爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

堀口涼河の見る世界 [1]

公開日時: 2021年3月4日(木) 18:05
文字数:3,596

今回の更新は、以前小説家になろうにて投稿した

短編「チートモニター大募集!」の加筆修正版となります。

ある日、特にやる気は無いものの、求人誌を眺めていた。

今のバイトに不満があるわけではない。けれど仕事前はなんとなく現実逃避したくなるのだ。



『チートモニター募集! 初心者でも安心! お気軽にご応募ください!

 時給2500円! 能力によって昇給の可能性アリ! 1日限りの超短期!』



 ただそう書かれただけの枠を見かけた。

なんなんだ? 連絡先も、内容も無い。何かのイタズラだろうか?

この求人枠自体よりも、この求人を載せた求人誌を作った会社の方がヤバいのではないだろうか。



「んー、でも簡単な内容で時給2500円ならやってみたいなぁ」



 そんな事をふと呟いてしまった瞬間、俺は白い空間へと飛ばされていた。



 ◆ ◇ ◆ 




「よくぞチートモニターに応募してくれたのじゃ! 歓迎するぞ!」



 そこには一人の少女が立っていた。姿は金髪ツインテール、金色で猫のような目をしていた。

その姿とは裏腹に彼女の口調は爺臭く、本当はどこかに爺さんが隠れているのではないかと思ったほどだ。

そして周囲を見渡せば、俺の部屋はいつの間にか白一色で塗りつぶされた……というよりは、壁が霧で見えないような部屋だった。いや、壁が見えないので部屋かどうかは分からないし、霧だとしたら目の前に立つ少女の姿がはっきり見えるのがおかしいのだが……。

ともかく不思議空間だ。少し効かせすぎて肌寒かった冷房も、今では意識しないと感じられないほどに適温だ。ここの空調をぜひ俺の部屋にも導入して欲しいくらいだ。



「さて、落ち着いて現状を把握できたようじゃし、そろそろ面接を始めるかのう」


「え? 面接? なんのですか? っていうか、現状把握を投げないで説明してもらえますか」


「求人誌に書いたとおり、チートの性能試験のバイト面接じゃ」


「チート? 性能試験?」



 突然の事で混乱してもいいはずなのに、俺は自分で違和感を覚えるほどに冷静だった。

ただ、さっき見ていた求人がいたずらでは無い事と、普通の求人広告でなかったと思い知ったのだ。



「名は堀口ホリグチ涼河リョウガ、性別男の年齢は21か。

 現職業はフリーターで、ファーストフード店勤務と。ふむ、丁度よいと言えば丁度よいな」



 彼女は手元から突然現れた書類を読み上げる。その様子から、目の前の人物が普通の人間で無い事と、手にした書類が俺の履歴書であろうと推察された。



「しかし、飲食店勤務というのもあるが黒髪短髪と、おぬし結構マジメちゃんじゃな?

 フリーターと言えば、もっとチャラいイメージなんじゃがな」


「それは褒めてると受け取った方がいいんでしょうか」


「マジメである事が無条件で良いとされるのは学生までじゃが、モニターとしてはありがたいかもしれんのう。

 それに身体付きもしっかりしておって、チートを付与した場合の体への負担も確かめられそうじゃ」



 辛辣な事を言われたが、実際言うとおりだと思う。マジメな奴が得をするのは、しっかりした管理者が上に立ってくれている時だけだ。今のバイト先だって、先輩の西大寺さんが辞めてからは……。

いや、今はそんな話はどうでもいい。それよりも求人広告にもあったチートってなんだ?



「あの、チートってなんですか?」


「ふむ、業務内容じゃな。簡単に説明すれば、おぬしにチートを付与し、その使用感を調査するわけじゃ。

 簡単じゃろう? 百聞は一見にしかず、試しにやってみればわかるじゃろ。採用じゃ!」



 彼女はそう言うと、俺の足元に魔方陣が現れ、俺は白い光に包まれた。

うーん、流されるままだが、どうせ夢だろうし適当に言われた通りやってみるか。



「さて、最初はお試しで”パンチ一発で相手を確実に殺す”スキルじゃ」


「なんかそれ、どっかで見たことある気がするんですが……」


「うむ、おぬしが理解できる能力でないと意味が無いからのう。

 では、実験動物オーク君かもんじゃ!」



 そう言うと出てきたのは……いや、説明しなくていいか。

どうせ夢だ、俺のイメージするゲームに出てきたオークが出てきても不思議はないしね。



「えっと、それでどうすればいいんです?」


「一発殴ってみるがよい」


「はぁ、では遠慮なく……」



 せいっ! と軽く、速さ重視の突きを無駄に鍛えられたオークの腹に当てた。

しかしその結果は俺の予想したものではなかった。いや速度重視だったはずなのに、なんでオークが粉砕したんだよ!?



