爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

縺セ縺上i連目 ひとかけらの希望

公開日時: 2021年2月14日(日) 18:05
文字数:2,386

前回のあらすじ

 まくら、二度目の爆死。じゃ。


ガチャ神の今日のひとこと

 ワシ、復帰じゃ!


 気付けば俺はそこに立っていた。


 空は一面黒に染まり、針で穴を開けたように星々が輝く。

それは瞬きもせず、じっと俺を見つめる。

大地は白い砂で覆われ、星の光を反射させ、うっすらと光っていた。


 地平線まで続く白い砂の大地と黒い空。

二色だけの世界に、蠍座の一等星だけが紅く燃える。


 ふと、足元の砂地に目がゆく。他よりも少し盛り上がるそれは、俺を呼ぶようだった。

なんとなく、なんとなく気になり手を伸ばし気付いた。手が手なのだ。

いや、正しく言い直せば、手が人間の手なのだ。青いクマのぬいぐるみの手ではない。

指が5本そろった、懐かしささえ感じさせる手だ。


 体中を見回し、その手で触る。俺は人間に戻っていた。

少しくたびれたジーンズと、半袖の白いシャツの最低限の姿で、俺は砂漠に立っていたのだ。

けれど、暑さも寒さも感じなかった。もしや、ここが死後の世界というものなのだろうか。

そう考えながら、足元の砂を少し掘り返す。


 そこから現れたのは、青い布切れ。俺はそれに見覚えがあった。

クマの形に縫い合わされた、中身のない袋に。

洗濯物を干すように持ち上げて広げてみれば、思ったよりも小さく、俺はこんな姿だったのかと少し笑えた。


 その時、肩をたたかれた。

突然の事にビクッとして振り返れば、肩に乗せられた手は人差し指だけが、指差すように伸びていて、頬にふにっと突き刺さる。

痛くなどないのだが、こんな子供じみた事をするのはどんな奴かと思えば、本当に子供だった。



「ひっかかってやんの!」



 ケラケラと笑うのは少年だった。

いつか鬼若がベルにされたコーディネートのように、黒のパーカーとカーキのパンツ。

そして謎のチェーンがベルトあたりから垂らされている。

わざとらしいほどに、あの時の鬼若と同じだった。

けれど、もちろん鬼若ではない。彼は紅い星よりも燃えるような、朱色の髪をした少年だった。

その特徴だけで俺は悟った。彼が、ガチャ神の言っていた人物なのだと。



「もしかして、あなたがガチャ神様の上司さんですか?」


「そうだよ。ま、色々な呼び名はあるけどね。語り部とか、上神とか……。旅人、とかね」



 自己紹介にもならない事を言い終えれば、彼は立ち話もなんだからと、すぐ横の空き地へと俺を誘う。

歩き出すと、先にある白い砂が独りでに動き出し、椅子とテーブルへと変化した。

彼はテーブルを挟んだ向かい合わせの椅子の右側に座り、俺をもう片方へ座るよう促した。



「って事で、色々聞きたい事あると思うけどさ、何から答えてほしい?」


「え? 俺に用があるんじゃないんですか?」


「あるにはるけどさ、今の状況じゃ何言われてもよくわかんないでしょ?

