前回のあらすじ
「クマヘッドが爆発するほどに問題山積なのじゃ」
ガチャ神の今日のひとこと
「頭が爆発以前に、ガチャで爆死しておるがのぅ」
「お疲れ様なんだぜ。帰ったら少し休憩するんだぜ」
「俺はまくらなんで、身体的には疲れないけどな。
だが、休憩には賛成。さすがに気持ちが疲れる」
「あ、どっちみち着いた頃には、昼休みになりそうなんだぜ」
「もうそんな時間か。腹時計が機能しないから、わからなかったんだぜ」
「口癖が移ってるんだぜ!?」
俺と局長は、朝の現場から事務局へ帰る道すがらそんな話をしていた。
現場と言っても、俺達が何か作業するわけではない。
技術屋の緑職員達の様子を見ることと、作業の進捗を報告するための書類をどのように作成するかを指導していたのだ。
局長の言っていた上部組織が機能していない今、全ての業務は学園運営局が行う必要がある。
そのため、局長をトップとした管理職と、現場との意思疎通が大事になってくる。
ならば、現場の情報を齟齬なく伝えるための報告書は非常に重要で、その指導は管理職側の責任だ。
しかし、今まではそういったシステムがなかったのが不思議でならなかったのだが、局長いわく上部組織というのは、もはや「神の視点」と呼べる代物を持っているらしい。なので、報告せずとも全てを把握していたそうだ。
その話を聞いた俺は、上部組織ってがゲームの製作・運営会社の事なんだろうとなんとなく察した。
本来ならば、運営事務局のスライム的職員というのは存在せず、この世界がガチャ神様によって構築された時に代理で置かれたものなのだろう。
いやさ、代理を置くにしても、もうちょっとどうにかならなかったのかとは思うけどね。
「で、局長。俺は今日で抜けることになるけど、大丈夫そうか?」
「あぁ。おかげさまで、なんとかなりそうなんだぜ」
「そうか。じゃあ、俺の方の用事を頼んでもいいよな?」
「そういえば、君達がなぜあの時事務局に来たのか聞いてなかったんだぜ」
「ま、それは本人から言わせるから。とりあえず午後から空けといてくれるか?」
「りょーかいだぜ」
とりあえず鬼若の件は今日の午後に決着を付けられそうだ。
俺は端末に念話で指示し、鬼若達に午後から事務局へ来るようメッセージを送らせた。
結局、俺達が事務局で泊り込んだのは1日だけで、その後は俺だけがクエストを受注した形で2週間ほど事務局に通う事になった。
その間に鬼若には、ゆっくりと考える時間ができたのだが、午後から契約解除か不具合修正か、その決断を聞く事になる。
前に聞いた決断から2週間、心変わりするにも十分な時間だ。
ちゃんと後悔のない判断ができていると信じてやろう。
「ただいまなんだぜ!」
「きょくちょ~! お客さんがきてるんだよ~!
局長室に案内してあるよ~!」
事務局に帰れば、ぽよぽよとピンクの職員が跳ねて俺達を呼ぶ。
その様子は、俺がこちらの世界へ来てすぐの頃に見たのと同じくらいまで元気になっていた。
事務局がちゃんと機能してきた証拠だ。
そして、局長室というのは、俺が作るように依頼した部屋だ。
今後局長は“あまり外部に知られたくない話”をすることもあるだろう。
そういうわけで、事務局の局長デスクとは別に、防音のしっかりした来客用応対室とも言える部屋を用意させたわけだ。
「休憩はできなさそうだな」
「あんまりなんだぜ……」
ボヤきながら二人で向かえば、中で待っていたのはカオリとクロだった。
質素ながらも、一応来客対応用のそこそこ上質なソファーに、クロはちょこんと座っている。
「えっと、ごめんね。忙しいのに……」
「なんだ、カオリたちか。局長室に招くから、誰かと思ったよ」
「ヨウコさんからの、差し入れを持ってきただけなんだけどね……」
対面したソファーに挟まれた、コーヒーテーブルの上には、山吹色の風呂敷で包まれた箱が3つ並んでいる。
カオリが風呂敷をひとつほどき、入っていた重箱の蓋を開ければ、中に入っていたのは、色鮮やかなちらし寿司だった。
「おぉ! これは昼飯にちょうどいいな!」
「彩りも良くて、錦糸卵が菜の花畑みたいで春らしさを感じるんだぜ!」
