爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

260連目 爺サンタは泣き喚く

公開日時: 2021年1月1日(金) 18:05
文字数:2,524

前回のあらすじ

「戦力と人数の圧力で、クリスマス中止の理由を自供させに来たのじゃ」


ガチャ神の今日のひとこと

「カシスオレンジ用のオレンジジュースならバーにもありそうじゃ」

「ワシの好きなカクテルはxyzじゃ」



「立ち話もなんですから、どうぞお掛けください。

 お酒以外ですと、オレンジジュースしかご用意できませんが、皆様どうぞ」



 落ち着いた声の店主に促され、俺達はカウンターの後ろにある、4人掛けのテーブル席へ案内された。

3人ずつの2組に分かれ座る俺達の前に、すらりと長いグラスに入った、ミントと輪切りのオレンジが飾られたジュースが提供される。


 サンタの爺さんにも「もう酒は出せない」と、同じくジュースを出す店主。

さすがの爺さんもそれに文句は言わなかったが、ジュースに手を付ける事なくカウンター席に座ったまま背中を向け、孫娘との昔話を語り出した。



「昔は爺様爺様じいさまじいさま、と言ってあとを付いてくるような子でな……」


「よく、ままごとに付き合わされたんだがな……」


「いつも決まって、俺は子供役をやらされてな……」


「初等部の入学式で、親を差し置いて俺と一緒に写真を撮ってくれてな……」


「今だって肌身離さず持っていてよ、時々仕事中にな……」


「サンタさんに、大きなクマさんを貰ったって、一番に俺に教えてくれてな……」


「まさか俺がサンタだなんて思ってなくてよ、可愛くて可愛くて……」



 また……、またこの展開か!! こいつらの家系に、マトモな男はいないのか!?

惚気話の次は孫自慢!? なんなんだよ! いったいそれに、何の意味があるんだよ!

っていうか、孫自慢は去年も聞かされた気がするんだが!? もう面倒だ、一発殴ろうか!!



「うんうん。お孫さんは、目に入れても痛くないって言いますもんね」



 ってカオリ様!? もっともっと長くなるんで、その辺で止めましょうよ!?

アルダみたいに、三日三晩語るとか言いかねない雰囲気になってるんですけど!?

クロもそんな目で見てやるな、ベルと同じ目つきになってるぞ!?


 あぁそうか、ここは俺がなんとかしないといけないよなぁ……。

主様は完全にまくら状態を決め込んでるし……。正直面倒だ。

しかし、主様の期待に応えるためにも、やらねばならんか。



「で、爺さん。それがクリスマス中止と、どういう関係があるんだ?」


「鬼若、お前は何もわかっとらん!! アーニャの可愛さの、1割もわかっとらん!!」


「それって、分かる必要があるんですかねー?」


「嬢ちゃん! ここが大事な爺心ジジごころなんだよ!!」



 孫娘はアーニャという名で、クロと同い年の10歳だそうだ。そんなクロのじっとりとした眼差しにも折れぬとは、かなり拗らせているな……。

孫と同い年の女の子に、これだけ孫自慢をできるのだから強靭な精神だ。



「お義父とうさん、理解されなくても、アーニャがこの世で一番可愛い事は変わりませんよ」


「アルダ……、お前分かってるじゃねーか!!」



 チヅル自慢に飽き足らず、娘自慢まで……。と言いかけたが、話を進めさせよう。

というか、やはりアルダも親馬鹿だったか……。もう、この二人残して帰りたい。



「それで、その自慢の孫娘がどうしたってんだよ」


「うっ……、うぅっ……。アーニャが……、アーニャが“悪い子リスト”に入ってたんだよぉ……」


「そんなっ!? まさか、そんなはずないでしょう!? 何かの間違いでは!?」



 予想外の話に、アルダはがばっと立ち上がり、驚愕の表情を浮かべている。



「俺もそう思って調べてみたんだけどよぉ……。うぐっ……。

 そしたら、クリスマスは彼氏の家に行くって……。ぐぅっ……!」



 完全にジジイは泣き出してしまった。そしてアルダは立ち尽くしている。

かと思いきや、流れるような動きでジジイの横に座り、すっと店主を見つめる。



「マスター……、私にも一番強いやつを」


「アルダ! 待てコラッ!!」



 思わず首根っこをつまみあげるが、その姿は、雨に濡れた野良猫よりも悲壮感を漂わせていた。

隣は隣で、ジジイもカウンターに突っ伏して肩を震わせている。


 ところで、外泊って“悪い子リスト”に入るような内容なのだろうか?

