爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

180連目 血塗られたクリスマス

公開日時: 2020年12月28日(月) 18:05
文字数:2,952

前回のあらすじ

「カオリとクロに囲まれおって……。ハーレムとは許せんのじゃ……」


ガチャ神のワンポイント攻略情報⑤

「育成などに必要なコインは、周回クエストで手に入れることもできるのじゃ」



「うぅ~……。また負けちゃいましたぁ……」



 俺とカオリは、3度目か4度目のクロ対ベルのバトルを見ていた。

呼び出すとものの数分でやって来たベルは、軽い運動程度の雰囲気で相手をしている。


 当然といえば当然なのだが、クロがベルに勝てることは無かった。

そりゃレアリティが違うのだから、相当のレベル差がなければ無理な話だろう。

それでもクロは、ショゲる事無く立ち向かう。健気わんこかわいい。



「回復するまでしばらくまくら様をどうぞ」



 ベルは戦闘が終れば、回復を促すために俺をクロに抱かせるのだが、契約課金石の効果は絶大なようで、5分程度でまたバトル可能になるようだ。

消費されてないから文句は無いんだけど、効果強すぎない? チートアイテムじゃん。

ガチャだけじゃなく、コンティニューにも使うアイテムだから、不思議ではないんだけどね。


 そんなこんなで、カオリとクロの間を行ったり来たりしていると、鬼若がめずらしく歩いてきた。いつもはクロ顔負けのダッシュなのに。


 服装もいつもと違って、黒の作業着だ。というか、いつもの服装は……。見ているこっちが寒くなるような薄着なので、やめさせている。

本人は暑いのか長袖を捲くっているが、まぁその程度は許そう。


 ちなみに、ベルも薄く透き通る布はやめさせたので、今では同じく薄青の厚手の布を纏っていて、まるで自由の女神みたいになっている。

ゲームの時は別に良かったが、今後は季節に合わせて服装は変えてもらおう。



「主様、お待たせいたしました」



 何やらいつもと違う雰囲気の声だが、何か悪いものでも食べたのだろうか。

不思議に思っていると、その後ろに見覚えのある人を連れていた。

遊牧民のような服装の、長身で線の細い男だ。



「主様にお会いしたいと申される方がいらっしゃいましたので、お連れいたしました。

 覚えていらっしゃるでしょうか」



 ぎこちない口調と仕草で、精一杯ていねいに振舞おうとする鬼若の姿に、少し笑いそうになる。

それもこれも「“主の格”を落とさぬように」と、ベルにしっかりと教育された成果である。

しかし、ベルは体裁を気にするというよりは、誰かに弱みを握られるのを嫌っているようだ。


 実際に、自身の力を制御している学園運営局うんえいの事は、えらく嫌っている。

俺がバグ修正のために、学園運営局うんえいに行くと言った時も、強く反対されたものだ。


 まぁ、そういう事情で鬼若は頑張っているのだ。頑張ってるんだけど……やっぱ笑えるわ。

って、鬼若の事は今はおいておこう。



「あぁ、覚えてるよ。夏にお世話になった、アルダだよね?」


「お久しぶりです。道中でお話は伺っておりましたが……、本当にまくら姿なんですね」



 まじまじと俺を見るこの男は、アルダという牛飼いだ。

といっても実際には牛だけではなく、草食動物全般なら何でも飼育しているらしい。

簡単に言えば牧場主だな。あと動物に限らないのはこの世界特有だ。

そういえば、今日の鬼若の手伝いは、牧場の工事って言ってたな。アルダの所だったのか。



「あっ、すみません。驚いたのでつい……」


「いや、慣れてるしいいよ。当然の反応だよな」



 と、この場では言うものの、実際は驚かれる事は意外と少ない。


 初めて学校に行った時も、色々と不安に思っていたが、教室に入り事情を説明すれば、意外なほどにすんなりと受け入れられた。

というよりはむしろ、「ロボや獣人、天使や悪魔、不定形生物までいるんだしさ、まくら程度今さら驚かないな」という反応に、少しの寂しさを覚えたくらいだ。


 事実、教室の中には人型が多いとは言え、完全に人間に見えるのは半数程度だった。

その中にも“人間のようで人間じゃない”存在が居るはずだ。

この世界の人口比率がわからないが、これなら確かにまくらも普通かもな。



