前回のあらすじ
「クマ氏、奇襲攻撃に遭う。じゃ」
ガチャ神の今日のひとこと
「ワシも後書きで酷い攻撃を受けたのじゃ……」
「いつから気付いていらしたのです?」
「んー? 何がだ?」
寮まで送ってもらう途中、気まずさに耐えられなくなったのか、ヨウコは問いかけてきた。
俺も、このままギクシャクするのも嫌だし、今日の事は水に流せればと思うのだが……。
それはヨウコに求めることではないな。ヨウコの契約主、アリサをなんとかしないと。
「妾がアリサ様の手の者だという事にですよ」
「あー、それね。別に気付いてたわけじゃないよ?」
「それにしては、まったく焦りも動揺もしませんでしたね」
「焦ったって事態が好転するわけでもないしな。
それに気付いてはなかったけど、警戒はしてたぞ? カオリが」
ヨウコが初めて俺に接触してきた時、カオリはずっと俺に「気をつけろ」と言おうとしていた。
いや、正確には念話で伝えようとしていたので「言う」って表現は適切ではないな。
結局、カオリの念話はうまくいかず、今も練習はしているが、習得できてはいないようだ。
俺としては、練習に学校内で無言で見つめられるのは色々問題もあったし、諦めてくれてもいいんだけどな。
もしかして、今も俺が気付いていないだけで、授業中とかに練習してたりするんだろうか……。
「やはり、カオリさんのガードは硬いですね。大きな誤算でした」
「まあな。カオリは警戒心が強いというか、慎重な性格だから。
今日も早退するときに、もし何かあったらミタ爺を呼ぶように、って言おうとしてたみたいだし」
「つまり、全て作戦通りだったと……」
「鬼若とベルが出られない時点で、最悪の事態を想定していたみたいだな。
昼休みの終わりには、メッセージでやりとりしていたんだよ」
ヨウコは現場にいたにも関わらず、それに気付けなかった自身に呆れているのか小さくため息をつく。
しかし、残念ながら喋った内容は、結構ハッタリが入っている。
「学園運営局との繋がり、そして同盟関係も伏せられておりましたし、完全に手の内で踊らされていたわけですか……」
「ま、そういうこった。言っちゃ悪いが、俺の見立てではあのアリサの様子じゃ、カオリにも勝てないだろうな。
うまくカオリの戦力を減らせたとして、戦略負けするだろう。俺も知らされていない、最終兵器とかがあるかもしれないし」
そんな俺の言葉に、ヨウコは再び深いため息をつく。
これだけカオリを持ち上げておけば「俺が無理ならカオリを」なんて事にはならないだろう。
というか、そんな事になられては困る。カオリがうまく立ち回れるヤツなのは嘘ではない。
事実、俺が転生する前もバトルを回避し続けることで、いままでやってこられたのだから。
けれど、バトルに関しては完全に素人だ。
アリサの戦力は分からないが、今回の事でわかるのは、勝てる状況を作り上げ、さらに絶対負けない方法を取ろうとする奴だって事だ。
そんな状況に置かれた素人など、カモでしかない。
しかも今までと違い、今のカオリはSSRというネギまで背負っている。
今まで無事だったのが奇跡なのかもしれない。
しかし、そのSSR本人が契約してくれと頼んだ経緯があるので、爺さんの方がどんな方法を使ってでも相手を潰しに行く気がするな。
契約解除されてしまえば、次いつ契約できるかわからないのだから。
「それじゃ、こっちも教えてもらおうかな。アリサの事をさ」
バトルに勝ったにも関わらず、こちらの情報だけを流してやる義理もない。
実際に流したのはハッタリばかりだったけどな。
しかし、ヨウコにとってそれは、主を裏切る事であり「それは……」と言葉を濁している。
「まぁ、ヨウコが話さなくたって、イナバやセルシウスに聞けばいいだけだがな」
「どちらにせよ、情報元の数でもこちらが不利でしたね」
「鬼若達を封じるのはいい作戦だったけどな?
