爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

Šãƒ¼ã連目 年速3.8センチメートル

公開日時: 2021年2月15日(月) 12:05
文字数:2,330

前回のあらすじ

 黒幕との対話じゃ。


ガチャ神の今日のひとこと

 今回で最終回なのじゃ!

 それは人を愛してしまった神の話。人に紛れ、人として生きた神の話。

愛している人に愛されたかっただけ、けれどその強大な力は人々の争いの火種となった。

輪廻を廻り、繰り返し現れる愛した者は、人々の欲望に呑まれ、幸せな最期を迎える事は一度となかった。


 ならば人々を争わせぬようにと、進むも戻るも叶わぬよう、彼は世界を螺旋へと縛り付けた。

しかしそれでも、求める理想が叶う事はなかった。


 そして彼は気付いたのだ。

人々が欲望に呑まれたように、彼もまた自身の欲望に呑まれ、不幸を呼び寄せていると。




「そういうワケで、地上に見切りをつけて、こんなトコにいるんだよ」


「まさか、その愛した人ってのが……、俺?」


「んなわけないだろ! もしそうだったら、ここに呼ばないっての」


「あ、そっか。相手を不幸にしたくないから、離れたんだもんな」



 なんだか自意識過剰な発言に、すげー恥ずかしくなった。

自覚はなかったが、色々と情報が溢れて、俺も混乱しているのかもしれない。



「それじゃ、俺はなぜここに?」


「さっき見せた夢だよ。君は、世界を足止めするために捧げられた生贄だった」


「…………。イマイチ実感が沸かないですね」



 あの夢が本当にあった事で、夢の中の俺が本当に俺だったとして……。

けれどそれは、少なくとも今の俺とは結びつかないのだ。



「痛みや苦しみを取り除いて見せた夢だからね。実感がないのも無理ないさ。

 だけど君……。いや、君の魂が経験した事に違いはない」



 少年は椅子に座りなおし、ふぅと小さく息をつく。



「だから君達を転移させたんだ。

 あの時君と繋がりのあった者達を、輪廻の輪から拾い上げ、学園都市へと送り込んだんだ」


「繋がりのあった者達?」


「仲間だった者を鬼若とベルフェゴールに、妹はカオリに……。

 他の人々も皆、少なからず関わりのあった人達だよ。本人は覚えてないだろうけどね」



 そう聞いても実感など沸きはしない。けれどなんとなく嘘には思えない。

何より彼が嘘をつく理由も見当たらない。

けれどそれが本当なら、全ては彼の筋書き通りだった事になる。



「どうしてそんな事を?」


「僕が奪ってしまった未来を返すためさ。それと……」


「……それと?」


「最後にただ一言謝りたくて、君をここへ来るよう誘導したんだ……。ごめんなさい」



 深々を頭を下げる少年を見ながら、神という存在から二度も謝罪される者など他に居ないだろうな、なんて思う。

そして同時に、彼がガチャ神に課した課題、それが彼の後悔と、自責の念からのものだと気付く。



「あやまる事なんてないですよ。あなたにとっては、俺は彼と同じ人に見えるかもしれないけど、俺と彼は別人ですから。

 それに、その時はそれが最善の選択だと思ったんでしょう?

 たとえそれが後から考えると間違った選択だったとしても、選んだ事に意味があるんだと思います」



 全てこの少年に用意された道を歩んだ俺が言っても説得力はない。

けれど、俺の周りに居た奴らは、鬼若も、ミタ爺も……、ベルもきっと。

みんな、悩み苦しみながらも最善を捜し求めた。

だからこそ、その選択の結果がどうであれ尊重したいと俺は思う。



「君は……、優しすぎるよ。ホント、カオリが心配するわけだ」



 少年ははにかみながら、恥ずかしさを誤魔化すように、その朱色の髪をわしわしと掻いた。



「僕……。いや、俺のしたかった話はこれでおしまい。それで……、どうする?」


「そうですね……。詰め物がひとつでも、まくらはまくらじゃないですかね?」


「それが君の選択だね?」


「えぇ。せっかく用意してくれたんですから、みんなとの未来、楽しませてもらいますよ」


「そっか。うん、楽しんでこい!」



 彼は寂しげに微笑んだ。

その表情が少し気になって、俺は余計な事と思いつつ問いかける。



「あなたは、これからどうするんですか?」


「…………。そうだな、君たちを見ながら、少しずつ離れていく事にするよ。

 一年に3.8センチくらいのペースでね」


「それって、すごい心残りありそうなペースですよね……」


「こう見えて、永遠を生きる者だからね。十分な速さだよ」


「いやはや、スケールの大きな話ですね」



 言葉とは裏腹に、少年からは深い哀愁の色が漂っていた。

心残り……、ないって言わなかったな。


 きっとまた、彼の大切な人は輪廻を廻り現れるのだろう。

その時、彼はこの寂しい砂漠から見つめるだけなのだろうか。

寂しく冷たいこの世界で、ずっと彼は一人生きていくのだろうか。


 けれど……、俺は掛ける言葉を持ち合わせてはいない。

きっと今まで色んな事があって、苦しんで、悩んで出した結論なんだ。

きっと選んだ事に意味がある。そう信じて送り出すのが、俺のせいいっぱいだ。



「……うん、ありがとう。そうだ、君の運は最低限の状態にしておくよ。

 今後は幸運も不運も訪れる。気をつけてね」


「どう気をつけろっていうんですか!?」



 無茶な注文に、俺たちはケラケラと笑いあった。

そうか、俺はやっと“普通”になれるのか。少し不安だけど、それ以上に楽しみだ。

なぜならこれからは乱数ランダム性がかかるのだから。

何が起こるのだろう? 何に出会うのだろう?

決まりきった、予想を外れない過去いままでは楽だったけれど、それも終わりを告げるのだ。



「それじゃ、もう会う事はないけど……、元気でね」


「あの……」


「ん? どうしたんだい?」


「いえ……。神様もお元気で……」



 どうしても、どうしても彼の顔を見ると引き止めたくなった。

彼の事を何も知らないのに、それじゃダメだって、一緒に行こうって……。

本人の意思を曲げさせてでも引き止めろと、何かが俺に囁くようで……。



「もう……、いいよね。俺は大丈夫だから……。さよなら」


「ちょっと待つんだぜ!!」



 ウジウジと悩む俺の背後からの突然の声。

それは懐かしく……、そしてひどく平坦な声だった。

って、最終回のはずではなかったのか!?


『と、思うじゃん?』


おぬしまさか……、世界に干渉したんじゃな?


『まだ7月章は終わってないんだぜ?』


ふむ……。まぁよい、全てあやつの思い通りに事が運ぶのも癪じゃしの。


『お、意外と攻めるやん』


見えた未来がつまらんモノじゃったし、これで多少面白くなるじゃろ?


『あー……。その分俺が死ぬフラグか』


そうじゃな、面白いのであれば、その世界は体現させてほしい所じゃしの。


『ソシャゲの周回で忙しいんで、パスしてええかな?』


ダメじゃ。

して、最終回はいつになるんじゃ?


『次回が最終回、その次は番外編の予定』


その通り行けるのかのう……?


『予定は未定という悪魔の言葉があってな……』


恐怖しかないのう。


『ホンマそれ』

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