爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

200連目 くんくんわんわん

公開日時: 2020年12月29日(火) 18:05
文字数:2,927

前回のあらすじ

「鬼若が中学二年生だという、衝撃の事実が発覚したのじゃ!」


ガチャ神の異世界情報②

「学園は広大じゃが、亜空間トンネルを使えば簡単に移動できるのじゃ」

「魔力消費が膨大じゃから、めったな事では使えんがのぅ……」

 いつもの待ちあわせ場所である中央公園には、すでにカオリたちの姿があった。

彼女達はいつもと変わらない姿……。って、なんでカオリは制服なんだろうか。

防寒はばっちりで、髪色と同系統の、軽い茶色のコートとマフラーはしているが、それも学校指定のものだ。

もしかして、俺が気にしただけで、この世界では、服はいつも同じものを着るものなのか?



「悪い、待たせたか?」


「ううん、今来た所だよ」



 あっ、なんかこの会話だけだと、デートの待ち合わせっぽいな。

6人も居るしそんな雰囲気ではないけど。



「やっと一番乗りできたのですっ! がんばって早起きしたかいがありましたっ!」


「ちょっとクロってば……。ごめんね、どうしても先に着きたかったらしいの」



 あぁ、いつも俺達の方が早く待ち合わせ場所に来ているから、今日は早く来たのか。確かにまだ待ち合わせの10分前だ。


 俺達は、こんな状態まくらじゃなにがあるか分からないし、いつでも10分前を目安に動いている。

なので、5分前行動しているカオリ達は後からになる。それでも十分優秀なんだけどね。

けどクロは負けず嫌いな所があるし、今日こそはと頑張って早起きしたんだな。えらいえらい。



「それで、早速なのですがまくら様。バウムの居場所は分かりましたか」



 アルダはやはり気が気ではないのか、食い入り気味に聞いてくる。

トナカイのバウムはまだ若いとは言え、そんなに心配されるような歳ではない。

だからこそ一人で行動させたのだと思うしな。この場合は一人? 一頭? まぁ、そこはいいか。

けれど、それでも心配なのが親心と言うものなのだろう。親ではないんだけど。


 返事があったのだから、何かに事件に巻き込まれているわけではない事と、取って付けたような言い分で誤魔化そうとしている事を話す。

アルダは、一瞬安心した雰囲気を出したかと思えば、急に怒り出した。



「契約主様に対し嘘をつくとは何事か! 今すぐとっちめてやりましょう!」


「いやいや、落ち着けって。状況も分からないし、強制召喚はちょっとな……」



 アルダにとってバウムは、牧場で世話をしている動物の一頭。つまり家畜という感覚だ。

俺にとっては、トナカイ姿より獣人姿のイメージの方が強いから、家畜の感覚は無いけどな。

そんな訳で、「ウチの子がグレるだなんて!」という怒りもあるのだろう。



「とりあえず何か事情があるかもしれないから、強制召喚は最後の手段だ。

 まずはバウムを探してみよう」


「しかし主様、探す言っても手がかりも何もありませんよ?」


「うぅん……、それが問題だな」



 鬼若の至極真っ当な意見に、俺は言葉を詰まらせた。

去年のイベントでは聞き込みで探し出す事になったが、それは正直面倒だ。

何が面倒かと言えば、聞き込みした相手と大抵バトルになるからだ。

いや、ゲームだし仕方ないんだけどさ、今回はサクサクと話を進めてしまいたいのだ。



「はい! はいはい!! クロにお任せください!!」



 悩む俺に、ビシっと手を上げてアピールするクロ。この寒さも吹き飛ばす元気の良さだ。



「はい、クロ君。何かいいアイディアがあるのかな?」


「ふふん! クロはゆーしゅーなわんこなのです!

 ニオイを辿れば、探しモノはすぐ見つかるのですっ!」



 意外なまでに現実的な意見が出た。確かにそれなら聞き込みより早そうだ。

けれど問題がないわけではない。



「クロができるというなら任せたいが、何のニオイを辿るんだ?」


「ふふふん! そう言うと思って、すでにアルダさんのニオイは覚えたのですっ!

 いつもお世話してるアルダさんのニオイを辿れば、きっと見つかるのですっ!!」



 バウムの私物もない状況で難しいと思ったが、その対策まで考えていたのには驚いた。

このわんこ、賢い! ……が! え? なに? アルダのニオイを覚えた?

