爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

860連目 浜辺にて

公開日時: 2021年2月3日(水) 12:05
文字数:3,024

前回のあらすじ

『レオン先生、毛刈りされる』


外注さんの今日のひとこと

『刈った毛をどうしたかだって? 君のような勘のいい読者は(略』



「それにしても、先生って大変だよな。

 こうやって見ておかないといけないし、修学旅行だからって気が抜けないよな」


「えぇ、それが仕事ですからね。

 しかし今回だけでなく、普段からお側に居られず、クエストの召集も気を使わせてしまい申し訳ございません」


「いいのいいの。俺も今は自由に動けるようになったし、仕事に慣れるまでは大変なんだからさ。

 ゆっくりやっていけばいいよ」



 ベルは先生モードを残しつつも、契約者として役に立てていない事を詫びてきた。

といっても俺は別に気にしてないし、鬼若や他の契約者が居るから困っている訳でもない。

むしろ、仕事が終われば身の回りの世話を今までと同じくやってもらっているので、無理していないか心配になるくらいだ。



「それにさ、ベルはマジメすぎると思うな。

 せっかくの修学旅行だし、ちょっとくらい楽しんだって問題ないでしょ。

 教師の役得ってヤツだよ」



 ベルは少し悩む様子を見せたが、隣でブラッシングされ、喉をグルグルと鳴らしそうな表情のレオン先生を見て、小さく微笑んだ。



「そうですね、せっかく南の島まで来たんですもの。楽しまなければもったいないですね」


「ま、さすがに海に入るのは、監督役としてマズいだろうけどな」


「もちろんそれはわきまえていますわ。

 ビーチでのんびりするくらいに留めるつもりですよ」



 そう言うとアイテムBOXからサンオイルを取り出し、体に塗り始めた。

サンオイル用意してたって事は、なんだかんだで楽しむ気満々だったんだな。



「あれ? 日焼け止めじゃなく、サンオイルなのか?」


「えぇ、元々が色白なので塗っておかないと赤くなってしまうんですよ。

 それに、折角なので少しくらいは焼きたいですもの」


「勝手なイメージだけど、焼かないようにしてるのかと思ってたな」


「普段でしたらそうですけどね。ところで……、背中に塗っていただけます?」



 うつぶせになり水着の紐を解き、俺にオイルのボトルを渡す。

あっ、これ漫画とかでよく見るパターンだ! っていやいや、普通にこういう展開あるのか!?


 しかし、この世界がゲームを元にしているなら、そういう展開があっても不思議ではないし……。

なんて現実逃避をしていると、まるで俺が嫌がってるみたいに見えるな。

まぁなんだ、やましい気持ちは無くはないが、隣のブラッシングよりは健全だ。多分。

これは契約主の役得って事で……。




「あっ……。ふふっ、少しくすぐったいですわ」


「おう……、そうか。痛かったりしないか?」


「えぇ。マッサージまでしていただいて、とても気持ちいいですわ」


「そうか……。それは良かった」



 ベルは完全にリラックスモードで、うっとりと目を瞑っている。

それは完全に教師モードではなかった。

その様子に、若干どころではない罪悪感が俺を襲う。



「あぁっ……。まくら様、少し痛いですっ……」


「あぁ、うん。もうちょっと弱めに」


「いやいや、主様を下僕のように使う奴には、もっとキツいお仕置きが必要でしょう?」


「なっ!? 貴様なぜここに!?」



 その言葉と共に、ゴリゴリとオイル塗りという名のマッサージの手を強める鬼若。

それに気付き焦るベルだったが、もうこの体勢、つまりうつ伏せで背中を押さえられている状態では逃げようが無い。



「鬼若のグループも海に来る予定入れてたみたいでさ。さっき着いたらしい」


「遠慮すんなって! かなり凝ってるようだからよ、俺ががっつりマッサージしてやるぜ??」


「待って! あっ……、そこダメっ! 痛いっ痛いっ!!」



 鬼若は日頃の恨みを晴らすように、ゴリゴリと音がしそうなほどに背中に指を這わせる。

うーん、ただ痛めつけてるだけではなさそうだし、さすがにそんな事はしないと思うが……。



「鬼若、ほどほどにな」


「えぇ、もちろんですよ。これはマッサージなんですから!」


「まくら様っ……! 助けてくださっ痛いっ!!」


「あっ! 俺カオリ達を置いてきてるからさ、もう戻るわ!」


「ちょっと待って、あっ……!」



 若干涙目のベルを放置して、ケモナー三銃士を引きつれ、パラソルを後にした。

まぁ大丈夫だろう。本気で嫌なら、いつものように羽衣で応戦すればいいんだし。

というか、羽衣を使えば俺に塗ってもらう必要もないのだから、きっとベルもちょっと悪ふざけしてただけなのだろうな。



  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「そういうわけでさ、ベルもなんだかんだ楽しめたようで良かったよ」