「それで、俺に何か用事?」


「はい。バウムの居場所をご存知ないかと思いまして……」



 バウムか、また懐かしいキャラだな。あぁそうか、12月だからな。

思い出すなぁ……、去年のクリスマスイベント。「血塗られたブラッディクリスマス」を



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 



 “血塗られたブラッディクリスマス”なんて名前は、もちろん公式の付けた名前ではない。

イベント内容はごくごく普通のものだった。いや、むしろ俺としては上出来だったと思う。


 ストーリーは、クリスマスの時期になって、ソリを引くトナカイのバウムが、仕事を放棄する所から始まる。って今年もこのパターンなのか……? まぁいい。


 俺たちはサンタの爺さんに頼まれ、トナカイのバウムを探す事になる。

その時は、“俺たちは”というよりは、“俺の操作している主人公たちが”なのだが。


 なんだかんだあって、聞き込み等で居場所を突き止めた俺たちは、バウムに会う事になる。

まぁ、展開は読めていたんだが、「絶対に仕事をしない!」と頑として言い張る、「働いたら負け」精神のニートナカイを、バトルで組み伏せるわけだ。


 しかし、よくよくニートナカイこと、バウムに話を聞いてみれば、「サンタのジジイが、孫の欲しがった“白いくまさん”のために、ホッキョクグマの密猟に加担させようとしていた」と言うのだ。

それに反発して、バウムはストライキを起こしたという訳だ。


 そんな話を聞かされた俺たちは、バウムを引きつれサンタのジジイを説得叩きのめしに行く。

説得戦闘の結果、孫へのプレゼントは“等身大白くまぬいぐるみ”に落ち着き、最後はそのぬいぐるみに抱きつき、喜ぶ孫の一枚絵が出てハッピーエンドという流れだ。


 ゲームとしてバトルになる流れもあるが、誰も悪人が登場しない良いストーリーだ。

サンタのジジイも、ジジ馬鹿が暴発しただけだといえるしな。

イベント用キャラだけで話が完結しているという点も、俺的には評価ポイントだと思う。



 そんな良イベントが“血塗られた”理由、それは周回要素にある。



 スマホゲームでは大抵あるであろう周回要素。このイベントにも、もちろんあった。

これの難易度が高く、「プレイヤーが血反吐ちへどを吐きながら回った」なんて意味ではない。

むしろ周回で集めたアイテムと、素材等のアイテムの交換レートが甘め設定だったので、「ガチャはツンだけどイベントはデレ」というのが、プレイヤー達のこのゲームへの評価だ。



 しかし、周回で集めるアイテムモノ。それが見方によれば、猟奇的りょうきてきだったのだ。



 周回クエストで出てくる敵キャラ、それは全てぬいぐるみだった。

各属性一体ずつで計5種。ボスは既存キャラ。他のゲームでもよくあるパターンだと思う。


 そして、その敵キャラを倒すと貰えるアイテム……。それは綿わただった。

白くまのぬいぐるみに入れるための綿わた。しかし、その出所でどころは、ぬいぐるみの敵キャラ。


 ふと、あるプレイヤーが気付いてしまったのだ。



「あれ? これって敵キャラのワタを引きずり出してるんじゃ……」



 この一言が、SNS上でウケてしまった。そして、そのネタは二次創作絵描き勢に伝播し、猟奇的な姿でイベント周回するキャラの絵が氾濫することになる。

まさに阿鼻叫喚だった。


 それを公式が悪乗りしたのか、むしろ燃え尽きさせ、鎮火させるための燃料投下だったのか……。

「夜な夜な動き出す呪いの白くま」として、取り入れてしまったのが致命的だった。

おかげで猟奇的イラストは大きく減ったが、恐怖の白くまイラストが増えたのは言うまでもない。


 これが去年のクリスマスイベント、通称“血塗られたブラッディクリスマス”のあらましだ。

ガチャ神ちゃん、ガチャ神ちゃん。


「なんじゃ、なんじゃ?」


クリスマスプレゼント貰えるなら何が欲しい?


「全知全能の能力チカラ


わー、強欲ぅ!


「して、おぬしは何が欲しいのじゃ?」


愛……、かな。


「こっちは色欲じゃったか……」


愛と欲は別じゃない? おなじなの?


「それは答えの無い、哲学なのじゃ」

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