爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

380連目 不穏なランチタイム

公開日時: 2021年1月9日(土) 12:05
文字数:2,765

前回のあらすじ

 『まくら氏に、ついに春が来た……。のか??』


前書き代打の今日のひとこと

 『人型抱きまくらなんていう、いかがわしいモノにならなくてよかった』

 憂鬱で退屈な授業と、予約で潰される休み時間を何度かこなせば、心なしか陽気に聞こえるチャイムが昼休みを告げた。実際に陽気なのは俺の心中の方だがな。


 なにせ大改造を終えた事で、やっと俺もこの世界に来て食事を取れるようになったのだ。

毎日3回のお楽しみを心待ちにするのも仕方ない事だろ?

それに何より、昼食はベルの作ってくれる弁当だ。

それだけで期待値とテンションが跳ね上がってしまうのを、誰が責められようか。



 本来ならば、学生寮生活をしている俺やカオリは、昼食は学食で食べることになるのだが、冬休み前に学校に来た時の様子を思い出したベルが、「この体で混雑する食堂を使うのは危ないのではないか」と心配したため、弁当を用意してくれるようになったのだ。



「はいよ。これ、カオリの分ね」


「いつもありがとう。ベルさんには、何かお礼をしなくちゃね」


「一人分作るのも、三人分作るのも、手間はそんなに変わらないから気にしなくていいってさ」



 ベルは俺の分だけでなく、カオリの分も作ってくれる。

俺もベルには身の回りの世話もしてもらっていて、さらに弁当まで用意させるのは悪いなと思っていたのだが、元々自身の弁当も作っていたらしく、気にしなくてもいいと言ってくれている。


