爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

510連目 死の行進

公開日時: 2021年1月16日(土) 12:05
文字数:3,014

前回のあらすじ

「学園運営局が不穏な空気なのじゃ」


ガチャ神の今日のひとこと

「スタドリは用法用量を守って、正しくお使いくださいなのじゃ」

 局長に促され、くぐり抜けた扉の先。それは、言葉を失う光景だった。

どんな単語も、目前に広がる混沌とした様子を表現するには力不足だ。


 そこには、書類がいくつもの山をなし、山脈と呼べるような状況である。

一部は崩落し、雪崩を起こした山もあれば、いまだ形を保ってはいるが、息を吹きかけるだけで崩れそうななもの、今まさに積み上げられ、いずれ山となる成長途中のものなど様々だ。


 それらのふもとには、弁当の空き容器や飲み物の缶、中にはケーキやシュークリームが入っていたであろう空き箱なども見える。

それらが集められる事もなく、ただその場に投げ捨てたように散乱し、中身がこぼれたのかタオルやティッシュで拭いた様子があるが、それらもただ丸めて雑然とうち捨てられ、黄ばんでしまっている。


 ただ、季節のせいか、もしくは例の結界が虫を通さないのか、ハエなどに集られている様子はない。

色々な匂いが混ざって、鼻のあるクマ姿になった事を少し後悔する程度には、異臭が立ちこめているが……。



 そこはまさに、足の踏み場のないゴミ屋敷。

そんな中で、モゾモゾと色とりどりの薄汚れたボールたちがうごめいている。



「これは……、ひどいな……」


「みんな仕事に追われて、片付けもできない状態なんだぜ」



 局長は少し顔色が良くなったが、他のボール、つまり職員たちと同じく未だにげっそりとした様子で語る。



「一体どうしてこんなことに……」


「君のせいなんだぜ!!」



 ぷるん! と体を震わせて局長は声を荒げる。

いや、身に覚えがないんだけどな……。



「悪かったんだぜ、君のせいってだけで、確証はないんだぜ」


「いや、おそらくでもなんでも、なんで俺のせいになってんの?」


「それは君がその姿……。あれ? なんでクマ姿なんだぜ??」


「いまさらかよ!!」



 どうやら運営の職員達は相手の魔力で誰だかを判断しているらしく、局長も俺を姿ではなく魔力で判別したようだ。

まぁ、カウンターで俺の事をクマだと認識したようだが、疲れきっていたためその事に違和感を覚えるのが遅れたようだ。

いや、大事なのは局長がなぜそこまで疲れているかと、この惨状の原因だ。



 おそらく俺のせいというのは、俺が転生してから不具合が頻発している事。

さらに、俺が関わった人や、行った先で不具合の発生率が高い事などからの推測らしい。

しかし俺自身は、その不具合に遭遇していないんだが……。もしかすると、運0の効果で“幸運は掴めないが、不幸にも遭わない”というのが、俺をそれらの面倒事から守っているのかもしれないな。



