爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

620連目 契約主親睦会(仮)

公開日時: 2021年1月22日(金) 12:05
文字数:2,688

前回のあらすじ

「イナバの過去をクマは聞かされて、悩んでおるのじゃ」


ガチャ神の今日のひとこと

「悩んでる時、すでに答えはほぼ決まっておったりするもんじゃ」



「では、皆さんお集まりいただいた所で、ただ今より第一回契約主親睦会を開催します!」



 しらけきったカラオケルームに俺の声が響く。

参加者のカオリ、ヨウコ、アリサはどのような反応をしたらいいのか、困惑している様子を隠せていない。



「てことでー、全員飲み物来てるよな? そんじゃ、カンパーイ!」



 俺の音頭に仕方なく、といったそぶりで三人も乾杯するが、やはりその動きはぎこちない。

そんな重い空気の中、開口一番乗りは、オシャレなグラスに注がれた、ピンクのタピオカ入りドリンクを一口飲んだアリサだ。



「あら、このイチゴミルク美味しいですわね……。

 って、そうじゃありませんわ!」


「やっぱ、こっちのバナナオレの方が良かったか?」


「そうですわね、そちらも是非……。

 って、そうでもなくってよ!!」



 一瞬、俺の飲むタピオカバナナオレに興味を示したが、即座にツッコミを入れる。

ノリツッコミとは、この令嬢デキるっ! という冗談はこの辺にしておこうか。



「どうしたんだよアリサ。やっぱ、お嬢様にカラオケはマズかったか?」


「問題はそこではありませんわ!

 なぜわたくしが、貴方達と馴れ合わなければならないんですのっ!?」


「え? だってもう敵対する気は無いんだろ?

 なら別に良くね?」


「よくありっ……、んん……? ヨウコ、どうなのかしら?」



 急に話を振られたヨウコは、味わっていたタピオカ抹茶オレのグラスを置く。

その動きがなまめかしさを感じるほどに緩やかなのは、返答を考える時間を作るためだろうか。



「妾には考え及ばぬところではございます。

 されど、他の契約主の動きもある中、無闇に対立するのは愚策かと存じます」


「さすがヨウコ。話が分かるヒトで助かるな!」



 そんな反応をする俺は、ヨウコに少し冷たい視線で刺された。



「しかし、それはこちらの事情。

 熊さんにつきましては、何も思うところが無いわけではないでしょう」


「あぁ、例のスパイと奇襲の事?

 別に被害も無かったし、気にするような事なくない?」


「まくま君……、そういう事する人を簡単に信じちゃうのは、どうかと思うよ……」



 すかさず入るカオリのツッコミ。もはやいつも通りの流れだな。

あ、ちなみにカオリはアセロラドリンクを飲んでいる。一人だけタピオカが入っていない……。

それは別にどうでもいいか。


 まぁ、カオリの言う事も分かる。俺だって信用した訳じゃない。

けれど、相手を知る前に切り捨て、遠ざけるのは簡単だ。

しかし、それはまだ見ぬ可能性を潰すことに他ならない。


 俺は知った上で、どの程度の距離を保つのが互いのためか、それを見極めることが大事だと思うんだよね。

その結果「関わらない方がいい」という結論になる事も、多々あるけどな。



「まぁまぁ、カオリもそう言わずにさ、同じ契約主同士なんだから。

 それに、他の契約主がどういった事をしてるのか気にならないか?」


「……それは気になるけど」



 カオリもなんだかんだ言いながらもこの場にやって来たのだから、親睦会を台無しにするつもりはないのだろう。

ただ、相手を考えれば警戒するのも無理はない。



「それじゃみんな問題ないよな? あ、もっかい乾杯しとく?」


「いえ、乾杯は一度で結構ですわ。それにただの親睦会のつもりなどないのでしょう?

 このような、防音の施された場所を選んだのですから、他の人に聞かれたくない事を話すつもりではなくて?」


「何だよアリサ、妙に勘が良くないか?

