爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

入福大介の見る世界 [1]

公開日時: 2021年2月26日(金) 18:05
文字数:2,690

今回の更新は以前、小説家になろうにて投稿した

短編「どうやら風魔法の力に目覚めたらしい」の加筆修正版となります。

「少し言いにくいんだが……、どうやら風魔法の力に目覚めたらしい」



 いたって真面目な顔でそう言う俺に対して、目の前の幼馴染は驚きで表情をこわばらせ……ることなく、朝食のトーストを食べ続けている。パンくずをセーラー服にこぼしながら。



「ふ~ん、目覚めちゃったか~。厨二病に」


「なんだよその反応は! もっとこうスゲー! とかいう反応ないわけ!?

 しかも厨二病に目覚めるには、二年ほど遅いだろ!」


「それはまぁ……、遅咲きってヤツ? あ、大器晩成とかそういうのじゃない?

 つまり、他の人よりかなり拗らせるかもネ? まぁいいや、話だけでも聴こうじゃないの」



 そういって、筆記用具といつものノートを取り出した。



「えっと、名前は入福いりふく 大介だいすけ(通称 大福だいふく)、16才の高校一年生男子。血液型A型の8月8日生まれ。

 趣味はゲームと昼寝、それに映画鑑賞。最近風属性の魔法と厨二病に目覚めた。

 おっと、“まほう”って書くつもりが“あほう”って書いちゃった。まぁいいか、大差ないし。

 う~ん……。ありきたりすぎるキャラ設定ね、練り直しておいて」



 以前書いていた普通の自己紹介に、最後の厨二病うんぬんを付け足し、わざわざ全文を読み上げる。さらに重ねてディスられた上に、設定の練り直しまで命ぜられた。あまりにもひどい扱いに自分自身に哀れみを覚える……。

ちなみにこのノートは”キャラ設定ブック”と言うらしい。俺は密かに”黒歴史ブック”と呼んでいるけどな。もちろん口に出した事はない。



「設定練り直しって言うけど、それって最後以外は完全に俺の自己紹介文じゃないか!

 っていうか、最後の厨二病を入れたら、もはや事故紹介文ですね!?

 まぁいい、ありきたりだというのなら、お前の事故紹介文はさぞ立派なんだろうな?」


「もちろんよ? せっかくだから読み上げてあげるわ。

 名前は朝倉あさくら 美花みか、16才の高校一年生女子。血液型はO型の誕生日7月31日。

 幼い頃に両親を亡くし、まだ7才の弟を面倒見ながら、アルバイトで養う。

 成績優秀で文武両道、歩けば全ての人が振り返る美貌と、その幸薄そうで儚げな雰囲気は誰しもが手を差し伸べずにはいられない。

 しかし、それに甘えるのを善しとせず、自身の力で道を切り開かんとするその姿は、散りゆく桜のように美しい。

 趣味は漫画を読む事、そして描く事、さらにキャラ設定を考える事。

 そして、幼馴染で厨二病の大福をからかい、奴隷にように扱う事」


「まてまてまてまて! なんだその舌を万枚単位で抜かれたにも関わらず、まだまだ嘘を嘘で塗り重ねたような嘘八百の内容は!

 だいたい両親は健在だし、弟じゃなく居るのは兄貴だけだろ!? 成績優秀? 文武両道!?

 いつも俺が勉強みてやらないといけないくらいの、中の下程度の成績だろうが!

 さらに何が誰もが振り向く美貌だ?? 普通も普通、地味顔じゃねぇか!

 その中で唯一合ってるのって、幸薄そうな所くらいか!?」


「失礼ね、趣味はちゃんと正直に書いてあるじゃない。

 だいたい文章ってのは現実を“ちょ~っと”歪曲させた上で、ギガ盛MIXにするのが普通でしょ?」



 もはや何も言うまい、あまりのツッコミどころの多さに俺も“ちょ~っと”頭が痛くなってきた。

しかも頭痛に悩まされる俺に、追撃で実の兄を「人型の何か」と貶めている。

知ってはいたがスイッチの入ったコイツの口撃こうげきは、受け流してもダメージが入るようだ。



「まぁいい、とりあえずメシも食ったんだから学校行くぞ。

 ったく、夏休みだってのになんでわざわざ学校いかなきゃならんのだ……。

 それじゃ母さん、行ってきま~す」


「おばさん、いつも朝ごはんありがとうございます~。今日もとってもおいしかったです!

 それじゃ、いってきま~す!」



 そう声をかけて俺達は玄関を出て歩き出す。

母さんは二階にベランダから洗濯物を干しながら「最近、特に物騒だから気をつけるのよ」なんて言いながら見送ってくれる。いつもの光景だ。



「それにしても、おばさんも言ってたけどさ、ホント最近物騒だよね~。

 神隠し事件ってヤツ? この辺でも行方不明者出たんだってさ」


「物騒なのは今に始まった事じゃないだろ?

 早ければあと1~2年で世界が終わるって言われてヤケになったヤツの仕業か、もしくは地球最後の時を自由に生きるんだ~とか言って出て行ったとか、そういうのじゃないか?」



 この世界がもうすぐ終わる、それは数年前に突然発覚した。

朝の日差しに照らされた、快晴の夏空の中でさえ見えるほどの大きな月。それが早ければ来年にもこの星に落ちてくるそうだ。


 とは言っても俺にとってはどこか他人事のような、もしくは無意識に考えないように諦めているのか。

それとも誰かが助けてくれる事でも期待しているのだろうか。

ともかく俺自身がどうこうなるという認識がないのだ。


 それはこの幼馴染や、それ以外の人々も同じようで……。

もしくは、同調圧力によってしくもこの社会は大きな混乱を回避できている。



「でもさ~、終わりが見えてるなら、ヤケになったりするのもなんとなく分かるな~って時ない?

 私なんかは、観てた深夜アニメが後2回で終わるってだけで『うわ~~!!』ってなるもん」


「……なんて平和な脳内なんだ。

 今の発言で解った事は、お前には絶望してる人間の気持ちなんて、欠片も理解できないだろうって事だけだ」



 何を~!! と言いながら突っかかってくるのをひょいと避けると、朝倉は電柱にタックルした。



「おい、大丈夫か? 例のノート落としたぞ。

 俺の黒歴史確定の事故紹介が載ってるんだから、ちゃんと管理してくれよ?

 っていうか、絶対に他人に見せないでくれよ??」


「黒歴史……、だと!? 貴様、これがどのようなモノか分かっておらぬな!?

 これは磨けば光る宝石の原石、いわばダイヤモンドになる前の黒炭であるのだぞ!?」


「いや、意味わかんないです。口調も意味不明です。

 それに、黒炭は磨いてもダイヤモンドにはなんないです」


「あっ……。まっ、まぁあれなんだよ。少なくとも、黒歴史とは呼ばないで欲しいなって……。

 だってさ、世界にある漫画やアニメ、小説なんかは、元々ただの作者個人の妄想だったわけじゃん? 

 それが形を得て現れて、みんなに受け入れられたんだよ?

 このノートから広がっていく世界も、きっと黒歴史なんてものじゃないって信じたいなって……」



 そう少し顔を赤らめながら語るのは、漫画家志望の少女に宿る、どこにもよりどころの無いプライドなんだろう。

ただ、その後に続いた「売れた黒歴史を名作と呼ぶのだよ!」という発言には、苦笑いを浮かべる他なかった。


 そんな話をしながらも、まだ本気を出し切れていない午前の夏の日差しの中、学校への道を再び歩みだした。

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