前回のあらすじ
「あやしい会議で、客寄せクマさんをさせられる事になったのじゃ」
ガチャ神の今日のひとこと
「最近、食べ物系の話多くないかのぅ?」
「はい、これはクロの分ね」
「わーい! ありがとうございますっ!」
今日は2月14日、バレンタインデーだ。
なのでいつもは放課後にイナバとクロの特訓をしているのだが、プレゼントを渡しに回るため休みとしている。
といっても、最近は色々と忙しかったのもあって、毎日特訓してた訳でもないけどね。
いつもの公園で、カオリはクロにバレンタインのプレゼントを渡している。
中身は骨型のクッキーで、ホワイトチョコでコーティングされたものだ。
完全にクロ向けのデザインだけど、俺とカオリはこのクッキーを量産して、全契約者と知り合いへのプレゼントにした。
作るのはなかなか大変な作業だったけど、例の獣人好き達と共同で作ったので、数のわりには苦労しなかったな。
彼らもお気に入りの獣人にプレゼントするらしく、俺達への獣人に対する注意や指導もかねて、快く引き受けてくれた。
おかげでクロやバウム、イナバなどの契約者達に安心して食べてもらえる物に仕上がったので、作りながら色々聞かされたウンチクにイラッとした件は、水に流してやろう。
あいつらと言えばビラの配布もあったが、レオン先生の口利きがあり、全校生徒に注意喚起のプリントが配布される事になったので、学校でのビラ撒きはせずに済んだので安心していた。
……のだが、それならば街でも広報活動しようとなって、結局色々な店に張り紙をさせて貰う交渉役をやらされていた。
そういった活動があったおかげで、ベルや鬼若そしてクロと別行動ができて、秘密裏にプレゼントの準備ができたんだけどね。
そんな苦労したプレゼントとは別に、クロは既にもう一つ包みを持っている。
それは、ベルからの分だろう。同じ包みを俺もベルからさっき受け取ったしな。
透明な袋に入っていて、渡す相手によって色違いのリボンで結ばれている。
中身は全部丸いチョコっぽいんだけど、相手によって大きさが違うし、何か違いがあるんだろうか?
ちなみに、確認したら、獣人対応済みとの事だ。そういった事も料理と共に勉強しているらしい。
ベルはそういう勉強をして、いたい何を目指しているのか疑問だが、おかげで俺がうっかりしていても、フォローしてもらえるので助かるな。
「それでね、クロにはセイヤさん達とまくま君の契約者さんの分を持っていってもらいたいの。
お願いできるかな?」
「はいっ! 荷物のお届けは得意ですよっ!」
「クロ、悪いが頼んだぞ。その分と言っちゃなんだが、俺からのクキーは2倍だ!」
「わーい! えへへ、これでしばらく、オヤツには困りませんねっ!」
そういってクロは、ニコニコしながら配達分を持って駆けて行った。
配達に別の意味がある事とも知らずに……。
「で、こっちが鬼若の分」
「ありがとうございます。申し訳ございません、バレンタインというイベントを知らず、プレゼントを用意しておりませんでした」
「いや、いいよいいよ。俺だって、こっちでは男からも渡すって習慣知らなかったし、イベント自体を知らない人がいても不思議じゃないさ」
「鬼若君、大丈夫だよ。三月十四日にホワイトデーっていうのがあって、貰った人にその時に返すイベントもあるからね」
「カオリ……、それは“お返し期待してる”って言ってるようなもんだぞ?」
「あっ、そんなつもりはなかったんだけど……」
鬼若はバツの悪そうな顔をしていたが、返すチャンスがあると知ると、少し安心したようだ。
カオリに聞けば、バレンタインにプレゼント交換した場合は、ホワイトデーは何もしないらしい。
そりゃそうだよね、二ヶ月連続でプレゼントの贈りあいは予算的にも厳しいだろうし。
「ベルにはこっちな」
ベルにはバレンタインのプレゼントとしてのクッキーと、日頃の感謝を込めて一つ別の包みを渡す。
このプレゼントをクロが見たら羨ましがるだろうと考えたので、俺はクロに配達に行かせたのだ。
クロには悪いが、大人とはこういう悪知恵を働かせるものなのだよ……。
プレゼントの中身はカオリと一緒に選んだので問題ないと思うが、気に入ってもらえるだろうか。
「あら、我は二つも頂いてよろしいのですか?」
