青い空に白い雲が浮かび、ゆっくりと流されてゆく。
穏やかな午後の日差しが体を温め眠気を誘う。
小春日和という季語を使うには少し早い、まだ温かさも残る秋の昼下がり。
女は木陰に座り、誘われるままに眠気を受け入れ、まどろみの中に身を落としていた。
その姿は、青を基調とした薄く透ける、羽衣を素材としたようなネグリジェを身に付けており、昼寝の衣装としてはいささか本格的な寝衣であった。
「見つけたぞ!人攫いめ!我が主を返してもらおう!」
やってきた大男は怒りを隠す事も無く怒鳴りつける。
対し女は我関せずという態度で、木漏れ日を受け色白のその顔は絵画のように美しい寝顔をしていた。
彼もまた、暖かな午後の日差しがあるとはいえ、気温の下がりゆく秋の装いとは程遠く、ブーメラン型の水着の上に申し訳程度の腰布を纏い、肩には皮製と思われる肩防具を付けている。
それ以外は腕に付けている装飾と、武器の薙刀以外は、その鍛え上げられた身体を見せ付けるかのように何も纏っていない。
身体は赤みがかった褐色の肌で、額には小さな二本の角が見える。
その姿は人間に化けたものの、本性を隠しきれていない赤鬼のようだ。
そんな彼は元々赤みのある顔をさらに赤くして、怒り心頭という表情をしている。
「我の眠りを邪魔するとは何者ぞ」
女は姿勢を変える事もなく、うっすらと開けているかどうかも分からぬ程度に片目を開き、男を睨む。
優しく吹き込む秋風だけが彼女の長い水浅葱色の髪を揺らし、時の流れの存在を示している。
それに対し男は、怒りによって燃え上がるのではないかというほどにその短い黒髪を逆立てる。
「我が名は鬼若、貴様に奪われた主を取り戻しに来た!」
その怒りに満ちた姿には似つかわしくないものの、名を名乗る様子は彼の律儀さを表していた。
仁王立ちのその姿と、腰を下ろしたままの女は正反対の存在のように写る。
互いの共通点と言えば、双方季節はずれの薄着であるという点くらいだ。
「鬼若……フン、あの最弱のSSRと呼ばれる鬼若か」
倒れ込みそうになっていた上半身を起こし、やっとの事で両目共に薄く開く女のその顔は、その美しさを十分に台無しにできるほどの、蔑みと哀れみの表情を浮かべている。
「くっ……」と小さく唸る事しかできない男は“最弱”である事を否定できずにいるようだ。
「人攫いとは目に余る言いがかり……。我をベルフェゴールと知っての無礼か」
先ほどまでまどろみの中に居たとは思えぬ、重厚で威圧感のあるその声は、木々に潜み彼らの様子をうかがっていた小鳥たちを飛び立たせるには十分だった。
しかし対する“最弱”と呼ばれた男は、それに怯みはしない。その目は今も力強く女を睨み続けている。
「許しを請うなら見逃してやろうとも思ったが、引く気はなし……か」
女は薄ら笑いを浮かべ、まだ始まってもいない勝負に、既に勝ったかのような表情を見せる。
「面倒ではあるが、その心意気に免じて格の違いを教えてやろうぞ!」
その言葉と共に女が立ち上がろうとした瞬間……。
~ピンポンパンポーン~
『学園運営局よりお知らせいたします。ただ今から十五分後、臨時メンテナンスを開始いたします。
契約主の皆様におかれましては、現在行っている戦闘を終了していただきますようお願いいたします。
また、この放送より後の戦闘の開始は控えていただき、メンテナンス後より開始していただくようお願い致します。繰り返します……』
「ふむ……、世界の休息か……。仕方あるまい、勝負はしばらくお預けとしよう」
さて、ここまで黙って見ていた訳だが、俺がどういう状況か、俺自身未だにわかっていなかった。
何がどうしてこうなったのか、少し記憶を遡ってみようと思う。
「ブックマーク、評価、コメント、いただけると喜びますのじゃ」
「一日二回更新の予定なのじゃ」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!