爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

関屋雫の見る世界 [1]

公開日時: 2021年3月7日(日) 18:05
文字数:3,245

今回の更新は以前に小説家になろうで投稿した

短編「自宅で“3分除毛”できるスーパーアイテム」の加筆修正版となります。

「『自宅で“3分除毛”できるスーパーアイテム』っていう広告さ、誰が押すんだろうね」



 ふと思った事を口にしたが、誰かに答えを求めた訳ではない。



「どしたん? 気になる人でもできた~?」


「ふと思っただけ。ってなんで気になる人って話になるの」


「『女が身だしなみに気を使うようになるのは、男ができた時だけよ!』って、叔母さんが力説してたからね~」



 ふーん、そういうものなのか。って、どういう流れでそんな話を力説されたんだろう……。

まぁ、叔母さんは男漁りが趣味と公言してしまうほどの人だから、不思議ではないんだけど。

なんて思いながら、スマホの画面に並ぶ小説タイトルに意識を戻す。



「それで、相手は誰なのさ?」


「え? 相手? そんなのいないんだけど?」



 どうやらまだ話が続くと思われていたらしい。仕方ないので先の発言に至った理由を説明しよう。

さっきのは小説投稿サイトの「小説一覧画面」に出る広告の一文だ。


 明らかに小説のタイトルとしては異質な広告文は目に留まるが、その代わりに広告だとすぐ気付いてしまう。

だから、本当に広告効果があるのかという、特に意味のない疑問だ。



「な~んだ、やっとしずくの浮いた話が聞けると期待したのにな~」



 その一言を残し美沙みさは作業を再開した。




 ◆ ◇ ◆ 




 夏休みも残すところ一週間程度となった漫画研究会(略して漫研)の部室で、部長の関屋せきや しずくは漫画も描かずにスマートフォンと睨めっこしていた。

他人事のように言う事で、罪悪感を消しているわけだが、つまりそれをしているのは私だ。


 それに対し副部長の築山つきやま 美沙みさは、遅れを取り戻すように製作に勤しんでいる。

時折その長い栗色の髪をかき上げる仕草は、男子生徒からすれば色っぽさを感じるのだろう。

けれど私はそれよりも、彼女の白いセーラー服の袖が、鉛筆の粉で灰色に染まっている事の方が気になった。


 私たちは部長と副部長以上の関係なのだが、それを知る人はこの学校ではごくごく少数だ。

私たちが双子であることは、苗字が違えば顔も似てないのだから気付く人は居ないだろう。

双子なのに似てないのは二卵性双生児だからであり、苗字が違うのは両親が離婚しているためだ。


 だからといって、私たちの関係に変化があったわけでもなく、今もこうして仲良くやっている。

というか、両親ですら険悪というわけではない。『“無い物”を持っている彼に惹かれたけれど、一緒に生活すると“ないわ……”って思う事が見えてきた』というのは母の言葉だ。


 神経質とまではいかないが、きっちりとした性格の母には、マイペースで自由奔放な父との共同生活は、難しいものがあったのかもしれない。

そんな両親の影響からか、美沙は父に似たし、私もどちらかと言えば母に似たのだろう。

それもあって、美沙は父と、私は母の元で暮らしている。



「それにしてもさ~、雫が小説にハマるとは思わなかったよ。

 そんなに後輩の一次創作が気に入らなかった~?」



 サボりの私を気にも留めることなく、美沙は製作の手を止めずに聞いてくる。



「その逆、むしろ気に入ったのよ。

 もちろん読ませてもらった時にはツッコミどころや、色々思うところもあったと?