「……まくま君、そんな話をするために呼び出したの?」


「いや、あの時は別行動してたしさ、報告しておいた方がいいかな~って」


「はぁ……」



 昼の賑やかな様子とは打って変わって、シンと静まり返った夜の海。

カオリのため息は波音にさらわれた。月は満月に近く、日が変わろうとする時間だ。

しかし、これは逢引などという不純なものではないぞ!?



「抜け出すのに苦労したんだからね?」


「といってもさ、強制召喚使ったんだから、実際に抜け出したわけじゃないだろ?」


「それでもベッドの中に荷物詰め込んで、寝てるように見せるのに苦労したんだから……」



 修学旅行の夜、それは消灯時間を過ぎれば外出などできるはずもない。なのでこっそりと抜け出したのだ。

俺の場合は、ただクマ型まくらを窓から放り投げるだけで済むが、カオリの場合はそんな事をすれば怪我では済まない。


 なので、同盟システムが契約システムの流用な事を利用し、本来契約者を呼び出すための強制召喚でカオリを連れ出したのだ。

強制召喚システムであれば、帰るときも本人が転送を希望すれば直接戻る事もできる。

それを使えば、カオリに関してはこの秘密の外出がバレる事は無いだろう。

同室の友人に寝ている布団を引っぺがされない限りは。



「まぁ、色々話をしたいなと思ってさ」


「……もしかして、昼の事?」


「まぁな」



 波音と共に吹く風が、カオリの髪を揺らす。

少し遠くを見るその顔は、何を想うのだろうか。



「私は同盟を解消する気はないよ」


「俺に気を使う事は無いぞ?」


「そうじゃないの。これは私の問題だから……」


「そうか」



 ただ一言。俺が言うべき事はない。

カオリがなぜ俺に肩入れするのか、それは気になる所だが。



「ところで、いつアリサさんの事気付いたの?」


「あぁ、海行く前にシーサー作っただろ? その頃から、遠巻きに俺達の事見てたんだよ」


「えっ? 私全然気付かなかった」


「だろうな。だからあの時、ベルの所に行ったんだ」


「ヨウコさんと二人きりになるように……?」


「そういう事」



 俺のクマイヤーは地獄耳。ずっとアリサがカオリに近づくチャンスを窺っていたのは知っていた。

そして何を話していたかも、全てではないが聞こえていた。

それは、前の奇襲作戦の謝罪と、アリサの同盟への勧誘だった。


 おそらくだが、カオリがアーニャの爺さんであるセイヤと契約している事が関係しているだろう。

孫の入っている同盟にカオリを入れてしまおうと、あの爺バカは考えたんじゃなかろうか。

そして、そのためには、同盟のトップであるアリサとカオリを和解させて、アリサから提案させようとした。

そういった所だと俺は考えている。もちろん確証はないけどな。



「内容も知ってたんだよね?」


「もちろん」


「なんで知ってたか聞いていい?」


「まくらイヤーは地獄耳だからな!」


「へぇ……。まくま君の近くでは内緒話もできないね」


「って普通の反応だな! いやまてよ“悪魔イヤーは地獄耳”だったかな」


「……?」


「あれ? テレビネタなのに通じない?

 これがジェネレーションギャップか……」



 何の事だか、と言いたげにキョトンとするカオリだった。

『地獄耳は、まくらでも悪魔でもなくてデビルでは?』


世代がバレるぞ。


『さすがに俺もリアルタイム視聴世代ちゃうよ!?』


まくらウィングや、まくらビームもあるのかな?


『初期に空は飛んでたけど、ビームはまだやね』


というか、このネタに気付く人居るのか疑問だな。


『わかルマン』


よし、ノルマ達成。


『そういや前回まくらが言ってた“あともう一人のために”って、アリサの事やったんね』


それこそ細かすぎて気付いた人居ないだろうな。


『わか……』


それはもういいから。

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