爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

980連目 いつか醒めるモノ

公開日時: 2021年2月9日(火) 12:05
文字数:2,981

前回のあらすじ

『まくら氏、願いを決める』


外注さんの今日のひとこと

『願いを増やす願いは、叶えられるんですかね?』

 ガチャ神が少女の姿で現れてから一ヶ月。そして、局長達が消えてから同じく一ヶ月。

どちらの変化も多少の動揺はあったものの、ゆるやかに受け入れられた。


 最初こそバトルの立会いが急に行われなくなった事や、学園運営局が無人であることに不安の声も聞かれた。

だが、アイリの……というよりは、本来の運営会社の管理体制が復活した事により、沈静化へと向かった。

むしろ、元々こうであったかのように不自然なまでの終息の早さを感じたのだ。

その違和感さえも実情を知る俺達だけが感じたものだが。



「うむ、このイチゴパフェは実に美味なのじゃ!」


「お前……。毎日俺に奢らせて、破産させるつもりか?」


「よいではないか。金は天下の回り物、墓に持って行っても仕方あるまい?」


「まぁ、そうだけどさ……」


「ふふふ、熊さんも妹君には甘いのですね」



 そう微笑むのはヨウコだ。そして、妹君というのはガチャ神の事である。

こちらに身体を練成し、光臨した神は俺の妹という事になっていて、今日も高等部の食堂……、というよりはカフェテラスのようなオシャレ空間で、スイーツに舌鼓を打っている。


 直射日光の当たる、冷房の空気も届きにくい窓際の席は、あまり人気がないため、こうして昼時以外ならばゆったりと過ごせる。

そのため、自称妹と、兄のまくらであっても、もみくちゃにされることはない。



「それでヨウコ、俺に話ってなんだ?」


「えぇ、アリサ様が気になる事を申してらしたのです」


「気になること?」


「どうやら最近、学園運営局の様子がおかしいとの事でして、何かご存知ないかと」



 もしかして、局長達が居ないという異変にアリサは気付いたのだろうか。

いや、気付くだけなら誰もが気付いていただろうが、それに“おかしい”と思えたのであれば、アリサは“普通のキャラクター”ではない事になる。



「おかしいって、具体的にどうおかしいんだ?」


「妾も聞いただけなのですが、どうやら契約石を契約主に配布しているのだとか……」


「あぁ、アレか」



 契約石、それは契約主(俺やカオリ、アリサなどの一部住人)が、契約者(鬼若やベルのような来訪者)と契約する時に消費する、魔力の篭った石である。というのがこの世界での設定。

ゲーム上では、課金することで手に入る石であり、それを使ってガチャを回す事のできるアイテムだ。

ちなみにまくらの中身はこの契約石である。


 それは、課金以外にもログインボーナスなどで貰える事があり、運営会社が配布するのは珍しい事ではない。

ただし、学園運営局が管理していた時は配布されていなかった。そのためアリサはおかしいと思ったのだろう。


 今回の配布理由は、ゲームのサービス終了前に大盤振る舞いしているというものだ。

サービス終了の7月末まで、毎日ガチャ1回分配っており、さらに連続ログインによっては10連分配布の日もある。


 だが、プレイヤーである俺への配布は納得だが、こちらの世界では、契約主全員がプレイヤーと同等に扱われているようだ。

つまり、アリサだけでなく、カオリやアーニャにも契約石が配られているのだろうか?

