爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

1000連目 最後のプレゼント

公開日時: 2021年2月10日(水) 12:05
文字数:2,802

前回のあらすじ

『重大発表されました』


外注さんの今日のひとこと

『まさか1000連目まで行くとは思ってなかったわ……。

 実際は100話って意味やし、番外編とかでもっと数あるんやけどな』

 学園都市の有力者の登場に、ざわめいていた会場も徐々に静かになる。

演台を前にしたその姿は堂々としており、聴衆は皆その存在感に圧倒されているようだった。

だが、繋いだ手を強く握り締められた愛孫のアーニャは、対照的に虚ろな目をしたままだ。


 会場が静まり返ったのを待った爺さんは、アーニャのその姿を寂しげな目で一瞬見つめ、小さく一息間をとってから聴衆へと語りかけた。



「あー、まずは自己紹介だな。知っている奴も多いだろうが、俺は三田聖夜。

 いや、今しがた“強制的に認識させられた”ので皆もう分かっているな。

 もう一つの名は、サンタクロースだ」



 その言葉に驚いたのは俺だけのようで、会場はざわめき一つ起きることはなかった。

秘密にする気があるのかと疑いたくなるほどではあったが、隠していた自身の正体を公言したのだ。

けれどそれは“この世界の真実”に含まれていたようだ。


 そして三田聖夜ことサンタの爺さんは、会場の人々をぐるりと見回した後、少しばかり視線を落とし自身の心境を語る。



「とは言うが、ここに居る皆もそうだろうが、俺はしょせん“そのように創られた者”でしかない。

 そして、サンタクロースとして子供たちにひと時の幸せを届けた、その過去自体が本当にあったのか……、それすらも分かりはしない。

 サンタとして人知れずプレゼントを配り、謎の存在でありながら子供たちに慕われる……。

 そんな都合のいい妄想を現実だと思い込み、悦に浸っている救い様のないバカかもしれない……。

 そう考えると、俺のちっぽけなプライドなんでズタボロよ」



 自嘲気味に笑いながらそう語る爺さんを、孫のアーニャはすがるようにして、その輝きを失った目で見つめた。

そんな彼女を、爺さんはその逞しい腕で、優しく抱きしめる。



「お前らもバカだと思うだろ?

 サンタという役割も、良家と言われる三田の家も、全部ウソっぱちだったんだ。

 本当は何も持たないただのオイボレなんだよ。

 そしてお前らも、己が本当は何者なのか、何を信じてこれから生きればいいのか……。

 今まさしく悩み、苦しんでいる事だろう」



 一人ひとりに語りかけるよう、会場の人々と目を合わせるようにしながら、その言葉は紡がれてゆく。

その語りかけと真摯な眼差しに、群集は皆爺さんの苦悩を自らの事のように捕らえ、真剣で、けれど不安げな……、隠せぬ迷いの色を帯びた視線で返すのだ。



「けどよ、俺は……、俺自身が何者だとか、本当の俺は何も持ってないだとか、そんな事はどうでもいいんだ。

 だけどよ……、だけど俺の大事にしていたモノが……、俺の大切だって思うキモチが……、それが嘘だってのは絶対に許せねぇ!!」



 その怒気を隠し切れぬ言葉に会場は一瞬ざわめく。

そして、そのざわめきよりも速く動いたのは鬼若だ。

俺とアイリをその背にさっと隠し、万一の事態に備えたのだ。


 たとえ「自分が何者なのかも分からない」と言っていても、この行動こそが鬼若を鬼若たらしめるモノなのだ。

それに早く自身で気付いて欲しいと俺は思う。



「だが、俺は俺をそういう風に創った奴も、おせっかいにもそれを知らせた奴も、どうこうしようとは思わない。

 たとえ過去がウソで、この想いすらニセモノだったとしても……。

 大切なモノを、大切だと思えるようにしてくれたのも、そいつらだからだ」



 先ほどの怒気が嘘のように、そして今まで語った事など気にも留めていないように……。優しく落ち着いた微笑みを浮かべる。

その姿は「運送業としてサンタをやっている」という、俺の持つサンタ像からズレていた爺さんが、やはりのサンタクロースなのだと思いなおすには十分なほど、慈悲深く、あたたかみに溢れたものであった。

