爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

240連目 クリスマス中止のお知らせ

公開日時: 2020年12月31日(木) 18:05
文字数:3,044

前回のあらすじ

『お願い、死ぬでないバウム! 

 おぬしが今ここで倒れたら、アルダやチヅルとの約束はどうなってしまうのじゃ!? 

 課金石はまだ残っておる。ここを耐えれば、サンタに勝てるんじゃから! 』

 暖炉の薪がパチパチと爆ぜる音と、香ばしいコーヒーの湯気が温かさを演出する。

と言ってもさ! 俺はまくらなんで、温度も香りも分からんのだけどな!

いい雰囲気である事は確かだし、文句はないんだけどね。


 俺を抱えさせたバウムをソファー席に寝かせ、カオリ達は思い思いの飲み物を注文していた。

バウムは長い角が腰の辺りまであるため、仰向けで寝る事ができない。そのせいで俺はバウムの下敷きになってしまっている。

まくらなので苦しくはないし、視点移動でどういう状況か分かるからいいけどね。

それ以上に、バウムは普段はどうやって寝ているのか気になる所だ。


 そんな中、アルダは常連ぶりたいのか、店主に声をかけていた。

バウムがこんな状況なのにのん気なものだ、とも一瞬思ったが、おそらくは気を紛らわせるために話をしているのだろう。



「マスター、えらく静かだけど、どうしたんだい?」


「あぁ、今年は工場が止まっているらしくてね、ここも寂しいもんだよ」



 恰幅の良いマスターはしょんぼりと話す。白髪に白髭と、まさにサンタの風貌だ。

もしくは、フライドチキンの店の前に立っていても違和感がない。


 しかし彼はサンタでもなければ、もちろんフライドチキン店の創業者でもない。

そんな彼も、閑古鳥のなく店内ではやる事もないのか、飲み物の提供が終ればグラスを磨いている。



「工場が止まっている? 工場ってサンタ工場だよね? この時期に?」


「あぁ、君は知らないのかね……。今年はクリスマスが中止になったそうなんだよ」


「えぇっ!? クロの! クロのプレゼントはどうなるんですかっ!?」


「さぁ、どうなるんだろうねぇ……。おかげでこの村も、この有様さ……」



 この時期はいつも大盛況なのに、と愚痴をこぼす店主。

ホットミルクの口ひげを付けながら、涙目のクロ。それを拭いてあげるカオリ。

クリスマス中止でも何の痛手もない俺だが、この空気はなんとかしたいところだ。

いや、クロに関しては面白い絵ずらでしかないけどね。


 しかし、俺達以外は店主しかいない状況とはいえ、約束どおり普通のまくらでいよう。

心配せずとも、クロの面倒をみながらカオリがうまくやってくれるはずだ。



「あの、クリスマス中止の理由って何なんですか?」


「さあ? 私はこの村で店をやっているが、工場の関係者ではないのでね。詳しい話までは聞いてないのだよ。

 けれど、いつもこの時期にやってくる、エルフの期間工たちがクリスマス中止の話をしていたものでね」



 エルフの期間工……。またすごいパワーワードが出てきたもんだ。

ちなみにサンタの手伝いは、エルフ説と小人説があるそうだ。しかしこの世界ゲームでは、モブキャラのエルフを使いまわすため、エルフ説でやっているようだ。

去年のイベントでも出てたが、まさか期間工だったとはな……。

なんて考えている俺だが、のしかかっていたバウムがもぞもぞと動き出した。



「うぅ……、ここは……?」



 状況が把握できていないバウムは、ゆっくりと周りを見回す。

うまく角がテーブルやソファーに当たらないように動くのは、さすがだと感心した。



「お目覚めになられましたか。我らは、アルダ様の依頼で貴方を探しにきた者です。

 路上で倒れている所を見つけまして、こちらへお連れしました」


「バウム、体はもう大丈夫か?」



 ベルが状況を説明している間も、アルダは軽くだがバウムの状態をチェックしたようだ。

安心した顔をしているのだから、特に問題はなかったのだろう。


 とりあえずバウムに話を聞く事になったが、まずは自己紹介をする流れになっていた。

まぁ、俺はまくら役に徹しているので、聞いていただけだったけどね。


 そんな中、バウムにも飲み物をマスターが淹れてくれていた。

いまだバウムに抱かれた俺の前に、温かいマシュマロ入りココアが運ばれてくる。



(バウムよ、このまま飲んでもいいが、絶対にこぼすなよ……)



