前回のあらすじ
「サンタの爺さん、サンタ辞めないってよ。なのじゃ」
ガチャ神のワンポイント情報②
「来訪者を仲間にするためには、契約式ガチャでそのキャラクターを引き当てねばならんのじゃ」
ガチャ神からのお知らせ
「今回はまくらの忘年会なのじゃ。もうオチが見えとるがのぅ」
華やかなパーティー会場で、俺はいつも以上に着飾ったベルに抱かれ、サンタ達の忘年会を眺めていた。
もちろん面識のない人ばかりの会場なので、俺はベルの“ファッションアイテムとしてのまくら”という役に徹している。
まくらがファッションアイテムになるのかはこの際どうでもいいのだ。
少なくとも枕カバーはパーティー仕様なのだから、それっぽいだろうしね。
数々の豪華な料理を眺めていると、まくら姿であることに口惜しさを感じる。
口がないから惜しいという、字のまんまの意味だ。
レトルト食品で生活していた俺にとって、このような料理を食べられないというのは残念でならない。
いや、逆に言えば、そんな食生活で満足していたような俺でさえ、食べたかったと思わせる料理の数々は、一流の証であろう。
なんて事を考えていると、聞きなれた声がベルを呼ぶ。
「ベルさん、こんばんは。とっても素敵なドレスですね」
「これはカオリ様。お褒めいただきありがとうございます。
しかし他の方を見ると、少し張り切り過ぎた様子は否めませんね」
「せっかくのパーテイーなんですから、オシャレしたって良いと思いますよ」
そんな風にさりげないフォローを入れるカオリだが、ベルが若干浮いてるのは否定できない。
身体のラインが見える、黒のドレスなのだが、そのスカートは大きくスリットが入っている。
普段は足を見せないベルの衣装とは大きく趣向が変わっていて、俺も少し戸惑ったくらいだ。
なんだか海外の映画スターが、レッドカーペットを歩く時のようなドレスだな、なんて思ったが、それを着こなしてしまうのもベルのすごい所か。
しかし、パーティー参加者の期間工エルフ達の視線を集めてしまっているのは、その腕に抱かれる俺としては少し気恥ずかしい。
なぜこんなにベルが着飾っているかと言えば、今回サンタの爺さん主催の忘年会に招待された事だけが理由ではないようだ。
どうやらサンタの爺さんは、今年は“いい子”以外にも、“悪い子”や“大人”にもプレゼントを配ったらしい。
もちろんそれだけの量を一晩で配れたわけではないので、いい子以外には遅れて届けられたそうだ。
そのうちの一人に、もちろんベルも含まれていた。彼女が貰ったプレゼントというのは、今も頭に付けられている、金色の麦穂がデザインされた髪留めだ。
恐らく、人生初めてのクリスマスプレゼントを貰ったのだ、ベルが上機嫌になるのも無理はない。
それに似合うようにと、自身の端末である青い紙ヒモを、形状変化で金の首飾りに変え、こうしてドレスも攻めた装いにしたとう事のようだ。
その機嫌のよさは、パーティー用に新調した服を着て迎えに来た鬼若に、「ジャケットでフォーマルにしつつも、ジーンズを持ってくる事で崩してるのね。60点という所かしら」
などと激甘の評価を下した所からも見て取れる。
いつものベルなら、服装に限らず点数を付けた場合、10点満点評価なのかなと思うような数字を付けるのだ。その上機嫌な様子に、鬼若共々苦笑いしたものだ。
「それでベルさん。さっきサンタのお爺さんに、鬼若君の契約主を連れてきてほしいって頼まれたの。
だから少しの間借りていってもいいかな?」
「えぇ、承知いたしましたわ」
ひょいとカオリへと渡される俺。
完全に物扱いの言い方だが、カオリも俺がまくらに徹しているのを分かっているからの物言いだ。
「あと、二人で来るようにって事だから、クロの事もお願いできないかな?」
「あら、それは構いませんが、クロさんはどちらに?」
「あっちで料理食べてるんだけど……」
視線を移せば、クロが山盛りのケーキに齧りついている姿が見えた。
うん、クロだから許されるよ。小さな女の子が、パーティーにはしゃいでるだけだもんね。
あれが鬼若だったら、ベルの雷が落ちる所だけどな。
そういえば鬼若はどこだろうと思い、あたりを見渡せば、喫茶店のマスター達に囲まれていた。
あ、やっぱマスターもコンパチキャラだから、5属性分の5人兄弟なんだな。
喧嘩してるとかではないだろうし、放っておこう。知り合いを増やす良い機会だしな。
(そうだベル、せっかくの機会だし、エルフ達に飲み物でもついでやってくれ。
さっきから、お前に話しかけたい顔してる奴らが結構いるしな)
(かしこまりました。全てのエルフ共を、我が足元に伏せさせてご覧にいれます)
(えっ……、そういう意味じゃないけど……。知り合い増やす程度でいいからな?)
