前回のあらすじ
『カオリの尋問により、黒幕が判明……?』
外注さんの今日のひとこと
『ガチャ神の、上司と俺への対応の差について、問い詰めたい問い詰めたい小一時間問い詰めたい』
長机とパイプ椅子が一脚。
そこに座って待つよう指示されたが、当の本人はまだやって来ない。
目の前には、ホワイトボードと無人の教壇。
一人でいる事には慣れていたが、最近こうして一人きりになる事がめっきりなくなったせいか、他に誰も居ない状況に、違和感を覚えるようになっていた。
もちろん例の“研修”のトラウマもあるけれど。
そうしていれば、教壇横の引き戸が開けられ、ワシを呼びつけた張本人が姿を現した。
大きなダンボールが八つ積まれた台車を押しながら。
「お待たせ。コレ持ってくるのに手間取っちゃったよ」
「おぬしであれば、どうとでもできたじゃろう!?」
「まあねー」
白々しい発言に、気の抜けた返事。
上司であるが、威厳を感じないその少年は、特徴的な朱色の前髪をかき上げ、わざとらしく「ふぅ」と一息ついた。
「それじゃ、始めようか」
「嫌な予感しかしないんじゃが……」
「まぁそう言わずにさ。
ひとまず、先日の研修お疲れ様でした」
「研修という名の拷問じゃろうて……」
研修、それは何も無い空間で永遠とも思える時間を過ごすだけ、というものだった。
一人きりで、ただ時間が過ぎるのを待つ。それは自分自身すらも無に溶けてしまうような、全ての存在を否定するような……。
言葉になどしようもない、思い出すだけでおぞましい研修だった。
「ま、無事に乗り越えてくれて何より」
「もう二度とゴメンじゃ……」
「そういうワケで、ガチャ神ちゃんには俺の代理の役目を終えてもらって、正式に俺の代わりをしてもらおうと思います」
「それって、今までと何も変わっておらんのではないか?」
「いや、全知全能のチカラを渡そうかと」
「なんじゃと!?」
予想もしなかったその言葉に、つい立ち上がり前のめりになってしまった。
しかし落ち着け、こやつの事じゃ、何か裏があるにちがいない。
「ほら、前に言ってたじゃん。全知全能になりたいって」
「確かに言っておったが……。本当によいのか?」
「ま、正直心配ではあるけどさ。でもこの反省文50万枚読んだら悪くないかなと」
バンバンと台車の上のダンボールを叩く。あれはワシの書いた反省文だったのか。
しかし、もっと大量にあったはずだが……。
それに、自分で書いておいて言うのもなんだが、内容はあれでよかったのか……。
「あの……、じゃな……。その反省文でよかったのかのう?」
「内容がすっごい薄かったからね。
要点まとめたら、これだけに減ったんだよね。内容も反省文にはなってないし」
「……怒っておるのか?」
「いや、全然。全知だからね、反省文書くように言った時点で、書かれる内容知ってたし」
「じゃあ、なんで書かせたんじゃ! 嫌がらせかのう!?」
「書かせないと存在しないんだから、内容知る事もできないんだよなー」
「むう……。腑に落ちんのじゃ……」
「ま、未来の可能性のひとつとして、見る事もできるけどね?」
「やはりただの嫌がらせではないか!!」
笑ってごまかしながらも、ダンボールを一箱開け、中から一枚の紙を取り出す。
それに目を通しながら、ワシの抗議の声などなかったかのように、話を進めた。
「ま、内容としては、水増しとして俺の居ない間の話が長々と書かれてたね。
あとは権限外の“世界の創造”と“転生”について。
これも反省するどころか、むしろやり遂げたのを誇るかのような内容だった訳で……。
反省文としては0点だねー」
「書き直し……、とは言わんよな……?」
「言わない言わない。けどまぁ、禁止してたとはいえ、実際にそれだけの力を付けたのは事実だし、その点は評価してもいいかな、って思っての昇進話なワケ」
「本当じゃな!? 本当に本当なのじゃな!?
