爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

560連目 防音局長室

公開日時: 2021年1月18日(月) 18:05
文字数:3,021

前回のあらすじ

「ガチャ神ニュース:鬼若氏、残留を表明。じゃ」


ガチャ神の今日のひとこと

「ガチャ神ニュース:ベル氏、ご乱心。じゃ」



「おい! いい加減にしろベル!」


「いいえ、それはなりませぬ。

 こやつらは自身の行いが、どのような影響を及ぼすのか、理解できていないのです。

 ここで解らせねば、再び鬼若のような、哀れな来訪者が出てきてしまいましょう」



 締め上げられた局長は、その身体が弾けそうになっている。

いや、ベルは本気でそうしようとしているのだろう。



「やはり思ったとおり。

 なぜ来訪者に怯え、結界を張っているのかと思えば、貴様等は来訪者同士とは違い、バトルという枷を背負っておらんのだな……。

 このままひと思いに、爆ぜさせてやってもよいのだぞ?」



 怒気が引き、ニヤリと勝利を確信した者だけが許される笑みを浮かべ、悪魔は囁く。

そして、慈悲などではない、負け惜しみや弁明をさせるためだけに、局長の口元だけを羽衣が避ける。



「ふん! 好きにするといいんだぜ!

 私がやられても、第二、第三の局長が現れるだけなんだぜ!」


「局長!? 今の状況で出るセリフがそれかよ!?」



 しまった、うっかり普通にツッコミを入れてしまった。

いやだってさ、どう考えても四天王がやられるときのセリフ……。

あ、それは「俺は四天王の中でも最弱」ってやつか、ちょっと違ったな。

じゃなくて、鬼若がオロオロとしているし、そろそろ事態を収拾させないとな。



「ベル、やめとけ。どうせ今のコイツは名ばかり局長だ。

 コイツのやってることは学園都市の維持管理だけで、来訪者を管理してる本当の仇ってのは、別にいるんだよ」


「おいこらクマ野郎! しれっと秘密を暴露してるんじゃないんだぜ!?」


「いや、お前今の状況でも余裕過ぎん?? 自分の命より秘密の方が大事なのかよ!?」



 ベルはふっと羽衣を緩め、俺を見つめる。



「まくら様、それは真にございますか」


「あぁ、本当だ。ただし、これは一部の者しか知らない情報だ。誰にも漏らすなよ」


「お前が言うんじゃないんだぜ!!」



 ベルは今までの勝ち誇った顔から一転、悔しげにボンレスハムのような状態の黄色いボールを睨む。



「……まくら様のお言葉であれば信じましょう。

 ですが、このままではあまりに鬼若が不憫ではありませんか。

 それについては、我も譲れません」



 鬼若が不憫とは、まさかそんな言葉がベルから聞けるとは思わなかったな。

しかし、どうしたものか。ベルは引く気がないようだし、局長もあんなだしなぁ……。

そうだ、ここは問題の原因とも言える、鬼若の意見を聞こう。

つまり、問題のぶん投げだ。



「鬼若、お前はどうなんだ? ベルがここまでしてくれてるが、お前の本心はどうなんだ?」


「俺は……。俺もできる事ならば、強くありたかった。

 けれど、強さよりももっと大切なものがあるんだって判ったから、どんな弱さも受け入れるつもりです」


「貴様は……、ずっとこやつらのせいで苦しんだというのに、それをゆるすと言うのか」



 少しの間、鬼若は俯いて思案するが、上げた顔には憎しみなどなかった。



「こうやって主様や、セルにチヅル……。それに、あんまうまくやれてないと思ってたけどさ、こうやって俺のために怒ってくれる、お前みたいな仲間ができたから、たとえ弱くたって、たとえ理想の俺になれなくたって、この世界に連れてきてくれたこいつらを恨むなんて、俺にはできねえよ」



