前回のあらすじ
「カオリとクロに囲まれおって……。ハーレムとは許せんのじゃ……」
ガチャ神のワンポイント攻略情報⑤
「育成などに必要なコインは、周回クエストで手に入れることもできるのじゃ」
「うぅ~……。また負けちゃいましたぁ……」
俺とカオリは、3度目か4度目のクロ対ベルのバトルを見ていた。
呼び出すとものの数分でやって来たベルは、軽い運動程度の雰囲気で相手をしている。
当然といえば当然なのだが、クロがベルに勝てることは無かった。
そりゃレアリティが違うのだから、相当のレベル差がなければ無理な話だろう。
それでもクロは、ショゲる事無く立ち向かう。健気わんこかわいい。
「回復するまでしばらくまくら様をどうぞ」
ベルは戦闘が終れば、回復を促すために俺をクロに抱かせるのだが、契約石の効果は絶大なようで、5分程度でまたバトル可能になるようだ。
消費されてないから文句は無いんだけど、効果強すぎない? チートアイテムじゃん。
ガチャだけじゃなく、コンティニューにも使うアイテムだから、不思議ではないんだけどね。
そんなこんなで、カオリとクロの間を行ったり来たりしていると、鬼若がめずらしく歩いてきた。いつもはクロ顔負けのダッシュなのに。
服装もいつもと違って、黒の作業着だ。というか、いつもの服装は……。見ているこっちが寒くなるような薄着なので、やめさせている。
本人は暑いのか長袖を捲くっているが、まぁその程度は許そう。
ちなみに、ベルも薄く透き通る布はやめさせたので、今では同じく薄青の厚手の布を纏っていて、まるで自由の女神みたいになっている。
ゲームの時は別に良かったが、今後は季節に合わせて服装は変えてもらおう。
「主様、お待たせいたしました」
何やらいつもと違う雰囲気の声だが、何か悪いものでも食べたのだろうか。
不思議に思っていると、その後ろに見覚えのある人を連れていた。
遊牧民のような服装の、長身で線の細い男だ。
「主様にお会いしたいと申される方がいらっしゃいましたので、お連れいたしました。
覚えていらっしゃるでしょうか」
ぎこちない口調と仕草で、精一杯ていねいに振舞おうとする鬼若の姿に、少し笑いそうになる。
それもこれも「“主の格”を落とさぬように」と、ベルにしっかりと教育された成果である。
しかし、ベルは体裁を気にするというよりは、誰かに弱みを握られるのを嫌っているようだ。
実際に、自身の力を制御している学園運営局の事は、えらく嫌っている。
俺がバグ修正のために、学園運営局に行くと言った時も、強く反対されたものだ。
まぁ、そういう事情で鬼若は頑張っているのだ。頑張ってるんだけど……やっぱ笑えるわ。
って、鬼若の事は今はおいておこう。
「あぁ、覚えてるよ。夏にお世話になった、アルダだよね?」
「お久しぶりです。道中でお話は伺っておりましたが……、本当にまくら姿なんですね」
まじまじと俺を見るこの男は、アルダという牛飼いだ。
といっても実際には牛だけではなく、草食動物全般なら何でも飼育しているらしい。
簡単に言えば牧場主だな。あと動物に限らないのはこの世界特有だ。
そういえば、今日の鬼若の手伝いは、牧場の工事って言ってたな。アルダの所だったのか。
「あっ、すみません。驚いたのでつい……」
「いや、慣れてるしいいよ。当然の反応だよな」
と、この場では言うものの、実際は驚かれる事は意外と少ない。
初めて学校に行った時も、色々と不安に思っていたが、教室に入り事情を説明すれば、意外なほどにすんなりと受け入れられた。
というよりはむしろ、「ロボや獣人、天使や悪魔、不定形生物までいるんだしさ、まくら程度今さら驚かないな」という反応に、少しの寂しさを覚えたくらいだ。
事実、教室の中には人型が多いとは言え、完全に人間に見えるのは半数程度だった。
その中にも“人間のようで人間じゃない”存在が居るはずだ。
この世界の人口比率がわからないが、これなら確かにまくらも普通かもな。
「それで、俺に何か用事?」
「はい。バウムの居場所をご存知ないかと思いまして……」
