前回のあらすじ
「交渉決裂、バトルスタンバイ! じゃ」
ガチャ神の今日のひとこと
「何事も、段取り八分というやつじゃ」
「では、第二回アリサ対策会議を……」
「そういうのいいから、早く本題に入って」
「いや、こういうのは形から……」
カオリのジットリとした目つきに、俺も黙るしかない。
って、それはどうでもいいんだ。
俺達はアリサとの対決を翌日に控え、再び作戦会議を開いていた。
とはいっても、さすがに今回はヨウコを招いたりはしていない。
むしろ人数を減らし、実際のバトルに関わる者を中心とした、実務的な会議を行うつもりだ。
その前に、今はバトルに参加できないSSRへの説明会を開いている。
まぁ、対象者は鬼若、ベルの二人だけどな。あとは俺とカオリ、クロの計5人だ。
ちなみに、サンタの爺さんことミタ爺は呼んでいない。知らせない方がいいだろうというカオリの配慮だ。
「で、バトルの概要は事前にメッセージで送った通り。
鬼若とベルはメンバーから外れる事になる」
「主様。お言葉ですが、かのような行いをする相手に、こちらが戦力を合わせてやる義理など無いと思うのですが」
鬼若の意見に、いつもはいがみ合うベルですら、肯定の意思表示としてうなずいている。
まぁ、普通に考えたらその通りだし、今の状況を部外者が見れば、俺が手加減しているようにしか映らないだろう。
「その意見はもっともだ。けど、それはバトルで勝敗を決めるのが目的であればの話だ。
今回の目的は別にある。それは、アリサが契約主として優秀かどうかを見極める事だ」
「しかし、まくら様がそのような事をする必要はありますでしょうか。
それは学園運営局の役割かと我は考えます」
感情に根ざした義理を論拠とする鬼若に対し、ベルは必要性・役割と理性的な観点から主張する。
こういう相手は、逃げ道を塞いでくるので、議論をする場合やっかいな相手だ。
「それも反論の余地はないほどもっともな意見だ。
けどな、負けたときの条件とも関わる話なのだが、どうやら学園運営局は、契約主同士の対立を減らしたいらしい。
同盟システムもその目的があって作られたようだ。
だから、いずれ契約主は、みなどこかの同盟に入るのが普通になるだろう。
なら俺は、俺より優秀な奴の下になら、入ってもいいと思っている。
別に、俺はお偉いさんの立場にこだわってないからな」
ちょっと回りくどい言い方になってしまったが、それに誤魔化されるベルではないし、むしろちゃんと言いたい事を理解してくれるだろう。
アリサが優秀であると証明されれば、優秀なトップの下に付くのは何らおかしな事ではないし、むしろ面倒事を押し付けられるので、メリットとも言える。重責は誰かに背負わせた方が楽なのだ。
「では、同盟に入り込むために、わざと負けるおつもりなのでしょうか」
その言葉にはさすがの俺もビクッとしてしまった。
闘争心などとうの昔に捨てたつもりでいるが、わざと負ける?
そんな事、廃課金・廃周回しか取り得が無いとはいえ、ゲーマーとして許すわけが無かろう!
「何を言っている。やるからには全力で叩き潰す! それが礼儀ってもんだ!!
そのためにこの一週間、寝ずにメンバー選出と、作戦を考えていたんだぞ!!」
「まくま君は、寝る必要ないんじゃなかったっけ……?」
「カオリ! 問題はそこじゃない! 大事なのは俺が本気だって事だ!!」
「主様、決闘は本気でなきゃ、ツマンネェですからね!!」
「だろう鬼若!!」
「いつになくやる気なのはいいけど……。勝てそうなの?」
「もちろんだ! なにせこちらには、イナバとヨウコの情報があるんだからな!」
ヨウコは、どうやらアルビレオの提案する悪巧みに元々乗り気ではないらしく、その上非常に好条件な同盟の提案をアリサが蹴った事を、気に病んでいるらしい。
そのため、裏切り行為であると分かっていつつも「止められてはいないから」と、決闘に参加するメンバーの情報を渡してくれたのだ。
それは結果から言えば、あまり意味をなさない情報だったけれど、想定外の状況を考慮せずに済むようになったので、かなり気が楽になった。
そして、それ自体がブラフである可能性を考えて、イナバにも裏を取ったのだ。
二人の言う事に矛盾もなかったし、イナバとヨウコがグルでない限り嘘は含まれていないと、俺は判断した。
「それって、ズルしてる気がするんだけど……」
「相手の戦力を削ぐでもなく、ただ相手のメンバーが誰か知っているだけだ。