「なんかごめんな、知らないところで迷惑かけてるみたいで」


「まったくだぜ! と言いたいことろだけど、本当の原因はわからないんだぜ」


「でもさ、状況から考えて俺のせいっぽいし、何か手伝えることはないか?」


「その言葉を待っていたんだぜ! 今はクマの手も借りたいんだぜ!!」



 あ……、うまくのせられた!? こいつら、見た目に反してやり手だな……。

しかし、考えようによっては運営の内情を知るチャンスだ。ハメられたフリをしておこうか。



「じゃあ、借りる手ってのは、多い方がいいだろ? 表に待たせてる奴らにも手伝わせようぜ」


「うーん……。まぁ、見られて困るようなモノもないし、いいんだぜ」



 表に待たせてあるというのは、もちろんカオリ、クロ、ベル、そして鬼若だ。

来訪者は運営にとって脅威になりかねない存在であるのは、結界を張ってある事からも分かるとおり。

だからカオリ以外は職員に警戒されてはいけないと、玄関ホールで待たせてあったのだが、今頃はカオリが連れてきてくれているはずだ。


 局長と俺は、ぽよぽよ、てちてちといった足音がしそうな足取りで、カオリ達を迎えに行くのだった。



「……これは」



 そして案内された面々は、俺と同じく事務局の惨状に絶句していた。

特にベルは、きれい好きで掃除上手な事もあってか、今にも怒り狂いそうなオーラを放っていた。

だが、職員達がみな一様にゲッソリとした様子を見ると、ドス黒い笑みを浮かべてる。

そういえばベルは、運営の事をえらく嫌っていたもんな……。



「まくら様、奴等の仕事を本気で手伝うおつもりですか?」


「まぁ、困ってたら助けてやりたいし」


「でも……、どこから手を付けていいのかわかんないね……」



 カオリのやる気を失せさせるほどの惨状、そして今も現在進行形で荒れて行く現場。

おそらく片付けたところで、仕事に追われる職員達が即座に散らかしてゆくだろう。



「なぁ局長、不具合のせいにしては、事務局の荒れようは異常じゃないか?」


「それは……、職員の統率が取れていないせいなんだぜ……」


「いや、お前自分の立場分かってる? ここのトップである局長がそれ言っちゃダメでしょ」



 その黄色い頬をぷにぷにとつつきながら呆れ顔で言ったのだが、クマの呆れ顔に気付いた人はいるだろうか。



「……こっちにも事情があるんだぜ。だから、それも含めて手伝って欲しいんだぜ」


「ってことは、俺に頼んだのは、職員達を指揮して欲しいって事だったのか?」


「そういう事だぜ! SSR★7二人だけでなく、多くの来訪者を管理監督できる君なら、きっとできると思ったんだぜ!」


「買いかぶりすぎだとは思うけど、やるだけやってみるか」


「頼むんだぜ! あと、ちゃんとクエストとして処理するから心配いらないんだぜ!

 今夜は外泊するよう、各寮にも伝えておくんだぜ!」


「おい! 泊まり込み前提かよ!!」


「 逃 が す わ け な い ん だ ぜ ? 」



 やべぇ……、局長が本気の目をしてやがる……。

やると言ったからには逃げるつもりはないけど、俺以外は帰してやって欲しいところだ。


 ともかく、まずは局長とのすり合わせだ。船頭多くして船山に上るなんて言葉があるくらいだ。

どこまで俺に任せるかを確認、そして今後は局長と俺の二人一組……二匹一組? で動く事になる。



「局長権限で全てを任せるんだぜ。私は君の補佐に専念するんだぜ」


「それじゃ、まずは掃除だ。こんな状況では効率的な仕事なんてできないからな」


「では、我が掃除の指揮を執らせていただきます」


「よし、それじゃ掃除はベルに任せる。

 クロは受付に立って、来た人に今日の業務はできない事を伝えた上で、用件をメモに纏めてくれ。それらは後日対応する」



 ベルはすかさず自身のやるべきことを理解する。もはや阿吽あうんの呼吸と言っていい。

しかも、自身だけでやるわけではなく、職員を率いる事も把握していた。事実上、俺が事務局を動かすのだがら、職員を手足にして掃除も行うであろうと瞬時に判断したのだから、さすがの一言に尽きる。


 クロも掃除係でいいかとも思ったが、職員はできる限り中に入れてしまいたい。

実情を分かっている者でなければ、この散らかった書類の要不要の判別ができないからな。

これにはもうひとつの事情もあるが……。



「……主様、俺は何を手伝いましょうか」


「鬼若は……。そうだな、泊まり込みになるし仮眠室を用意して欲しいんだが、空いてる部屋ってあるのか?」


「それならここは避難所に指定されてるから、毛布とかはあるんじゃないかな?」


「そうだぜ。それに医務室にはベッドもあるし、調理室やシャワー室もあるんだぜ」


「それじゃ、鬼若とカオリはそっちの準備を頼む。各自終わり次第俺に報告してくれ」



 無駄に施設が充実しているが、事務局は籠城でも想定しているのだろうか……。

まぁいい、とりあえずそれぞれに仕事を割り振れた。

さて、溜め込んだ仕事とやらは、どのようなものなのだろうか……。

腐ってやがる! ゆっくりしすぎたんだ!!


「フリーダムに磨きがかかっておるのぅ……」


特に言う事も無いので。


「後書きの深刻なネタ不足なのじゃ」


本文がネタまみれで困惑しているとも言う。


「やりたい放題じゃからのぅ」

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