爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

230連目 事件のニオイがするのですっ!!

公開日時: 2020年12月31日(木) 12:05
文字数:3,069

前回のあらすじ

「リア充は、まくらによって爆破される運命なのじゃ!」


ガチャ神の今日のひとこと

「課金石が詰まったまくらの寝心地が気になるのぅ」

 えーっと……、チヅルの話と今までの話をまとめると……。

チヅルとアルダが夫婦で、娘が一人居る。そして、チヅルの父がサンタ。

アルダは婿養子で、サンタとは義理の親子関係。

つまり、ホッキョクグマ密猟事件の原因である孫娘というのは、チヅルとアルダの娘だったのか。


 ふむふむ、ゲームでは語られていなかった設定が、一気に出てきたな。

これは公式設定なのか、ガチャ神の改造設定なのか……。どっちでもいいか。



「そういう訳でして、この時期私は父の手伝いに来ているのです。

 ですが、今年はお呼びがかかる事もなく、不審に思い来ていたのです」


「つまり実家の問題ってのは、サンタ工場の問題ってわけね」


「えぇ。そのため私もここを離れるわけにもいかず、バウムを探せていないのです」


「うーん、何やら面倒な事になってるみたいだなぁ」


「まくまさんっ! クロたちは、バウムさんを探しに来たんですよっ!

