「御父様のサンタとしての能力、お教えいたします」
結論から言おう、チヅルは黒幕というわけではなかった。
そして俺の心配も、杞憂に終わった。
しかし語られた内容は、俺の名演技を完全否定するものだった。
サンタとして爺さんは、いくつかの能力を学園運営局から借りている。
その中の一つが相手の善性・悪性を判断する能力らしい。
これは前にカオリから聞いていた、警報発令の判断基準を、警報発令対象外に対しても見分ける事ができる能力との事。
それに付随して相手の性格や、この一年で起きた大きな出来事を見ることができるようだ。
悪性判断が出ても、その出来事によって一時的にそうなっている場合などの、救済処置らしい。
バトルで強いだけの鬼若よりも、色々できる分鬼若より酷いチートキャラじゃねぇか!
なんとも大盤振る舞いな学園運営局の対応ではあるが、クリスマスイベント自体が、善性の者を増やし、悪性を減らすという目的がある。
なので、その主役であるサンタの爺さんにはかなり配慮しているようだ。
去年の白熊密猟未遂事件も、他の来訪者であるならば即刻悪性判定になるほどの事らしいしな。
結局、学園運営局ってのは、うまいようにサンタの爺さんを利用しているって話だな。
しかし、ここで俺が疑問に思うのは、この世界の学園運営局という存在は、俺の知るゲームのマスターとしての運営と同一の存在であるのか、という点だ。
今までもバグ修正などを学園運営局に依頼する事はあったが、彼らが俺の知る世界の製作者としての運営なのか、もしくは管理者権限しか持っていない別の存在なのか……。
製作者としての運営ならば、こんな回りくどい方法を取るだろうか。
やはり、何の説明もなくこちらに来てしまった俺には、分からない事だらけだ。
「せっかくまくらのフリをしていたのに、とんだ骨折り損でしたね」
「まくらに折る骨はないけどな! ってそうじゃない。
チヅル、そんな相手にサプライズパーティーなんてできるもんなのか?」
「ふふっ。私こう見えて、秘め事は得意なんですの」
「機を織る姿は絶対に見てはいけませんってやつか」
「……。トナカイの件もでしたが、まくら様はどこでその話を?」
「秘密の異世界情報だ。ともかく、爺さんにバレてる事はないんだな?」
「えぇ、恐らくは」
「なら、いらぬ心配だったな。あとはアルダが口を滑らせないかだけだ」
「私ってそんなに信用ないですか!?」
「うん。ないよ」
即答されたアルダはがっくりと肩を落とすが、それをチヅルは「よしよし」となだめていた。
本当にこいつら、隙あらばイチャつきやがるなコンチクショウ!
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ほどなくして俺達は一軒の家の前までやってきた。
それは特別大きな家でもないが、一家三人が住むには十分な広さがあるであろう、ログハウス風の家だった。
「ここが、アルダたちの住む家なのか?」
「えぇ、そうですよ。とはいっても私は牧場の方で寝泊りする事が多いので、ほとんど帰ってくることはありませんけどね」
「こっちでもそういう事になってるのか。お前も大変なんだな」
「だからこそ、その分会う日を楽しみにしてるんですよ」
「そっか。まぁそれはいいんだけどさ、とりあえずアーニャをびっくりさせちゃ悪いし、俺はまた黙るから。ベル、あとは任せるぞ」
「承知いたしました」
アルダもなんだかんだ大変なんだなぁと思いつつ、俺はベルの腕に抱かれるただのまくらと化した。
コンコンと心地よいリズムで戸を叩くチヅルも、どこか嬉しげな雰囲気だ。
そういえば、チヅルもしばらく留守にしていたはずだが、誰が面倒をみていたんだろう?
「アーニャ、チヅルです」
その声を聞くやいなや、扉が勢いよく開かれ、中から女の子が飛び出してくる。
茶色い髪を両サイドで三つ編みにした、ピンクのワンピースを着た女の子だ。
青い瞳が綺麗でなんだか本当に人形みたいな子だ、と思った。
「おかえりなさいお母様! あっ! お父様も!? 会いたかったです!」
「アーニャ! 私も会いたかったよ!」
アルダにぎゅうっと抱きしめられるアーニャは少し苦しそうだ。
それを見つめるのは、チヅルともう一人。家の中から出てきた青年だった。
黒髪で青と金のオッドアイの目を持つ、中性的な顔立ちのその青年は小奇麗な身なりもあり、執事のような雰囲気である。
「アルビレオ、アーニャの面倒をみてくれてありがとう」
「いえ、奥様。ご用命とあればいつでもお呼びください」
アルビレオと呼ばれたその青年は、軽やかな会釈をすると、こちらへと目線を移す。
その様子にチヅルは俺……、ではなくベルに彼を紹介する。
「ベルさん。こちらは私達の手伝いをしてくれている、アルビレオです」
「お初にお目にかかります。アルビレオと申します。ベル様、どうぞよろしくお願いいたします」
「ご丁寧にありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ」
「ベルさんとは契約主が同じ方でして、色々とお世話になりましたの」
「左様にございましたか。では立ち話もなんですので、中へどうぞ。
今温かい飲み物をご用意いたします」
鬼若と違い、付け焼刃ではない慣れた様子で挨拶をこなすその青年は、家の中へと俺達を招き入れる。
そしてソファーに案内され、しばらくすれば香り高い紅茶を給仕してくれた。その様子は手馴れたもので、長くこのような業務に携わっていることが見て取れる。
アルダ達はしばらくアーニャと談笑していたが、頃合を見計らうようにチヅルは本題へと話を移す。
「それでアーニャ、パーティーの準備は順調ですか?」
「それが……」
アーニャは途端に元気が無くなり、もごもごと口ごもってしまった。
どうやら、こっちでも何やら問題が発生していたようだ。
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