前回のあらすじ
『ガチャ神、恫喝される』
外注さんの今日のひとこと
『OIL OIL OIL.』
四月八日月曜、天候は晴れ。
今年は春の嵐どころか、雨すら少ない気がするな。
まぁ、異世界に来てはじめての四月だからな。こちらではこれが普通なんだろうか。
そんな気持ちの良い青空の下、俺は学校へと向かうべくカオリに抱きかかえられていた。
春休みも終わり、今日から再び学校生活だ。
なんだかんだで、春休み中もアリサの件があって休んでいた感覚はあまりないが、心機一転新学年を迎えよう。そんな風にカオリに連れられながら思っていたのだ。
そしていつもの教室、いつもの席へ……。って、おい!
「カオリ、今日から三年だよな? 教室間違ってないか?」
「へ? 何言ってるの? 今日から二年だから、この教室へ来たんじゃない」
「えっ!? まさか……、二人揃って留年!?」
本当にまさかの事態だ。
俺は半年ほど前にこちらに来たばかりで、留年するのもある意味仕方ない。なにせ高校の勉強なんて十何年ぶりなんだから。
けど、まさかカオリまで留年なんて……。
ずっと段階を追って進級してきたのなら、俺と違って大きな問題もないはずだ。
もしや、年末のクリスマスイベントでの抜けた分が影響してるのだろうか……。
「まくま君、春休みボケしてない?」
「……。ちょっと待って、今頭の中整理するから」
よし、春休み前の事を思い出そう。
そう、俺は運営の手伝いに行ってたせいで課題の提出と補講を受けていた。
そのおかげで、試験はそこそこの点数を取れてたわけで、少なくとも留年はしていないはずだ。
そして、それはカオリも同じで、たしか課題の提出をしていたのは覚えてる。あっ、でもカオリって補講受けてなかったな。
うーん、でも試験の結果聞いたら、かなりいい成績だったようだし、そんなカオリが留年などするわけがないだろう。
出席日数不足だとしても、クエストの休みは公欠になってるはずだし。
という事は、実は俺が勘違いしていただけで、去年は一年だったのかって話だが……。
いやいや、それもない。教室に付けられていた札には二年である事を示していた。
何より、この世界の元となってゲームでは、主人公は高等部二年だと明記されていたはずだ。
ん? いやまてよ? ゲームのサービス開始から何年経った?
その間、主人公だけでなく周りが進級したって話はあったか? つまり、考えられる結論は……。
「カオリ。もしかしてさ、某国民的アニメ時空にはまってないか?」
「なにそれ??」
「愉快な海産物家族アニメみたいだなと」
そこまで言うと、カオリは「ブフッ!」と吹き出してしまった。
多分くしゃみだ。そういう事にしといてやろう。けど、言いたい事の意味は通じたのだろう。
つまりこの世界は、同じ年を繰り返しているようだ。
しかし、過去に戻るようなモノではなく、過去を引き継ぎながら状態で、歳だけ取らないようなものらしい。
先の某アニメのように、歳を取らなければ進級もしない。
けれど世界は変わりゆくし、技術の発展などももしかするとあるのかもしれない。
少なくとも学園運営局の方針転換などが、元に戻ったなんて事はないようだしな。
「まぁいいか。カオリ、今年度もよろしくな。
それに、クラスの顔ぶれも変わってないようだし、気が楽でいいな」
「うん。持ち上がりだから知ってる人ばっかりだね。
あ、でも担任の先生は変わるらしいよ」
「へぇ、そうなのか。持ち上がりっていうと、担任は変えないもんだけどな」
「そうだよね。生徒だけが変わらないって、持ち上がりって言うのかな?」
「言わない気がするが……。まぁ色々事情があるんだろうな。
新しい担任って、どんな人か知ってるのか?」
「それは聞いてないけど、新任の先生らしいよ」
「新任でいきなりクラス担任とは、なかなか大変そうだな」
そんな話をしながら「まぁでも俺には関係ない話だし」などと思い、気楽に構えていたのである。
その新担任を目にするまでは。
「みなさんおはようございます。
