前回のあらすじ
『まくら氏、局長に呼び出される』
外注さんの今日のひとこと
『日常パートに戻るかと思いきやですよ』
「ゆっゆっ! お茶だよ~!
おまんじゅうもあるから食べてね~!」
局長室へ案内してくれたのは、ピンクのボール……。
じゃない、職員A(仮)は、器用にお茶を淹れてくれた。
俺達は「あぁ」とだけ返して、そのお茶を飲みながら局長を待つ。
部屋は前に来た時とは違い、本棚などの家具が増え、色々な書類らしき本や置物が置かれている。
どうやらこの部屋も有効に使われているようだ。
「もうすぐ局長くるからね~。
ゆっくりしていってね!!」
いつもの決めセリフを言った職員は、ノルマ達成とでも言いたげな、ドヤ顔をしながら部屋を出てゆく。
残された俺達は、部屋をキョロキョロと見回しながら、暇を持て余していた。
「なんだか、前と雰囲気が違うね」
「あぁ、前に来た時から四ヶ月くらいか?
職員達も、落ち着いた感じがあるよな」
「そうだね。うまくやれてるようで安心したよ」
カオリが前に来た時は一番荒れていた時期だ。まさに阿鼻叫喚といった様子だった。
その頃から考えれば、局内は綺麗で、掃除が行き届いている事が見て取れる。
それに、職員達も目の下にクマを飼っている事も無い。
それもこれも、局長がああ見えて優秀であることの証明だ。
そうこうしていると扉が開き、見慣れた黄色ボールがぽよぽよと部屋に入ってきた。
噂をすればなんとやら、である。
「待たせて悪かったんだぜ」
「よう、久しぶり……、でもないな。修学旅行の時に会ってるし」
「え? 修学旅行に来てたの?」
「バトルの立会いをしただけなんだぜ。
だからクマには会ったけど、南の島を観光したわけじゃないんだぜ」
「せっかくなんだし、ちょっとくらい遊んだって良かったんじゃないか?」
「残念な事に、局長ってのはそんなに暇でもないんだぜ」
そんな話をしながらも、局長はマイマグカップにコーヒーを淹れ、俺達の座るソファーの前に陣取り、饅頭を頬張り一気に流し込んだ。
とこで、コーヒーと饅頭は合うのだろうか?
「で、そのお忙しい局長様が俺達に何の用だ? また何かの依頼か?」
「それならメセージで済ますんだぜ」
「それじゃぁ、また不具合が起きたの?」
「不具合……。まぁ、そう言えなくも無い問題だぜ」
いつもの様子とは違い、なんとも歯切れの悪い返事だ。
言葉を選ぶほどの思慮深さはないと思ってたんだけどな。
「ま、単刀直入に聞くんだぜ。
クマ、お前の隠し事、全部話してもらうんだぜ」
「へぁっ!?」
なんとも気の抜けたバカみたいな声が出てしまった。
隠し事? うん、色々あるけどさ。ドレノコトカナー?
「いやいや、隠し事って何の事だよ?」
「しらばっくれても無駄なんだぜ! ネタは上がってるんだぜ!!」
「なんだその、刑事ドラマの取調べみたいなノリは……」
「あくまでもシラを切るつもりなら、こちらにも考えがあるんだぜ!」
妙なテンションの高さで取調べごっこをする局長は、何やら本棚の書類の中から一枚の紙を取り出す。
そしてテーブルの上に置くと、その紙から魔方陣が浮き上がり、何やら雑音混じりの声が聞こえてきた。
『……う訳で……っ! 俺はあんま親父……きじゃないんだよな、って悪……なつまんねー話してさ』
雑音混じりで途切れ途切れではあるが、その声は確かに俺のものだった。
そしてそれは、あの修学旅行の夜にカオリと話していた内容だ。
その録音された音声を聞いたカオリは顔を青ざめさせている。
俺にしてみれば、この世界を牛耳っている学園運営局がこんな事をするのは、予想こそしなかったが、不可能ではないだろうな、という程度の認識だ。
「うわっ、盗聴かよ……。趣味悪いぞ局長」
「学園都市を管理する者として、手段は選べないんだぜ」
「はぁ……、証拠があるんじゃ言い逃れは無理か……。
けどさ、この時の話以外に何を話せと?」
「知ってること全部なんだぜ!」
「つまり、俺の生い立ちやらなんやら全部を、履歴書に書くように話せと?」
「そうじゃないんだぜ!!」
ぷんぷんという音が聞こえそうな雰囲気で、ぽよぽよ跳ねながら反論する局長。けれど“知ってる事全て”ってのはそういう意味になる。
情報を聞き出したいなら“何を”知りたいのか、明確にすべきなんだぜ?
なんて事を本気で思ってる訳ではない。ただ、ちょっと時間稼ぎをしただけだ。
うまく誤魔化す方法を考えるために。
「で、結局何が聞きたいんだよ?
俺が異世界人だとして、学園都市には来訪者って名前の異世界人が溢れてるじゃねーか。
もしかして、報告してなかったのがマズかったのか?」
「そうじゃないんだぜ! あっ、そこも問題だけど、そこじゃないんだぜ!
一番聞かないといけないのは、この世界がゲームだとかいう話なんだぜ!!」
どうやらうまく誤魔化されてくれる気はないようだ。
異世界人だらけの世界観のおかげで、俺とカオリが異世界からやって来た人であっても問題はない。
その話でうまく丸め込もうなんて思っていたんだがな。
今さらだが、この世界の成り立ちを喋ったのは失敗だったな。
そのせいで、カオリにも余計な心配をさせてしまう事になったし、局長にこうやって問いただされる事態に陥ってしまった。
こう見えて局長は以外にも優秀だし、誤魔化すのは無理そうだ。俺の“知っていること全て”を話そう。
俺を転生させた神と、カオリを転移させた悪魔を含めて……。
「ってことで、この世界は、俺達が居た世界のゲームを元に創られてて、その創ったのが悪魔だか神だからしいんだよ」
「全く、こんな大事な事を隠してるなんて、どうかしてるんだぜ!」
「いやさー、こんな話、普通信じないだろ?」
「確かに……。信じろというのが無理な話なんだぜ。だけど今はそうじゃないんだぜ。
似た境遇の人が二人も居るし、別の証人もこちらは掴んでるんだぜ」
「別の証人? 俺達以外にも同じ転生者が居るのか?」
「まぁ……、似たような人物ってだけなんだぜ。
今日は、その人と会わせるために呼んだんだぜ」
そう言うと、局長は扉へぽよぽよと跳ねてゆき、扉の外に待たせていた人物を招き入れた。
『局長は引継ぎ書だけじゃなく、マジで監視してたんやね』
変態盗聴局長。
『若干早口言葉っぽい辛口コメントあざっす』
さて、次回重要人物が登場するようです。
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