けれど、そのあたたかさは、他の誰でもなく一人に注がれているのだ。



「だから俺は……。いや、だからこそ俺は、残された短い時間を大切な者と……、愛する家族と共に過ごす。

 たとえ“今まで”がニセモノだったとしても、残された時間がわずかだとしても……。

 その間だけは“本物”だと胸を張って言えるように。

 最後の瞬間まで、幸せだったと言えるように……!」



 やさしく、けれどその想いと同じだけの力強さでアーニャを抱き寄せ、そして頭を撫でた。

爺さんの大きな体にしがみ付き、アーニャは小刻みに震えていた。

顔こそ見ることはできなかったが、泣いていたのだ。



「今すぐそんな風に考えられない奴も居るだろう。

 けどな、過去は変えられなくても、未来は変えられる。

 希望は見出せなくても、絶望は乗り越えられる。

 皆も残された時間を、最後はバカみたいに笑ってられるよう……、好きなモノ、愛するモノに囲まれていて欲しいと願う。

 ……これが俺の届ける最後の贈り物コトバだ」



 言い終えると爺さんは一礼し、アーニャを抱き上げた。

軽々と持ち上げられたアーニャも、応えるように爺さんの首に両腕を回し、しっかりと抱き着いている。

その時俺に見せた表情は、希望を失った泣き顔ではなく、心から大好きな爺さんと共に居られる事を喜ぶ、嬉しさの涙だった。



 会場はと言えば、皆どう反応してよいか分からずといった様子で、いまだ静まり返っていた。

しかし、その静けさもすぐに破られる。舞台の袖口から拍手する者が一人。

それを合図とするように、聴衆も皆、爺さんの講演を称えるよう、割れんばかりの大きな拍手を送ったのだ。


 そして、チヅルとアルダが舞台に上がり、四人がしっかりと抱き合う姿に、中には涙する者さえ居た。

その家族の中に入れず、一歩引いて見守るバウムだったが、爺さんとアルダに「お前も家族だ」と手を引かれ、少し恥ずかしそうに、けれど幸せそうな様子でその輪へと入った。


 その様子や、会場の朗らかな雰囲気に一息ついた俺に、声が掛けられる。



「いやー、一時はどうなるかと思ったけど、丸く収まって良かったよ」


「誰かと思えば、セルシウスか」



 それは最初に拍手をした人物でもある。

彼女は青と赤のマントをはためかせ、俺に目線を合わせるようにしゃがみ込む。



「くらちんってば、つれない反応だねぇ。

 もしじっちゃんが暴れたらって思って、ちづるん達を舞台まで連れてきてあげたんだよ?」


「そうか、ありがとな」


「まっ、でもさすがサンタのじっちゃんだね。

 聴いてたみーんな、さっきまでとは大違いだもん」


「そうだな」



 そう肯定したが、常々斜に構えている俺からすれば、爺さんの語る内容は“幸せな設定”を貰えたヤツにしか響かない、なんて穿うがった見かたもできる。

けれど会場内には、そんな風に思っていそうな奴は一人も見当たらなかった。


 皆爺さんの語りかけに助けられたのだ。

たとえそれが、過去から目を逸らすだけの、その場しのぎであっても。

未来と、自身の“好き”を信じる……。それだけで救われたのだ。



 クロもまた、その中の一人だった。



「クロもごしゅじんが居てくれれば、何も怖くないのですっ!」



 その無垢で、無邪気で……。そして無慈悲な言葉が、カオリに深い影を落とすのだ。

「なんでミタ爺が、政治家顔負けの演説してるんだぜ?」


『えーっと、上神様の設定集によるとやな……』


「その前に、そんな物がある事が驚きなんだぜ」


『俺達だけじゃ、後書きでの補足できんしな』


「で、それによると、どういう事になってるんだぜ?」


『“局長がサンタに期待してた事と同じ”だってさ』


「意味わかんないんだぜ」


『局長は、爺さんに何期待してたん?』


「色々あるけど、一番は子供たちを善い子で居させることなんだぜ」


『そういや、エンドレスな4番目で言ってたな』


「また、私がよくわからない事を言ってるんだぜ……」


『ともかく、人々を善い方向へ導くのが爺さんの役割って事なんやろね』


「うーん……? よくわからないが、前回に引き続き、全てはヤツの筋書き通りって事は分かったんだぜ」


『まぁ、上神様ですら“そういう役割”を負っているだけかもしれんけどな』


「誰に負わされてるんだぜ?」


『さぁ? “作者という役割”を負わされてるだけの俺にはわかんねーな』


「なんだか哲学的な話になりそうなんだぜ」


『思考の沼にはまる前に〆よか!』


「次回もゆっくりよんでいってね!!」

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