爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

280連目 サンタの葛藤

公開日時: 2021年1月2日(土) 18:05
文字数:3,010

前回のあらすじ

「オレンジジュースがアイスキャンディーになったのじゃ」


ガチャ神の今日のひとこと

「中の人が“もうバトル描写らしき何かは勘弁してくれ”と泣いておったのじゃ」



「不利になると分かっていてバトルに持ち込むとは、やっぱ変わってねえな!」


「それは、結果を見てから言って欲しいもんだ」


「そうですよっ! 二対一なんですからねっ!」



 爺さんはニヤリと笑い、結果など見るまでもないといったような口ぶりだ。

そういえば、ベルとやりあった時もこんな感じだったな。それほどまでに、属性相性というのは影響が大きいと、誰もが理解しているのだ。



「先に言っておいてやるが、俺はSSR★7だ。不利属性とSR★5が徒党を組んだところで、勝てるとでも?」


「クロ、お前は下がってろ。残念だが出番はない、俺が一撃で仕留めるっ!」



 バトル開始と共に俺のスキルが発動する。それは“初撃に必殺技AS発動”であり、この一撃にしか効果はない。しかし、相手が一人であるならばそれで十分だ。

俺の端末数珠のアイテムボックスから出てきた薙刀は、光を集め輝きだす。



「いくぞ爺さん!!」



 その声に反応はない。ルールに縛られ、逃げる事も、避ける事も許されず、自身の仮想障壁HPがその一撃に耐えられるか、それを見届ける事しかできない。

ただ、その表情は応えるまでもないという、自信を覗かせていた。

輝く薙刀が仮想障壁HPを両断する、その時までは……。


 爺さんの眼前を、一文字に振りぬかれただけに見えた軌跡。それは障壁を貫き、白文字で18300と表示される。

直後、パリンッ! と、ガラスの割れるような音と共に、障壁は砕かれた。それは、俺の勝利が確定する音だった。


 あれほどまでに派手だった雪合戦とは違い、バトルは何を破壊するでもない。ただ淡々と、見えない運営という審判によって結果がもたらされる。



「なっ……、なぜ……」



 ガクリと膝から崩れ落ちる爺さんは疲労困憊といった様子だ。それは身体的なダメージではない。

バトルの敗者へのペナルティ、魔力を奪われ、身体の自由さえ奪われた結果だ。



「だから前とは違うって言っただろ?」



 見ていたクロも、何が起きたのか分からず言葉を失っている。



「それで、カオリ様。勝ったので、一つくらい言う事きかせられますよ」


「えっ!? じゃぁじゃぁ! クリスマス中止を中止ですっ!!」



 呆然と様子を見ていたクロは、当初の目的を思い出したように、主人を差し置いて提言する。

それとは対照的に、カオリ様と言えば端末スマホを取り出し、何やら難しい顔をしていた。

バトルの経験があまり無いという話は主様から聞いていたが、もしや勝ったときの作法などを確認しているのだろうか?



「鬼若君、サンタのおじいさん。今のバトルは、無効でお願いします」


「えっ!? なんでですかっ!? これでクリスマスできるんですよっ!?」


「クロ、落ち着いて聞いてね。私達は元々戦いに来たわけじゃないでしょ?

