爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

FFFF連目 爆死まくら

公開日時: 2021年2月14日(日) 12:05
文字数:3,274

前回のあらすじ

『ベルは契約してなかったそうです』


外注さんの今日のひとこと

『さよなら世界』

 俺がSSR☆7を手に入れるために必要な契約石は500個。

対して今あるのは410個……。

足りないなら買い足せば良い、そう思いアイリに問う。



「アイリ、契約石は買えるか?」


「……サービス終了に先立ち、販売はすでに終了している。

 ……それに、こちらでの資産はあるの?」


「だよな。金がなければ買えないよな」



 元々ダメだろうとは思っていたが……。



「なら、契約石の配布はしてもらえないのか?」


「……配布にはそれ相応の理由が必要。

 ……特定の誰かを優遇する事はできない」


「公正公平な運営会社で何より」



 素っ気無く答えられたら、嫌味のひとつも言いたくなるというもんだ。

けれど、これで契約石の追加は望めない事がはっきりした。

つまり……、ガチャ神は最後の試練のつもりか、はたまた俺に運0を乗り越えてみせろとでも言いたいのだろうか。

できると信じたい。けれど、そんな風にしたのはガチャ神自身だぞ?



「ハジメ、お前にこれを」



 ある意味諦め半分だ。手段が限られているのなら、それ以外の方法はない。


 俺は今しがた契約したSSR☆7のハジメに、ASLvアクティブスキルレベルチケットを渡す。

これがALvを上げるアイテムであり、ALvがMAXなら、そのキャラが契約式ガチャから出なくなる。

もし万一……。いや、億、または兆が一と言うべきか、その程度の非常に僅かな可能性として、俺がSSR☆7を引き当てた時に備え、ハジメをダブらせないために必要な処置だ。


 チケットを受け取るハジメは、非常に貴重なアイテムに目を丸くした。

そして、誰もが疑問に思う事を問うのだ。



「ねぇねぇ、こんなレアアイテム、なんでこんなに持ってるのさ?」


「あぁ、それは前にALvの計算法が変わってな。鬼若のALvが上限を超えたんだよ。

 その上限以上の分を、チケットとして貰ったんだ」


「…………」



 答えを聞いたハジメは、黙ってニコニコとしながら俺を見る。なんだ? 変な事言ったか?

そして、俺の地獄耳クマイヤーでも聞き取れるかどうかの、非常に小さな声で何か言うのだ。



「……僕の本名教えてあげるね。僕は森口モリグチ一《ハジメ》。

 信じて。みんな君と、そしてみんなの味方だよ」



 口を動かす事も無く、そして俺にしか聞こえない声量。

しかし、その内容は全く意味がわからなかった。

そして、言うだけ言って「もふもふさせろー!!」と、白熊のロベールに抱き着いたのだ。

何を伝えたかったのか、本当に意味のある事なのだろうか……?


 考えろ、考えるんだ……。なぜアイツは、そんな意味ありげな事をを言った?

見つめても、ただただ大きな白熊のぬいぐるみに埋もれる彼は、何かを示してはくれない。

大きな白熊……? もしや、彼もまた“誰か”の息のかかった者なのか?

