前回のあらすじ
『知らなかったのは、まくらだけだった』
外注さんの今日のひとこと
『鬼若って身体強化してるけど、部活は大丈夫なんかな?』
俺とカオリは、満開の桜並木の下、クロの待ついつもの公園へと歩みを進めていた。
俺の手に握られたのは大量の引換券。クロの喜ぶ顔が目に浮かぶ……。
が、なぜこんなに集まってしまったのだろうか。
「まさか、骨孫引換券がこんなに集まるとはな……」
「うん、100枚くらいありそうだね」
鬼若の生徒指導は、おそらくベルの暗躍によって部活見学になっていた。
そして、見学の途中でお昼をとるついでに、俺の意見を聞きにきたわけだ。
もちろんそれは建前で、実際は俺が「主力たる鬼若が居ないのは困る」と言う事を期待した、鬼若の悪あがきだ。
しかし残念な事に、俺の返答は「別にいいんじゃない?」だったので、引き続き鬼若は、午後も部活見学という名の“校内引き回しの刑”に処される事となってしまった。
鬼若の期待に沿うてやれなかったのは心苦しい気もするが、部活するしないに関わらず、飛び級で高等部に入ったのだから、交友関係を作るために色々な所に顔を出すのも悪くないだろう。
その時に各部活の面々から、賄賂のごとく大量の引換券を貰ったため、クロ一人では処理できないほどの量になってしまっているのである。
そういった事があり、主力たる契約者二人が午後からも予定が入ってしまったため、俺たちは一足先に帰路についたのだ。
いつもの公園、いつもの噴水の縁で、クロはぽかぽかとした陽気を受け横になっていた。
クロよ、噴水の縁腰掛けられるように広くなっているとはいえ、うっかり寝返りを打てば噴水にダイブしてしまうぞ?
「なんだか、気持ちよさそうに寝てるね」
「起こしちゃ悪いか。今日は特訓するつもりもないし、このまま寝かせてやろう」
「そうだね。それじゃクロの事見ててもらっていい? 私、引き換えてくるね」
そう言って、カオリは数枚の引換券を持ち、店へと向かった。
一気に引き換えると、クロの我慢が効かないかもしれないということで、何度かに分けて交換するようだ。
さらさらと心地よい風がクロの髪を揺らす。平和で穏やかな昼下がり。
この世界が、異変と終焉の危機にさらされているだなんて、誰が想像できるだろうか。
しかし、その件は管理者たる、平ながらも一応の神様にお願いしてるのだから、なんとかなるだろう……。
なるよね? 大丈夫だよね?? 不安しか残らないな。
そんな、どうしようも無い事を考えていれば、クロはのっそりと起き上がり、大きなあくびと伸びを見せた。
「おはよう、クロ」
「おはようございますぅ……」
まだ眠たげで目をこするクロは、寝ぼけているようだ。
けれど、このプレゼントを見れば、きっと目も冴えるだろう。
「そんなクロにプレゼントだ!」
「んー? なんですかこれー?」
「なんと! 全部骨孫の引換券だぞ! おやつ食べ放題だ!!」
「えっ……?」
あれ? 反応が薄い。
もっとこう「わーい! ありがとうございますっ!!」みたいな、いつもの反応を期待していたんだが……。もしかして、夢だと思ってるのか?
しかし、引換券を渡されたクロの様子を見ていれば、その尻尾はうなだれ、なんだか悲しげな表情をしている。
「どうした? 嬉しくないのか?」
「嬉しいんですけど……、でもそうじゃなくって……」
「らしくないな。何か心配事か? 俺でよければ話を聞くぞ?」
「えっと……、その……」
またか……。クロは意外と秘密が多いようだ。それとも俺が信用されていないのか?
話そうか話すまいか悩むその様子が、俺の頼りなさを表しているようだ。
いや、クマ型まくらが頼りになるという方が問題かもしれないけどさ……。
悩んではいたが「まくまさんなら……」と話し出す。そんなに話しにくい事か?
はっ! まさかおやつの食べすぎで体重が……、なんて話なら、さすがに俺も相談されても困るけどね?