 でもさ、それでも初作品をストーリーから作ろうなんて、見上げた根性じゃない?」


「でも、そのストーリーって元ネタがあるんでしょ~? 二次創作と変わらなくない?」


「元ネタってほどじゃないわ。同じ所なんて超能力バトル物っていう所だけね。

 おもしろいから美沙も読んでみる?」



 そういって借りたままの小説を鞄から取り出すが、「そんな時間ないからやめとく」と、そっけない返事をされてしまった。

布教活動が空振りするのはよくある事だが、美沙に振られるのは残念だった。


 そんなやりとりをしながら、日差しさえもゆったりと感じる夏の朝を二人きりで過ごしていたが、10時になろうかという頃に部室の扉が叩かれた。



 「あいてますよ~どうぞ~」と気の抜けた美沙の声が響く。彼女はのんびりとした性格と喋り口調に反して、その声はよく通る。

おかげで春の新入生勧誘には一役かってくれたものだ。内容が「出席不問だよ~! 本さえ出せればなんでもおっけ~」なんてものじゃなければ、もっと良かったのだけど。



「おはようございます関屋先輩、築山先輩。

 そういえば、築山先輩はお久しぶりですね」


「おひさだね~。こう見えても受験生だからね~。雫と違って大変なのよ~」



 入ってきたのは一年生部員の朝倉あさくら 美花みかさんと、その付き添いの入福いりふく 大介だいすけ君だ。

入福君は皆に大福と呼ばれている。察しの悪い美沙は、なんで大福なのかと思っていたらしいけれど、「フルネームの真ん中」というヒントでやっと気付いたらしい。


 ただ、私の出したヒントに対する返答が、「えっ、雫が男の子の名前覚えてるなんて……。天変地異の前触れ!? 明日は槍か隕石が降ってくるんじゃないの!?」なんてものだ。

いつもバカみたいな顔してるくせに、本気で驚いたというか……、真顔で言われたので、若干へこんだものだ。

私だって頑張れば、人の名前と顔を一致させる事くらいできるよ……。得意ではないけど。


 ともかく、そんな彼自身は部員ではないが、朝倉さんが部員なので付き添いで部室に来るのだ。

私達も、基本的に来る者拒まずなので受け入れている。

それに、彼が居ないと朝倉さんは大人しすぎて意思疎通に困る時があるしね。


 そして彼の言うとおり、美沙は久々に部室に顔を出している。それは私たちが、高三の受験生だからだ。

高三の夏と言えば受験の夏なんて言われる。これも何かの広告だったかな。


 しかし、残念なことに実際そうだし、美沙はこの夏必死に勉強していて、今日は息抜き日として、前から勉強は休むと決めていたらしい。

けれど、文化祭に出展する自身の作品が出来ていないと、こうして部室へやってきて製作しているのだから、本当に息抜きになっているのかは疑問だ。


 もちろん部としては、受験生にまで作品の出展を強制はしていないのだけど、「高校最後の作品を作らないで引退できないよ~」という本人の希望もあったので止めなかった。

日程的に厳しくなれば、私も作業を手伝う気でいるので、未完成のまま出展という事態にはさせないつもりだ。



「関屋先輩は教育大に推薦が決まっているんでしたよね。

 考えればあと半年もすれば部の引退どころか、学校で会う事もなくなるんですね。寂しくなります」


「わかる~わかるよ~! このたわわな双丘との別れは寂しいよねぇ~」



 そう言って、私の胸を両手で持ち上げる美沙を睨むと、「ごめんて~」と悪びれる様子もなく笑ってごまかした。

その様子を見て反応に困っていた大福君は、背後に控えていた朝倉さんに、全力でわき腹をつねられて、その痛さにもだえていた。

美沙の悪ふざけはいつもの事なので気にしないが、そんな後輩達を見ると、幼馴染特有の距離感、もしくは空気感というものに、羨ましさを感じる。


もちろん私には友達がいないわけではないし、慕ってくれる後輩や同じクラスの友人、部長会議で仲良くなった他部活の人たちもいる。

けれどそれは幼馴染のそれとは違うし、悪ふざけしてくる相手なんてのも美沙くらいのものだ。


 それは私が「クール系」「サバサバ系」「姉御系」「女王様系」などと呼ばれているせいだ。

もちろん直接言われた事はないし、「女王様系」などと言われたならば、お望みどおり踏みつけた上に、鞭で百叩きしてやろうと思う。


 そんな私だから、同性の友達は多く居るが、異性の友達は少ない。

その中で普通に接してくれるこの後輩君は、私にとって特殊な人である。


 今になって思えば高校デビューを間違えたなと、多少の後悔はある。

伸ばしていた髪をばっさりとショートカットにして、メガネもコンタクトにした。

アニメに出てくる少しバカっぽい、明るい女の子を目指して、いわゆる“ヲタクオーラ”を隠そうとしたのだ。

けれど、その結果は望む方向ではなかったのだ。


 その失敗に気付いた私は、開き直って漫研に入ったが、結局オーラの中和にはならず、漫研の姉御という謎の地位に落ち着いたのだった。

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