(承知いたしました)
うーん、分かっているのだろうか。大丈夫だとは思うけど。
しかし、これで俺達の味方が増えてくれれば、森でのメシアのような、ヤバイ奴との戦闘も避けられるようにならないかな、なんていう打算である。
ここは鬼若とベルの二人に任せよう。
「お爺さん、鬼若君の契約主さんを連れてきたんですけど……」
「おう、手間かけさせたな。そこに座ってくれ」
連れられたのは会議室。机の対面にドンと座るのは、スーツでビシッと決めたサンタの爺さんだ。
そういえば、乾杯の挨拶の後から姿を見せてなかったな。
「……それで、その契約主ってのは」
「いや爺さん、分かってんだろ?」
「大人は建前を大事にするもんなんだよ」
ガハハと笑いながらそう言うが、ただの悪ふざけだろう。
相手を見通す能力だけじゃなく、チヅルからの情報もあるだろうからな。
「それで、俺達を呼んだ理由は?」
「いきなり本題か。ま、話が早くて助かるがな。これを渡すためだ」
そう言って机の上に出されたのは、小さな二つの袋。
「なんだこれ?」
「お前達には、クリスマスプレゼントがまだだっただろ?」
「そういやそうだな。全員に配ったって聞いたが、俺は貰ってなかったな。
まくらは、悪い子や大人にも含まれてないのかと思ってたが」
「私も貰ってなかったけど、どうして私たちだけ今渡すの?」
その言葉に爺さんは、急に真面目な顔つきになる。
「これは、ただ渡せばいいだけのプレゼントじゃないからだ」
「ふーん。とりあえず、中身見ていいか?」
「ああ、見れば意味が分かるだろうよ」
カオリは二つの袋を開け、中身を見せてくれる。
そして言葉を失った。
「これって……」
「契約石だな。爺さん、いいのか?」
「……ただの契約石じゃない。学園運営局に無理やり頼んだ、特別製だ」
「確かに俺の中身に比べて、少し青白いな」
「そうだ。俺がこの一ヶ月、肌身離さず魔力を注いだモンだからな」
その発言に、うわっ……とちょっと引いた。加齢臭とか染み付いてそう。
なんて思ったが、態度には表れて無かったよな? セーフだよな?
その時、爺さんは急にがばっと立ち上がった。やっべ、怒った!?
「頼む! それで俺と契約してくれ!」
そう言って、机に打ち付けるかのように、深々と頭を下げた。
「俺の魔力が注がれてるなら、少しは俺との契約確率が上がるはずなんだ!
だから、プレゼントなんて言ったが、俺のために使ってくれ!」
「それはいいんだけどさ、何で契約を?」
「警報の解除のため、ですね?」
カオリは爺さんの代わりに答えた。
あぁ、そうか、爺さんは今、野良だから警報出ちゃってるのか。
ベルと鬼若のおかげで、警報を気にしない生活を送っている俺にとっては、関係ないけどな。
「よし、じゃぁ俺から契約式やるか!」
きっとこれはキャラ配布イベントだろう。その時俺は、そう考えていた……。
魔方陣から出てきた少年を見るまでは。
爆死しないまくらは、ただのまくらだ。
「故に、これは運命なのじゃ」
誰のせいだよ。
「ワシのせいじゃ。スマン事をしたのぅ……」
てことで、カオリとまくらは遅いクリスマスプレゼントを貰ったわけだけど。
「ワシへのプレゼントじゃな! 本当にもらえるんじゃな!?」
前提条件クリアしたら、だからね?
「研修に比べれば、無いに等しい条件なのじゃ」
そのための研修だったワケだしね。
「ワシもついに、日の目を浴びる時が……」
ベル以上に上機嫌だなぁ。まぁいいか。
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