バウムか、また懐かしいキャラだな。あぁそうか、12月だからな。
思い出すなぁ……、去年のクリスマスイベント。「血塗られたクリスマス」を
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
“血塗られたクリスマス”なんて名前は、もちろん公式の付けた名前ではない。
イベント内容はごくごく普通のものだった。いや、むしろ俺としては上出来だったと思う。
ストーリーは、クリスマスの時期になって、ソリを引くトナカイのバウムが、仕事を放棄する所から始まる。って今年もこのパターンなのか……? まぁいい。
俺たちはサンタの爺さんに頼まれ、トナカイのバウムを探す事になる。
その時は、“俺たちは”というよりは、“俺の操作している主人公たちが”なのだが。
なんだかんだあって、聞き込み等で居場所を突き止めた俺たちは、バウムに会う事になる。
まぁ、展開は読めていたんだが、「絶対に仕事をしない!」と頑として言い張る、「働いたら負け」精神のニートナカイを、バトルで組み伏せるわけだ。
しかし、よくよくニートナカイこと、バウムに話を聞いてみれば、「サンタのジジイが、孫の欲しがった“白いくまさん”のために、ホッキョクグマの密猟に加担させようとしていた」と言うのだ。
それに反発して、バウムはストライキを起こしたという訳だ。
そんな話を聞かされた俺たちは、バウムを引きつれサンタのジジイを説得しに行く。
説得の結果、孫へのプレゼントは“等身大白くまぬいぐるみ”に落ち着き、最後はそのぬいぐるみに抱きつき、喜ぶ孫の一枚絵が出てハッピーエンドという流れだ。
ゲームとしてバトルになる流れもあるが、誰も悪人が登場しない良いストーリーだ。
サンタのジジイも、ジジ馬鹿が暴発しただけだといえるしな。
イベント用キャラだけで話が完結しているという点も、俺的には評価ポイントだと思う。
そんな良イベントが“血塗られた”理由、それは周回要素にある。
スマホゲームでは大抵あるであろう周回要素。このイベントにも、もちろんあった。
これの難易度が高く、「プレイヤーが血反吐を吐きながら回った」なんて意味ではない。
むしろ周回で集めたアイテムと、素材等のアイテムの交換レートが甘め設定だったので、「ガチャはツンだけどイベントはデレ」というのが、プレイヤー達のこのゲームへの評価だ。
しかし、周回で集めるアイテム。それが見方によれば、猟奇的だったのだ。
周回クエストで出てくる敵キャラ、それは全てぬいぐるみだった。
各属性一体ずつで計5種。ボスは既存キャラ。他のゲームでもよくあるパターンだと思う。
そして、その敵キャラを倒すと貰えるアイテム……。それは綿だった。
白くまのぬいぐるみに入れるための綿。しかし、その出所は、ぬいぐるみの敵キャラ。
ふと、あるプレイヤーが気付いてしまったのだ。
「あれ? これって敵キャラの腸を引きずり出してるんじゃ……」
この一言が、SNS上でウケてしまった。そして、そのネタは二次創作絵描き勢に伝播し、猟奇的な姿でイベント周回するキャラの絵が氾濫することになる。
まさに阿鼻叫喚だった。
それを公式が悪乗りしたのか、むしろ燃え尽きさせ、鎮火させるための燃料投下だったのか……。
「夜な夜な動き出す呪いの白くま」として、取り入れてしまったのが致命的だった。
おかげで猟奇的イラストは大きく減ったが、恐怖の白くまイラストが増えたのは言うまでもない。
これが去年のクリスマスイベント、通称“血塗られたクリスマス”のあらましだ。
ガチャ神ちゃん、ガチャ神ちゃん。
「なんじゃ、なんじゃ?」
クリスマスプレゼント貰えるなら何が欲しい?
「全知全能の能力」
わー、強欲ぅ!
「して、おぬしは何が欲しいのじゃ?」
愛……、かな。
「こっちは色欲じゃったか……」
愛と欲は別じゃない? おなじなの?
「それは答えの無い、哲学なのじゃ」
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