爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

640連目 ここだけの話

公開日時: 2021年1月23日(土) 12:05
文字数:3,020

前回のあらすじ

「黒幕登場なのじゃ」


ガチャ神の今日のひとこと

「アホの子令嬢の参謀役も、マイペースなヤツなのじゃ」

 あまりに重い空気と無茶振りにトイレへと逃げ込んだ私。

けれど相手は、それを許してくれないみたい。



「はぁ……。一人にさせないよう、指示されてるの?」


「いえ、そのような事はありませんよ。……と言うように命ぜられています」


「……? それってどういう意味?」


「否定するように指示されていますが、指示内容を話すなとは言われてませんので」



 え? どういう事? 今の話に何の意味があるかわかんないよ……。

でもこういう時って、困ってるのを顔に出しちゃいけないんだよね……。

なんて考えてはいたけど、顔に出ちゃってたのかな……。



「妾の本心を語る上で、信用してもらう事を最優先しないといけません。

 なので手の内を明かした、ということです」


「それって、アリサさんを裏切るってこと?」


「捉えようによっては……」



 どこまで信じていいのか分からない。私の頭じゃ相手を誘導する事なんてできないし、後で「キツネに化かされた!」なんて悔しがる様子しか想像できないよ……。

でも、誰か助けてくれる人もいないのだから、私がやらないと!



「私には決定権なんてないけど、それでもいいの?」


「かまいません。ただ、妾の本音を聞いてもらいたいのです」


「本音? まぁ聞くだけなら……」



 ヨウコさんの本音、それはどこをどう聞いても今回の奇襲作戦に対する愚痴としか思えなかった。

本当はただ普通に友達になりたかったとか、色々なイベントを通して、まくま君が慕われている主だと肌で感じたとか。

契約してるみんながとっても楽しそうで、そんな契約関係がとても羨ましかった……、などなど。


 けれどそれは、私にとってはまくま君の一面でしかない。



「ヨウコさんは、まくま君の良いトコしか見てないだけだよ」


「それは、どういう事でしょうか」


「まくま君は優しいだけじゃない。クロやイナバ君の特訓の時なんて、すごく恐いんだから……。

 見てられないほどの、スパルタ特訓だよ」


「そんな姿を知っていながら、なぜ熊さんと行動を共にしているのです?」


「うーん、それは……。本当に危なくなったら、私が止めないといけないと思うし……。

 それに、意外とまくま君のやる事って危なっかしいんだよね。

 なんていうか、放っておけないお兄ちゃんみたいな感じ?」



 そんな私の言葉に、ヨウコさんは上品に口を押さえながらクスクスと笑っている。

やっぱりお嬢様と契約すると、そういうのを身につけないといけないのかな?

そうだとしたら大変だろうな。



「それで、ヨウコさんはどうなの? 色々と不満があるみたいだけど」


「……今回の件に関しては、妾の力不足で止めることができませんでした。

 今にして思えば、妾が暴走したアリサ様とアルビレオを止めねばならなかったのです。

 それに、もし作戦が成功していたならば、白鳥家と三田家に、大きな亀裂が入ってしまっていた事でしょう」


「え? なんで家同士の話になるの?」


「……熊さんの情報は、三田家よりもたらされたものなのです」



 三田家、そこはまくま君と関わりの深い人が多く居る。

中でも、セイヤさんの娘にあたるチヅルさんは、まくま君と契約していて内情をよく知る人だ。

そのチヅルさんは、アリサさんを実の娘と同じくらい大切にしていて、「良い契約主になるため、他の契約主の事を知りたい」とせがまれちゃうと、うっかり色々話してしまったみたい。



「どうして、アリサさんはそんな事を?」


「いえ、アリサ様が問題ではなく、アルビレオが問題なのです」


「どういう事?」


「彼には、人の感情が理解できないのです。

 だから、チヅル様の良心を悪用するような計画を立て、それがどのような結果をもたらすか……。

 それが理解できないのです」


「でも、計画を立てさせたのは、アリサさんじゃないの?」


「アリサ様はあまりそういう事が得意ではないので、計画の修正を提案できず、言われるがままに実行しているに過ぎません。

 暴走を止める役割は、妾がすべきでした……」



 痛々しい表情を見せるヨウコさんを見ていると、これが本音なのか、作戦なのか。そんな事は考えられなくなってしまう。

私は、たとえ騙されていたとしても、ヨウコさんを信じたいと思う。



「まくま君は、アリサさんを助ける気だよ」


「それは……、どのような方法でですか?」


「私たちが結んでいる同盟へアリサさんを加入させるの。

 そうすればアリサさんは、私とまくま君が契約している人たちをバトルに呼び出せるでしょ?

