前回のあらすじ
「鬼若、肉壁スキルを得る。じゃ」
ガチャ神の今日のひとこと
「鬼若も、この世界にやって来た頃と大きく変わったもんじゃな」
局長に報告を受けてしばらくした後、鬼若はご機嫌な様子でぽよぽよと跳ねる緑の職員に引き連れられて帰ってきた。
その様は、キッズエリアに付き添いで来たお爺ちゃん……。いや、付き添いの叔父さんといった様子だ。
少し場違いなような、困惑したような雰囲気。
それはまだ結果を知らされていないからだろうか。
「鬼若、お疲れ様なんだぜ!
こちらに来てからの頑張りが評価されて、スキルの強化が決まったんだぜ!」
「そういう事だからさ、今後も俺達の主力として頼んだぞ」
局長は鬼若と視線を合わせようと必死なのか、俺の頭の上でぽよぽよと跳ねるが、全長1mしかない俺を台にしても無駄な努力だった。
そんな微笑ましいであろう光景を見ても、鬼若はなんだか表情が暗い。
「どうした? 何かあったのか?」
「いえ、その……。ベルはどうしたのかと思いまして……」
「あぁ、それなら外で待機させてあるぞ」
「何か罰などは……」
「ないない。心配すんな。ま、気になるなら様子を見に行ってやってくれ」
俺の言葉に、鬼若は局長に会釈し、小走りで玄関ホールへと駆けて行った。
そうか、鬼若は俺と局長の話を聞いてないから、俺やベルがペナルティを受ける事を心配してたのか。
原因を作ってしまったと思っても無理はないが、原因のさらにその原因は不具合だ。
鬼若が気に病む事もないんだけどな。
「そうだ、ちょうどいいし、クマともう一人の契約主で新機能の実験をするんだぜ」
「あの新機能かー。俺とカオリなら、今さらな気がするんだけどなぁ……」
「学園運営局公式でやるからこそ、意味がある場合もあるんだぜ?」
「確かにそうかもしれないけどな。それで、カオリはまだ事務局内に居るのか?」
その問いかけに、先ほど書類を持ってきたピンクの職員が「しょくどうにいるよ~」と案内してくれる。
職員の中でも、事務系仕事をしているこのピンクの職員達は、際立ってゆっくりしている気がするな。
そんな事を考えながら、ぽよんぽよんするピンクボールを追いかければ、カオリとクロはのんびりとお茶を飲みながら、サボりの職員達と談笑していた。
サボリの職員達は局長を見るやいなや、目にも留まらぬスピードで逃げていったけどな。
あいつら、あんな速い動きもできたのか……。
「よっ、カオリ。もしかして、待っててくれたのか?」
「お疲れ様。えっと……、ちょっと心配だったしね」
「そうか。心配かけて悪かったな」
鬼若の経緯をベルの暴走を除いて軽く説明すれば、カオリは一安心といった様子だ。
クロは状況がつかめず、頭の上に「?」を浮かべているようだったけれど。
そういえばクロは不具合発覚の時も、配達に行かせていたので何も知らされてなかったんだったな。
それなのに文句も言わず付いて来てくれたし、運営の手伝いもしてくれたわけか。悪いことをしたな。
クロには、ご褒美のオヤツを用意してやるとしよう。
「それで、契約主が二人居る今、新機能の実証実験をしようと思って来たんだぜ!」
「局長、新機能の説明もナシに、いきなりすぎるだろ。とりあえず俺が説明しようか?」
「よろしく頼むんだぜ」
新機能、それは契約主同士が“同盟”を結ぶというものだ。
学園運営局に申請すれば、二人以上の契約主同士を同盟として認定し、それぞれ同盟の独自のルールを制定する事ができるといった内容だ。
この機能によって、学園運営局が契約主同士の間を取り持ち、クエストの共同受注やバトルの時の契約者の融通などができるそうだ。
ちなみに、学園運営局は、同盟を「契約主同士での契約関係」と定義している。
実装にあたって、俺が効率化のために既存システムの流用を提案したからな。
スマホゲーであれば、持っているキャラクターの貸し出しシステムとほぼ同じだ。
ギルドシステムという名前で、「ギルドメンバーと一緒に目標を達成して、アイテムゲット」というゲームもあったな。この二つを合わせたようなものだ。
俺はスマホゲーを手広くやるタイプではなく、狭く深く、そして見境のない課金をするタイプなので、他のゲームの事をあまり詳しくは知らないんだけどな。
「新機能については分かったんだけど、それって必要なのかな?
