爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

610連目 あやしくない会議

公開日時: 2021年1月21日(木) 18:05
文字数:3,089

前回のあらすじ

「加害者と被害者で、奇襲攻撃の反省会をしていたのじゃ」


ガチャ神の今日のひとこと

「その実、情報戦じゃったがの」



「皆の者、忙しい中よく集まってくれた。では“白鳥アリサ対策会議”を行う」


「前にもこういうのあったような……」



 地獄の試験期間も終わり、奇襲事件から一週間ほど経った今日、放課後の空き教室で俺は切り出す。

すかさず入る、カオリのツッコミは無視さっせてもらおう。



「先週あった事に関しては、メッセージで送った通りだ。

 おそらく今後は相手から何か動きがあるとは考えにくいが、念のため情報共有と、対策を今回検討しておこうと思う」


「その前に、よろしいでしょうか」



 議事録を取るベルが真っ先に発言の許しを請う。俺は短く「どうぞ」と受ける。



「なぜ、ヨウコ様がこの場に?」


「え? 別に問題なくない?」


「まくま君……、問題なくなくないと思うよ」


「いやさ、アリサの事を知ってる人は多いほうがいいだろ?」



 この場に居るのは、いつものメンバーと言える5人。つまり俺、カオリ、鬼若、ベル、クロ。

そして追加メンバーとでも言うべきだろうか、イナバ、セルシウス、ヨウコの3人を加えた計8名が揃っている。


 クロはすでに会議の内容に参加するつもりがないのか、用意されたお茶とお菓子に夢中だ。

セルシウスはイナバに目を光らせているし、イナバはそのせいか、もしくは会議と言う場に緊張しているのかガチガチに固まっている。

ヨウコだけが話題に上がっても、我関せずといった様相で大人しく座り、瞑想でもしているような雰囲気だ。



「ですが、敵方に情報を渡すようなものだと、我は考えますが」


「別に構わないだろ。主様は一度戦った程度の相手など、敵とも思わんって事だろ?」



 鬼若のその言葉にはベルも押し黙るしかない。

その後契約したとはいえ、ベルと鬼若も元は戦った仲だしな。

そして、カオリ達とも一度は対立した事を、ベルも忘れているわけではない。

まぁ……、今回は戦ったと言えるのが微妙なラインだけど……。



「それよりもだ。主様、なぜ俺を召喚されなかったのですか!?」


「えー。だって、試験あるって聞いてたしさー」


「主様以上に大事な事など、あるはずがないでしょう!?」


「試験、大事。留年、ダメ。ゼッタイ。」


「まくま君、何かの標語みたいになってるよ……」



 カオリのツッコミも板に付いてきたな。

ま、会議なんて退屈なだけなのだから、こうやってテキトーな雰囲気を作っておいたほうが話しやすいだろ。


 鬼若は怒ってこそいないが、この場で話すのは不適当と思ったのか「この件は後ほどゆっくりと聞いてもらいます」とだけ言い、話を切り上げた。

やっぱり意外なまでに常識人だよな、なんて思う俺だが、そうじゃない。会議を進めないと。



「で、アリサの事なんだけど、その前にイナバの話を聞こうか」


「えっと、アリサさんとイナバ君は、知り合いなんだよね?」



 カオリの問いにイナバは緊張のあまり、裏返った声で「ひゃい」と返事する。

あまりに気の抜けた声に、全員がイナバに注目するものだから、イナバは冷や汗をかいて俯いてしまった。

そんな姿を見たセルシウスは、小さなため息をついて、不機嫌さを隠さず意見する。



「くらちん、ちょっといいかな?

 ボクはてっきり、イナバは令嬢と契約してるもんだと思ってたんだけど?

 その辺はどうなのさ?」


「そっ……、それはっ……、ですっねっ」


「それは事実です。イナバさんはアリサ様と契約していました」



 ガクガクと震えるイナバに代わり、ヨウコが答える。

イナバがこんな状況だからね、代わりに答えてもらえるならありがたい。

というか、イナバは何にそんな怯えているのだろうか。

そんなイナバに追い討ちをかけるよう鬼若は声を荒げる。



「じゃあ、イナバはヨウコの事も知っていて、主様に黙ってたって事か!?」


「鬼若、落ち着け」


「フフッ……。まくら様を2ヶ月も騙し続けた貴様がそれを言うか」


「うぐっ……。ですが……」



 それを言われちゃ鬼若も弱いよな。口喧嘩ではまだまだベルの方がが上だ。



「それについては妾が口止めをしておりました」


「えっ? でもイナバ君って、契約してからはずっと特訓してたから、そんな口止めするようなタイミング無かったと思うんだけど?

