前回のあらすじ
『アリサ、高笑いにて再登場』
外注さんの今日のひとこと
『なぜ悪役令嬢じゃなく、アホの子令嬢になったのが未だに謎』
少し話がしたいと、アリサと向き合うセルシウス。
少々気まずい沈黙が流れ、先に根をあげたのは大方の予想通りアリサの方だ。
「なんですの!? 用があるなら早くおっしゃいなさい!!」
セルシウスはただ黙っている。
元々かなり嫌っていたようだし、いきなり手を出して殴り合いになる……、なんて事はさすがに無いと思うのだが……。
けど、さっきアリサが俺に報復するとかなんとか言ってたしなぁ……。
なんて、内心ドキドキしていた俺だが、口を出せる空気ではなかった。
その時、セルシウスのマントが揺れる。すっと手を差し出したのだ。
「……なんですの、その手は」
「仲直りの握手」
「……? 意味が分かりませんわ」
「今までヒドイ事言ってゴメンね」
「なっ、なんですの! 突然気味の悪い!」
どういった心境の変化か、あれほど嫌っていたアリサと仲直りしようなどと言い出したのだ。
俺も気味が悪いとまでは言わないが、正直面食らったね。
「色々考えたんだけどさ、今まであった事って“そういう風に創られた”モノなんでしょ?
ならボクがキミを嫌う理由も、ただ“そう創られた”だけなんだよ。
それなら、今までの事は無かったことにしてもいいんじゃないかなって思ってね」
俺に悟らせないほどにいつも通りだった彼女だが、彼女もまた“世界の真実”に悩んだ一人だったのだ。
自身が何者で、これからどう生きればいいのか。闇の中を歩くような心細さを抱えていたのだろう。
サンタの爺さんの話に、誰よりも先に拍手を送ったのは、彼女の“空気を作る”という性格だけが影響したわけではなかった。
彼女もまた、爺さんの話に救われた一人だったのだ。
「つまり……、今までの事は水に流して仲良くしましょ、って事かしら?」
「そゆこと」
「まっ、まぁ……、そこまでおっしゃるなら、考えなくもなくてよ?」
「素直じゃないなぁ……」
苦笑いするセルシウスと、少し顔を赤らめ、扇子で顔を隠すアリサ。
彼女たちの手は、しっかりと握られていた。
その様子に俺は、若いっていいなぁ、などと爺臭い感想を抱いてしまった。
そして、なぜかガチャ神は、キモチ悪いニヤけ面をしていたが……。見なかったことにしよう。
「くらちんごめんね、大事な時に時間とらせちゃって」
「いいんだ。ケリ、付けておきたかったんだろ?」
「……うん。助かるか助からないか分からないけどさ、引きずったままなのはヤだったんだ」
「そっか。ま、安心しろ、お前らだけじゃない、みーんな助けてやるさ!」
ひっかかりが取れたのか、セルシウスは少しはにかんだ。
二人のためにも……。いや、みんなこうやって変わっていって、未来を創っていくんだ。
そんなやつらのためにも、失敗は許されない。
「大見得を切るのは結構。ですけど具体的にどうしますの?
わたくしは現地民の未契約者だった方とは、全て契約しておりますわ。
その後、何かすべき事があるのではなくて?」
「アリサ、助かるよ。契約が完了していれば、その人達とは特に何もしなくていい。
あとは未契約状態の来訪者全員と契約できれば完璧だ」
「誰と契約させればいいのかしら?」
「誰でもいい。だから契約主を集めて、全員で契約式を行う。
未契約者の人数次第だが、契約石の配布数を考えれば無茶ではないはず……」
正直、不安がないと言えば嘘になる。
俺は契約状況を知っているわけではないし、契約主の人数も把握していない。
想定以上に未契約者が多く、契約主が想定より少なければ計画倒れの可能性もある。
そして何より、未契約者のレイアリティが高ければ、排出率の低さから契約できない恐れもある。
その点を補うために、アイリに“キャラクターのみが出るように”ガチャの確率調整を行ってもらったわけだが……。
奥の手として、ガチャの内容自体操作してもらおうか……。
「なぁアイリ、ガチャの確率って操作できるか?」
「……無理。……ここでの変更は、他のプレイヤーに影響が出る恐れがある。
……さっきの確率操作は、元々決まっていた事だからできただけ。
……末端社員の私には、その権限もないしね」
「自力で引き当てろって事か」
弱気な考えが頭をめぐり、完全な不正行為を提案した俺だったが、あえなく却下されてしまった。
しかし、俺が引き当てる必要はないのだ。おそらく“普通の運の持ち主”なら大丈夫、そう信じるしかないな。
そう考えていると、アリサの後ろに控えていたヨウコが紙の束を差し出した。
「全員と契約を行うなら、こちらを使ってはどうでしょう」
「なんだこれ?」
「学園都市の住民名簿ですわ。わたくしが契約者を集める時に使っていましたの。
これで誰が誰と契約しているか、一目でわかりますわ。もちろん未契約者の状況も」
「個人情報流出してんじゃねえか!」
「今はそんな事言っている場合でして?」
「そうなんだが……」
確かにありがたい。このリストさえあれば、再確認は必要だが今の契約状況を把握できる。
感謝こそすれど、文句を言う事ではない。そして何より、アリサ陣営は対応が早かった。
俺達が話している間にも、さっと手分けして、契約主を集めてきたのだ。その数20人ほど。
「え? これだけしか居ないのか?」
「えぇ。候補者はそれなりに居るのですが、実際の契約主は24名です」
俺の言葉に返答するのはアルビレオ。
慣れた手つきで、資料に修正を加えながら説明してくれる。
「思っていたより少ない……。これって、未契約の人数によっては厳しくないか?」
「そちらにつきましても調べております。未契約者は現段階で63名。
一人当たり約2.6名となりますので、悲観するほどではないかと思われます。
未契約者の危険度に関してはこちらに」
修正を終えた資料を手渡され、最初に見たのはもちろんSSRの人数だ。
俺だと100回契約式しないと手に入らないのだから、非常に重要な数字である。
彼らの人数が、今回のミッションの成否を分けると言ってもいい。
全員助けると言ったのだから、誰一人欠けさせるつもりなどない。
「SSRは4人か……。なんとかなりそうだな」
『キマシっ……! ゴホゴホ、失敬』
「……」
『ツッコミどころか、完全スルー!?』
「私だって考え込む事くらいあるんだぜ」
『なにさなにさ? まさかの恋の悩み??』
「……外注だとか作者だとか言ってるけど、君は何者なんだぜ?」
『あー、それね。うーん、そうやなぁ……。写真家みたいなもんかな?』
「全然わかんないんだぜ!」
『湖面の朝霧を写すようなもんかな。
風に吹かれても、少し時間を空けるだけでも消えてしまうような、そんな儚い世界を写す者』
「……つまりこの世界も幻って意味なんだぜ?」
『その辺はわからんなー。ま、上神様は俺を“世界の固定者”なんて言ってたけどな。
あ、これに関しては、なろうの短編になんかあった気がする』
「だから、結末まで知ってるってワケなんだぜ」
『そりゃね。もうすぐ終わる予定やし』
「……その結末で、本当に満足できてるんだぜ?」
『おー、今日はえらい攻めてくるやん?』
「私は、聞いた結末じゃ納得できないんだぜ」
『……ま、その辺の話は〆た後しよっか?』
「わかったんだぜ」
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