 なんてことを、俺は念じていた。いや、こぼされてもやけどどころか、熱さも感じないんだけどさ。

さすがにココアや、とろけているマシュマロを浴びたくはないからな。



「え? あ、そうだ。汚したらいけないので、このまくらはお返ししますね」



 バウムはひょいと俺を持ち上げ、ベルへと返す。

もしかして今の念、通じた? いや、まさかね。



「それで、色々と聞きたい事があるんだけど、いいかな?」


「はい。僕に答えられることなら」


「はいはいっ! どうしてクリスマスが中止なんですかっ!? クロのプレゼントはっ!?」



 カオリが聞こうとする前に、クロが食い入り気味で質問を投げかけてきた。

クロ、必死すぎるぞ。いやそれも可愛いが、鬼若さえも苦笑いしてるぞ。



「プレゼントは自動発注なので、工場にすでに入荷されているはずです。

 けれどクリスマスが中止なら、それが配られる事はないでしょうね」



 ガラガラと、夢が崩れる音が聞こえてきそうだ。あ、クロは座り込んでしまったな。

それにしても“自動発注”に“入荷”とは……。エルフの期間工といい、なんとも夢の無い……。

ファンシーでファンタジーなクリスマスは、どこに行ってしまったんだろうか。



「それで、クリスマス中止の理由については、親父さん……。

 あっ、サンタの親父さんなんですが、僕にも話してくれないんです。

 聞いても、お前には関係ないっていって、怒り出すんですよ……」



 今までは何でも話してくれたのに、と見るからにショボくれるバウム。

そういえば、バウムをホッキョクグマ密猟の共犯にしようとしたくらいだし、サンタの爺さんはバウムを信用しているんだろう。それが理由も教えてくれないんでは、バウムがショゲるのも仕方ないか。

それ以上にショゲてるクロが、プレゼントに何をお願いしたのか。俺はそっちも気になる。



「それじゃぁ、外で倒れてたのはどうしてなの?

 警報も出てないし、野良来訪者と戦っていたってこともないと思うんだけど」


「それは……、理由を聞くために僕からバトルを挑んだんです。

 勝てたら教えてもらう約束で、何度も何度も……」


「勝てぬと分かっていて何度も挑むとは、無茶な事を……」



 ベルは呆れ顔だ。合理的判断を好しとするベルには、理解不能なのだろう。

この世界ゲームのバトルでは、“たまたま”や“運よく”勝てることは、まずありえない。

全てはキャラクターの強さと、多少の戦略で勝負が決まる。


 それなのに、負けても再戦を挑むのはバカのやる事だと、ベルは考えているのだろう。

俺の中身課金石があれば、負けても途中から復活できるから、ゴリ押しもきくけどね。



「サンタさんはどこにいるんです……?」



 ドス黒いオーラを出すクロの姿に、一瞬飛び上がりかける。これは本気だ……。



「クロが一発気合いを入れ直してやるのですー!!」


「ちょっとクロ!?」


「話を聞きに行きましょう。俺も、あの爺さんが何を考えてるか気になりますからね」


「鬼若君も!? でも、どこにいるか……」



 鬼若も言葉こそ丁寧にと気を付けているようだが、顔はまさに鬼の形相だ。

去年のイベントも共に回ったので、爺さんの事も知っているからこその反応だな。

その様子を知っているなら、こんな体たらくな爺さんの話を聞いて、何も思わないはずがない。

そう確信できるほど、去年のイベントでのサンタ爺さんは、輝いていたのだ。



「サンタのオヤジさんなら、兄の店に居ますよ。

 昼から飲んだくれてると、メッセージが来たんですよ」



 兄は小洒落たバーをやってましてね、とマスターは教えてくれる。

思わぬところからの情報提供だったが、俺たちは向かう事になった。

クロと鬼若だけで行かせると、大惨事になりそうだったからな……。

よし、ガチャ神ちゃんお仕置き決定。


「なんでじゃ!?」


前書きが完全にアウト&今回のネタバレ入ってる。


「ちょっと茶目っ気出しただけじゃろうて……」


お仕置き部屋を創造、反省するまで出られま10億年。


「天地創造力を無駄な事に使わないでほしいのじゃ」


ん~、じゃぁお仕置きは別の方法考えときます。覚悟しておけ。


「やさしくしてほしいのぅ……」


今後の行動次第ですよ? れっつごー、お仕置き部屋!


「やー……」




てことで、ノベリズム版がここで年越しというね……。

大みそかににクリスマスの話を更新してる投稿小説があるらしいですよ。


『そんなわけで、2021年も、よろしくお願いしま~す!(by 島 一守)』


挨拶だけに出現しやがったコイツ……。

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