彼の埋もれる白熊、ロベールのように。


 彼が聞いてきた事、それはチケットの入手法だ。

それがヒントなのだろうか……。

俺は端末サリーへと問いかけた。



「サリー、運営のアナウンスを見せてくれ」


「カシコマリマシタ」




☆学園運営局からのお知らせ☆


メンテナンスにて以下の変更を行いました

 ・重複契約ダブりによるASLvの上昇が変更されました。

 ・上記変更に伴い、今までの上昇分をASチケットにて配布いたします。

 ・契約式ガチャの強化アイテム排出率が低下しました。

 ・鬼若のASアクティブスキルの不具合を修正しました。

 ・上記修正に伴い、メンテナンス以前に取得されていた契約主様に、補償物資の配布をいたします。

  補償物資の内容、時期に関しましては、決定次第連絡いたします。



 映し出されたのは、俺が転生してすぐに行われたメンテナンス後のアナウンスログ。

そうか、アイツはこのことを言っていたのか……。



「アイリ、前に鬼若のAS修正したよな?」


「……えぇ」


「その時に言ってた補償物資、どうなった?」


「……あ」



 補償、それはすなわち“詫び石”だ。

契約石の配布に建前が必要なら理由を探せばいい。簡単な事だったのだ。

これがあれば、100回契約式ガチャを回す事ができる。それがベルを助ける道だったのだ。



「……許可を貰った。……修正前に排出された鬼若の回数×1個の契約石を配布する」



 先ほどの契約式ガチャ大会で言った「俺は鬼若を90回ダブらせた男ぞ?」などという自虐ネタは、こうして契約石という形をもって返ってきた。

詫び石の90個があれば、100回に届く……。



「……ガチャ神様、これで契約したら、俺と契約した奴らもカオリと共に行けますよね?」


「もちろんじゃ。そやつらはおぬしのアカウントと繋がっておるからな」


「よろしくお願いします」



 そして、俺の最後の契約式ガチャが始まった。




・10連目


「バウム、向こうでもミタ爺の事頼むぞ。

 アーニャの事となると、回りが見えなくなるからな」


「えぇ、たとえサンタでなくなっても、僕はセイヤさんの相棒ですから」


「何言ってんだ! “家族”だろ!?」


「へへへ……。ありがとう、オヤジさん」




・20連目


「チヅル、また別々にされたくなければ、アルダとのノロケはほどほどにな」


「肝に銘じておきます」


「チヅルが止めようと、私の想いは止められませんよ!」


「わたしが止めますので、安心して下さいね」


「あら、アーニャったら……」




・30連目


「セルシウス、お前の明るさにはいつも助けられたよ。アリサと仲良くしてやってくれ」


「なになにー? くらちんってば心配なの?

 だいじょぶだいじょぶ! 令嬢次第だけどね??」


「ちょっと! まるでわたくしに問題があるような言い方じゃございませんの!」


「冗談だよ? ムキになっちゃってカワイイー!」




・40連目


「イナバ、アリサはあんなだからさ、ヨウコやアルビレオじゃ難しい時もあるだろ。

 お前が導いてやってくれ」


「えっ!? 僕がですかっ!?」


「心配いりません。妾も協力しますよ」


「私はただの従者、アリサ様のお心のままに。

 そのような大役は、イナバ様にお任せいたします」




・50連目


「ハジメ、アカメ。最初はとんでもない奴らだと思ったけどさ、楽しかったよ。

 でも、ほどほどにな?」


「僕たちに“ほどほど”があるとでもー?」


「その通り、我らを舐めてもらっては困りますぞ!?」


「私ト レオンニ 任セテ」


「俺達も、元々イやがっては無イぞ?」






・60連目


「クロ……」


「待て。貴様、自身の身体の変化に気付いていないのか?」


「メシねぇ……。あえてスルーしておったのに……」



 指摘された通り、俺の身体……、まくらの中身は契約石なのだ。

そしていつか、ガチャ神に濁流のように流し込まれた情報……。

その中にあった“まくらである要件を満たしていなければ死んでしまう”という文言。


 俺の体は今、形を保てずへなへなと萎れている。

霊体でもって契約石を浮かせ、必死に取り繕っていたが、それもそろそろ限界だ。

空っぽになったまくら、それはまくらと呼べるだろうか?

それは……、ただの布切れと何が違うのか……。






・70連目


「クロ、皆を助けてやってくれ」


「まくまさん! まくまさんも一緒ですよ!!

 そんな風に言うなんて、おかしいのですっ!!」




・80連目


「カオリ、向こうの世界は皆不慣れだからさ、色々教えてやってくれ」


「まって! まくま君!! 考え直して! 何か方法があるはずだよ!!」




・90連目


「鬼若……。すまない、俺は共に行けそうにない。

 だから、俺の分まで……、楽しんでこい!」


「主様ダメです! もう体がっ……」





 最後、そして俺の本当の最期。

俺の求める者とは、こうも手に入らないものなのか……。




「ベル、ホントお前は……、近くに見えて遠い存在だ。

 けど、共にこの世界を生きてくれた事、契約なんて関係なく側に居てくれた事……。ありがとう」


「なりません! これは我への罰です!

 そのように創られたとも知らず、この世を恨み、世界の滅亡を願った我に下されるべき罰なのです!

 その罰は、貴方様が受けるものではございません!!」


「…………。そうか、ベルは“幸せな設定”を貰えなかったんだな。

 なら、なおさらだ。次の世界は好きになってくれ。そして……、幸せになってくれ」



 皆が俺を押さえつけ、口を塞ぎ、契約式ガチャを回させまいとする。

けれど、俺の口はただの飾りだ。そして端末サリーも、念話で操作できるのだ。



「それじゃ、さよなら。楽しかったよ」






・100連目


 皆の声が次第に遠ざかり、俺意識は闇へと消えた。

『じゃ、局長いってらっしゃーい!!』


「ちょっと待つんだぜ! 守口一っておm……」




『最後まで言わせるわけないのになー』


『一人になっちゃったな……』


『後書き担当はみーんなお節介だからね、色々さくさく画策してんだよ』


『局長、結末をぶっ壊してくれよ』

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