一瞬脳裏をよぎる、アルダの体をくまなく嗅ぎ回すクロの姿。

なんだそのいかがわしい様子は! お父さん許しませんよ!!


 ……って、想像に喝を入れてる場合じゃないな。

せっかくのクロの意見だ。やれるだけやってみよう。



「それじゃぁ、居なくなった場所からニオイを辿ってもらおうか。いいよなカオリ」


「そうだね。クロ、できるところまででいいからね。がんばろうね」



 クロに語りかけながら、優しく頭を撫でるカオリ。

俺が口出しする事ではないが、少し過保護すぎる気がする。

ともかくカオリの了承も得たし、俺達はバウムが最後に居た場所へ向かう事にした。



 その場所とは、“サンタ工場”である。

カオリとクロ、そして道案内のアルダを前に、残りの俺達3人は後ろに別れて歩き出した。

かなりの距離がある秘境なんだそうだが、空間同士を繋ぐトンネルを通るとすぐとのことだ。


 毎年この季節、バウムはサンタのソリを引くトナカイとして働いているわけだが、本番はもちろんクリスマスイブの12月24日の夜だ。

それまでは、サンタ工場でプレゼントの仕分けや、体力づくりをしているらしい。

サンタの爺さんの巨体と、大量のプレゼントを引くのだ、並大抵の体力じゃない。

それもあって、バトルでのステータスは極度の攻撃偏重型だ。鬼若と似ているな。


 しかし、この一連の流れもクリスマスイベントだろう。つまりバトルが入ってくるはずだ。

バウムは契約済みという事もあって、味方になるのは確定だろう。問題は相手がどうなるかだ。

しかも、今回は去年のイベントと違い、ゲームオーバーがどうなるかわからない。

俺自身が、ゲームの世界に入り込んでしまっているのだからな。


 その上、契約主のカオリという、不確定要素も存在する。

彼女がどういう扱いになっているのか俺には分からない。なにせオリキャラだしな。

ただ、契約主であるならば、バトルに巻き込まれる可能性は十分あるだろう。

もしかすると、俺が転生したあとに、オンライン協力クエストが実装されたとか?

もしそうなら、カオリが協力してくれている別プレイヤーキャラだと考えれば辻褄があう、が……。



「鬼若、ベルとチェンジだ」


「えっ? 何か、お気に召さない事がありましたでしょうか……」



 俺を抱きかかえ上機嫌な鬼若は、急なチェンジに、何か不快にさせたのかと不安げだ。



「いや、お前は今後カオリのサポートに回ってくれ。戦闘になった場合、クロだけでは不安がある。

 お前なら、戦力として安心して任せられるからな。今後はカオリの指示で動いてくれ。」


「わか……、かしこまりました。主様のご期待にお応えしてみせます」



 ちょっと持ち上げると、ホントにチョロい。テンション上がって、地が出そうになってるし。

しかしこれで、少なくとも戦闘イベントになった場合、カオリの心配をしなくていい。

なにせ俺の手持ちの、最強を送り込んだのだ。俺は、俺の事を心配するだけで済む。


 そして俺は、ベルの手元へと渡された。うん、やっぱこっちの方が心地よい。

いや、何がとか今さら言わないよ? ふかふかな方がそりゃいいよねって話なだけ。


 けれど、上機嫌でベルの膨らみに埋もれているわけにもいかない。

今後の展開が読めないのだから、あらゆる状況を考えて先手を打っておく必要がある。


 なに、このゲームのやり込み度でいえば、かなりの廃人レベルの俺だ。

開発陣の考えそうなイベントの展開くらいは読める。何とかなるだろう。

問題は、ガチャ神の介入による不確定要素バグだけだ。

前書きの異世界情報で本文をフォローするあたり、ガチャ神ちゃんの優秀さが見え隠れ?


「ワシは前から優秀じゃ」


そりゃ権限外の”ステータス下限突破”をするくらいだからねぇ?


「簡単にぷろてくとを破られるのも、どうかと思うのじゃ」


そんなガチャ神ちゃんには、そろそろ昇進のチャンスくらいあげるべきですかね?


「おっ!? なんじゃ? ワシもついに日の目を浴びる事ができるのかのぅ?」


昇進試験の内容は考えときますんで、頑張って~。


「昇格が楽しみじゃ!」

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