爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

エンドレス周回 4

公開日時: 2021年1月4日(月) 18:05
文字数:2,297



「御父様のサンタとしての能力、お教えいたします」



 結論から言おう、チヅルは黒幕というわけではなかった。

そして俺の心配も、杞憂に終わった。

しかし語られた内容は、俺の名演技を完全否定するものだった。


 サンタとして爺さんは、いくつかの能力を学園運営局うんえいから借りている。

その中の一つが相手の善性・悪性を判断する能力らしい。

これは前にカオリから聞いていた、警報発令の判断基準を、警報発令対象外に対しても見分ける事ができる能力との事。


 それに付随して相手の性格や、この一年で起きた大きな出来事を見ることができるようだ。

悪性判断が出ても、その出来事によって一時的にそうなっている場合などの、救済処置らしい。

バトルで強いだけの鬼若よりも、色々できる分鬼若より酷いチートキャラじゃねぇか!


 なんとも大盤振る舞いな学園運営局うんえいの対応ではあるが、クリスマスイベント自体が、善性の者を増やし、悪性を減らすという目的がある。

なので、その主役であるサンタの爺さんにはかなり配慮しているようだ。

去年の白熊密猟未遂事件も、他の来訪者であるならば即刻悪性判定になるほどの事らしいしな。

結局、学園運営局うんえいってのは、うまいようにサンタの爺さんを利用しているって話だな。


 しかし、ここで俺が疑問に思うのは、この世界の学園運営局うんえいという存在は、俺の知るゲームのマスターとしての運営と同一の存在であるのか、という点だ。


 今までもバグ修正などを学園運営局うんえいに依頼する事はあったが、彼らが俺の知る世界ゲームの製作者としての運営なのか、もしくは管理者権限しか持っていない別の存在なのか……。

製作者としての運営ならば、こんな回りくどい方法を取るだろうか。

やはり、何の説明もなくこちらに来てしまった俺には、分からない事だらけだ。



「せっかくまくらのフリをしていたのに、とんだ骨折り損でしたね」


「まくらに折る骨はないけどな! ってそうじゃない。

 チヅル、そんな相手にサプライズパーティーなんてできるもんなのか?」


「ふふっ。わたくしこう見えて、秘め事は得意なんですの」


「機を織る姿は絶対に見てはいけませんってやつか」


「……。トナカイの件もでしたが、まくら様はどこでその話を?」


「秘密の異世界情報うらルートだ。ともかく、爺さんにバレてる事はないんだな?」


「えぇ、恐らくは」


「なら、いらぬ心配だったな。あとはアルダが口を滑らせないかだけだ」


「私ってそんなに信用ないですか!?」


「うん。ないよ」



 即答されたアルダはがっくりと肩を落とすが、それをチヅルは「よしよし」となだめていた。

本当にこいつら、隙あらばイチャつきやがるなコンチクショウ!



  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 



 ほどなくして俺達は一軒の家の前までやってきた。

それは特別大きな家でもないが、一家三人が住むには十分な広さがあるであろう、ログハウス風の家だった。



「ここが、アルダたちの住む家なのか?」


「えぇ、そうですよ。とはいっても私は牧場の方で寝泊りする事が多いので、ほとんど帰ってくることはありませんけどね」


「こっちでもそういう事になってるのか。お前も大変なんだな」


「だからこそ、その分会う日を楽しみにしてるんですよ」


「そっか。まぁそれはいいんだけどさ、とりあえずアーニャをびっくりさせちゃ悪いし、俺はまた黙るから。ベル、あとは任せるぞ」


「承知いたしました」



 アルダもなんだかんだ大変なんだなぁと思いつつ、俺はベルの腕に抱かれるただのまくらと化した。

コンコンと心地よいリズムで戸を叩くチヅルも、どこか嬉しげな雰囲気だ。

そういえば、チヅルもしばらく留守にしていたはずだが、誰が面倒をみていたんだろう?



「アーニャ、チヅルです」



 その声を聞くやいなや、扉が勢いよく開かれ、中から女の子が飛び出してくる。

茶色い髪を両サイドで三つ編みにした、ピンクのワンピースを着た女の子だ。

青い瞳が綺麗でなんだか本当に人形みたいな子だ、と思った。



「おかえりなさいお母様! あっ! お父様も!? 会いたかったです!」


「アーニャ! 私も会いたかったよ!」



 アルダにぎゅうっと抱きしめられるアーニャは少し苦しそうだ。

それを見つめるのは、チヅルともう一人。家の中から出てきた青年だった。

黒髪で青と金のオッドアイの目を持つ、中性的な顔立ちのその青年は小奇麗な身なりもあり、執事のような雰囲気である。



「アルビレオ、アーニャの面倒をみてくれてありがとう」


「いえ、奥様。ご用命とあればいつでもお呼びください」



 アルビレオと呼ばれたその青年は、軽やかな会釈をすると、こちらへと目線を移す。

その様子にチヅルは俺……、ではなくベルに彼を紹介する。



「ベルさん。こちらは私達の手伝いをしてくれている、アルビレオです」


「お初にお目にかかります。アルビレオと申します。ベル様、どうぞよろしくお願いいたします」


「ご丁寧にありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ」


「ベルさんとは契約主が同じ方でして、色々とお世話になりましたの」


「左様にございましたか。では立ち話もなんですので、中へどうぞ。

 今温かい飲み物をご用意いたします」



 鬼若と違い、付け焼刃ではない慣れた様子で挨拶をこなすその青年は、家の中へと俺達を招き入れる。

そしてソファーに案内され、しばらくすれば香り高い紅茶を給仕してくれた。その様子は手馴れたもので、長くこのような業務に携わっていることが見て取れる。

アルダ達はしばらくアーニャと談笑していたが、頃合を見計らうようにチヅルは本題へと話を移す。



「それでアーニャ、パーティーの準備は順調ですか?」


「それが……」



 アーニャは途端に元気が無くなり、もごもごと口ごもってしまった。

どうやら、こっちでも何やら問題が発生していたようだ。

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