 前みたいに、ちょっとヌケてる方が可愛げがあるってもんだぞ?」


「誰がヌケてるですって!?」



 食って掛ろうとするアリサをヨウコが宥める。こんなに怒るのだから図星だ。

しかも自覚しているんだろうな。色々画策するには、こういう煽り耐性のないヤツはやりやすい。



「まぁまぁ、怒るとシワが増えるぞ?」


「口の減らないクマですわねっ!!」


「アリサ様、相手のペースに飲まれておりますよ。

 やはり、妾達だけでは分が悪いかと……」



 怒りで顔を赤らめているアリサはヨウコを睨み付けるが、当のヨウコは慣れているのか、睨まれても平然としている。

こういう様子を見ていると、二人の関係性というのが見えてくるな。


 イチゴミルクを一気に飲み干し一息尽き、すっと怒りの色を収めたアリサは、さも今までも平静だったという素振りで話を進める。



「……仕方ありませんわね。もう一人、こちらに呼んでも構いませんかしら?」


「あぁ、別にいいよ」



 やっとだ、やっと裏で糸を引いていた奴の顔を拝めそうだ。

元より今までの挑発だって、このためのものだ。うまくいくかはわからなかったけどな。



 まずもっての話、なぜ俺が裏に誰か居ると思ったかだが、この二人が奇襲攻撃の計画を立てたとは考えにくかったからだ。

もし、アリサが計画を立てた本人だとすれば、あれほど綿密な計画を立てられるのに、ここまで短絡的というか、策に乗せられやすい奴なわけがないだろうからな。


 次にヨウコが首謀者であるという可能性だが、それも低いと俺は考えていた。

もし仮にヨウコが首謀者であれば、俺とカオリの協力関係を知っていながら、計画を実行した事になる。しかも初対面で警戒されている事を肌で感じておきながらだ。

だからこそクロを使って俺とカオリを引き離すという作戦を立てたのかもしれないが……。

それにしたって不用意だと俺は感じる。

同盟システムがなくたって、連絡一本で誰か一人を俺の側に付けておく事もできるのだから。



 なので、俺とカオリの関係を人づてに聞いた奴が計画を立てたのではないか、と考えたのだ。

ま、俺とカオリが例外中の例外なだけで、契約主同士は基本的に対立するものだ。

だから、話をきいた首謀者も、ただの友達としてなのか、契約主としての協力関係なのか、その判断が付かず、困ったのかも知れないけどな。


 それに、ヨウコだって抜けている所もあるのだ。

そりゃ、アリサよりは参謀役の素質はあるだろうけどね。


 日々俺を見ているのなら、俺の体が普通の“クマまくら”ではないと分かるはずだ。

この手でペンを持っていたり、巻き寿司を作れるのを見ているのだからね。

まぁ、それでもまさか腕が伸びるなんてのは、さすがに想定外か。



 そういうわけで、やって来る相手はこの二人よりも、かなり手ごわい相手だと考えている。

そんな思いに、俺は少しわくわくしていたりもするのだ。どんな人なのだろう?

もしかすると、人ですら無いのかも? 高性能A.I.のキャラなんて居たかな? なんてね。


 そうこうしていると、耳に軽やかにノックの音が響き、ヨウコの出迎えでその人物が入ってくる。

さてさて、黒幕さんを拝見させていただきましょうかね!



「熊の実様、お初にお目にかかります……」


「俺は初めてじゃないけどな」


みんなでカラオケ行くって、高校生っぽくていいよねー。


「……誰も歌っておらんのじゃが」


だって、歌詞載せたらアウトだし?


『メタい!! 超メタい!!』


「いつもの事じゃ」


『てか、カラオケある世界観やったんや??』


割と普通な世界ですしね? 魔力や魔法あるけど。


「で、なに普通に中の人と話しておるんじゃ?」


コメントでツッコミ入りそうな事を、事前に潰しに来たらしい。


『それで、次回アリサの後ろに居る人が出てくるんやけど……』


どうせ誰も気付いてる人いないからね。いきなり出てきてお前かよってなるタイプだし。


「それ推理モノだとアウトなパターンなのじゃ」


……。よし! 次回をお楽しみに!!


『あ、誤魔化した』


「これが大人の対応なのじゃ」

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