 サンタ工場の話より、早くバウムさん探しましょうよ!」



 活躍の機会を今か今かと待つクロが、痺れを切らしてアピールしてきた。

ここで大活躍して、カオリにめいっぱい褒めてもらうのがクロの目的だろう。

確かにチヅルの話は気になる所ではあるが、当初の目的を忘れてはいけないな。



「それもそうだな。チヅル、俺達はバウムを探すから、そっちはそっちで対処してくれ。

 もし、何か手伝って欲しい事があれば言ってくれ。できる事なら手伝うからな」


「ありがとうございます。バウムの事、よろしくお願いします」


「ハハハ、私からも頼んだよ!」


「アルダ、お前は一緒に行くんだよ?」



 しれっとここに留まるつもりのアルダだったが、そうはさせない。

イヤだイヤだと、ダダをこねるアルダを鬼若に引きずらせ、俺達はサンタ工場を後にした。




「クロ、手が汚れてしまいますよ。それに、地面は冷たいでしょう。

 我の羽衣で手袋を用意したので、お付けなさい」


「わーい! ありがとうございますっ! あったかいですー!」



 地面に這いつくばりバウムのニオイを辿るクロに、ベルは手袋を差し出す。

やはり優秀な侍女メイドは、例え主人以外であっても気遣いを忘れない。

その隣の、羽衣製の紐で縛られてたアルダは……。見なかった事にしておこう。

同じカオリの契約者、そして同じ羽衣製。なのにこの扱いの差は、やはり行いの差というものだ。



「しかし、バウムが亜空間を通っていたら、ニオイを辿れないんじゃないのか?」


「それは問題ないかと思います。亜空間を通るには多くの魔力が必要ですので、近場であれば利用するには無駄が多いですからね。

 そして亜空間とはいいますが、こちらの空間とは表裏一体ですので、ニオイも多少はこちらに残るかと思います。

 あと、この紐を解いてもらいませんか」


「いや、紐を解いたらチヅルのトコに行くつもりだろ?」



 鬼若に背負われたアルダは解説しつつも、隙あらば逃げ出そうとしている。

それには、さすがのカオリも呆れ顔だ。



「ごめんねアルダさん。でも、アルダさんが居ないと帰ることもできないから……」


「カオリ、甘いぞ! コイツは元居た世界でも、チヅルとイチャつきすぎて別居させられたような奴だ。

 ここは心を鬼にしてやらんと、こっちでも年に一度しか会えなくなるぞ」


「なっ……、なぜその事を知っているのです!?」



 アルダは知られるはずのない、元居た世界での話を言い当てられ、冷や汗をかいている。

そりゃ、この世界で知っている人は居ないだろうな。なにせ異世界情報だ。

7月のイベントが初登場だった時点で、異世界人プレイヤーなら理解していただろう。

アルダの元になったのが、七夕の物語だということに。名前の由来もアルタイルらしいし。



「ま、色々とあってな。来訪者の事は調べるようにしてるんだよ」


「さすがまくら様。“彼を知り、己を知れば、百戦殆うからず”というものですね」


「そんな所だな。ベルもそんな言葉を使うとは、博識だな」


「お褒めいただき恐縮です」



 そんな言葉を発しながらも、表情ひとつ変えないベル。

しかし俺は、来訪者の事は知っているが、俺自身の事を知らなさ過ぎる。

この姿で何ができるのか、何をしてはいけないのか。そしてカオリという、不確定要素。

相手になるであろう者よりも、味方の実情の方がより重要なのにな。



「んー? なんだかニオイが強くなってきましたよー?」



 その声に、俺は思考を中断した。クロに目をやれば、小さな集落の方へと駆け出している。

集落はレンガ造りの建物が多く、俺のイメージする、サンタの家が並んでいるような雰囲気だ。


 その中の一番近くにある、他より小ぶりな家でクロは立ち止まる。

見れば、その家の壁にもたれかかる様に座る、獣人の男をくんくんと嗅ぎまわしている。

いやまて! クロ! それがバウムだ!


 俺が言葉を発するよりも早く、鬼若は駆け寄りバウムを抱き上げる。

その体はぐったりとしており、抱えられてもピクリとも動かない。

コートを着込んでいるし、ソリを引くだけあって、しっかりした体格の青年だ。

寒さや、体調不良での行き倒れにしては、いささか健康的過ぎる。



「バウム! しかりしろ!」



 鬼若の背後からアルダが声をかけるも、その声にも反応は無い。

あっ、そういえば、アルダをまだ縛り付けたままだったな。



「ベル、アルダを解いてやってくれ。鬼若、バウムの様子はどうだ? まさか死んではないよな?」


「ぐったりとしておりますが、ケガなどはなさそうです。息もあります」


「おそらくはバトルに負け、魔力切れを起こしているのでしょう。まくら様、よろしいですね?」


「あぁ」



 バトルに負けると、自身の魔力を大きく消耗し行動不能になる。

それが学園運営局うんえいの定めた、この世界のルール。

そして、それを手っ取り早く回復させるのが、俺の癒し課金石パワーだ。


 ベルは俺をバウムに抱えさせる。この力がかなり効果的なのは、クロで実証済みだ。

浅い呼吸をしていたバウムだったが、それも次第に落ち着いてゆく。



「クロ、ご苦労さん。お前のおかげで、大事にならずに済んだよ」


「お役に立てて嬉しいけど、バウムさん大丈夫なの?」



 クロは不安そうに覗き込む。トナカイ頭のため顔色は分からないが、いい状態でない事は確かだ。

学園運営局うんえいのルールは、命の危険がないように行動を制限するのが目的だ。

ならば、ここまで危ない状況になるバトルというのは、普通ならばありえない。



「推測ではありますが、身に纏う魔力の状態から考えますと、無理に何度もバトルを行い、完全に魔力を使い果たした、と考えるのが妥当かと思われます」


「そんな事って、普通ありうるのか?」


「負けた方が再戦を望めば、ありえない話ではありません。

 しかし、普通そのような無茶をするなど……。

 まくら様のお力があれば、小一時間ほどで回復するかと思われます。

 なにがあったかは、本人にたずねる他ありませんね」



 あらゆる可能性を事前に考え、見聞きしたものから状況を推察するのは、ベルの得意分野だ。

そのベルが答えに困る状況。それはかなりのイレギュラーな事態なのだろう。



「それじゃ、その間俺達も休憩にしようか。

 といってもここじゃ寒いし、どっか休める所があればいいんだけど……」


「でしたら、この村に喫茶店があったはずです。そこに行きましょうか」


「ん? アルダはこの村に詳しいのか?」


「ここはサンタ工場で働く人の村ですからね。前に何度か来た事もあります」


「そうか。それじゃ、案内を頼むよ」



 そうして俺達はアルダの案内で移動する事になった。

バウムは鬼若の怪力でひょいと軽々持ち上げられたため、運ぶのは苦労はしなかったが、彼の頭から腰あたりまで伸びる立派な角が体に当たり、鬼若は少々痛そうにしていた。

前回のあらすじが嘘すぎる! 爆破してないからな!?


「爆破予定ならば、それが運命というものじゃ」


(だめだコイツ、はやくなんとかしないと……)


「しかし、アルダもバウムの一大事に惚気が飛んだようだし、今回は許してやるのじゃ」


よかったなアルダ、爆破まぬがれたようだぞ。


「次は無い、覚悟しておけ」


口調まで変わるほどに荒んでんじゃねーよ。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート