今回で最終回!
何も知らされぬ彼は、カオリの制止も虚しく陣の中へと立ち入ってしまう。
それが、どういう意味を持つものなのかも知らずに。
「うわっ!? なんだ!?」
その瞬間、爆発するように陣は光り、周囲の景色は白一色に染まる。
今まで居た崩れかけた倉庫も、他の者たちも……。そのどれもが姿を消した。
果てもなく感じる白い空間。元はそれほど広くない倉庫、そのまま進めば妹にたどり着くだろうと彼は歩き出す。
「カオリ! 堀口! どこだ!?」
呼びかけても返事はない。声は虚しく空間へと溶けた。
それでもなお、彼は歩みを止めることはない。自身が助けなければ、その強い思いで彼は進み続ける。
さすれば、白い霧の中、ぼんやりと人の影が浮かぶ。彼は駆け寄り声をかける。
「やっと見つけ……」
途中まで言いかけた言葉は、最後まで続くことはなかった。
それは、その姿をしっかりと捉えたからだ。そして……。
「慶治……お前なんでここに……。じゃない……お前は……鬼若……?」
その刹那、全てが溢れ出す。訝しんだ彼らの正体、彼らと共に過ごした日々。
そして、目の前の人物が自身の身代わりとなった理由も……。
何もかもを思い出し、彼は静かに涙した。
『お待ちしておりました、主様』
「お前……ホント馬鹿だよ……。俺なんかのために……」
『ご心配をおかけし、申し訳ございません』
「悪い、違うよな……。ちゃんと言わないと……」
◆ ◇ ◆
見上げる月は近く、間もなくその時を迎える。彼はこの日を今か今かと待ちわびていた。
毎日見上げ、その距離をもどかしく思った日々も、この瞬間のためにあったのだ。
しかしそれは、すんでのところで黒い亀裂と共に崩れ去る。
誰も止められない、たとえどんな方法であっても。そう確信していた彼は、動揺を隠せなかった。
「そんな……」
崩れる天を見上げ、ただそう呟く他なかった。目前に迫る崩壊した巨石から逃げる事もなく……。
そんな中だった。声が聞こえたのは。
『あーあ、俺の世界壊されちゃった。ま、もういらないから別にいいけど』
周囲には誰も居ない。けれど、彼は見るまでもなく理解していた。
いや、その声の主がどこにいるかを、彼は理解していたのだ。
『やぁ、ひさしぶり。それとも“君にとっては”はじめまして、かな?』
「ずっと……待ってたよ……」
『うん。待たせてごめん』
「ううん、違う。ホントに言うべき言葉……」
「「おかえり」」
『『ただいま』』
◆ ◇ ◆
気づいた時には俺は病院のベッドで寝かされていた。
どれくらい眠っていたのかはわからない。けれど体の痛みから察するに、丸一日くらい寝てたとしても不思議ではないな。
少しのだるさを感じながら体を起こせば、ベッド横のパイプ椅子に座り、腕を組んだ状態で寝ている鬼若の姿が見えた。
その姿はネコミミで角を隠していないし、何より俺から見て普通の大きさだった。
いや、鬼若がデカいのは変わらないんだが、今回は体が縮んでいるなんてことはないと分かるサイズ感ということだ。
そんなこと二度もあってたまるか、って話だけどな。
そう考えていると、そーっと扉が開かれる。どうやら俺が目覚めると知っていたようだ。
俺は鬼若を起こさぬよう、小声で語りかけた。
「よう元凶。入って来いよ」
「おじゃましまーす」
朱色の髪の少年……じゃない、なぜか今は青年というか、二十歳くらいの見た目の男が入ってきた。
その後ろには鬼若には負けるが、体格のいいもう一人の男を引き連れている。
「もしかして、その人が言ってた人?」
「そそ。名前は左近鉄也」
「そっか。よろしく左近さん。俺は西大寺吉孝です」
「そういうのいいから。とりあえず手短に話すね」
何か言いかけた鉄也を遮るように、ソイツは話を切り出した。
といっても全部思い出したから、俺は何となくわかるんだけどな。
「あれだろ? お前の居たあの砂漠って、月でしたって話だろ?」