 だから、先に疑問点潰しておこうかなってね」


「確かにそうですね……。ええと……、まずは一つ目なんですが、ここって死後の世界ってヤツなんですか?」



 少年は頬杖を付きながら、少しうーんと考える素振りをする。



「そうだねぇ、まだそこには至ってないかな? だって君、まだ死んでないし」


「そうなんですか? 俺はてっきり、まくらの契約石中身を使い切るとダメなのかと……」


「君の持ってるソレ、確認してみなよ」



 持っていた青い布袋は、糸で釣られたかのように動き出し、テーブルの上でその背を見せる。

そして、今までは存在しなかったファスナーがすっと現れた。


 促されるままそれを開き、俺は中を覗いた。

何も見当たらない、ただの空っぽの袋に思えた。

確認したあと、ファスナーを閉めようとした時、コロコロと七色に光る石が転がるのが見えたのだ。



「契約石……? どうして残ってるんだ?」


「君は自分で言ってたよね。鬼若を90回ダブらせたって。

 そしてアイリは、排出回数×1個の契約石を配布するって言ってたね」


「そうか……」



 俺はずっと、ダブった回数を数えていた。

けれど、最初の1回は“ダブり”とは呼ばない。

だから俺は忘れていたのだ。実際の鬼若を引き当てた回数が、91回だった事に。



「だからひとつ残ったのか……。鬼若が残してくれた、最後のひとつ……」


「中身が1つだけのまくらを、まくらと呼べるのか、それは問題だけどね」


「……今はよくわかりませんね」



 まだその問いに答えるべきではない。

その質問の意図は、別にあるだろうから。



「ホント、察しが良すぎて困るね」



 そう言って笑うが、この反応さえも彼は知っていただろう。

なにせ相手は、電話越しの俺の考えを読んでいたくらいなのだから。

そして思い出す。あの時、あの場に居た皆は無事なのだろうか。



「あの、カオリ達は無事転移できたのでしょうか」


「それなら心配ないよ。今頃ガチャ神ちゃんが、新しい名前とを与えてる頃じゃないかな」


「そうですか。それを聞いて安心しました」




「それにしても、君は相変わらず自分の事よりも他人を優先するんだね。

 あの頃から全然変わってないや」


「あの頃……? 前に会った事ありましたっけ?」


「前……、と言えば前かな。きっと君は覚えてないだろうけどね」



 彼は俺の事を知っているようだ。けれど俺にそんな覚えはない。

なにかが俺の知らないところで起こっていて、そしてそれがここにいる理由なのだろうか。



「そうだね、思い出してもらおうか。ロベールの夢の続きを……。

 とても辛い記憶なのだけど……」



 その言葉と共に行われたそれは、いつかガチャ神によって起こされた情報の濁流を、十分に理解できるようにと、少しばかり緩やかにしたものだった。


 しかしその内容は、エイプリルフールに浮かれた白熊が見せた夢と同じ内容。

そこに裏の事情を加えた、いわば完全版といったものであった。

そしてその中には、あのメシアらしき姿も……。



「これが、俺にあった事……?」


「正確には、君の前世ってヤツだね」


「……どうしてわざわざこんな事を」


「それは、世界を螺旋に堕とした事についてかな?

 それとも、君に思い出させた事?」


「……どっちもです」


「そうだねぇ……。退屈で、少し長い話になるよ?」




「ねーねー。僕達はみんなと一緒に行けないのー?」



少しばかり確認しておきたい事があるのじゃ。

おぬしらの裏には誰がおるんじゃ?



「ソレヲ 確認スルタメニ ワザワザ私タチヲ?」


「えーっと、『全知全能なら聞かんでもわかるやろ?』だってさー」



もうその反応で、ハジメの裏に居る者は確定じゃがの……。

しかし、やはりヤツはやはりメッセージや電話でしか、こちらには干渉できんのじゃな。

まったく、皆ワシでは不安だとでも言いたいのかのぅ……。信用されとらんのぅ……。

で、どこまで関わっておったんじゃ?



「僕はねー、同じクラスに居て、見守ってほしいって言われてたんだよねー。

 他は、さっきの事くらいしか頼まれてないよー」


「ワタシモ 夢ヲ見セルヨウニト 頼マレタ程度デス」



ふむ……。まぁよい、今後はそうやすやすと干渉もできまいし、放っておくか。



「でもでも、なんで全知なのにこんな事聞いたのー?」



“知られないようにする”という全能と、“全てを知る”の全知が競合した場合どうなるか。

答えは修復不可能な不具合が発生するなのじゃ。ならばこちらが全知を制限するほかないじゃろ?

なんでもできるからと、何をしても良いわけではないのじゃ。



「全能のパラドックスってヤツなんだねー」



おぬし、意外と博識じゃのう。



「貴様、いつまで無駄話をしているつもりだ?」



メシ姉、そうイライラするもんじゃないぞ?

しかし長くなったしの、〆るのじゃ。

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