前回のあらすじ
「恵方巻きの作り方教室を開催したのじゃ」
ガチャ神の今日のひとこと
「恵方巻は、7種の具材を入れるらしいのじゃ」
ヨウコの分かりやすい説明のおかげで、俺達は一部を除き、無事巻き寿司の作り方をマスターしたわけだが、その技術をフル活用して今は恵方巻きの大量生産を行っている。
今回の事で、寮の厨房を借りたお返しの分の巻き寿司作りと、せっかくなのでそれぞれの寮にも差し入れをしようと考えたのだ。
しかし、その数を計算すれば、寮暮らしなのはベルを除く全員だ。
カオリとヨウコは同じ女子寮なので、多少量は減るが、それでも俺の寮の分を含めて5箇所に差し入れする事になる。各寮10本としても、それだけで50本だ。
そして、アルダ家族とセルシウスなど、誘えていない契約者もいるのだから、80本くらいは必要になってくる。7人居るので、一人11本くらい巻かないといけない計算だ。
計算して、材料費は俺が出せるから問題ないとしても、そんな大仕事はさすがにやめておこうかとも思ったのだが、みんなに相談してみれば意外と皆乗り気であったので敢行したのである。
黙々と寿司を巻き続ける様子は、コンビニで売られる恵方巻きを作る工場は、こんな感じなのだろうかと想像させた。
具材の量産も必要なので、ベルはずっと卵焼きを焼き続けていたのだが、出来上がってくるものがどんどん上達していっている事に、ベルの器用さを再認識させられた。
「本当にやりきるとはな……」
「みんな、喜んでくれるといいね」
完成した巻き寿司の山に、俺は意外なほどに感動していた。
これを今から配るのだ、それもまたなかなか大変な作業になるだろう。
それ以上に、同じく山を築き上げている洗い物の事を、俺はできるだけ考えないように目を逸らしていた。
「うん、一度休憩しよう。さすがに疲れたな」
「それでは、我がお茶を淹れさせていただきます。お茶請けは……」
「そういえば昨日、豆を買ってたよね? 撒かないなら、もったいないし食べない?」
カオリの言葉に、そういえばそんなのもあったなと思い出す。
それどころではなかったから、忘れていたよ。
「確か、豆は歳の数だけ食べるんだよな」
「そうだね。それじゃあ分けるね。私は17粒、クロは10粒」
「俺は、さんじゅう……」
と、そこまで言いかけて、クロにジットリとした目で見つめられる。
「まくまさんっ! いっぱい食べたいからって、嘘はダメですよっ!」
「ははは、冗談だよ。俺も17粒だ。
それで、イナバは16? 鬼若は14か?
誕生日がまだ来てなかったら、一粒少なくなるよな」
そんな何気ない話をすれば、二人からは予想外の返事が帰ってくる。
「主様、俺は11ですよ」
「えっと、僕は13です」
「はっ!? なんで!?」
「まくま君、来訪者は、年齢で学年が決まるわけじゃないからね。前に言ってたでしょ?」
あぁそうか、今まで歳を聞いてなかったから驚いてしまった。
確か来訪者は必要な教育レベルに合わせて学年が決められるんだったな……。
という事は、この二人は飛び級をするほど優秀だったのか。
そりゃイナバが小柄なのも頷ける。まだ13歳なんだから、他の高校1年生と比べれば当然だ。
いや、逆に鬼若は「お前11でそんなにデカいのかよ」と言わざるを得ない。うーん、こんなでも一応鬼なのか?
今でも身長が170cmあるらしいし、これからもっと成長すれば、2m以上の大男になるんじゃないだろうか……。
「って事は、ヨウコも17じゃない?」
「熊さん、女性に年齢を聞くのは、止めておいた方がいいですよ?」
そうヨウコは微笑む。まさかすごい高齢なのだろうか……。妖怪だし……。
と考えたが、ヨウコの後ろに立つお茶を持ってきたベルと目が合った。
「あ、ヨウコは17粒で……。えっと、ベルは24粒くらい?」
「あら、まくら様ってば、お上手ですこと」
地雷の回避は成功したようだ。よし、もう年齢の話はやめておこう。
豆が残って勿体ないとかそういう問題じゃない。深く踏み込むと、豆より命が残らない可能性があるからな!