 さすがに、材料費は俺が出しているとはいえ、この件に関してベルが何か見返りを求めたりはしなかった。

仮にも契約関係とは言え、悪魔であるベルが自身になんのメリットもない事をするのだろうか、という疑問はあった。クリスマスの時の、クロの手袋の件もあったしな。


 けれど、クロはカオリを守るのが当たり前のように行動しているし、鬼若に関してもそうだ。

ならばベルも形は違えど、俺の世話をするのは当然と考えているのだろうか。

俺が考えすぎているだけで、契約関係というのはそれほどまでに強力なのだろうか。

その辺はイマイチよくわからないが、気にしなくていいと言ってくれているなら甘えておこう。



「それでもね、やっぱり毎日の事だし、ちょっと悪いかなって……」


「まぁそうなんだが、カオリには俺が世話になってるし、ベルには俺からなにか考えておくよ。

 なにより、あんまり遠慮されるとベルも居心地悪いかもだし、ありがたく受け取っておこうぜ」



 やはり、カオリは少し人との距離を取りたがる所があるようだ。

契約主同士の対立の話はバウムを探す時に聞いていたが、契約主でない相手とも距離を置こうとしているように思う。

人それぞれだし、元々そういう性格なのだろう。直したほうがいいなんて言わないけれどね。


 でもそれなら、俺の事が大丈夫なのはなぜだろうな。気にはなるが、別に聞くほどでもないか。

そんな話をしながら、机を並べて弁当を食べる用意をしていれば、珍しい相手から声をかけられた。



「あの、妾もお昼をご一緒してもよろしいでしょうか」



 その声の主は、昼休みに“予約”をしているヨウコだ。

手には弁当が入っているであろう、小さな黄色の巾着を持っている。

どうやら、ヨウコも弁当派らしい。



「別にいいけど、もふもふタイムは食べ終わってからだぞ? カオリもいいよな?」


「……」



 またカオリに見つめられる。

うーん、この沈黙は気まずい。



「あっ……。うん、一緒に食べよう」


「いえ、お邪魔でしたら、妾は失礼いたしますね」


「えっと違うの! ちょっと別のこと考えてただけだから!」



 焦ったのか、少し早口で言い訳するカオリ。珍しい光景だ。

仕方ない、助け舟を出してやろう。



「カオリは最近、ボーっとしてる事が多いんだよ。恋わずらいか?」


「まくま君~??」



 少しばかり怖い顔のカオリに、ほっぺたをムニーっと引っ張られる。

俺の身体はベルの羽衣製で、ビーズクッションのように柔らかく、そしてよく伸びる。

だからって伸ばさないで欲しい。痛みなどはないんだけどね。


 しかし、ごまかすにしても少し配慮が足りなかったかな。

もしかすると、本当に意中の人が居るのかもしれない。

前世なら、「セクハラだ!」なんて言われる所だったな。もう少し気をつけよう。



「ふふふ……、お二人は本当に仲がよろしいのですね」


「今のは忘れて! あっ! 私机借りてくるね!」



 カオリは引っ張っていた俺の頬をパッと放すと、空いている机を持ってくる。

二つを向かい合わせに、一つをその横に付けて、三人で座れるようにさっと用意してくれた。

パタパタと動き回る様子は、なんだかクロを見ているようだった。やはり飼い主と飼い犬は似るのだろうか。

「ささっ、どうぞ」と言って、ヨウコを席に着かせ、やっとカオリは落ち着いたようだ。

ヨウコも、先ほどの気まずさが吹き飛んだのか「ではお言葉に甘えて」と言いながらも席に付き、巾着を解いている。


 俺も「今日のメニューはなんだろな~♪」と開けてみれば、彩りの良いサンドイッチが詰っていた。

タマゴ・ハムレタス・BLT・カツサンドと揃っており、見るからに手間がかかっているのが見て取れる。デザートとしてか、イチゴジャム入りの、くるりと巻かれたロールサンドまで用意されている。



「これはまた……、今日もえらく豪華だな」


「えぇ。妾の弁当が、恥ずかしくなりますほどに……」



「うん……」としかいえないカオリと共に、ヨウコも感想を漏らす。


 俺達が毎日持たせてもらっているのに、なぜこんなに驚いているかと言えば、ベルの弁当は日に日に豪華になっているのだ。

興が乗っているのか、はたまた純粋に料理の腕前が上がっているのか。それは分からないが、何かイベントがあるわけでもない日の弁当としては、5種のサンドイッチは手がかかりすぎていると思う。

ベルが冷凍食品を使っている様子もなかったし、カツサンドを作るだけでも、朝からカツを揚げるという手間があることくらい、レトルト食品生活をしていた俺でも理解できる。


 しかし、ヨウコの弁当を見てみれば、巻き寿司といなり寿司の入った弁当であり、こちらも朝から作るにしては、十分な力作だった。



「おっ、ヨウコのも、おいしそうな助六弁当じゃないか。

 手作りみたいけど、巻き寿司って作るの大変じゃなないのか?」


「えぇ、ただ好物でして。

 普段は食堂を使うのですが、どうしても食べたくなった時は弁当を作るようにしているのです。

 よろしければ、お一ついかがですか?」


「いいのか? それじゃぁ、巻き寿司一切れとサンドイッチ交換しようぜ」



 ヨウコの提案で、俺達は弁当の交換をはじめる。

なんか楽しいよな、こういうのって。



「カオリさんも、お一ついかがです?」


「ありがとう。でも好物を貰うのも悪いし、ベルさんのサンドイッチもあるから……」



 ここでもやはり、カオリはヨウコと距離を置きたいようだ。

そこまで警戒しなくてもいいと俺は思うんだけどな。カオリは用心深いのだろうな。

などと、ヨウコに貰った巻き寿司をモグモグさせながら俺は考えていた。

あ、このすし飯ちょっと甘めだな。俺好みだ。

『人をダメにする抱きまくら』


ダメな大人の、転生後の姿でもある。


『辛口コメントやな!』


デリカシーのない発言だけじゃなく、重課金者で間接的にそれで死亡してるしな。


『なんも言い返せんな……』

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