契約石の価値が暴落しそうだな。



「俺も貰ってるんだけどさ、くれるってんなら、貰っておけばいいんじゃないか?」


「熊さんも貰っているという事は、契約主全員に配布しているのでしょうか。

 アーニャ様も、同様に配布されたと仰ってましたし」


「多分そうだろうな。カオリにも聞いてみるか?」


「いえ……、その、カオリさんは最近上の空で……。少し話し辛いのです」


「あぁ……。ま、カオリにも色々あるんだろ」


「何があったか、教えてはくれないのですね」


「まぁな……」



 ヨウコの言うとおり、カオリはこの一ヶ月ずっと上の空だ。

何を聞かれても生返事で、クロもその様子に戸惑っていた。

そして時折、あてもなく一人でうろうろと彷徨うのだ。この世界を隅々まで観て回るかのように。



「さすがに、そろそろ頃合だよな。

 ヨウコ、心配かけて悪いな。カオリの事は任せてくれ」


「えぇ、よろしくお願いしますね」



 そう言葉を交わした俺達は、生クリームをベットリと口の周りに付けたガチャ神を綺麗にしてやった後、学校を後にした。そしてどこともなく彷徨うカオリの元へと向かう。


 居場所はアイリにメッセージで聞けばすぐ分かる。

なんたって今のアイリは、この世界の神とも言える存在だ。

なんなら、俺に手を引かれる一応ホンモノの神様よりも、この世界だけで言えば強大な力を持つ存在だからな。


 そして聞かされた居場所、それはいつもの待ち合わせ場所、そして俺達が最初に出会った場所。噴水のある公園だ。

噴水の縁に座るカオリは、ただ流れる時間に身を任せているような、生気を感じさせない姿だった。



「よう、カオリ。ちょっと時間とれるか?」


「……私、クロを待ってるから」


「ならば、クロが来たらワシが相手してやるかのう」



 あからさまに俺を避けようとする返事に少し戸惑ったが、ガチャ神がフォローしてくれる。

ポンコツ神様とは言え、彼女もこの状況は良しとしていないようだ。

それにはカオリも言い訳が思いつかなかったのか「うん」とだけ答え、俺たちは公園奥の木陰へと場所を移した。



「なんかさ、妙に懐かしい感じがするよな。

 まだ出会って半年ちょっとしか経ってないのにな」


「……うん」


「カオリ……、お前がそんなに思いつめる事じゃないんだぞ?」


「でも……、私だけが助かるなんて……」


「んー……、考え方次第じゃないか?

 ほら事故とか災害で、一人だけ奇跡的に助かったとかあるだろ? それと同じだって」


「同じじゃないよ!!」



 カオリのその声に、さすがに俺も驚いて体がビクッとなった。

けれどその声とは裏腹に、カオリの顔は怒りではなく、深い悲しみの色で染まっていた。



「だって……、私の場合はまくま君の願いのおかげだし……。

 それに事故と違って、そうなる事を知ってるんだもん……」


「同じだよ。俺は運0だからな。

 助からないというハズレがあるなら、それを引いてしまうもんなんだ。

 前もって知らされているのだって、カミサマっていうツテがあったからだ。

 それ以外は、なんにも変わらないさ」



 嘘が半分混ぜられたその言葉に、カオリはなんの返事もできずにいた。

俺の転生理由を語った時、つまり修学旅行の夜に運0の事は話してある。

けれど俺の運0は、俺のミスがない限り、事故に遭う事がないという“悪い事も起こらない”という一面を持っている事は、カオリは理解しきっていないようだった。


 もしかすると、この世界の終わりという不幸は、俺が何か見落としているせいなのだろうか。

いや、さすがにそれはないか。神という存在が関与する事態に、俺一人の力が及ぶとは思えないしな。



「それで、カオリはどうしたいんだ?」


「どうって……」


「ただの終わりはゴールじゃない。

 それまでに何がしたいか、何を目標ゴールとするか。何も無いのか?」


「……そんなの分からないよ」


「そっか。じゃ、いつも通り過ごしてさ、向こうに帰ったら、長い夢でも見てたって思えばいいさ」



 そう、これはゲーム。いつか醒める夢なんだ。

いや……、人生という時の流れでさえも、いつか終わる夢なのかもしれない。

カオリへの慰めになればと零した言葉は、思わぬ形で冷たく俺へと返ってきた。



「たとえ夢だとしても……私、ちゃんとお別れしたい。

 今まで会った人、助けてくれた人、みんなにお別れと……、ありがとうって伝えたいよ……」


『まくら氏のミスってなーに?』


4月頭にガチャ神ちゃんに会っておきながら、釘を刺さなかった事。


「ん? どういう事なんだぜ??」


あの時すぐに行動を起こしていれば、アイリとのやり取りが、サービス終了告知前にできたかもね?


『ガチャ神がその後花見してたせいで、チャンスを逃したと』


「やっぱりあのポンコツのせいなんだぜ!?」


『嫌な予感すると言いつつ、見逃したまくら氏も迂闊』


ってことで6月章はこれにて終了!

7月章からは二人に後書きを任せて、俺は一足先に御暇させてもらいます。


「は!? 職務放棄なんだぜ!?」


『フリーダムなのはいつもの事やし、気にしたら負けやぞ』


「まさに諦観の境地ってやつなんだぜ……」

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