「あぁ、いつもありがとうな。これは俺とカオリからの、お礼の気持ちだ」
言うまでもなく「いつもの礼」というのは、弁当の事だ。
それに俺はまくら姿というのもあり、それ以外にも助けられているからな。
「開けてみてくれ」
「では、お言葉に甘えて……」
ベルはラッピングを綺麗に解くと、そっと箱を開け微笑む。
どうやら気に入ってもらえたようだ。慣れた手つきで、中の物を着けてみせてくれた。
それは金色の小さなイヤリングだ。
小さいながらも装飾の珠がぶら下がっており、ゆらゆらときらめく、なかなか凝ったデザインだと俺は思う。
カオリがそれを見つけた時、俺はその様子に風鈴やドアベルを連想してしまい「ベルに鈴をプレゼント」などという、オヤジギャクを言いそうになってしまった。
ぐっと堪えたが、中身はオヤジと言われて差し支えない歳だ、許して欲しい。
そんな俺の、残念な脳内など知らないベルは、嬉しそうに耳元を飾るそれを撫でている。
「素敵なプレゼントを、ありがとうございます。大切にいたしますわ」
「喜んでもらえてよかったよ。カオリに選んでもらって正解だったな」
そんな俺に対し「ベルさんなら何でも似合いそうだよ」なんてカオリは言う。
そうかもしれないけど、カオリに選んで貰った事に意味があるのだ。俺のセンスの悪さを披露しないためにな。
しかし、ベルに特別なプレゼントをしたというのに、鬼若の反応がない。
さすがにクロのように羨ましがる事もないだろうと思っていたし、ちゃんと大人の対応をできるヤツだったかと感心していた……、のだが……。
目をやれば、顔を真っ赤にして今にも泣きそうになっていた。
「ん? どうした鬼若!?」
「いっ……、いえ、なんでもっ……、ありませんっ……」
どう見たってなんでもない様子ではない。
ベルをうらやましがったり、俺にはないのかと言い寄ってくるならまだ分かる。
けれど今の鬼若は、必死に涙を堪えようとして手を握り締め、クッキーは完全に砕けてしまい、ベルからのチョコレートは溶けてその手から逃れるように流れ出している。
少なくとも俺の知る鬼若は、人の厚意を握りつぶすようなヤツではない。明らかに異常だ。
「鬼若君、とりあえず座って落ち着こう、ね?」
カオリに促されベンチへと腰を下ろす鬼若は、もう我慢の限界のようだ。
最近ずっと様子がおかしいとは思っていたが、俺の知らぬ所で何かあったのは間違いないだろう。
そして、カオリは何か知っている。それを確信するだけの言葉を、自ら発した。
「まくま君、鬼若君は最近勉強会とかで忙しかったから、きっと疲れてるんだよ」
「そうだな、それは俺も知ってる。そんなに大変だったのか……?」
神社の掃除の時もそうだ。カオリは、俺が何があったかを聞き出そうとするのを、未然に防ごうとしている。
そして、カオリは取って付けたような理由で、話を逸らそうとしている。
もちろん最近カオリと鬼若が一緒に居るところをよく見かけていたので、その時に近況を話していたから、カオリの方が事情を良く知っている可能性はあるだろう。
けれどそれならば、鬼若が俺にそういった事を話さない理由が分からない。
つまり、俺に隠さないといけない“何か”があるんだろうと俺は確信していた。
もぐもぐもぐもぐ……。
「邪神堕ちを防ぐためにチョコを持ってきたが……」
もぐもぐもぐもぐ……。
「まさか、チョコを食べたいからあんな事言ってたのではなかろうな」
もぐもぐもぐもぐ……。
「そういえば11月にも、チョコ菓子を一心不乱に食べておったのぅ」
もぐもぐもぐもぐ……。
「まさかこやつ、ただのチョコレー党なだけでは……?」
もぐm……。ガチャ神ちゃん。
「ほれ、無糖のミルクティーじゃ」
気がきくじゃん。もぐもぐもぐもぐ……。
「だてにずっと一緒に後書きを担当しとらんわ。って、聞いとらんな」
もぐもぐもぐもぐ……。
「こうやっていれば、なかなかかわいいもんなんじゃがのう……」
あ、ガチャ神ちゃん、鬼若が何でショゲてるか調べてきて。
「!? パシリ回避したと思えば、今度は調査じゃと!?」
文句言わないのー。
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