昼食後の退屈な授業中、午後の日差しに誘われてうつらうつらと船を漕ぐ。
ガクッと支えた腕から頭を落としたその瞬間に意識も落ちる。
そんな感覚だった。けれど落ちたはずの意識はしっかりしている。
むしろ頭の中はスッキリしていて、色々な考えをめぐらせるには最適な、まさに「冴えてる」状態だった。
「メンテナンスって言ってたけど、強制的に眠らされるような感じなのか」
メンテナンス、ベルフェゴールのの言葉を借りれば「世界の休息」。
うん、やっぱ俺にはムズ痒くてムリ。自分で言ってて笑ってしまう。これは厨二病患者の使う言葉だろう。
さて、ベルフェゴールの厨二病疑惑は置いておくとして、俺にはメンテ中に考えておかなければならない事が山ほどある。
まずは俺の置かれている状況だ。気付いた時にはベルフェゴールの腕の中に居たわけで、その前はどういう状況であったかが分からない。
少なくとも、鬼若が俺の事を主と呼んでいる事と、その姿がGLv最大の、俺の主力キャラクター鬼若と同じである事を考えれば、俺のアカウントをそのまま引き継いでいるであろうことは推測できる。
まぁ、鬼若の主ってのが俺の事ではなく、ベルフェゴールが他の誰かを拉致・監禁していた場合は赤っ恥なのだけど。
その場合はベルフェゴールのやわらかさを堪能するだけの人生というのも、悪くはないだろう。
ここは、鬼若の主が俺である仮定で話を進めていこう。
その場合は恐らく鬼若とベルフェゴールのバトルになるだろう。実際にメンテに入ったから止められたものの、それが無ければ今まさに戦いの最中だったろうしね。
そして俺はどちらを応援すべきかが問題になる。いや、心情的にはベルフェゴールに勝って欲しいというのはもちろんの事なのだが、そうなるとゲームシステムを考えれば、ゲームオーバーになっちゃうんだろうな。
ゲームオーバーになるとどうなるんだろう? 俺自身が戦うわけじゃないしなぁ。
モンスターを捕まえて戦わせるゲームなら、「目の前がまっくらになった」なんて出てセーブポイントかなんかに飛ばされるんだっけな。
その辺のシステムが分かる説明書か、解説マスコットキャラが居るのが普通なんだけど、そういうの見当たらないなぁ。
ま、ゲームオーバーに関して考えるより、鬼若が勝つ可能性がどれくらいあるか考えた方がよさそうだな。
さて、まずはこの世界の戦闘システムについて考えよう。
なんとこの世界は俺にとって、超親切設計だ。
なにせガチャ以外の要素は、全て運に左右されないのだ。
運0のバグステータス持ちとしてはこれ以上に有利な条件はない。
実際の戦闘は、キャラクターごとに設定されている「Atk」がそのまま通常攻撃のダメージとなる。そして相手の「HP」を削り切れば勝ち、という単純明快なルールだ。
その数値に「属性相性」と「陣形」、「パッシブスキル」によるダメージ変動や、通常攻撃とは別の「アクティブスキル」という、スペシャル技によって戦法を変え切り抜けるという、まぁ一般的なスマホゲーだ。
では今回の場合どうなるかについてだが……。
まずは属性。これは「火」「水」「木」「光」「闇」「無」の6種類ある。
そして力関係は「火←水←木←火」の三つ巴と、「光←→闇」の反する二つという、ある大流行したパズルゲーから始まったと言われている属性相性だ。
色々ツッコミが入る属性相性だが、ツッコミを入れてはいけない。それは「水って0℃で凍って100℃で沸騰するのってすごくね!?」と言ってるのと同じだ。「そう決めたからそうなのだ」という返答しか返ってこないぞ。
そして、鬼若とベルフェゴールの属性は最悪だ。鬼若が火で、ベルフェゴールが水なのだ。
ちなみに、俺は攻略サイトを毎日見ていた程だから暗記しているが、大抵キャラの目立つ色と対応しているから、適当に想像するだけで大抵当たる。
おっと話がそれたな、その最悪の属性相性のせいで、鬼若からのダメージは0.5倍になり、さらに受けるダメージは50%増だ。これだけで同Lv同士の通常攻撃のみでの戦闘ならば、ほぼ決着が付いたといっていい。
そして陣形。今回は1対1での戦闘となるため陣形の影響は無い。
キャラクターが2体以上居る場合は、後衛への攻撃や後衛からの攻撃はそれぞれダメージに0.25倍の補正が入る。それも後述のパッシブスキルによって変化させるキャラも存在はするんだけどね。
最後にパッシブスキルだ。先の二つの項目では鬼若は絶対的に不利なのだが、これに限って言えば鬼若が有利である。