「いや、それはそれで大事だけど、それよりも重要な事」
「ん? もしかして、帰ってくる時うっかり地球破壊しちゃって、実はココって天国だとか?」
「その展開も面白いけど、それもナシで」
「じゃあなんだ? あ、もしかして、ガチャ神がまた何かやらかした?」
「それは、さっきお灸を据えてきたから大丈夫」
うーん、思い当たることは大体言った気がするんだけどな。
一体何があるって言うんだろうか。
「お手上げ。さすがにわかんねーや」
「世界を科学と魔法のファンタジーに変えちゃった☆」
「……は?」
まさにテヘペロといった様子で言うそれは、理解の範疇を……。
いや考えてみれば、こいつらが理解の範疇に収まった試しがないな。
「とりあえず詳しく」
「ほら、月の接近で魔物が出るようになったでしょ?」
「あぁ、あれは確かにファンタジーだなぁ……。ってまさか」
「うん。俺の魔力に中てられちゃってね。世界中あんな感じに」
「ホントお前って……。はた迷惑な……」
「だーかーらー、俺は遠くで見てるだけにするって言ってたんだよ!?」
必死の抗議に俺と左近は、鬼若を起こさぬようシーッとなだめた。
とはいっても、コイツなら鬼若を寝たままにすることなんて、簡単なんだろうけどな。
「ま、いいんじゃないか。お前が楽しそうなら」
「まあね。多分、悪いようにはならないさ。そのための代理だしね」
「あの人……。いや人じゃないけど、アレもちょっと心配な所あるけどな」
「ともかく、そういう事だから気を付けるんだよ?」
「ああ、もう危ない目に合うのも、俺の代わりに誰かが傷つくのも見たくないからな」
「うん。俺の加護は、鬼若を連れ戻す時に使っちゃったしね」
「ん!? そんなもんあったのか!?」
「あれ? 知らなかった? まあ、もうすでに無いんだから、別にいいよね」
「よくないよ!? もう一回! もう一回下さいよ!」
「やだー。だって俺、今は普通の人間だもーん」
にへへと笑いながらそう言うもんだから、何が普通なのかと問いただしたくなる。
まあいいか、俺だけ特別だってのも不公平だしな。
「それじゃ、俺たちはこれで失礼するよ。すぐに鬼若も起きるから、仲良くね」
「ああ。また遊びに来いよ。今度は友達だからな」
「あー、それ忘れさせるの忘れてた! ま、ありがと」
きっとこれは彼なりの照れ隠しだろう。
少し顔を赤らめながら、彼はそう言うと連絡先の交換をして出て行った。
うん、神じゃなくなったって自由な人だ。
見送った後、いった通りすぐ鬼若は目を覚ます。
「主様、気づかれましたか」
「あぁ。鬼若、今までずっとありがとう。それと、忘れててごめん」
「それは……。仕方のないことです。謝らないでください」
「うん。みんなにもちゃんとお礼言わないとな。って、みんなは無事なのか!?」
「ええ。聞いたところによりますと、主様の力だけで俺たちの居た世界とこちらを繋げたそうで、皆元気にしてますよ」
そういうことか……。おそらく鬼若も俺と同じだったんだな。
死んで異世界になんてのは、よくあるパターンなのか?
ともかく加護ってのを、その異世界との接続に使ったわけか。
「ん? 俺たち?」
「はい。こちらで行方不明になった者、全員帰ってきております」
「そうか、神隠し事件ってのは、そういう事か」
「はい」
あいつめ、なんだかんだこうなる事を見越してやがったな……。
結局最後まであいつの掌の上で踊らされてたわけか。って、そういや名前聞くの忘れたな。
まあいいか、今度聞こう。一緒にどこか遊びに行くのもいいな。もちろん全員で。
「で、気になる事があるんだけどさ」
「はい、なんでしょう?」
「鬼若の行ってた世界ってどんなトコだったんだ?」
「そうですね。では、“最強で最弱魔術師”の話をさせていただきましょうか」
あとがきへ続くのじゃ!
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