ツメが甘いのは、あの様子を見ても分かるけど」
ヨウコは乾いた笑いを漏らし、一息ついてからアリサの事を話し出した。
それによれば、アリサは学園都市外の出身で、10年ほど前に契約主候補としてやってきたそうだ。
学園都市外では、白鳥家というのは有名な家系だそうで、アリサはその令嬢だ。
両親は契約主の素質があると分かると大喜びし、誰よりも優秀な契約主になる事を期待したそうだ。
そういう事情から、どんな方法を使ってでも強い来訪者を契約者として迎え入れたい、という想いがあるようだ。
「で、俺を狙った理由は?」
「契約式では誰と契約できるかわかりません。
ですので、確率を上げるためには、多くのSSRを野良、つまり未契約状態にする必要があります。
さらに言えば、その……。熊さんの状態を考えれば……」
「まぁ、立場が逆だったら、俺もクマまくらを狙うだろうな」
相手が普通の人であれば、今回のような事があっても逃げ切れる可能性がある。
それに俺は、誰かに運んでもらう必要があるのだから、その誰かを送り込んだスパイにすれば、確実性はかなり高まると考えたわけだ。
非常に非情で論理的。あのアリサがそんな策士なのだろうか?
「他に、何か聞きたい事はありますか」
「いいのか? そんな簡単に喋っちゃってさ」
「この作戦が失敗した時点で、もう敵対するなど無理な話でしょうから……」
今までの努力が無に帰した疲れからか、もとより細い目をさらに細め遠くを見つめるヨウコ。
しかし、俺をあきらめたとしても、他のヤツに同じような事をするつもりだろうか。
カオリの他に契約主の知り合いはいないとはいえ、こんな卑怯な手を使われた相手は悔しいだろうな。
「あ、ひとつ気になったんだけどさ、ミタ爺とは知り合いなのか?」
「三田セイヤ様ですね。彼との関係はなんと言いましょうか……。
妾にも説明しにくい事柄なのですが……」
「それは、聞かれるとマズいって意味で?」
「いえ、家同士の関係ですので、詳しく知らない事もあるのです。
しかし、知っている部分でしたら……」
嘘偽りが無いように、誤解を生まぬようにといったような、慎重な言葉選びでヨウコは話す。
しかし、その内容はと言えば単純なものだ。
三田家、つまりサンタの爺さんの家系は、学園都市内ではかなりの名家であるらしい。
爺さんと学園運営局の関係を知っていれば、納得できる話ではあるな。
そして学園外での名家である白鳥家は、互いの利害のために敵対する事無いように付き合っているそうだ。
というよりは、本人達も意外に思うほどに仲良くなっていて、家族ぐるみでの付き合いがあるようだ。
「名家同士の泥沼を期待したんだけどなー」
「熊さん……」
「冗談だよ? べあーずじょーくだよ?」
「あまり感心できる冗談ではありませんね……。
ともかく、そういう事情で、互いによく知っている仲なのです」
「そりゃミタ爺を見て、すぐ引き下がったわけだ」
「あの……、セイヤ様をその名で呼ぶのは……」
「局長がそう呼んでたんだぜ? 局長の口調がうつったんだぜ」
「局長とは……、まさか学園運営局長様ですか?」
俺の肯定に、ヨウコは青ざめ、明らかに狼狽している。
あの黄色ボールの何に怯えているのだろう?
「お願いです……、どうか今日の事は局長様には……」
「あ、そういや局長が、ちらし寿司おいしかったってさ」
「わわわ……、妾の作ったものを局長様に……!?」
そっか、カオリは俺が二週間どこに行っていたかも伏せていたんだったな。
つまり、差し入れがどこに持っていかれたかも、知らなかったわけだ。
ヨウコにとっては寝耳に水だろうが、スパイ行為の罰としてもう少しからかってやろう。
そう思っていたのに、もう寮に着いてしまった。
嘘つきクマさんですねぇ……。
「情報戦としては、上々かもしれんがの」
言われた事信じるかな?
「情報源が少ないからのぅ」
まぁ、嘘とも言い切れない事ばかりなのがね……。
「大人の汚さが見え隠れじゃのぅ」
どうとでも言い逃れできるようにする。これ基本だよネ!
「何の基本なんじゃ……」
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