 それなら、強い契約者を誰かから奪わなくてもよくなるよね?」


「……。その同盟に、カオリさん達は何の得があるのです?」


「何も無いよ。

 だけど、他の契約主さん達が同じような目に遭うのを、黙って見ていられないんだってさ」


「つくづくお人好しな方です……」


「だから私は、まくま君と一緒に居るんだよ。

 そろそろ、向こうの話も纏まった頃じゃないかな?」


「えぇ、では安心して部屋へ戻れますね」



 そういって、避難所にしていたトイレを出た私たちだったけど、話は思いもよらぬ方向へ進んでいたの。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇




「カオリ、ヨウコ、おかえり」


「うん、ただいま。それで話はどうなったのかな?」


「あぁ、交渉は決裂したぞ。ってことで帰るか」


「なっ!? アリサ様なぜです!?」



 その言葉を聴いたヨウコは、呆然と立ちすくむカオリには目もくれず、アリサへ駆け寄る。

交渉とだけ聞いてこの様子なのだから、カオリは俺がやろうとしてた事教えたな?



「アリサ様、一体何があったのですか!?」


「同盟を持ちかけられましたわ。

 けれど断りましたの。ただそれだけですわ」


「なぜ断ったのですか!?

 同盟を結べば、強き者を使役できるのでしょう!?」


「黙りなさい! わたくしは、最も優れた契約主にならねばなりませんの!

 同盟などという、同位の仲良しこよしごっこで誤魔化されるほど、落ちぶれておりませんわっ!」



 うろたえるヨウコに対し声を荒げるアリサだが、きっとこれは本心と発した言葉が噛み合っていないのだろう。

なんら齟齬のない純粋な気持ちであれば、誰に何を言われようと心を乱される事はないだろうしな。



「ってことで、一週間後決闘バトルする事になったから」


「まくま君は、それでいいの?」


「うーん、アリサの言ってる事も一理あるしさ。

 アリサにとって、同列1位だと意味無いなら、仕方ないかなって」


「だからって、バトルする必要はないんじゃないの?」


「いや、ちゃんとアリサが優秀な契約主であるって事を、見せて貰わないといけないからな。

 だから俺は、レア度SR★5以下のメンバーで戦う事にした。

 アリサもSR★5なら出せるらしいし、同じ程度の戦力で正々堂々戦って、それでアリサが勝てば、俺はアリサをトップにした、厳格な階級のある同盟に入ることにするよ」


「それって……」


「負けたら、俺はアリサの使いっぱしりでもなんでもするって意味だな」


「なっ!? アリサ様、それは熊さんに対し、あまりに失礼ではありませんか!!」


「黙りなさい! これは契約主同士の話ですわ!」


「まくま君は、それでいいの?」


「俺はさ、優れた契約主とかそんなの関係なくて、この世界を楽しんでこいってある人に言われたんだよ。

 だから、誰かの上に立たないといけないわけでもないんだよな」


「……そう。それなら止めないよ」


「最後にひとつ。アリサ、最高の契約主ってのは本当にお前の望みなのか?

 誰かのためなら、やめておいた方がいいぞ。

 自身の望まないモノを手に入れたって、きっとむなしいだけだから」


「それはっ……!」


「ま、一週間あるしじっくり考えればいいさ。じゃぁな」


ヨウコ、激おこからの華麗な裏切り。


「指示されてないからセーフ理論は、無理があるのじゃ」


それでも、なんだかんだ今までやってきたんだから、ヨウコには社畜の素養がありそう。


「そんな素養はいらぬ……」


そして決裂した交渉に絶望。


「一番の被害者じゃのぅ」


末端社員の辛いところじゃ。

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