爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

390連目 不穏なランチタイム2

公開日時: 2021年1月9日(土) 18:05
文字数:2,335

前回のあらすじ

 『まくら氏、ベルの手作り弁当に歓喜』


前書き代打の今日のひとこと

 『ガチャ神がハーレム(?)展開を目撃しなくて良かったね』



「うん、うまいなこの巻き寿司。ヨウコは料理が得意なんだな」


「お口に合いまして何よりです。こちらのサンドイッチも、大変おいしゅうございます。」


「そうだろ? でもさ、ベルは洋食は得意なんだが、和食はあんまり知らないらしくてな。

 久々に、こうやって食べられて良かったよ」


「あら、でしたら今度作り方をお教えいしましょうか?

 妾も、このようにおいしいサンドイッチの作り方を教えていただきたいですし」


「おぉ、それいいかもな。ベルもレパートリー増えるのは喜びそうだし」



 なんて他愛も無い事をヨウコと喋っていたが、カオリはその間ずっと、サンドイッチを食べながら俺を見ていた。

ほぼ睨み付けられている気がするが、恐らく気のせいだ。変なオーラが見える気がするのも、俺の被害妄想だ。きっと……、ね。



「ところで熊さん、先ほどからの視線に気付いておられますか」


「あぁ、うん。気付いてるよ。最近ずっとなんだ」



 周りに聞かれないように、声を潜めてヨウコは切り出す。

もちろん視線とは、カオリの事ではない。ジットリとした視線、それは少し離れた席の男子生徒三人組から放たれるものだ。


 彼ら三人は仲が良いのか、いつも行動を共にしている。俺とは直接の関わりはないし、何か恨まれるような事をした記憶もない。

いや、最近女子達にチヤホヤされている事に嫉妬しているなんて話なら別だけどな。視線を感じるようになったのも同じ時期だから、その可能性がないとは言えないな……。



 そんな三人は、昼食を食べながら何かを取り出し、ブツブツと会話を聞かれないよう小声で何かを話している。かと思えば、時折不気味な笑いを発するのだ。

正直言って、気味が悪いのは確かだ。けれど、そんな彼らが何か問題を起こしているわけでもないし、「見られているだけなら」と、俺は今まで気にしないように努めてきたわけだ。

まぁ、まくら姿のせいで無駄に目立つのだから、何かと視線を集めるのは慣れていたというのもあるけどね。



「今は大丈夫だから放ってるんだが、あいつらが何なのか知ってるのか?」


「ええと……。元人間の熊さんには、分かりにくいことかと思われますが……」



 ヨウコは苦虫を噛み潰したような顔をしながら話し出す。

彼女をここまでの表情にするほどに、問題のある奴らなのだろうか。



「彼らは、獣人に対して非常に執着する方々でして……」


「ケモナーって呼ばれる人たちだね」



 聞き役に徹していたカオリが口を挟む。

だが詳しく知っているのか尋ねれば「噂に聞きた事があるだけ」と返された。



「それで、そんな奴らが、なんで俺を見てるんだ?」


「恐らくは、姿が変わったことが原因かと。

 妾も、今でこそ完全に人間に化けておりますが、元は獣人でして……」



 ヨウコの顔はより険しくなる。

ちなみに、ヨウコが獣人である事を俺はもちろん知っていた。なにせ名前自体が妖狐ヨウコだからな。

だからって、わざわざ「俺知ってるから」なんて言う事は無い。こちらの手の内にある“異世界情報の持ち主”という交渉カードを、誰彼だれかれ構わず教えてやる必要はないしね。


 ちなみに、ヨウコが狐である事を知っていたから、俺は弁当の巻き寿司を貰ったわけだ。

ヨウコの好物というのが、いなり寿司だろうなって思ってたからね。


 だけど実際の所は、キャラクターの設定集などがあったわけではなく、ユーザー同士の考察を読んだだけだ。なので、本当にヨウコの好物がいなり寿司なのかは分からない。

そういう情報も持っていたなら、今後の良好な人間関係を築くのに使えただろうにな。まぁ、無いものねだりはやめておこう。


 ともかく、ヨウコは獣人であることで、何かと大変な思いをしてきたのだろう。

元人間で、その次はまくらになった俺には、想像もできない話ではあるのだが。



「なんというか……。苦労してるんだな」


「他人事のように言っておられますが、今のご自身の姿がどういったものか……。

 もちろん理解しておられますよね?」



 今の俺の姿? まごうことなき抱きまくらですね。

ちょっと愛らしすぎる、クマ型の抱きまくら……。クマ型……?



「もしかして……、俺狙われてんの!?」


「おそらくは……」


「いやでもさ、俺本物のクマってわけじゃないんだけど」


「しかし、彼らが目をつけているということは、そういうことではないかと」


「ふふふ。まくま君ってば、モテモテだねぇ?」


「ちょっとカオリ!? 笑い事じゃないんですけど!?」



 カオリは意地悪そうな顔で笑っている。

完全に他人事だし、そんな状況を傍目はために楽しむつもりなのだろうか……。



「でもまくま君さ、最近ずっと『もふもふしたい』っていう人には、来る者拒まずで受けてきたじゃない。

 なら相手が誰であっても、同じように対応したほうがいいんじゃないの~?」


「いや……、そうかもしれないけどさ……」



 まさかここに来て、今までの行いが裏目に出ようとは……。そりゃちょっとした下心が無かったとは言わないさ。

だってさ、現役女子高生が、向こうから俺をもふもふしたいって言ってくるんだぞ?



「熊さんが嫌だと仰るのなら、妾の事はお気になさらず」


「あぁ、そういやヨウコも予約してたんだったよな。

 いや、一回受けるって言ったんだからそれはいいんだ。

 ただ……、あいつらが来たら何をされるのか……。もふもふだけなら別にいいんだが」


「しかたないなぁ! 私がまくま君のマネージャー役やってあげるよ!

 迷惑なお客様は、ウチのアイドルに近づけないよっ!」



 そんな風にカオリは笑う。どこまでが冗談なのかは分からないが、カオリのガードが入れば少しは安心できるというものだ。

結局、自分自身で動けるようになったのに、これからもカオリのお世話になる必要があるようだ。


 うーん、モテるってのも大変なんだなぁ……。

と、ヨウコにもふもふされながら思う昼休みであった。

『……仲間か』


もうそのネタはいいから、黙ろうな。


『そういえばさ、まくら氏の“真剣に生きる”って、なんやったん?』


真剣にモテたい、って事じゃないですかね。


『生きるとは……。いや、イキるよりはいいんやけど』


生存は性存でもあるから、多少はね……?


『そーなのかー? てか、性存ってなんや?』


成性存存という四字熟語がありましてね。それとは関係ないけども。


『話長くなりそうやし、ここで終わろか』

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