前回のあらすじ
「戦力と人数の圧力で、クリスマス中止の理由を自供させに来たのじゃ」
ガチャ神の今日のひとこと
「カシスオレンジ用のオレンジジュースならバーにもありそうじゃ」
「ワシの好きなカクテルはxyzじゃ」
「立ち話もなんですから、どうぞお掛けください。
お酒以外ですと、オレンジジュースしかご用意できませんが、皆様どうぞ」
落ち着いた声の店主に促され、俺達はカウンターの後ろにある、4人掛けのテーブル席へ案内された。
3人ずつの2組に分かれ座る俺達の前に、すらりと長いグラスに入った、ミントと輪切りのオレンジが飾られたジュースが提供される。
サンタの爺さんにも「もう酒は出せない」と、同じくジュースを出す店主。
さすがの爺さんもそれに文句は言わなかったが、ジュースに手を付ける事なくカウンター席に座ったまま背中を向け、孫娘との昔話を語り出した。
「昔は爺様爺様、と言ってあとを付いてくるような子でな……」
「よく、ままごとに付き合わされたんだがな……」
「いつも決まって、俺は子供役をやらされてな……」
「初等部の入学式で、親を差し置いて俺と一緒に写真を撮ってくれてな……」
「今だって肌身離さず持っていてよ、時々仕事中にな……」
「サンタさんに、大きなクマさんを貰ったって、一番に俺に教えてくれてな……」
「まさか俺がサンタだなんて思ってなくてよ、可愛くて可愛くて……」
また……、またこの展開か!! こいつらの家系に、マトモな男はいないのか!?
惚気話の次は孫自慢!? なんなんだよ! いったいそれに、何の意味があるんだよ!
っていうか、孫自慢は去年も聞かされた気がするんだが!? もう面倒だ、一発殴ろうか!!
「うんうん。お孫さんは、目に入れても痛くないって言いますもんね」
ってカオリ様!? もっともっと長くなるんで、その辺で止めましょうよ!?
アルダみたいに、三日三晩語るとか言いかねない雰囲気になってるんですけど!?
クロもそんな目で見てやるな、ベルと同じ目つきになってるぞ!?
あぁそうか、ここは俺がなんとかしないといけないよなぁ……。
主様は完全にまくら状態を決め込んでるし……。正直面倒だ。
しかし、主様の期待に応えるためにも、やらねばならんか。
「で、爺さん。それがクリスマス中止と、どういう関係があるんだ?」
「鬼若、お前は何もわかっとらん!! アーニャの可愛さの、1割もわかっとらん!!」
「それって、分かる必要があるんですかねー?」
「嬢ちゃん! ここが大事な爺心なんだよ!!」
孫娘はアーニャという名で、クロと同い年の10歳だそうだ。そんなクロのじっとりとした眼差しにも折れぬとは、かなり拗らせているな……。
孫と同い年の女の子に、これだけ孫自慢をできるのだから強靭な精神だ。
「お義父さん、理解されなくても、アーニャがこの世で一番可愛い事は変わりませんよ」
「アルダ……、お前分かってるじゃねーか!!」
チヅル自慢に飽き足らず、娘自慢まで……。と言いかけたが、話を進めさせよう。
というか、やはりアルダも親馬鹿だったか……。もう、この二人残して帰りたい。
「それで、その自慢の孫娘がどうしたってんだよ」
「うっ……、うぅっ……。アーニャが……、アーニャが“悪い子リスト”に入ってたんだよぉ……」
「そんなっ!? まさか、そんなはずないでしょう!? 何かの間違いでは!?」
予想外の話に、アルダはがばっと立ち上がり、驚愕の表情を浮かべている。
「俺もそう思って調べてみたんだけどよぉ……。うぐっ……。
そしたら、クリスマスは彼氏の家に行くって……。ぐぅっ……!」
完全にジジイは泣き出してしまった。そしてアルダは立ち尽くしている。
かと思いきや、流れるような動きでジジイの横に座り、すっと店主を見つめる。
「マスター……、私にも一番強いやつを」
「アルダ! 待てコラッ!!」
思わず首根っこをつまみあげるが、その姿は、雨に濡れた野良猫よりも悲壮感を漂わせていた。
隣は隣で、ジジイもカウンターに突っ伏して肩を震わせている。
ところで、外泊って“悪い子リスト”に入るような内容なのだろうか?
そのへんの価値観は分からんな。クリスマスだからか?
「今年は“悪い子リスト”でも、来年は“大人リスト”に入るんだよ……。うぐっ……」
うーむ、意味は分からんが、とりあえずそれが原因? なのは、なんとなくわかった。
つまり、孫のアーニャを説得すればいいのだろうか? いや、リストを取り消させる?
そんな事できるのだろうか。むむむ……、主様なら解決方法を知っているのだろうが……。
ふと主様に目をやれば、呆れかえった顔のベルと目が合ってしまった。
「バカバカしい……。爺バカ、親バカ揃って、バカな話を長々と……」
「ちょっとベルさん!?」
「バカにバカと言って何が悪い? 孫に大切な人ができた事をなぜ喜べない?」
「だからって、そんな言い方……」
「人と人が愛し合うことは自然な事。そしては人は変わるもの。
そんな事も分からぬ大バカ者には、お人形遊びがお似合いよ。
可愛い可愛い、孫にそっくりなお人形でもプレゼントして差し上げましょうか?
フッ……。我はこんなバカな話に付き合うつもりはない。失礼させてもらう」
喋りだしたかと思えば、バカバカと⑨回も言いやがった……。じゃなくて!
何を帰ろうとしているんだ!? しかも主様を引き連れて!
「おいベル!」
「……。アルダ、帰りの道案内を頼めますね?」
しばし沈黙が流れる。アルダはうつむき、反応を見せない。
しかし、カウンター席に座りなおし、再び店主に声を掛けた。
「……マスター、私にもお酒を」
「恥を知れ!! チヅルがなぜ貴様にこの事を教えなかったのか考えなさい!!」
ベルはアルダの胸ぐらを掴み激怒する。散々嫌味を言われたことのある俺だが、このように感情を露にする姿は初めて見た。
だが、それも長くは続かず、すっと手を下ろしたかと思えば、元の口調で語り出す。
「失礼。今、貴方に必要なのは、忘れるための酒ではありません。
愛の囁きを超えた、夫婦の話し合いです。チヅルの元へ参りましょう」
「……はい」
その場に居る誰もが、アルダを止める事も、庇う事もできなかった。
俺も、バウムも、そして契約主であるカオリ様でさえも……。
「では皆様、これで失礼いたします。クロ、続けるなら止めません。頑張りなさい」
そう言って、やさしくクロの頭を撫で微笑むベルだったが、クロは固まってしまっている。
いや、この場の誰もが、ひらりと羽衣を翻し店を出る彼女達を、見送る事しかできなかった。
「ほぅ、ベルかっこいいのぅ。見せ場じゃのぅ。」
…………。
「なんじゃ、なぜ手紙を咥えておるのじゃ?」
…………。
「これを取れという意味かのぅ?」
ガチャ神ちゃんの、バカー。
「はっ!? これは、何とかちゃんに叱られるネタかの!?」
ぼーっと元ネタ解説してんじゃねーよ! 手紙よめよめ。
「はいはい。えーっと、なんじゃなんじゃ?」
『ガチャ神の性別と年齢を教えてください!』(匿名読者さん 5さい)
「皆がボケに回ると、ツッコミが不在になるのじゃ」
後書き長くなるから、早く答えるんだ。
「年齢と性別じゃがな、なにせこれでも神なのじゃ。ゆえに不明なのじゃ」
答える気ゼロかよ。あ、ちなみに俺は男ですよ。
年齢は数字の概念発生前から存在してるので、わかりませーん。
「なぜおぬしには年齢性別があって、ワシにはないんじゃ!?」
だってほら、俺が寝てる間の管理者としてガチャ神ちゃんを立てた訳だし?
代役の色々を考えるのもめんどくさかったんだよねー。
「ワシの扱いひどくないかのう!?」
そんなわけで“ご創造にお任せします”ってヤツですね?
「創造神だけに“ご創造”って、やかましいのじゃ!」
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