「聞こえるかの? 直接脳内に呼びかけておるんじゃが」
永遠に続くかと思われた闇の中、なにやら爺臭い声が聞こえてきた。
「爺臭いとは失礼じゃの! ワシはガチャ神じゃ! おぬしは見込みがある、願いを叶えてやろう」
えっ! じゃぁベルフェたんをください! あの子に諭吉を何束も貢いだんです!!
「冗談じゃ。ガチャ神などではないぞ。というか、そこまでガチに迫られるとちょっと引くわ」
なんだ、ただのクソジジイか。帰れ帰れ。
「酷いテンションの落差じゃのぅ……。おぬしの創造神であるのに」
は? 創造神? マジ?
じゃぁ俺のこの運の無さも爺さんのせいなわけ? 姿は見えないけど。
「おぬしが爺さんを想像するなら、ワシは爺さんじゃろうな」
いや、そこはあんまりこだわってないんですけど。
「あぁ、ステータスの事かの? それならばおぬしの運ステータスは、ゼロじゃ」
運ゼロ……? マジのガチで、運0ナンデスカ?
「マジのガチじゃ。運0の人間など今まで存在せんかったからの、試しに作ったのがおぬしじゃ」
お試しで作られたクソステータスという事実にメンタルが粉砕しそうです。
「まぁ、そんなおぬしも若くして死んでしもうたがの」
あ、やっぱ俺死んだんですか? 自称神と話してる時点でなんとなく察してましたが。
まぁ、全然実感もないんですけど。
「死因は心筋梗塞? 脳卒中? 的なアレ」
は? 神と名乗る割には、死因も特定できないとは情けない。
「ガチャの爆死で、本当に死んでしまうとは情けない……」
いや、それって間接的とは言えお前のせいじゃん! 運0って何の嫌がらせだよ!
俺だってガチャで爆死なんてしたくなかったし! ベルフェたんとキャッキャうふふのゲームライフ送りたかったわ!
ってか、どっちみち運が0なら早々に死んでたんじゃね?
「まぁそう言うでない。運0というのは完全に“運がない”って話ではないんじゃ。
その証拠に、おぬしもこの年齢まで無事生き延びて来れたじゃろ?
もしおぬしらの考える“運の無い”状態ならば、産声をあげる事無く死んでおったじゃろう」
言われてみれば、それもそうか。確かに今まで大きな怪我や事故に遭った事もないし、自慢できるような不幸話も持ち合わせていない。人からすれば「お前は運がいい」と言われるくらいだ。
ただ、ガチャに限らずギャンブル全般の運がないというだけで。
「そうじゃろう、そうじゃろう。それが運0の効果なんじゃ。
簡単に言えば“運のふり幅が0”なんじゃ。ゆえに注意を怠らなければ、交通事故に遭うこともないし、会社の調査をマジメにやれば、ブラック企業を引く事もない状態じゃ」
就活の時の、念入りな企業調査は無駄ではなかったのか。実際いい職場だったしなぁ……。
ん? まてよ? 俺が“ふり幅がゼロ”ってことは、運がいい人はその分の不幸にも遭ってるってこと?
「まぁ、遠からずな発想じゃな。
実際のところ運は使って減るものではなく、山と谷があるものなんじゃ。
良い時の行いは全て良い方向に進み、悪い時の行いは全て悪い方に進む。
もしワシがおぬしの運を最大値にしておったとしたら……。そうじゃの、宝くじの一等を当てて豪遊したかもしれないし、隕石に当たって死んでおったかもしれん。
ま、それも運の悪い時に行動を自粛しておったのなら、そこまでの不幸にはならんがの」
じゃぁ、“ふり幅ゼロ”の俺が死んだのは、不幸だったという訳でなく俺のせいなわけ?
「そりゃそうじゃろう。おぬし、トリプルワークなんて無茶をしておのったしの。
平日は正社員で働いて、月水金は深夜のバイト、土日もファーストフード店でバイトしておったの。
これでは運の代わりに振っておいた、体力・知力パラメータで補えぬほどの疲労になって当然じゃ」
そうでもしないと課金できないんだから仕方ないじゃん!?
爆死しまくるんだから、札束積むしかないじゃん!?
ってかそんなに努力したのに、なんでガチャは恵まれなかったんだよ!
「まぁ、そうカッカするでない。実際おぬしの努力は“給料”という結果に出ていたじゃろ。
それで帳消しになった上に、さらにガチャが当たったりすれば、それは幸運になってしまう。
運0なのじゃし、ガチャが爆死するのは必然じゃろうて」
理屈は納得……。だけど納得したくねぇ!
じゃぁ俺は、どうやったらベルフェたんを引き当てられたって言うんだよ!
「ガチャ全引きが唯一の方法じゃが、あの運営会社では無理な話じゃろうな。
通算100連で1枚確定のSSRを、確定分のみで全引きじゃからの。
それこそ宝くじの1等を10回当てた金額を入れても……。無理かもしれんのぅ」
SSRをベルフェたん以外全種99ダブりさせる……。神ですら遠い目をするそんな苦行。
いや、どんな顔してるか見えねえけど。
そんなの、1体のキャラの90ダブリで過労死した俺には、あと何回人生をやり直せというんだ。
「そういう訳での、運0なんていう実験は失敗に終ったんじゃ。
そして、その実験動物であるおぬしには、実験に付き合ってもらった報酬をやろうと思っての。
なにせおぬしは運0じゃから、その短い実験のための人生への対価を貰う事もできるって訳じゃ。
これは今考えたんじゃがの」
なんというか……。神さまのわりに、すっごい軽いノリですね。しかも人のことを実験動物って。
「それもそうじゃろう? ワシから見ればおぬしなど、人間にとっての実験用ラット程度の価値しかないからの。
気まぐれでこうやって相手してやってるだけでも、ありがたく思って欲しいところじゃ」
言い方に思うところはあるものの、報酬を貰えるなら文句はないかな……。
それで、いったいどういう報酬をもらえるんです? 今さらお金貰っても、死んだあとには使えないですし。
「おぬしの執着しておった、ゲームの世界への転生じゃ。まぁ、それは報酬の前段階じゃ。
そこにプラスで、おぬしの持っていたお気に入りキャラへの転生を付けてやるとするかのう。
どうじゃ、太っ腹じゃろう?」
俺の“持っていた中での”お気に入りキャラ? つまりベルフェたんへの転生はないのか。
まぁ、ベルフェたん自身に転生するのはイマイチだからいいんだけど。
何がイマイチかって? そりゃナニがですよ?
「そりゃナニをするにも、本人だと満足できんからのぅ」
神様、濁した所をつつくのはよしてください。
「あとは時々様子を見ておるからの。なにせ報酬じゃから、そこそこの支援はしてやるつもりじゃ」
ノリ軽いし、俺の事実験動物扱いしてたわりには、至れり尽くせりですね。
「ただの気まぐれじゃ。それじゃ、文字通り第二の人生楽しんでくるがよいぞ」
その言葉を最後に、自称神様の声は聞こえなくなった。
「ついにワシ光臨じゃ! ガチャ神を崇めよ!」
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