 その言葉にはベルも「……左様か」としか言えず、力を失った羽衣はボトりと局長を落とす他なかった。



「……はぁ、まったく。仕方ないんだぜ。鬼若の“スキル再査定”を許すんだぜ」


「ん? なんだよ局長、そのスキル再査定てのは?」


「そのまんまだぜ。

 来訪者には学園都市に来た時に、それぞれの適性に合ったスキルを査定し、付与するんだぜ。

 それを、もう一度やってもいいと言ってるんだぜ」


「いいのか? そんな特別扱いしてさ」


学園運営局うんえいは、特定の来訪者に忖度できないんだぜ。

 だから“LvレベルGLvグレードレベルASLvアクティブスキルレベルが全てMAXの来訪者に限定して、1度だけ再査定できる”とするんだぜ」


「そんな条件、満たせる者などおるはずが……」



 確かにベルが言うように、これはひどい前提条件だ。

ASLvアクティブスキルレベルってのは、ガチャでキャラが被ると上がるレベルなので、それがMAX前提というのは、超廃課金者限定という事だ。

ゲームであればそんな前提条件出した瞬間に非難轟々だぞ……。


 その他2つの条件も厳しいといえば厳しいが、キャラ育成を趣味にしているようなプレイヤーならば達成できなくはない。

それでも、かなりのやり込み要素になるけどな。



「それがさ、良いのか悪いのか……、鬼若はその条件満たしてるんだよなぁ……」


「まくら様は一体どのような業を背負えば……。

 いえ、今の御姿からして、様々な縁を引き寄せているのでしょうが……」



 うん、これって軽くディスられてるよな。

まぁ、運0というひどい不具合バグを背負ってるし、否定できないけど。

ともかく、これで鬼若は、弱体化だけという事態は避けられるのだろうか。



 局長はいそいそと技術班、事務班に指示を出し再査定と、条件の告知の準備を進めている。

鬼若もやってきた彼らに連れて行かれてしまった。

ベルは俺が言う前に、外で反省すると言って出て行ゆく。

しかしその姿には、やってしまった事への後悔は感じさせなかった。



「局長、ベルがすまなかったな。まさか、あんなに怒るとは……」


「いや、彼女の言う事はもっともなんだぜ。

 今後は、私が上部組織に代わって学園都市を動かしてゆくのだから、来訪者との良好な関係を築いていくのも役目なんだぜ」


「それで……、俺へのおとがめはあるんだよな……」


「んー? 何かあったんだぜ?

 私は、とある来訪者に再査定を懇願されただけだと記憶してるんだぜ?」


「ぷっ……。ははは。局長、意外とお前は大物だな!」


「褒めても何も出ないんだぜー?」



 局長は命の危険があったとは思えないほどに飄々ひょうひょうとしている。

それは職員達ののんびりとした様子とは少し違う、何事にも動じない芯の太さというのを感じさせた。

その姿に局長が名ばかりではなかったと、俺は認識を改めねばと痛感したのだった。



「きょくちょ~! さいさていおわったよ~!」


「おう、お疲れ様だぜ。報告書を見せてもらうんだぜ」



 ピンクの事務職員から渡された報告書を眺め、局長は俺に向かい、ぱっと笑顔を咲かせる。



「よかったな、鬼若は必殺技アクティブスキルで、今までのスキルに加えて、3ターンの“かばう”効果を会得したんだぜ!」


「それって、パーティーメンバーが受けるはずだったダメージを肩代わりして、さらに受けるダメージを半減させるってやつだよな?」


「さすがよく知ってるんだぜ。というか、知りすぎな気がするんだぜ?」


「他の来訪者も使える既存スキルだしな。情報収集は大事だろ?」



 局長は「さすが優秀な契約主は違うんだぜ」なんて言っているが、これも攻略サイトを穴が開くほど読みまくった成果だ。


 しかし、他の奴のダメージを肩代わりとは、今までの必殺技アクティブスキルでHPが削れるのに、さらにダメージを受けに行く事になるのか……。

使いにくさが増した気がするんだが、鬼若ってのはスキルには恵まれない星の元に生まれたのかもしれないな……。

そんな風に考えている俺の思考を読み取ったように局長は語る。



「スキルってのは、ソイツの性格や、こうありたいと願う姿。譲れない想いを反映させたものなんだぜ。

 だから鬼若は、君に出会って人生そのものが変わったんだぜ。仲間を“かばう”のも、その表れなんだぜ。

 これからも契約主として、良い方向へ導いてやってほしいんだぜ」



 その言葉に俺は、返す言葉を持ち合わせてはいなかった。

前書きが……。いつもの事か。


「新幹線で流れるニュース風なのじゃ」


あれって、同じのが連続で2回流れるんだよな。


「もちろん、ここではせんぞ?」


中の人によれば、ずっと見てると止まってるものが歪んで見えるらしいね。


「流れている物に見慣れると、止まっている物へ対応しなおさねばならんらしいのぅ」


ゲームで上から降ってくる物を見続けてもなるらしいよ。


「ニュースもゲームも、何事もほどほどにした方がよいのじゃ!」


さて、終わるか。

そういや後書きで本文に触れてないな。


「いつもの事じゃ」

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