爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

エンドレス周回 8

公開日時: 2021年1月5日(火) 18:05
文字数:2,097



「森を荒らしていると聞いて来てみれば、ただの人間たちではないか」



 透き通る声の方へ目をやれば、そこには実体を持っていないかのような、幽霊のような女性が立っていた。

髪はまっすぐで、腰に届くほど長い。服もワンピースで清楚な雰囲気を漂わせる格好だ。けれど、その髪も肌も、身に纏う服さえも、透き通る白さだ。

瞳と頭に乗せた葉でできた冠だけが、燃えるような赤で、清楚というよりは神々しい。もしくは近寄りがたい空気を出している。


 先ほどまで楽しげにしていたチヅル達も、その姿に声を失った。

あのセルシウスさえも、その姿を見て固まっている。

皆が皆、彼女を異質だと感じ、動けずにいるのだ。


 いや、そう感じるもう一つの理由が俺にはある。

それは、このキャラクターを俺は見たことがないという点だ。

特別枠? もしくは未実装キャラ? 可能性はいろいろある。

けれど敵対するのは避けたほうがいいのは確かだ。

どう対処しようか、少なくとも敵対する気はないと伝えないと……。



「こんにちわ! ボクは喋る普通のまくらだよっ! 仲良くしてねっ!」



 クロの時にやった方法を試してみた。

うーん、自分でやっておいて無理があると思う。

これがぬいぐるみならなぁ、と何度思ったことか。



「普通? 笑わせる。貴様ほどの異質な者は他に無かろう。排除する」



 言葉よりも素早く、彼女の手には木の蔓が集まり、ドリルのように渦を巻き、細く鋭い槍を形成する。

それは彼女自身の何の動作も必要とせず、自身の意思で動くように的確に俺を貫かんと飛び出してきた。



「まくら様っ……!」



 咄嗟に避けようとするベルだったが、それは叶わず、あと数センチという所までそれは迫った。

……が、そこで槍はキラキラと輝く光の粒となり、宙へと霧散する。



「……っ! 忌々しい。貴様ごときにお父様の加護があるとは……」



 先ほどの槍は脅しだったわけではないようだ。

俺をその赤い瞳で睨み付け、言葉通り本当に忌々しいといった表情を見せている。



「まぁ良い。それがお父様の意思であるのなら……。

 森の恵みなら好きに持っていくがよい。

 私の役目は貴様らを飢えさせぬ事。どれだけ奪ったところで、恵みが費える事はない」


「あのっ……、待ってください!」



 音も無く踵を返し去ろうとする彼女を、俺は引きとめた。

俺が普通でない事を知る人物。彼女の言う“異質”というのが、まくら姿だという事以外なら、何か重要な事を知る人物であるのは間違いない。


 そう思い呼び止めたのはいいが、焦りで考えが回っていなかった。

ここで何を聞けばいい? ベル達に聞かれてもいい内容なんて、あるはずがない。

少しの沈黙が、森の中へと落ちた。



「なんだ、何も用がないなら失礼させてもらうが」


「……。お名前を教えてもらえますか」


「名か……、よいだろう。私は森の番人、メシア。覚えておくがよい」



 その言葉を残し、彼女は背景の森へと溶けるように消えてしまった。



「まくら様、あれは一体、何者だったのでしょうか」


「わからん。けどさ、森の恵みをもらう事の許可は貰ったし、いいんじゃないか?」


「くらちん切り替え早いなぁ……。ボクなんて、まだ手が震えてるよ……」


「じゃあ、ちょと休憩しようか。終わったら貰うもん貰って、パーティーの準備しようぜ!」



  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 



 うーん……。色々あったが、結局パーティーの準備してたって事くらいしか話せなくないか?

まぁいいか。メシアやサンタの爺さんの秘密なんかは黙っておこう。

あ、あと鬼若の噂話をしていた事もな。かなり恥ずかしいだろうし。


 色々伏せたり誤魔化したりしながら話せば、鬼若は興味深げに聞いている。

特にセルシウスの話なんかは、鬼若も会いたかったのか、様子を細かく聞かれたくらいだ。

鬼若ってクロとも仲がいいみたいだし、明るい子の方が気が合うのかもしれないな。



「ま、こんなもんだな。それで、パーティーは楽しめたか?」


「……。やはり主様が、何かしたんですね?」


「ん? なんの話だ?」


「なぜ俺が、パーティーに参加したのを知っているんです?

 主様に俺達がプレゼントを配る事は、お話していませんでしたよね?

 なのに料理も俺たちの分が用意されていて、おかしいって思ってたんですよ」


「あぁ……、それか……」



 そういや、あの事って秘密でやってたんだっけ?

うっかり忘れてたなぁ……。


「白状するしかないか。

 お前らの着てたサンタ服あるだろ? あれってチヅルが作ったんだよ。

 チヅルが布を織る時に、ベルの羽衣を一緒に織り込んであってさ。

 つまり、二人の魔力が込められた、一級品ってわけ」


「それが、何か関係があるんですか?」


「……。現在地と音声情報がこっちに伝わってくる」


「……!? はぁっ!? なんですかその犯罪のニオイしかしない代物は!!」


「だって仕方ないじゃん! サプライズだぞ?

 サンタのジジイの裏をかくには必要だったんだよ!」


「だからって、盗聴はやりすぎでしょう!?」


「いや、だって、ほら……。ベル! 助けてー!」


「ふふふ。発案者はまくら様ですわ」


「貴様! 裏切ったなぁっ!!」



 こうして、俺は鬼若に弱みを握られる事になってしまった。

カオリ達には言わない約束で、今度何か埋め合わせをする事になってしまったのだ……。

トホホ……。

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