やっぱナシってのはナシじゃぞ!?」
「大丈夫大丈夫。ま、いくつか条件は付けるけどね?」
笑顔で先ほど取り出した紙をワシの前に置き、続きを話し出す。
「まずは、関係者に謝罪しないとね。こっちの勝手で巻き込んじゃったんだから」
「関係者と言うと、転生させたあの人間じゃな」
「そそ。あとはそうだな。転生先の世界も、最後まで面倒みてもらおうかな」
「最後と言うと?」
「あの世界はゲームと同期してるでしょ?
だから、ゲームが終われば世界も終わる」
「それは……、どのくらいかかりそうなんじゃろうか?」
「オンラインゲームで、何十年も続くなんて事はあまりないね。
大抵ゲーム機の変化で終了、続編は新機種でってのが多いし」
「なんじゃ、あっと言う間ではないか!
研修の無限地獄に比べれば、なんてことないのじゃ!」
「そういう事なんでよろしく」
「ふはは、大船に乗った気で任せるがよいのじゃ!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「という事があっての……」
唐突に「あれは去年の年の瀬が迫った頃じゃった……」という一言から始まった回想は、喋り口調も相まって、年寄りの思い出話のように長かった。
というか、要点だけまとめて欲しかったんだが……。
「で、それがどうしたんだよ」
「話を聞いておったなら気付くじゃろう!?」
「何をだよ」
「あやつ自身は、“ワシがこの世界を創った”とは言っておらんのじゃ」
「あぁ、そうだな。ガチャ神が反省文にそう書いたって事しか認めてないな」
「ワシとしたことが、うまく騙されてしまったのじゃ……」
「これで騙されるようなヤツを、全知全能にするのはマズいだろ」
「そう言わんで欲しいのじゃ……」
同情を誘うように、わざとらしくションボリするが、俺はそれが演技にも見えるのだ。
一度疑い出すと、全てが疑わしく見える。坊主憎けりゃなんとやらってヤツだな。
「まくま君、今の話どう思う?」
「俺には判断できねぇな。証拠が何にも無いのは変わらないし。カオリは?」
「うーん……。私は、信じてもいいと思う」
「正気か……?」
「うん。だって、私の知ってる上司さんは、悪い人じゃないと思うから」
カオリがそう言うなら、と言いかけて気付いた。
「って待て待て! 話が脱線したせいでうまく誤魔化されそうになったが、局長達の話はどうなんだよ!?」
「……それについてだけど」
今までこちらの事情に口を挟む事のなかったアイリが話を塞き止めた。
「……そんなに深く考えることじゃないよ」
「何言ってんだ!? 目の前で消えたんだぞ!?」
「……えぇ。でも、彼らの管理権限は私の元へ戻ってきた。……それで問題ないでしょ?」
「問題ないわけないだろ! あいつらが、なんでこんな目に遭わなきゃなんねーんだよ!」
「まくま君落ち着いて!」
アイリとの間にカオリが割り込み、俺を止めた。
もしカオリが居なかったら、そのまま飛び掛っていただろう。
そしてその冷酷な女は続けるのだ。
「……彼らはただのデータ。……それも仮データ。
……丸いボールに、落書きのような顔を描いただけの、CVも付いていないモノ。
……本来、表に出る事は許されない存在」
「だからって……、だからってお前……」
何か、何か言い返してやりたかった。けど何も浮かんでこないのだ。
俺はあいつらを知っている。たとえ落書きのような見た目でも、機械音声の声であっても……。寝食を共にした存在だ。
そして、この世界を守ろうと必死で、苦しみながらも異常に対して足掻き続けた、大切な奴らなんだ。
けれどアイリには、自らの手で創る事も、消す事も容易にできる、ちっぽけな存在でしかないのだ……。
『うまく誤魔化される、ガチャ神ちゃんチョロい』
ホント、扱いやすい子で助かる。
「ゲス野郎どもの発言に、心底うんざりなんだぜ」
『しかし、局長達の機械音声ネタがここで回収されるとは驚き』
「書いてる本人が知らなかった方が驚きなんだぜ」
『俺はプロット貰って、それを文章にしてるだけなので……」
そういうせって……じゃない、ハナシあったねー。
「ゲス神様が暴走中なんだぜ」
『これ以上暴走する前に〆よか。
次回もゆっくり読んでいってね!!』
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