前回のあらすじ
『獣人はハンターに狙われているようです』
前書き代打の今日のひとこと
『そういえば、ガチャ神さんは今頃何してるんやろな?』
ヨウコにひとしきりもふもふされた昼休みも終わり、退屈な授業を二つほど乗り越えれば下校の時間だ。
もちろん今日もクロの特訓をするのだが、最近はその相手がベルから変わり、イナバとクロの組み合わせで行っている。
イナバは、俺がサンタの爺さんから貰った契約石で契約した新メンバーで、ウサギの獣人だ。
しかし、これがまたビビりで泣き虫なのだ。
ベルに使う予定だった育成素材を使ったので、レベル上げ自体は終わっているのだが、その性格のせいでクロに軽く吠えられるだけで震え上がってしまい、力を出せずにいる始末だ。
実際の強さを考えれば、レベル上げを完了していないクロと互角に戦えるほどであるはずなんだが……。
これが、ガチャ神の言っていた「ゲームを元にした、ゲームではない世界」だからなのだろう。
純粋にレベルで全てが決まる訳ではなく、経験や場慣れが必要なのだろうね。
ベルもそれを知っていたから、育成素材でのレベル上げに否定的だったのか。
まぁ、イナバに関して言えば、ゲームであっても自身が戦うタイプではなく、味方の支援に重きを置いたキャラクターなので、クロとは基本的に立ち位置が違うのだし仕方ないか。
そんな風に、これからの契約者の育成計画というか、どういう運用をしていこうかなんて事をボンヤリ考えながら、帰り支度をしていたのだ。
「カオリ、帰ろうか」
「あっ、ごめんね。先生に呼ばれてるから、少し待っててもらえる?」
「ん? 何かあったのか? 手伝おうか?」
「サンタ工場の手伝いでしばらく休んだから、その関係で提出物があるだけだよ」
「そうか、じゃあ俺はここで待ってるよ」
なるほど、クエストで休んだ分は授業の埋め合わせをしてくれるのか。
契約者の教師に対するサポートも充実しているが、生徒に対してもそういった制度があるようだ。
ガチャ神の創った世界のわりには、意外としっかり創り込まれているな。
あれでも神様だし、最初に会った時は思わなかったが、意外とちゃんとした神様なんだろう。
しかし、少し暇になったな。本格的にイナバの育成計画でも立てておこうかな、なんて思いつき、ノートと筆記用具を再び取り出そうとした時、悲劇は突然訪れた。
「おや熊殿、お一人ですかな?」
「ちょうど良いですな。我らと、少し話しをしようではありませんか」
「とってもいいお話があるんですよー? それはとっても!」
例のケモナー三人組にロックオンされてしまった。
三人は、にこやかにしているが、逆にその笑顔が俺を不安にさせる。
「えっ……。いや、別に興味ないかな……」
「何も話を聞かずに、興味がないと?」
「まあまあ、三人がかりで来たので、びっくりしておられるのでしょう」
「熊殿に危害を加えるつもりなどないのですよー? 怖がらないでねー?」
……。今まで下心を持って他の奴らと接してきた罰なんだろう。受け入れるしかあるまい。
いや、話の内容次第では全力で逃げるけども!
「……。わかった、話だけは聞こうか」
「フフフ、熊殿もきっと気に入っていただけますよ」
「さっそくですが、コレを見てもらいましょう!」
「ささっ! 熊殿はどれがお好みかなー!?」
ドン! と机の上に出されたのはぶ厚い本だ。
なんとなく手を出しづらくて眺めていれば、1ページずつめくって説明される。
それは、毛皮の見本だった。
「私のオススメはこれでしてね、毛足が短く、滑らかな手触り、色も黄金色で美しいでしょう?」
「いえいえ、こちらの長毛もなかなか良いものでして、毛並みを逆から撫でれば、手がうずもれる心地よさがたまりませんよ?」
「変り種の、ドレッドヘア風もなかなか良いと思うよー?」
三者三様に思い思いの毛皮をオススメしてくる。
なんだか怪しい販売員を家に上げてしまった感じになっているが、一体何がしたいのだろうか?