「んー……ぐろてすくじゃな。使用感はどうじゃ?」


「かなり気持ち悪いです。返り血まみれですし。 というか、人形が精巧に作られすぎてて吐き気が……」


「……人形じゃから気にするでないぞ。

 しかし、この能力では何も手に持つことができなくなるのう。要改善じゃ」



 彼女の目が若干泳いだ気がするのだが、あれは人形だったんだよな……?

いや、その前に夢なんだから気にしないでおこう。うん。



「さて次は、気分の上下で冷気と熱を手に纏う能力じゃ」


「それもどっかで聞いたことあるような……。あ、なんだかすごく手先が冷えてきました」


「おぬしてんしょん低すぎんかのぅ? もうちょっとやる気出さないと、自身が凍り付いてしまうぞ?」


「オーク君出す前に、俺の腕がほぼ凍り付いてるんですが……。

 これはチートというより、自爆系能力じゃないですかね? テンションなんて自分でどうにかできない場合もあるんですし」


「確かにそうじゃの……。さっきよりは調整が効くと思ったんじゃが、これも却下じゃ。

 しかし、おぬしのやる気が無くて助かったの。逆なら今頃消し炭じゃろうからな」


「すごい怖い事言ってますけど、それって危ないんじゃ……」


「大丈夫じゃ、ちゃんと蘇生くらいしてやるわい」



 あぁ……これはいわゆるブラックバイトというヤツではないだろうか。

今までの事から、彼女は神様とかそういう存在だと思うんだけど……過信しないほうがよさそうだ。



「次はどうするかのう。何か希望はあるかの?」


「え? 俺が考えるんですか?」


「実際に使う者として、使い勝手を考慮した、欲しいと思えるチートとはどういうものじゃ?」


「えっと……ベタですけど、超高速移動ができる能力とか?」


「やってみるかの。とりあえず反復横飛びをしてみるのじゃ」



 その言葉と共に白い空間が歪み、周囲の様子は体育館のように変わった。

そして足元には3本のライン。これで反復横飛びをしろという事だろうか。

 ともかく言われるがままやってみると、速い! 本当に速い!

残像で床のラインがブレて視認できない! というか、床が摩擦熱で燃えてる!!

って待って!? 服も摩擦熱で燃えてるんですけど!?



「あー、これも駄目じゃの。全裸になってしまうのは色々とあうとじゃ」


「あの、加減ってモンがですね……。今までの全部、力加減を調節できるなら実用的なんですけど」


「ふむ、人間にはそういう配慮が必要なのじゃな。

 うむむ……全能であるがゆえに、そのあたりが無意識にできてしまうのでな。配慮が足りんかったな」



 あぁ、やっぱり彼女は女神様のようだ。そりゃ人間風情の不便さは分からないよな……。

それよりも、いい機会だから聞きたい事を聞いておこう。



「ところで、何でこんな事してるか聞いていいですか?」


「あぁ、気になる所じゃろうな。というのも最近なろう小説を読んだのじゃ」


「あ、アニメ化とか最近多いですし、流行ってますね」


「そしたら神ってのはチートスキルを付与するもんだと気付いたんじゃよ!

 ワシ、神なのにそんなの知らなかったんですけど!?」


「え? 女神様って全能なのに全知じゃないんですか?」


「いや、全知全能なんじゃが、最近なったばかりでの。その辺も最近知ったんじゃ」



 ふむ、神様一年生と言った感じか。ならモニターを募って試験するのも納得……か? いや、全知なら試験結果も分かっているのでは……。

今までの様子を見るに、性能試験しておいてよかったとは思うけどね。



「ともかく、それでワシもやってみたくなったのじゃ。で、どうじゃった?」


「こう言ってはなんですが、センスなさそうですね」


「ひどいっ!? ワシだって、せっかくの神の能力を活かしたいのじゃ……」


「あんまり物騒な能力与えない方がいいと思いますよ? だいたい、なろう系ってチートすぎて話が破綻してるのが多いですし……」


「じゃからワシは1つの能力に限定しようとしておったのじゃ」


「考えがあっての事だったんですね。

 でも3つしか試験してないとは言え、どれも普通の人間には使いこなせなさそうですよ。

 もっと相手の性格とか適性を考えた方がいいと思いますね」


「ふむ、言われればそうかもしれんの。前のハズレ能力を引いた者も、適性があったのかうまくやっておったしのう」


「モニターは俺が最初じゃなかったんですか……。前の人がどうなってしまったか気になりますね。ハズレと言うくらいですし、ロクな事になってなさそうですが」


「チート試験としてはおぬしが第一号じゃ。まぁよい、実験の続きを……」




「あの、ちょっと気になった事があるんですが、いいですか?」


「なんじゃ?」


「後ろに居る方はどちらさまで?」

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