「まくまさんは、神様を信じてますよね?」
「信用してるかどうかならノーだが、存在は確信してる」
「……? 信じてるって事でいいんですよね」
「まぁな」
「クロも、前に神様の声を聞いたことがあるのですよ……」
そういや年初めの大掃除の時に、クロにちょっかいかけてた雰囲気だったしな。
けど普通に声を掛けるとは、ガチャ神様も俺を特別扱いしてる訳じゃないのか。
実験動物扱いしたり転生させたりで、俺だけが感知できるものかと思ってたんだけどな。
「へー、どんな感じだった?」
「なんだか、おじいちゃんみたいな喋り方でした。
それでですね……」
クロによれば、ガチャ神はクロの願いを聞き入れる代わりに「信心を試す」とかなんとか言って、クロの今持つ全てを捨てられるかを問うてきたそうだ。
それは持っている物全てではなく、主人であるカオリや、友人、知人などの人間関係までもを捨てられるか、という事だったらしい。
もちろんクロは、そんな質問答えるまでもなく、それならば何も願わないと言ったそうだ。
だが、今回のように妙な幸運が訪れてしまうと、心配になるらしいのだ。
「それで、その……。最初に願ったのが……、骨孫一年分だったのです……」
「あぁ、それでこの引換券がその願いのせいじゃないか、って心配になったのか」
「ごしゅじんも、まくまさんも居なくなったりしないですよね……?」
「大丈夫だ、心配するな。
カオリは今、引き換えに行ってくれてるだけだから、すぐ戻ってくるさ」
しかしガチャ神様め……、なんでこんな事になったんだ?
俺が引換券を当てるのは予告されていた通りなんだけど、他の人も当たって、それが全部クロへの元へとやって来るなんて、普通あるだろうか?
全員が当たるクジなら、それはもはや当たりと言えないよなぁ……。
まさか、俺の運0のせいで、骨孫引換券がハズレの参加賞枠になったとか!?
うーん、ない話では無いかもしれないが、それだと俺の運0は、ガチャ神ですら制御できないって事になるが……。
そういった実証しようのない仮説を立てていれば、カオリが帰ってきた。
ぽよぽよと見覚えのある奴らを連れて。
「ただいま。クロ、おやつを貰ってきたから今日の分あげるね」
「……ありがとうございます」
カオリはクロの様子を見て不審がっているが、後で説明してやろう。もちろん神様の話抜きで。
それよりも気になるのが引き連れてきた奴らだ。
「カオリ、なんで局長達がいるんだ?」
「お店で会ったんだよ」
「今日は、新入り達に街を案内しているんだぜ。
それで、休憩に飲み物を買いに行って鉢合わせだぜ」
「へぇ。あ、やっぱ四月だし、新入社員的な職員?」
「そんなところだぜ」
「それでね、職員さん達にも引換券を貰って……」
「!? いやいや、マジ増えすぎだろ!?」
「毎日1枚使っても、一年は買わなくて済みそうだね」
そんな話を聞いて、クロは顔を青くする。
そりゃ「一年分」っていう具体的な数字が出たらね……。
「なんでこんなことに……」
「どうやら、骨孫を仕入れすぎたみたいなんだぜ」
「もしかして、在庫処分のため?」
「らしいんだぜ。だから、遠慮なく受け取ってもらっていいんだぜ」
理屈としては分かるのだが、だからってこんな風に大量にばら撒くだろうか?
それに骨孫は消費期限も長いし、ばら撒く必要もあまり感じないのだが……。
この中で違和感を覚えたのは俺だけだったのだろうか。
他のやつらも、クロでさえも納得した様子だった。
そんな時、全ての元凶から俺の端末にメッセージが届く。
from:みんなのアイドル★ガチャ神ちゃん
『設定間違えて、クロの知り合いみんなが骨孫当たるようにしちゃった☆(ゝω・)v』
……。やっぱ、あの神様ポンコツなんじゃないだろうか。
というか、メッセージのやり取りできたのかよ!!
『ガチャ神ちゃん大失態』
よくあるよくある
『よくあるんかよ!?』
ほら、ケーキ食べたいなって思って買って帰ったら、家族も買ってきてたりするだろ?
『稀にあるかも』
昼食に好物食べたら、夜も好物だった事もあるだろ?
『好物はともかく、カレー被りとかあるよね』
ピックアップ130連+α回したら、強キャラだけど推しじゃないキャラ被ったりするだろ?
『それピンポイントに俺の事やないか!!』
そういうの、だいたい神の設定ミスだから。
『ファーーーーーーー!!』
そんなにあの130連トラウマなのかよ。
『軽度の爆死は日常やけどねぇ……』
爆死に軽いや重いがあるのか。
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