なにせ鬼若のパッシブスキルは「戦闘参加時にアクティブスキルを撃てる」というものであり、初手で必殺技が撃てるのだ。
その代わり以後の戦闘はパッシブスキルが無い状態で戦う事になるのだから、チートスキルと呼ばれるほどではない。なぜなら戦闘がその後も続く場合、最初に出てきた雑魚敵にしか意味を成さないスキルになってしまうからね。
対するベルフェゴールのパッシブスキルは真逆といえるもので、「戦闘参加時に自身に3ターン行動不能&HP大回復・AP大付与」というものだ。
APというのが、先ほどのアクティブスキルを撃つためのポイントである。つまり3ターン攻撃できないが、その間回復することで耐え切れば、行動可能になった瞬間に必殺技が出せる訳だ。
つまり、鬼若とベルフェゴールは性能や属性こそ対極に位置するが、「アクティブスキル勝負のキャラ」という点で共通しているのだ。
そして、そのアクティブスキルが問題で、鬼若が「SSR最弱」と呼ばれる理由がここにある。
そのスキルは「残HPの半分を攻撃力に変換し、敵全体に自属性ダメージ」と表記されている。
正直この表記だけでは「なんのこっちゃ?」となるし、俺も暗算が得意とは言えダメージ計算ができない。
まぁ、撃ってみれば分かるんだけど、HPが半分消し飛んで全体攻撃している……、って程度にしか読み取れないんだ。こういう時に攻略サイトって本当に便利だよね。情報時代万歳!
攻略サイトによれば、ダメージ計算式は「{Atk+減少HP×(1+ASLv×0.009+GLv×0.01)}×0.25」とのことらしい。
ASLvというのは、ガチャでキャラを1回ダブらせた時に1上がるレベルだ。これも他のスマホゲーならよくある仕様じゃないかな。ダブり1回で1しか上がらないのは珍しいだろうけど。
ともかく俺の鬼若のステータスを当てはめると、Atkが4900で最大HPが8500だから減少HPは4250、ASLv90、GLv10だから「{4900+4250×(1+0.81+0.1)}×0.25=3254.4」となる。
この数字を見て、勘のいいプレイヤーなら気付く事がある。「素Atkより最終攻撃値が下回っている」と。
全ては最後の×0.25が原因なのだが、敵の最大登場数の4体に合わせて「全体攻撃だから1/4」と補正されているようだ。安易すぎて、ちょっと開発陣に土下座させたい要素だよね。
なにせ今回のように、敵が1体という時は足かせでしかない。さらに今回の場合、属性補正が入るため最終的には半分の1628まで低下する。
これは絶望的だ。相手が「Atk偏重型ステータス」の鬼若程度にしかHPが無かった場合でも、初手のアクティブスキルで倒す事はできない。
さらに言えばベルフェゴールは、「HP寄りステータス」であり、相手のLvとGLvが分からないので確かな数字が出せないのだが、少なくとも衣装の薄さから見てGlvは7以上だろう。
そうなるとHPは9000程度、最悪の場合Lv、GLv双方MAXだと10000を超える。
そして3ターン以内に倒せなければ、反撃のアクティブスキルが放たれる訳だ。
なるほど、なるほど?
あっ、これ「負けイベント」ってやつかな??
ゲームオーバー後の事考えてた方が有意義だったなぁ……。
なんでこんな細かくダメージ計算式覚えてるんですかねぇ……?
「そりゃ唯一のSSRの情報はちぇっくするじゃろ。
というかお主、いきなり後書きに入ってくるとは何者じゃ」
部下がステータスの下限を突破して運0のキャラクターを作ったと聞いたので、罰を与えに来た者です。
「あっ……、ワシちょっと用事を思い出したので、今後の後書きはお願いしようかのう」
ダメです。反省文は原稿用紙50万枚です。
「ひどいのじゃ…。年寄りをイジメよって…」
提出期限はそうですね、ノベリズム版は一日二回更新なのを考慮し、一週間後とします。
あと今回ゲームの設定が多かったので、次回の前書きでまとめておくように。
「なんじゃ、そのナントカ版というのは……」
スルーしなさい。これは命令です。
「くっ……。しかし、前書きの仕事まで振るとは、さすが抜け目ないのじゃ…」
感想やツッコミ、質問なども受け付けてますのでよろしくお願いします。
「あれ? この後書きってワシいらなくない?」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!