そのへんの価値観は分からんな。クリスマスだからか?



「今年は“悪い子リスト”でも、来年は“大人リスト”に入るんだよ……。うぐっ……」



 うーむ、意味は分からんが、とりあえずそれが原因? なのは、なんとなくわかった。

つまり、孫のアーニャを説得すればいいのだろうか? いや、リストを取り消させる?

そんな事できるのだろうか。むむむ……、主様なら解決方法を知っているのだろうが……。

ふと主様に目をやれば、呆れかえった顔のベルと目が合ってしまった。



「バカバカしい……。ジジバカ、オヤバカ揃って、バカな話を長々と……」


「ちょっとベルさん!?」


「バカにバカと言って何が悪い? 孫に大切な人ができた事をなぜ喜べない?」


「だからって、そんな言い方……」


「人と人が愛し合うことは自然な事。そしては人は変わるもの。

 そんな事も分からぬ大バカ者には、お人形遊びがお似合いよ。

 可愛い可愛い、孫にそっくりなお人形でもプレゼントして差し上げましょうか?

 フッ……。我はこんなバカな話に付き合うつもりはない。失礼させてもらう」



 喋りだしたかと思えば、バカバカと⑨回も言いやがった……。じゃなくて!

何を帰ろうとしているんだ!? しかも主様を引き連れて!



「おいベル!」


「……。アルダ、帰りの道案内を頼めますね?」



 しばし沈黙が流れる。アルダはうつむき、反応を見せない。

しかし、カウンター席に座りなおし、再び店主に声を掛けた。



「……マスター、私にもお酒を」


「恥を知れ!! チヅルがなぜ貴様にこの事を教えなかったのか考えなさい!!」



 ベルはアルダの胸ぐらを掴み激怒する。散々嫌味を言われたことのある俺だが、このように感情をあらわにする姿は初めて見た。

だが、それも長くは続かず、すっと手を下ろしたかと思えば、元の口調で語り出す。



「失礼。今、貴方に必要なのは、忘れるための酒ではありません。

 愛の囁きを超えた、夫婦の話し合いです。チヅルの元へ参りましょう」


「……はい」



 その場に居る誰もが、アルダを止める事も、庇う事もできなかった。

俺も、バウムも、そして契約主であるカオリ様でさえも……。



「では皆様、これで失礼いたします。クロ、続けるなら止めません。頑張りなさい」



 そう言って、やさしくクロの頭を撫で微笑むベルだったが、クロは固まってしまっている。

いや、この場の誰もが、ひらりと羽衣をひるがえし店を出る彼女達を、見送る事しかできなかった。

「ほぅ、ベルかっこいいのぅ。見せ場じゃのぅ。」


…………。


「なんじゃ、なぜ手紙を咥えておるのじゃ?」


…………。


「これを取れという意味かのぅ?」


ガチャ神ちゃんの、バカー。


「はっ!? これは、何とかちゃんに叱られるネタかの!?」


ぼーっと元ネタ解説してんじゃねーよ! 手紙よめよめ。


「はいはい。えーっと、なんじゃなんじゃ?」


『ガチャ神の性別と年齢を教えてください!』(匿名読者さん 5さい)


「皆がボケに回ると、ツッコミが不在になるのじゃ」


後書き長くなるから、早く答えるんだ。


「年齢と性別じゃがな、なにせこれでも神なのじゃ。ゆえに不明なのじゃ」


答える気ゼロかよ。あ、ちなみに俺は男ですよ。

年齢は数字の概念発生前から存在してるので、わかりませーん。


「なぜおぬしには年齢性別があって、ワシにはないんじゃ!?」


だってほら、俺が寝てる間の管理者としてガチャ神ちゃんを立てた訳だし?

代役の色々を考えるのもめんどくさかったんだよねー。


「ワシの扱いひどくないかのう!?」


そんなわけで“ご創造にお任せします”ってヤツですね?


「創造神だけに“ご創造”って、やかましいのじゃ!」

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