だって、クリスマスの時に鬼若君を借りた事もあるし、お正月の時は一緒にクエストを受けたよね?」
「そうれはそうなんだけど、そういう事のルールを事前に決めて、その都度の同意を得る手間が省けるようにする制度らしい」
「今までは非公式なやり取りだったのが、運営公認になるっていうのがウリなんだぜ!
それに、この新機能を目当てに同盟を組んでもらえば、契約主同士の不仲も解消されるんだぜ!」
「今までは『契約主同士は勝手にバトルしててください』と言わんばかりの放任だったよね……」
「方針転換ってヤツなんだぜ!」
カオリは腑に落ちないと言いたげな様子だが、局長に押し切られ同盟に合意してくれた。
といっても、書類にサインをするだけなので、何か変わったかといわれれば実感はない。
「えっと、これでまくま君と契約してる人は、私も呼び出すことができるって事だよね?」
「あぁ、そうだ。逆に俺がクロを呼び出す事もできる。そん時はよろしくな、クロ」
「はいっ! 任せてくださいっ!」
先ほどの話に、頭上の「?」を増やしていたクロだったが、頼られていると分かると、途端に元気になる。
忠犬クロ公は今日も立派なワンコである。
「試しに、誰か呼び出してみるんだぜ」
「あぁ、そうだカオリ。もしSSRが必要になったなら、できるだけ鬼若を呼び出してやってくれるか?」
「え? それはいいんだけど、どうして?」
「ほら、今回の一件ってさ、鬼若の自信の無さも原因のひとつかなって思ってさ。
だから、バトルで活躍できれば、自信に繋がるんじゃないかと思うんだよ」
本来なら俺がクエストを受けて、バトルの回数を増やして活躍させてやるのが一番いいのだろうが……。
しかし、転生してからクエストをサボりすぎだな。少し落ち着いたら学園運営局の出しているクエストを覗いてみて、やれそうな事はやっていこう。
今のところ、育成素材にもお金にも困ってはいないけどな。
「それじゃ、試しに鬼若君を呼び出してみよっか」
「緊急召喚で試してほしいんだぜ。
普通の呼び出しなら、連絡先交換だけで元々できてしまうんだぜ」
「あ、そっか。でも緊急召喚して、鬼若君は大丈夫なのかな?」
「今は、ベルと一緒に玄関前に居るはずだから、問題ないと思うぞ」
そう言うと「それじゃ試しに……」とカオリは緊急召喚を行う。
すると5秒のカウントダウンが始まり、0になった瞬間、足元に描かれた魔方陣から呆けた顔の鬼若が出てきた。
いや、召喚に5秒は短すぎるだろ。俺なら仕度に40秒は欲しい所だ。
着替え中とか風呂の途中だったり、トイレに行ってたりしたら……。
考えるだけでゾッとするな。まくらの俺には、どれも無縁だけど。
「えっ、あの……。なぜカオリ様が俺を……?」
「まぁ、その説明は後で。問題ないようだな、局長」
「実験は大成功なんだぜ!」
うんうん、これで俺とカオリ双方にメリットのある新システムが確立されたな、
などと喜んでいたのだが……、緊急召喚を真横で見ていたベルが、血相を変えて食堂に乗り込んできたのは言うまでもない。
ベルに俺達の居場所を聞かれたであろう、ピンクの職員は抱えられ、猛スピードを体験し「わーい! はっやーい! もういっかーい!」と、のほほんと喜んでいた。
なに? ガチャ神ちゃん、鬼若の成長にしみじみしてるの?
「161連目の頃を思い返せば、立派になりおって……」
うわ、これガチで子供の成長にしみじみしてる感じじゃねーか。
「まぁ、その頃はただのデータじゃったがな」
うわっ……。一気に台無しにしていく……。
「そんな事はどうでもいいのじゃ!」
あっ、はい。
「ミタ爺の新システムが実装されたようじゃな!」
あの天啓で“なるはや”に指定した、無茶振り新システムか。
「なるはやのくせに、もう三月じゃぞ!!」
いや、それなら不具合修正とかしてやれよ……。
「神のチカラの安売りはせんのじゃ!」
そーなのかー。
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