今年このクラスを担当する事になりました、ベルフェゴールと言います。
担当科目は数学と家庭科。気軽に“ベル先生”と呼んでくださいね」
「って、なんでや!!」
さすがの俺もツッコミを入れざるを得ない。
カオリも硬直してしまっている。
「はい、クマさん。どうされました?」
「いやいや、なんでベルが担任なんだよ!?」
「ベル先生、いいですね?」
「えっ……。あっ、はい」
普段見ることのない、完璧な営業スマイルを前に、俺のツッコミは屈した。
普段の、何か裏がありそうな、そんな笑みの方がまだ怖ろしさがないとは……。
「先に皆さんに伝えておきたい事があります。
去年も同じメンバーでしたので、みなさんも知っての通りでしょう。
私はクマさんの世話係として、年末にお邪魔しておりました。
けれど今は教師としてここに立っており、このクラスの担任です。
ですから、誰かを特別扱いしたりなどしません。
そして、それは誰が誰の契約者であったり、契約主であったり。
もしくは、同盟関係者であることや……」
ベルはちらりとヨウコに視線を合わせていたので、おそらくその続きは「敵対者であったとしても対応を変えるつもりはない」と言いたかったのだろう。
けれど、廊下を走る、えらく騒がしい足音が近づいてきたため、話は中断されてしまった。
その足音に気付いた先生は話を途中で止め、扉の方に顔を向ける。
それとほぼ同時に、壊れんかという勢いで、その引き戸が開け放たれた。
「おいベル! お前どういう事だ!!
なぜお前が主様の担任で、俺は別のクラスにされてんだよ!!」
「はぁ……。貴様、廊下は走るな。
そして今、我は教師だ。先生と呼べ」
はい先生! 完全に素が出てしまってますよ!!
というか、なんで鬼若が高等部にいるんだ?
「クソッ! 主様を驚かせようと会わないようにしていたというのに、本当に最後まで会わないところだったじゃねーか!!」
「我に言われても知らぬわ」
うん、多分これは夢だな。色々おかしい事だらけだ。
悪夢よりは全然いい。適当に様子を観ておこう。
ボケーっとしている俺に、鬼若は詰め寄ってくる。そして、ギチギチと抱きしめてきたのだ。
ははは、まくらボディーに痛覚はないからな! やはりこれは夢、きっとそう。
ただ、気持ち的に息苦しい。まくらは息しないけど。
「主様! 俺は誰がなんと言おうと、このクラスに居ますから! 安心してください!」
「あー、はいはい。息苦しい暑苦しい、ついでに大声が響いて聞き苦しいの三重苦だ。
とりあえず放せ落ち着け、そこに直れ」
その言葉に、俺を放しピャッと鬼若は床に正座する。いやはや、どうしたものか。
夢だ夢だと現実逃避していたが、醒めない夢は現実だ。困ったもんだな。
どう話を進めていいものか悩んでいれば、ウチの新担任がゆっくりと歩み寄り、優雅に舞うかのごとく、手に持っていた出席簿のカドを鬼若の頭に命中させた。
「そのような騒ぎを起こすから分けられたのだと、想像もできぬのか馬鹿者」
「なっ!? やっぱりお前が裏で噛んでたのか!?」
「会議で決まった事に、我が口を挟むわけがなかろう」
やっぱクラス分けは色々な都合で決めているんだろうな。それで俺と鬼若が別になったと。
まぁでも、それは賢明な判断だと思うよ。鬼若は色々と暴走しがちな奴だしな。
実際すでに暴走してるのだから、何の反論もできないだろう。
そうしていれば、廊下から見覚えのある姿が顔を覗かせた。
「すまなイ、うチの生徒が邪魔シてなイか?」
今日のひとことのアレ何?
『ボールペンでアレを書くと、某巻貝さんのエンディングに聞こえるんやで』
へぇ、へぇ、へぇ……。94へぇ。
『前回の後書きから今回の本文、今回の前後書きに至るまで、みっちりネタ被せてきたな』
同じネタを二回やるのは天丼って言うらしいけど、これは何丼だろうね?
『フルコンボだ丼!』
もう一曲遊べる丼!
『ツッコミ不在』
平常運転。
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