 それに勝ったからって、言う事を聞かせるのって、私は間違ってると思うの。

 やりたくない事をやらされるのは、クロだって嫌でしょ?」



 やさしくクロの頭を撫で、言い聞かせるその姿に、俺は昔の主様の姿を重ねていた。

契約して間も無い、まだ主という存在を受け入れられなかった頃。俺の無謀な戦い方を見た主様の言葉を……。



『それが鬼若の譲れないものなら、俺はそれを止めない。

 なりたい者になるために、そうする事が正しいと思うなら、その志は曲げずにいて欲しい』



 カオリ様は主様と同じだ。たとえ契約者であっても、敵対するものであっても、相手の想いを大切にできる人なのだ。

それをクロが理解するには、まだ少しばかり時間が必要だろう。反論こそしなかったが、その尻尾の様子は不服である事を物語っていた。



「だから、この勝負の結果はなかった事にします。いいですね?」


「これはまた、甘ちゃんな契約主様だな……」


「カオリ様に対する無礼は、我が主様に対する無礼と同義。まだやり足りねえのか爺さん!」


「ちょっと鬼若君も! もう、そんな物騒な武器しまって!」


「あぁ、悪い。別に侮辱とか、そういうつもりじゃなかったんだ。

 だがよ、こんないい子が“大人リスト”に入ってるって理由だけで、プレゼントも配れないとは、サンタなんてロクな仕事じゃねぇなって……」



 そう言って自嘲するように笑う爺さんは、いままでのただのジジバカとは何かが違った。



「爺さん、サンタの仕事って、そんなに嫌なもんなのか?」


「何だよいきなり……。まぁいいさ、今さら誤魔化したって仕方ねぇよな。

 俺はこの仕事気に入ってるぜ。なんたって、年に一度のビッグイベントの主役なんだからな」


「中止の理由、本当にアーニャの事だけなのか?」



 少しの。爺さんは未だに迷っているようだった。

しかし、決心が付いたのか、白いため息を吐き、ゆっくりと語る。



「アーニャに俺より大事な奴ができたとか、クリスマスに俺からのプレゼントより、そいつを選んだとか……。そんな事はどうだっていいんだよ。あの子が幸せならそれでいい。

 ……けどな、サンタってのは“いい子”にしかプレゼントを配れねえんだ。

 バカみたいじゃねぇか、俺の一番大切にしてる大事な大事な孫にさ、プレゼントを届けてやれないんだぜ?

 俺にとっては今でも、これからもずっと、アーニャは俺にとっての“いい子”なのによぉ……」


「それで……、サンタが嫌になったのか」


「バカだって笑えよ。結局俺は、俺のことしか考えてねえんだ。サンタ失格だ」



 胸のうちを全て吐き終えた爺さんは、力なくうな垂れる。

爺さんにとっての大切なもの、それが“サンタの役割”より、“アーニャの祖父である事”がまさってしまった。


 それが非難される事なのか、俺にはわからない。

いまだに、一つの「なりたい者」を見つけられていない俺には、二つの「なりたい者」を見つけてしまった爺さんの苦しみなど、想像することさえできない。



「だからって、サンタを辞めること無いと思います」



 かける言葉を見つけられない俺に代わり、カオリ様は言葉を紡ぐ。

それはただの慰めでも、哀れみでも、いつもの相槌のような何かでもなかった。



「サンタとしてプレゼントを届けられないなら、アーニャちゃんのお爺さんとして届ければいいじゃないですか。

 だって、アーニャちゃんはずっと、お爺さんにとっての“いい子”なんでしょ?」


「それじゃぁ、アーニャの望む物はやれないんだよ……。

 サンタにはな、特別な能力チカラがある。“いい子”の望む物を知る事ができるという能力チカラ

 でもよ、“悪い子”にされちまったアーニャの欲しい物は、分からねえんだよ。

 望む物を知る術がない俺が、サンタの代わりにプレゼントをやるなんてさ、できねえのさ……」


「……本当にそれは、サンタの能力チカラが無いとできないことなの?

 大好きなアーニャちゃんが欲しい物、それはサンタでないとわからないものなの?

 それに……。アーニャちゃんは、大好きなお爺さんから貰った物を、喜べないような子なの?」



 はっとした顔で、爺さんはその言葉の主を見つめる。

それは、サンタという役割に捕らわれていた爺さんには、思いもよらない言葉だった。

プレゼントは、相手が一番欲しい物でないといけない、それが爺さんにとっての“常識”だった。



「そうだよな……完璧なプレゼントじゃないと喜んでくれないような、アーニャはそんな“悪い子”なんかじゃないよな……。

 ありがとよカオリ。……そうと決まれば、クリスマスの準備をしないとな!!」



 がばっと立ち上がるが、魔力不足でふらつく爺さんを俺とクロが支える。

しかしそれすらも意に返さない様子で爺さんは宣言する。



「今年のクリスマスは、今までで一番のクリスマスにしてやるぜ!!」


「という訳で、今回はお便りが来ておるのじゃ」


その前に、前書きがひどい。


「無視して読むのじゃ」


『唐突な鬼若の怒りの動機が気になりました』(匿名読者様 5さい)


その5さい縛りまだやんの?


「おぬしが始めたんじゃろが! というか質問に答えるんじゃ」


えーっとですね、長いけどいいの? 気になる人だけ読んでね!

→アルダの惚気話を途中で切り上げてクロと話し込むような鬼若が

爺さんのジジバカ話を全て聞かされてイラつき度が限界突破してる所に

一応鬼若なりに気を使った言葉をかけたら若干キレ気味に

「お前も俺の事バカにしてんだろ」発言されれば鬼若の沸点の低さ考えれば

キレちゃってもしかたないよねウンウンシカタナイネって感じではあるんですが

まぁその辺の鬼若の性格とか色々は今後出てくる話でこの場ではあんまり書かれてないし

爺さんとの去年なんやかんやあったのも書かれてないから仕方ないねシカタナイヨ

っていう言い訳と共に中の人が『1話3000文字以下』制限までかけてるせいで

毎話暴走超特急な展開なんだから急にキレたように見えるのも残念ながら当然という事ができます。


ってわけで解説しないと理解できないのは中の人の技術不足です。


「おぬしの投げるプロットが適当すぎて、いつも投稿ギリギリまで書かされてるせいだと中の人は嘆いておったんじゃが……」


それは責任転嫁という事ができます。


「ワシはどっちのせいでも別に構わんがの」

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