前回のあらすじ
『まくら、寝落ちする。の巻』
外注さんの今日のひとこと
『ゲームしてると知らないうちに数時間たってる』
「目覚め、最悪」
起き抜けの声は、誰に届くでもなく宙へと消えた。
悪い夢を見た。読後感ならぬ夢後感だけを残して、その内容は、まだ明けぬ夜空へと霧散したようだった。
けれど、妙に現実味があって、異様に長い夢だったと、覚えてもいないのにそう感じていた。
時計を見れば午前四時。日が昇るにはまだ早く、窓の外は寒々とした星空が広がっている。
アーニャ達が来て、御付きの白熊に眠らされてから二時間といった所か。
あれはなんだったのだろう。メンテナンス? それならば夢を見たのはなぜだろう。
前の時はそんな事もなかったし、意識もしっかりしてたというのに。
考えても仕方ない。その結論に達した俺は、とりあえず目の前の問題を片付ける事にした。
それは山積みの不具合報告だ。
しかし、そのためには例の神社に行き、この世界の創造主様に会わねばならない。
さて、くままくらである俺の歩幅では何時間かかるだろうか。
前よりマシになったとは言え、不便な体だと嘆きたくなったが、あの言葉を思い出す。
「貴方ハ、マクラニ取リ憑イタ存在」あの白熊、ロベールの言う事が正しければ……。
俺は静かに自室を出て、共同の手洗い場へ向かう。
そして鏡の前に立ち、あの時ロベールにやってみた事を、今度は俺自身に試すのだ。
鏡を睨み付けること数分、少し白みがかった、靄のような何かが浮かび上がる。
それは、はっきりとした形こそ見えないが、俺の周囲をゆらゆらと揺らめいていた。
これが……本来の“俺自身”なのだろうか。
ロベールの言っていた事が嘘か本当かは分からない。
けれど、もし本当であれば、この白い靄が俺自身である。
……考えるより試す方が早い。俺は、くままくらを自身の付属品と意識し、立ち上がるイメージを思い描く。
すると、その白い靄はすっと人型へと変わり、それと同時に、俺の視点はくまを離れた。
そうか、こちらにやってきて初めてやってのけた視点変更、それはこういう事だったのか。
そんな考えと共に、鏡に映る人型の靄を見ると、形こそ不安定ではあるが、体格からして俺自身である……。
つまり、こちらに転生する前の俺と背格好が似ていて……。
その思考はある答えにたどり着こうとしていたが、即座に何かに遮られた。
誰かの邪魔が入ったわけではない。ただ、突然考えるのを止められたような感覚……。
なんだか、うまく考えがまとまらない……。
神様から「過労で死んだ」と告げられていても、どこかでまだ期待していたのだろうか。
「俺に限ってそう簡単に死ぬわけ無い」そんな気持ちがどこかにあったのだろうか。
目の前の幽霊、それが俺自身だと受け入れられるほどに、俺は強くない……。
少し……。いや、本心を誤魔化すのはよそう。かなりショックを受けた俺だったが、ふと手に触れているくまの抱きまくらを見ると、こんな姿でも慕ってくれる奴、心配してくれる奴、最近では同志と呼ばれたりもしたな……。
そんな奴らの姿を思い浮かべれば、悲しみに暮れている場合ではない。
そして、そんな奴らのためにも、この世界の異常を正さねばと、そう思えたのだ。
そのためにはまず、この身体で何ができるかを知っておかないといけない。そう思い、手に触れるくまを持ち上げてみた。
するとそれは、何の抵抗も無く、重さも感じさせずに持ち上がる。
これは……、飛んでいるのか? いや、俺の感覚では抱きまくらを持ち上げただけなので、何のすごさも感じないのだが……。
おそらく俺の“本体”は、他の人には見えていないはずだ。
なので、俺が最初にロベールを見た時のように、周囲からは空を飛んでいるように見える……、のだろうか?
ともかく、色々試してみよう。
そう思い試行錯誤を繰り返していると、分かったことがいくつかある。
どうやら本体である俺は、取り憑いた先……。つまり、くままくらに必ず触れていなければいけないようだ。
浮遊霊ではなく、自縛霊……。縛られる先がまくらという、なんとも変わった自縛霊なのだろうか。
そして、霊体にも関わらず、地面に立つ必要があるようだ。
なので、くままくらも俺の身長と持ち上げた腕の高さ以上を飛ぶことはできない。
イメージとしては、俺の本体である霊が人形劇の黒子をしているようなもんだ。
これはロベールも同じようなものだったな。
さらに、ちょっと意外だったのが、霊体は壁をすり抜けられる事だ。
もちろん、くままくらはすり抜けられないので、すり抜けて迷路をショートカットなんて事はできないけどね。
地面には立っているのに、壁はすり抜けられるってどういう事だと思ったが、どうやら俺の認識次第のようで、地面に手を通すイメージをすれば腕が突き刺さってしまった。
うん、ちょっと使い勝手が分からないし、あまり使わない方がいい能力のようだ。
壁をすり抜けられるなら、覗くことくらい出来る……、という邪な考えが浮かばなかったわけではないが、悪用はやめておこう。
神という存在が居る世界で、神罰が下るような行動は慎むべきだろう。
何より、その神様の慈悲……、純粋な慈悲かどうかは怪しいが、少なくとも慈悲らしき何かの下、与えてもらった人生のロスタイムだ。
悪用などしようものなら、逆鱗に触れる事は想像に難くない。
ともかくだ、これでロベールと同じく宙に浮くこともできるし、何より霊体は俺の前世の体格と同じようだ。
なので、これならば一人で出歩く時も、愛らしい短足に悩まされずに済む。
「そうと分かれば、さっそくガチャ神様のトコロへ殴り込みだ!」
俺は落ち込んだ気持ちを振り払うように、意気揚々としたフリでくままくらを脇に抱え、こっそりと寮を抜け出した。
幽霊の足音に気付く人はいないと思いつつも、忍び足になってしまうのはなぜだろうな。
そうして外に出てみれば、東の山々の峰が少しづつ白んでいく頃合だった。
おそらく、かなり冷え込んでいるのであろうが、まくらでも幽霊であっても温度を感じる事はない。さらにさらに! 疲れも感じず、くまを抱えた幽霊は走り出すのだ!
そうして、いつか鬼若とクロが競争した石段に来てみれば、そこは前に見た時よりも綺麗になっていた。
もちろん石段自体が変わった訳ではないのだが、雑草や落ち葉などのゴミが見当たらないのだ。
昼間は温かくなってきたこの時期、草のひとつも生えてないのは、人の手が入ってるという証拠だ。
けれど、そんな人がいるのなら前の依頼が出たのは不自然だよな……。
そう考えている時、俺に声を掛ける人物がいた。
という訳で外注さんをとっ捕まえてきました。
『最近動画配信サービス契約したんよ。時間が溶ける溶ける……』
サボりが激化してるんでねー、そろそろ本気出しましょうね?
『ボチボチやってきますかー!』
しかし、今回地文ばっかなんですが。
『登場人物が一人なのでしゃーない』
おそらくネット小説で一番ウケないパターン。
『番外編よりもブクマ外れそうやな……。ってか、番外編の続きは!?』
ノベリズムに移植する気はないので、なろうで読んでください。
『!? ぶん投げよったな!?』
いやだって、新作も投稿しないといけないですし?
『そーいや、アレまだ完成してなかったわ』
じゃけん、今から書きましょうねー?
読み終わったら、ポイントを付けましょう!