 もしかして契約前? でも、契約でまくま君に当たるかなんて分からないし……」


「節分の時だな? あの日、ヨウコを見たイナバの様子が変だったしな」


「ええ、その日の帰るときですね」



 ヨウコの用事ってのはそれだったわけだな。しかし、イナバも律儀に約束を守ったのか。

もしかすると、聞けば答えたのかも知れないけどな。



「それで、イナバは契約解除されたって事だよな? 二重契約はできないんだし」


「ええ、そうです。それが、12月の終わりごろでしたでしょうか」



 ヨウコは淡々と答えるが、そうなると契約解除から契約までが、ほとんど期間が開いてない事になるな。

そんな事がありうるのか疑問だが、考えてみればアリサが不要と判断するのだから、運0の俺が引き当てやすい……。言葉を選ばず、はっきりと言えば“使えない”契約者なのだろう。



「理由は……、聞かなくていいか。

 イナバは別に、アリサとグルになってたわけじゃないんだろ?」


「どうだか。前よりはマシだけど、今でも学校では令嬢の事気にかけてるみたいだし?

 ホントはくらちんと契約できて、情報と媚を売れるから喜んでたんじゃないの~?」


「セル、お前どうしたんだ? えらくイナバにつっかかるじゃないか」


「別に~? ボクが個人的にあの令嬢とイナバの事気に入らないだけだよ~?」



 あぁ、こりゃイナバが怖がるわけだ。

セルの、いつものムードメイカーとも言える雰囲気が全然無い。

人間合う相手と合わない相手が居るのは仕方ない。けれどここまで露骨なのは面倒だな。



「誤解があるのは不本意ですので言いますが、少なくとも妾の知る限りでは、イナバさんが何らかの情報をアリサ様に渡した事実はありません」


「ホントかな~? 令嬢の事だから、仲間内にも偽情報流してるんじゃないの~?」


「セルシウス、少し落ち着け。

 俺はアリサと今後対立するつもりはない。だから、敵対感情を煽るようなマネは慎め」



 俺の制止に、ムスっとした顔で「対策会議とか言ってたのに」と不貞腐れている。

まぁ、対策は考えないといけないけどな……。



「それでしたら、アリサ様も対立する気はもうありません。

 もとより奇襲が失敗した時点で、同じような作戦は取れません。

 ならば、3名のSSR★7を相手にせねばならなくなり、それができるのであれば、奇襲作戦なんて取りませんもの」



 そりゃそうだ。普通にやって勝てるのなら、正々堂々戦いを挑めばいいのだ。そして、アリサは強い契約者を欲している。

もしかすると、SSR★7の契約者が仲間にいないのだろうか?



「それなら、対策とか考える必要もないか。

 ま、対策って言っても、緊急招集をかける場合があるからそのつもりでいてくれ、っていうだけなんだけどな。

 んー、話すべきはこのくらいかな」



 他に意見や話がある人もいないようだったので、今回の所はこれで解散する運びとなった。

会議として皆を集めたにしては早く終わりすぎでは無いかと思うが、先ほどからイナバがちらちらとこちらを見ているのだ。

おそらくイナバのあの性格では、会議という場で発言できないのだろう。

なので、ここは切り上げて、一対一で話をした方が良い。



「あ、あとカオリも気をつけろよ。

 アリサはともかく、他のヤツに狙われる可能性もあるし」


「ごしゅじんにはクロがついているのですっ!」


「あぁ、クロ。よろしく頼むぞ」



 クロは張り切るが、ハンカチで口の周りのお菓子を拭いてもらっているのだから、世話されてるのはクロの方なんだよなぁ……。バトルでは頼りになるけども。



「イナバは居残りな。確認しておきたい事もあるし」


今回の口喧嘩は、鬼若とベルの1勝1敗で引き分けってトコですね。


「双方相手の続論をうまく封じる、なかなかの舌戦じゃったのぅ」


なんだかんだで、口喧嘩するほど仲が良い気がしてきた。


「ま、実際そうじゃろうな。セルシウスなど、一方的な口撃じゃしの」


その辺の確執は、今後語られるんでしょうかね?


「どうじゃろうな。セルシウスとアリサは性格が違いすぎるから合わんだけかもしれんがの」

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