しばらくの休憩の後、恵方巻きの配達をどうするか決めることにした。
片付けがあったのだが、それは俺とベルでやることにして、夕食に間に合うよう配達を優先する事にしたのだ。
「それじゃぁ、恵方巻きをそれぞれに配るっていう事で」
「クロには、セイヤさんの所に行ってもらうね。アルダさん一家も集まってるらしいから」
「セイヤさん?」
「あっ……。ほら、年末に私と契約した……」
「あぁ、爺さんか。クロ、よろしく言っておいてくれ」
「はいはいっ! まかせてくださいっ!」
クロは自身の寮の分と、サンタの爺さん、名前をセイヤと言うのは初めて知ったが、その家族の分の包みを持ってやる気十分だ。
あとはどこに届ける必要があるだろうか。
「あと届ける必要があるのは、セルシウスくらいか?」
「それなら僕が届けます。同じ高校なので、寮も近いんです」
「そうなんだ? それじゃぁイナバ、頼んだ」
そうか、イナバの制服の校章に見覚えがあったのは、セルシウスと同じ高校だったからか。
おかげで、わざわざ呼びつけて渡すなんていう事をせずに済んで良かったな。
「妾も同じ方向に用事がありますので、途中までご一緒してもよろしいですか」
「えっ……。はい、でしたらどうぞ……」
ヨウコはまっすぐ帰らないのか、忙しい人なんだな。いや、人じゃないけど。
まぁ、ヨウコの寮はカオリと同じだから、カオリに持っていってもらえば済むし、それは問題ないな。
しかし、イナバの人見知りで気まずい空気にならないか心配だな。
まぁ、ヨウコから言い出したことだし、俺が気にする事でもないか。
「これで作った分は届けられるから、今日は解散にしよっか」
「あぁ、そうだな。みんな、もう時間も遅いし気をつけてな。お疲れさん」
「あっ、そうだ。まくま君、クロにお使いを頼んだから、鬼若君と一緒に帰っていいかな?」
「そうだな。念のため、ボディーガードくらい必要だよな。鬼若頼まれてくれるか」
「はい、了解しました」
こうして俺は、皆が帰っていくのを見送り、ベルと共に洗い物などの片付けに専念する。
こういう時も、ベルの羽衣製の体は便利なんだよね。完全防水だから、水仕事もお手の物だ。
まぁ、俺は洗った食器などの拭き上げ担当なので、実際に水仕事はしないけどな。
「なぁベル。もしかして、カオリって鬼若とそういう仲だったりすんのかな?」
「えっ……。どうしてそう思われたのです?」
「いやさ、なんか最近、一緒に居るところをよく見るような気がして……」
ふと思った事を、何気なく聞いてしまった。
しかし、その返答は意外なものだった。
「……。もしそうだとしても、そっとしておいてあげましょう」
「意外だな、鬼若をからかうネタに使うと思ったのに」
冗談半分で俺がそんな事を言えば、ベルは片付けの手を止め、俺を抱き上げる。
「我が、こうしてまくら様への思いを囁く姿を、まくら様は誰かにからかわれたいのですか……?」
「えっ……。ちょっとまって……、そういうつもりじゃ……」
耳元で、甘く囁かれ挙動不審になる。
さすがに不意打ちはダメだ。
「ではこのまま、今宵はご一緒に……」
「いやそれはマズいって! ここ、他の人も居るんだし!」
「ふふっ……。まくら様の慌てる姿、可愛らしいですわ」
「!? まさかからかわれた!?」
「デリカシーのない人へのお仕置きですわ」
クスクスと笑うベルは、小悪魔の様相だ。まぁ、からかわれた事は別に怒ってないけどね。
むしろベルが俺に対して、今までのように従者としての対応ではなく、仲間や友人としての対応になってきた事が、少し嬉かったくらいだ。
一粒……、二粒……。
「もう、しばらく豆は見たくないのじゃ……」
誰だよ、年齢の数食べるとか決めたヤツは。そいつこそ鬼だろ……。
「それを律儀に、ワシらが守る必要はなかったんじゃ……」
というか、俺の年齢分食べようと思うと、豆が絶滅するしな。
「だからといって、創造力で作ったのが運の尽きじゃ……」
この豆もったいないし、やっぱりチョコレートに入れてしまうか。
「だから無理に二つのイベントを同時進行させんでもよいじゃろうに……」
とりあえず、食え。
「うっぷ……。次回までにこの豆の山をどうにかするんじゃ……」
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