戦闘スタイルやスキル、作戦自体を聞いた訳じゃないから、バトル自体にはなんら不正はないだろ?」
「うーん……。判断に困るところだよね……」
そうやってカオリを言いくるめているが、俺は攻略サイト情報があるので、スキルも戦闘スタイルもある程度把握している。
なので、指示のミスをしなければおそらく負けることはないと踏んでいる。
運0の俺が負ける要素を除外した場合、アリサが豪運期でもない限り“たまたま”勝てる見込みは無いという意味でもあるが。
「ということで、作戦会議もしたいし、バトルに参加するメンバーを呼ぶとしよう」
俺は端末に指示し、選出メンバーの強制召喚を行う。
元々連絡してあったが、鬼若達の説明会の間待機させるのも悪いし途中で呼び出す事にしたのだ。
住んでる所も遠いしな。
展開される二つの魔方陣。
あ、そういえば、この二人は初顔合わせな気がするが、大丈夫だろうか。
一応選出メンバーは、ウマが合わない相手にならないよう気を使ったつもりなんだけど……。
「お久しぶりです、まくらさん」
「そうだなバウム。3ヶ月ぶりくらいか?」
「えぇ、年末以来ですからね」
メンバーの一人は長い角が特徴のトナカイ獣人、バウムだ。
おそらくコイツが、バトルの流れを決める事になる。
必殺技は決定打に欠けるが、パッシブスキルと相まって通常攻撃は頼りになる存在だ。
「あのっ……、僕なんかが出ると……、足を引っ張るのでは……」
「んー、イナバにはイナバの活躍できる方法があるんだよ。
それをアリサに分からせないとな」
「えっ……? 僕がお役に立てるんですか……?」
「まぁな。期待してるから、堂々としてればいいさ」
もうひとつの魔方陣から出てきたのは、もちろんイナバだ。
これはある意味アリサへのあてつけだ。
優秀な契約主は、人の使いどころを理解しているもんだと、思い知らさなければならない。
イナバを切ったことを後悔させてやろう。
「え? まさか二人だけ?」
「いや、あとはクロともう一人だ。
最後のメンバーは……。今日は用があるらしくてな、当日発表だ」
「はいはいっ!! クロが居れば百犬力ですよっ!!」
「頼んだぞクロ!」
そんなクロの様子に、イナバはビビッてしまっているが……。
これで本番大丈夫だろうか。少しイナバの緊張をほぐしてやらないとな。
「イナバ、やっぱクロは苦手か?」
「えっと……、ちょっとだけ……」
「まぁ、追い回されたり色々あったからな! 俺のせいだけど!」
これにはイナバも苦笑いするしかない。というかカオリのジト目が怖い。
「けど考えてもみろ、そんな恐怖のクロが今度は味方だ。
これ以上心強い仲間は、いないと思わないか?」
「えっ……。あっ、そうですよね。
僕がクロさんと戦うわけじゃないんだ……」
「もちろん、相手は鬼若やベルでもない。
つまり……?」
「特訓よりは怖くない相手……?」
「そういう事だ!
さっ、明日は頑張ろうな!」
「はっ……、はいっ! 精一杯頑張ります!!」
これでイナバもきっと大丈夫。
明日、それはイナバにとって大事な一日となるだろう。
バトルと聞いてノリノリの鬼若が
“そういや俺、どうやったって参加できないんじゃん!”
って気付くまであと2分。
「鬼若にも、活躍の機会を作ってやってほしいのじゃ」
でも、スキル効果もあって速攻バトル終わるワケで。
「悲しきサダメよのぅ……」
昔ほど戦闘狂ではなくなったけどな。
「ところでコメントに“まくら氏達観しすぎでは”というものがあってのぅ……」
その後、大事な事書かれてましたよね?
「何も書かれておらん! まくらが達観してるとしか書かれておらん!!」
なろう版の3/24の感想欄な。
しかも達観じゃなく“この世の理りを悟っている感”って書かれてるし。
「さほど違いはないじゃろう!?」
まぁ、なんでもいいんですけど。
まくら氏に関しては、基本的に運0のせいで、自身のやった事がそのまま返ってくる人生送ってたからね。
拒否されたら「詰めが甘かったかな?」と思うし、相手の言い分に矛盾が無ければ「そっか~」と、受け入れられる性格になったんだよね。
少なくとも「運が悪かっただけ」の事態を経験してないから、理由が探れる分ストレスがないみたい。
「奇襲で追い詰めたはずが、理不尽な理由で強キャラ出されるような、運に左右されるアリサの方が感情的に育ったんじゃな」
それでも、色々思うところはあるみたいだけどネ?
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