルダに任せるしかない。
本当はもっと早く到着していたとか、そういう疑惑はあるが、おいて置こうか。
「ここがサンタ工場? なんか……、普通だな」
目の前に広がる光景への感想は、その程度だった。
森の中の開けた場所に、ぽつりと建物が建っている。
その建物も、小奇麗で工場と言う風ではないが、大きな倉庫のようで、イメージしていたファンシーなサンタの工場、なんてものではなかった。
「しかし、静かだな。もっと忙しげにしている、妖精的なものが居るのかと思ったが……」
「私も、この季節に来る事はほぼないのでよく分かりませんが……。なにかあったのでしょうか」
「う~ん。とりあえず、工場の人にバウムさんの事を聞いてみたらどうかな?」
カオリの提案で、まずは挨拶と共に、バウムの以前の様子を聞く事にした。
しかし、俺は少し気がかりな事があった。それは、今の俺の姿だ。
強い来訪者を求める他の契約主。その存在を今後は考えないといけない。
俺が鬼若やベルを欲しがるような奴ならどうするか……。簡単だ、主のまくらを人質に取ればいい。
正確に言えば、まくら質だけどそれはいい。とにかく危ない状況であるのは変わらない。
そして、この工場にいる奴が善良な者達である保証など、どこにもない。
「なぁ、カオリ、俺は俺の事を知っている奴以外の前では、普通のまくらのフリをする。
だから、色々と聞いたり、交渉したりする場合は任せていいか?」
「えっ? うん、いいんだけど……。どうして?」
「俺のこの姿を見て、よからぬ事を考える奴が居ても不思議じゃないだろ?
それに変に目立つのも、後々面倒事に巻き込まれるかもしれないからな。
鬼若とベルに関しては、俺が連れて行くよう言ったことにすればいいさ」
「そっか。わかったよ」
トントントン、とリズミカルに工場のドアを叩く。
「こんにちはー誰か居ませんかー」
妙に静まり返った工場に、人の気配はなかった。
しかし、カオリのその声に扉が開き、そこから着物姿の女性が姿を現す。
「どちら様でしょうか」
「私だよチヅル!」
言うが早いか、目にも留まらぬ速さでその女性を抱きしめるアルダ。よし、リア充爆破。
「あっあなた!? どうしてここに!?」
「もちろん君に会いにさ!」
「いや、待て。そうじゃないだろ。まさか本音はそっちか?」
俺のツッコミにハッと我に返るアルダ。本当にバウムは建前の可能性があるな。
なにせ、あれだけの惚気話を語るような奴だ、そうであっても不思議ではない。
「ハハハ……。えっと、ウチのバウムが居なくなったと聞いてね。探しにきたんだよ」
「そうでしたか。色々と問題が起きていまして、バウムが姿を消しました。それは事実です。
私もそのために、工場に来ていた所なのです」
「色々と問題?」
俺の言葉にチヅルはじっとこちらを見つめる。
「まさか……。いえ、連絡は受けておりますが、本当に……」
「あぁ、俺だ。チヅル、久しぶりだな」
「なんとまぁ……、愛らしいお姿に」
チヅルはさすが、いい大人なだけあって、言葉を選んだようだ。
しかし、「愛らしい」とは初めて言われたな。愛らしいのだろうか?
「本当なら、契約者の皆を集めて説明した方が良かったんだろうが、俺の事で時間を取らせるのも悪いと思ってな。メッセージだけにしたんだ」
「お気遣いいただき、ありがとうございます」
優雅に頭を下げるチヅル。長くまっすぐな黒髪がさらりと流れ、ベルとは違う上品さを感じる。
ちなみにメッセージだけにした理由は、「俺が忙しいから」というのがほとんどだ。
けれど“聞こえのいい理由”があるなら、そっちを言っておいた方が良いだろう。
嘘だというわけでもないし、それにいちいち突っかかってくる奴もいないだろうしな。
「色々聞きたい事もあるだろうが、とりあえず今はバウムの件だ。問題って何があった?」
「それは……。いえ、契約主様といえど、お話する事はできません。家族の問題ですので」
「家族の問題……、か」
そう言われると聞きづらい。所詮俺達は部外者だ。一人を除けば……。
「ならば、なぜ私を頼ってくれない!?」
そう、アルダは俺達とは違う。チヅルと夫婦なのだから家族だ。
一人だけのけ者にされているのなら、叫びたくもなるだろう。
「実家の問題を、婿養子であるあなたに話すのは躊躇われたのです……」
ん? 実家の問題? 婿養子?
「ちょっとまって。家族の問題って、バウムを含めた、アルダ達の事じゃないのか?」
「え……? まさかあなた、私達の事を説明もせずにお連れしたのですか!?」
きょとんとするチヅル。対してアルダは誤魔化すように笑っている。
「ははは……。君の素晴らしさを語っているうちに、こちらに着いてしまってね……」
「本当にあなたって人は……」
口ではそう言っているが、チヅルの顔は緩みきっていた。リア充は爆破よ!!
今日のひとことが、爆破前提なんですが。
「この時期は、爆破したくなる奴らが多いからのぅ」
資格取れば爆破していい、ってわけじゃないからね!?
「爆死まくらから、爆破まくらに、じょぶちぇんじじゃのぅ」
終わり! 感想、ツッコミお待ちしてますっ!
「これ以上喋らせないよう、巻きで〆に入ったのじゃ」
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