爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

エンドレス周回 6

公開日時: 2021年1月5日(火) 14:05
文字数:2,706

 不景気で給料が下がると消費が減る。消費が減れば、安売りをしないといけなくなり、利益が下がる。利益が無くなると、給料を下げないといけなくなる。その上、収入の低下は不安を呼び起こし、貯蓄へと向かわせる。そうすると、よりいっそう消費が減る。


 そんな経済学者が語るデフレスパイラルの話を思い出す。


 不景気の悪循環が、サンタ工場の閉鎖によってこの森ので起こっているようだ。

経済の「け」の字もなさそうな森なのにな。経済学ってスゲー。

なんて感心してる場合じゃないな。というか結局ここでも、爺さんのせいかよ。



「その件でしたら問題ありません。今年のクリスマスは例年通り実行されます。

 ですので、エルフの皆さんにも仕事が割り振られます。収入は確保されますよ」


「オマエラ ウソツイテル? メグミ ウバウキカ? オレタチ ワカラナイ」


「ねーねー、何の話してるのさ? クエストなんだしぶっ飛ばせばいいじゃん!」


「ちょっとセルちん、黙ろうか」


「オマエラ ウソツキ! トオサナイ トオサナイ!」


(まくら様、いかが致しましょうか)



 あーあ、セルシウスの空気読めない発言で怒っちゃった。

道中で説明し忘れたのも悪いんだけどさ。

まぁいいか、周回イベントなら必ずバトルになるんだろうし、押し通るとするか。



「どうしても通さないのか?」


「トオサナイ トオサナイ! ブキミナ マクラ トオサナイ!」


「よろしい……。ならば略奪バトルだ!!」



 俺の宣言と共にバトルは開始された。まずは陣形、作戦を立てるのがゲームでの操作だったな。

ならば、俺がそれぞれの指示を出せばいいのだろうか。コマンドボタンは見えないし。



「セル! お前は前衛、後の二人は後衛だ。狙う相手は得意属性だ!」


「おっけー、いつも通りって感じだねっ! それじゃいくよー!」



 セルシウスはなれた手つきで、ベルトに付いた試験管を宙へと投げる。

それは薬品を周囲に撒き散らし、彼女の手へと戻ってくる。これが彼女のスキルだ。


 それは、「味方全員の攻撃力上昇、もしくはHP回復」の効果をもたらす。


 少し変則的な効果で、彼女自身の残HPが多いほど攻撃力を、少ないほどHP回復を行うものだ。

その総計は双方の数値合わせて100と、超低性能ではあるが、味方全員であり、毎ターン実行されるのであれば、塵も積もればなんとやらである。


 今回はHPがMAXなので、このターン全員攻撃力+100だ。だが……。



「セルさん、ありがとうございます。お返しをせねばなりませんね」



 セルシウスのスキルをトリガーに、チヅルのスキルが発動する。

そのスキルは「ステータス増強バフ等を受けた時、その効果を2倍にして返す」というものだ。


 まさに”チヅルの恩返し”という内容だな。これはHP回復にも効果があり、セルシウスとチヅルの組み合わせは「セルシウスの攻撃力が最大+300になり、HPが減った場合も最大300回復する」というもの。

「他のキャラも攻撃力最大+100、またはHP最大100回復」という、毎ターン効果が出るものとしては破格の性能になるのだ。


 いや、破格は言いすぎか。“ガチャ運のない俺にとっては”高性能である事は確かだけどな。


 ただしこの戦法は長期戦向きだ。この二人は双方攻撃力が低いのもあって、それを補うように鬼若の通常攻撃で一体ずつ落としていくのが、いつものパターンだった。


 今回はその役目をベルが担う事になる。しかし、ベルのスキルは「3ターン行動不能」の制約が自身のスキルで付いてしまう。

耐えられるとは思うが、この二人では相手の数を減らすのは難しいだろう。



「やる気ばっちり!いっくよー!」


わたくしも微力ながら、お手伝いいたします」


「我は、しばらく力を溜める事としよう」



 三者三様の反応である。というかベルの3ターン行動不能って、居眠りなんだ……。

うん、まぁそうだよね。元ネタが怠惰の悪魔だもんね。起こすと怖い怠惰の悪魔……、か。


 パリンパリン! と試験管の砕ける音と共に、その中身である薬品がばら撒かれる。

実際のそれは、魔力で生成されたものなのだから、ガラスでケガをすることはない。

しかし、まるで溶かすように仮想障壁HPを侵食してゆく。

そして彼女の投げる試験管はいつも二つ。赤と青をセットで投げるのだ。


 それは、彼女の特異性が関係する。衣装が青をベースとしながらも、赤が刺し色にされた少々前衛的デザインなのも、その特徴を現している。それは彼女が、の二つの属性を持つためだ。

ただし攻撃力は半減、得意属性を狙っても、相手を戦闘不能にするには、圧倒的に火力が足りない。



「ユルサナイ ユルサナイ! テキ コラシメル!」



 ゴブリンたちは棍棒を持ち向かってくる。しかしその棍棒がセルシウスたちに直接当たることはない。その代わりに、障壁を力強く叩く。

ピシッ! っとヒビが入るものの、まだまだ持ちこたえられそうだ。


 そのヒビも、次の行動時にはセルシウスの回復と、チヅルの回復でほとんど修復される。双方にとって完全に耐えゲー状態となった。


 そんなやり取りが2度、3度と繰り返され、相手のゴブリンたちは決着の見えない戦いに疲弊しているようだった。

しかし、それもこれで終わる。怠惰なる悪魔が目を覚ますのだ。



「ほう。我の活躍の場を残してくれるとは、気のきく者達よの」



 寝起きで機嫌最悪と言わんばかりの一言。

一進一退の持久戦を見ていないのだから、本心で言っているかもしれない。

だが、火力不足を皮肉られているようにしか聞こえないぞ。



「雑魚どもが、我の前にひれ伏せ」



 その言葉と共にゴブリンたちの動きは止まる。これがベルのアクティブスキル必殺技の効果、相手を1ターン行動不能にするものだ。その上で、ベル本人は2ターンの間3連続攻撃を行う。

それはセルシウスとは違い、攻撃力減少のない、純粋な3連撃だ。


 俺を抱えたまま、さっと飛び出たかと思えば、見事な蹴りでゴブリンたちを蹴散らしてゆく。

連撃の途中で障壁が破壊されれば次の相手と、一撃の火力が大きい鬼若と違い、過剰ダメージを与えない分非常に効率的な攻撃だ。



「貴様で最後だ」



 流れるように、踊るように。

一方的なバトル展開は、ゴブリンたちに勝ち筋を全く見せずに終わった。

俺はもちろんだが、チヅルもセルシウスも、ベルが起きてからは見ているだけの状態だった。



「すっごーい! べるるんって、超強いんだねっ!」


わたくしSSR★7の戦いは、鬼若君しか知らないため、驚きました」


「お褒めに預かり光栄ですわ」



 勝利を喜ぶ彼女達とは対照的に、ゴブリンたちはよろよろと森へと逃げていった。

うーん、周回イベントってこんなだっけ? 倒した相手から、何か貰えるんじゃなかったっけ?

去年は……。あっ、うん。考えないでおこう。アレはちょっと見るに耐えないかもしれない。

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