「いや、どれが良いかなんてよくわからないし、オススメされる意味も分からないんだが……」
「いえいえ、簡単な事ですよ。熊殿の毛皮をどれにするか、選んでもらおうという話ですよ」
「我らでは結論が得られませんでしたからね。
ここはやはり本人……本熊? に決めていただこうかと」
「心配しなくても大丈夫! これはフェイクファーだし、お金もこっちで用意してるからねー?」
あっ……。やっぱりこいつらヤバい奴だ……。よし! 逃げよう!!
その決断と共に、俺は転がるように椅子から降り、一目散に駆け出した。
しかし、ドアをくぐり廊下に出ても、助けを求められそうな人は居なかった。
「急に駆け出して、どこへ行こうというのです?」
「廊下は走るものじゃありませんよ?」
「人生のように、一歩一歩、着実に歩むものだよねー?」
なんか聞こえるが無視だ無視! 全力で逃げるのみ!
しかし、リーチの短い足では速く走れるはずもなく、「てちてち」という足音がしそうな足取りだった。
本気で追いかけられたら追いつかれる、そう思った俺は、丁字路での急カーブを思いつく。
ベルの羽衣製の体ならば、よく伸びるだけでなく、グリップ力も抜群だ。
ならばコーナーで差を付ける事もできるはず!
そう思い、急ハンドル……いや、ハンドルは無いが、「キュッ!」という音と共に、丁字路を勢いよく曲がりきった。
しかし、廊下は走るものでは無いと思い知る事となる。
「ドン!」という音はせず、せいぜい「ポフッ」といった感じで、誰かとぶつかってしまったのだ。
「こら、熊。危なイだろ。廊下ははシるな」
聞こえてくる独特の喋り口調に俺は聞き覚えがあった。
「い」の発音が苦手な相手、そして俺の事を知る人物。そして低いながらも良く通る声。
恐る恐るその姿を見上げれば、黒い鬣(たてがみ)と、金の瞳が特徴的な獅子獣人、レオン先生だった。
「ごっ、ごめんなさいっ! あっ、いいところに! 助けてくださいっ!!」
「ん? どうシた? なニか困リ事か?」
そうこうしていれば、後ろの丁字路から例の三人組がゆっくりと歩いて姿を見せる。
俺はサッとレオン先生の後ろへ隠れ、彼らの動向を警戒していた。
「ん? おまえら、熊ニなニかシたのか?」
レオン先生は聞き取りにくい喋り口調で話すが、皆慣れているのか何の違和感もなく会話ができるようだ。
もちろん例の三人もそうであるので、何を言っているのか聞き返す事もなく、そしてなにより、悪びれる事も無く正当性を主張しだした。
「これはこれはレオン先生、お会いできて嬉しいですよ」
「我らはただ、熊殿とお話をしていただけなのですが……」
「なぜか途中で逃げられちゃったけどねー?」
「いや! お前ら、俺に毛皮を付けようとしてたんだろ!?」
俺が言い返しても、彼らは「それが何かいけない事なんですかね?」と言いたげな顔で……というか言っていた。本当に悪気がないのだろうか……。
「まぁイイ。はなシはせイとシどうシつで聞こうか」
「はいっ! 喜んで!」
「……やったぜ」
「んー? なんか予定と違うけどまあいっかー」
三人はこれまた三者三様の反応を見せ、レオン先生に連れて行かれた。
うーん……助かったけど、俺は先生の方が心配です……。
ってことで! 1月章これにて終了!
『この終わり方でいいんか!?』
レオン先生のご冥福をお祈りします……。
『レオン先生死ぬんか!?』
それは二月のお楽しみってことで!
次回は3時間後!
『えっ、一月章終わりやったんちゃうん!?』
今日の残り二回は“ガチャ神ちゃんの異世界★観光”の報告だよ~。
『報告させるって、それほぼ仕事では』
タダで観光させると思うなよ?
『神の世界も厳しいんやなぁ……』
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