「ふふふ、今日はひなまつりだからね。
蛤のお吸い物も用意してあるから、みんなで食べようかなって」
そうとなれば話は早い。すぐに食堂へと向かい、全職員を集めて昼食会となった。
しかし、お吸い物が汁粉と同じく、カオリのアイテムボックスから出てきた水筒で振舞われるのは、やはり違和感をぬぐえなかったけどね。
そうしていれば、メッセージで呼び出した鬼若とベルがやってくる。
事務局には、あまり高レアリティの来訪者を招きたくないという内情を知っているので、二人には今まで自由行動としてもらった。なので会うのは二週間ぶりだ。
最後の夜からしばらくたって、鬼若が未だに悩んでいるようだったら、なんてガラにもなく俺は心配していた。
しかし様子をみれば朗らかであり、もう迷いなどないといった様子だ。
局長は二人が来たのを見て、食事もそこそこに、俺達3人を局長室へと案内してくれた。
最近働き詰めだというのに、意外と勤勉なのかもしれないな。
食堂を出る際、カオリは少し不安げにこちらを見ていたが、さすがについて来る様子はなかった。
局長室に入り、俺達は来客用テーブルセットに着く。
ピンクの職員がお茶を出し、少し間を置いて「それで、話ってなんなんだぜ?」と局長は切り出した。
目配せをし、鬼若に話し出すよう促す。
契約解除か弱体化か、どちらにせよ事務局での手続きが必要だ。
鬼若は、深く深呼吸をしたのち、吐き出し損ねた息に乗せるよう、言葉を連ねる。
「俺のスキルの不具合を、修正していただきたいのです」
「鬼若、それでいいんだな? 後悔はないな?」
「はい、主様……。
たとえ弱くなろうとも、再び最弱と呼ばれようとも、俺は主様と共にあります。そして……」
力強い目つきで俺を見定め、鬼若は続けた。
「主様の前に立ち、どんな敵からも主様を守ってみせます!
たとえそれが茨の道であろうとも……。
いえ、茨の道であればなおさら、主様のためにこの身が朽ち果てようと、道を切り開いてみせます!」
「えっ……。やる気なのはいいんだけどさ……」
「主様は仰いました『前を見るのが辛くなったなら、振り返って俺を見るといい』と。
ならば俺は、主様の隣ではなく、前に立つ者にならねばならないのです」
……は?? なんでそうなる!?
ちょっと混乱してきたぞ? 弱体化するのに今までより強くなろうって話??
いや、ここで話の腰を折る訳にもいかないな。それに鬼若のやる気も折りたくないし……。
「えぇと……。鬼若の強い意志は分かったから、とりあえず局長に状況説明をだな……」
「それに関しましては、我が説明役をさせていただきます」
色々ツッコミ所はあるが、とりあえずベルの端的な説明により、局長は不具合の状況を理解したようだ。
「状況は分かったんだぜ。報告が遅いけど悪用もしてないし、こちらも発見できなかった落ち度を勘案すれば、ペナルティはなしにするんだぜ」
よかった。とりあえず、俺が責任を問われる事はなさそうだ。
そう安心していたのもつかの間、ベルが爆弾を投下した。
「言うべきはそれだけですか?
あなた達のミスが、契約主や我ら来訪者に与える影響を考慮してなお、言うべきはそれだけだとお考えなのですか?」
その言葉と共に、ベルの羽衣が局長を縛り上げる。
その怒気に塗れた顔は、今までのどんなあくどい笑みも、所詮は笑顔の一種だと痛感させるほどに憎しみのこもった表情であった。
「おい! 待てベル!!」
止めようとする俺の言葉も聞かず、局長は青い羽衣にギチギチと締め上げられてゆく。
ヨウコはいつのまに、寿司担当になったんだろうね。
「しかし、重箱いっぱいの煮物でも微妙じゃろうて……」
お昼ごはんが肉じゃがのみ……。無理があるな。
「しかしもう三月か、月日が経つのは早いのぅ」
中の人は花粉症で死んでるらしいよ。
「くしゃみの消費カロリーでダイエットできるのではないかの?」
常に鼻水垂らしながらキーボード叩いてるとか。
「汚いのじゃっ! 薬をキメるのじゃ!」
クスリをキメるとか言うな。
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