前回のあらすじ
「優秀なわんこが、人探しをするのじゃ」
ガチャ神のワンポイント情報①
「仲間になるキャラは異世界より来た者なのじゃ。彼らは来訪者と呼ばれておるぞ」
ガチャ神のワンポイント情報③
「契約した来訪者は契約者と呼ばれるのじゃ」
「それにしても、カオリさんがまくらさんとお友達でよかったです」
道中、アルダは少しの不安と、バウムへの苛立ちを誤魔化すように話をしている。
どうやら話の内容を聞く限り、アルダはカオリと契約しているらしい。
「同じクラスってだけだったんだけど、最近仲良くなったんだよ」
「あぁ、俺がこんな姿だからさ、カオリには何かと助けてもらっている」
「そうだったんですね。しかし、契約主が二人居るというだけで珍しいですが、対立せずに友好関係にあるとは、聞いた事がありませんね」
「え? そういうもんなのか?」
「えっと……、わざわざ言う事でもないかなって思って、言わなかったんだけどね……」
少しバツの悪そうな顔をするカオリ、それに「しまった」と、失言に気付くアルダ。
どうやらカオリは、俺に隠していた事があるようだ。
確かに、今まで契約主と来訪者については聞いていたが、契約主同士に関しては聞いてなかった。
俺自身も、ゲームでの知識としては、契約主同士がバトルになる展開は何度も見ていた。
それはストーリー上の問題で片付けられており、契約主同士の根本的な関係性については、ゲーム内で語られた事はない。
なぜ契約主同士は対立する事になるのか……。カオリはその理由をゆっくりと話し始めた。
「あのね、契約主は多くの来訪者と契約できるんだけど、来訪者は複数の契約主とは契約できないの。
だから、来訪者から見れば、契約主は1人しかいないのね。そして、それは早い者勝ちなの」
「つまり具体例で言えば、俺と契約している鬼若は、カオリとは契約できないってことか」
「そういう事だね。でも例外……、と言うのかな? 方法がないわけじゃないの……」
言うべきか、言わずに誤魔化すべきか。カオリはそんな表情をしている。
しかし、俺だって察しが悪いわけじゃない。おそらくその内容は、友好関係を破壊する内容だ。
「別に言いたくないなら、言わなくてもいいが……」
「ううん、今までがフェアじゃなかったの。だからちゃんと言っておくね」
カオリらしいと言うべきか、良心の塊のような子だ。平和主義者、非戦闘主義。
戦闘につぐ戦闘のこの世界で、なぜ契約主をやれているのか、疑問に思うくらいだ。
「契約の解除、それがその方法。契約を解除すれば、契約のチャンスがまわってくるの。
もちろん契約式で引き当てる必要があるし、他の誰かに引き当てられる可能性もあるけど。
だから、契約主同士はバトルをして、負けたほうに契約解除を迫る場合があるの」
「でも、それって初期状態になるだけで、契約主同士が対立する必要はなくないか?」
「それでも、より強い来訪者を欲しがる契約主は多いの。もし相手がそういう人だったら?
そう考えただけで、契約主同士がわざわざ仲良くしようなんて、普通は思わないよね……」
そうか、だからカオリは、俺が転生する前は関わってこなかったのか。
もしカオリが、“ガチャ神のオリキャラ”でなかったとしても、この性格だ。
契約主である俺に関わらぬよう、距離を取っていたとしても不思議ではない。
近寄ってこない者は、ゲーム画面には映らない。ならば存在していても、プレイヤーは気付かない。
つまり、カオリは元々存在するキャラの可能性が出てきた。
カオリに対する不確定要素が増えてしまった。ガチャ神様、攻略本をください!
「そっか、ありがとう。でも俺はそんな事しないよ。
それに、カオリもそういう事する奴じゃないって、俺は知ってる」
「……。どうしてそう言い切れるの?」
「今までだって、俺の弱みを握る機会ならいくらでもあっただろ?
なんたって俺は、手も足も出ないまくらだからな。だから信用していいと思ってる。
これからもよろしくな、カオリ」
「……うん。ありがとう、まくま君。」
あぁ……、ちょっといい雰囲気だったのに、名前で台無しだよ。
ゲームでもあったな、こういうの。やはりプレイヤーネームは大事。今さらだけどな!
それに今はカオリとの敵対フラグをへし折れた方が重要だ。
カオリが居なければ、俺の学校での生活が破綻するんだからな。
「契約の解除……?」
歩みを止めて立ち尽くすウチのSSR二人。あれ? この二人も知らなかったのか?
いや、確かにゲームではそんなコマンドなかったし、鬼若が知らないのも無理はないのか?
「主様! 先ほどのカオリ様の指示を受けるようにとは、そういう意味なのですか!?」
「落ち着け鬼若、そうじゃない。助けてやって欲しいってだけだ」
涙目の鬼若がしがみ付いてくる。もはや、いつもの状態ではあるが……。
「鬼若君? 私がどうかしたの?」
「ご友人を守るのがご命令であれば従いますが、俺は主様以外の元に行くつもりはありません!」
いや、話がこじれるから、変な宣言をするな。
はぁ、カオリには秘密で護衛させたかったんだがなぁ……。
「いや、あれだ。遠出することになるだろ? だから、鬼若をカオリの護衛にと思ってな」
「なっ!? クロという者がありながらっ!! おおきなお世話なのですっ!!」
「いやいや、クロは人探しに集中してもらいたいからな。そうなると必要だろ?」
「うぅ……。でもでもっ! ごしゅじんは渡しませんからねっ!!」
「こっちこそ、主様を渡す気など無いわ!!」
あぁ……、なんだこれ。もう面倒だから、クロと鬼若は放っておこう。
「ま、そういう事だからカオリ、鬼若の事頼むわ」
「心配させてごめんね。それじゃぁ鬼若君、よろしくね」
「はい。それが主様のお望みとあらば……」
うん、とりあえず一件落着だ。こんな調子で、この先大丈夫なんだろうか。
そして、こんな話にしてしまった張本人のアルダも立ち尽くしていた。
「あの……、先ほどの話は、本当の事なのでしょうか……」
「え? アルダも知らない話だったのか?」
「うん。秘密ってわけじゃないけど、この話を来訪者にする契約主は、普通居ないからね。
もし契約解除が可能だと知られれば、契約に不満のある来訪者が裏切って、他の契約主に助けを求めるかもしれないでしょ?
だから、普通は話さないと思うよ」
しれっと言うけどさ、鬼若やベルに聞かれてしまった訳で……。
俺が隠そうとしていた場合、かなりやっかいな問題になってたぞ。
「ではこの話は、聞かなかった事にいたしましょう。よいですね鬼若」
「あぁ。だからといって俺は、契約解除なんて求めないけどな!」
あ、ベルも鬼若もそのつもりはなかったようだ。「聞かなかった事に」というのがベルらしいな。あえて意思表示しない大人の対応だ。
「クロも、ごしゅじん以外のごしゅじんなんていらないのですっ!」
「ありがとう、クロ。これからもよろしくね」
クロはカオリに抱き着いて、尻尾をパタパタと振っている。
カオリとクロも問題はない。けれど一人、意思表示をしていない契約者がいる。
「私も契約に不服はありません。しかし……。いえ、やめておきましょう」
アルダは何か言いかけて止めたが、そういうのって一番気になるんだよなぁ。
「何かあるなら言ってくれ。でないと、今後引っかかってモヤモヤするだろ」
「いえ、考えていた事が杞憂だと気付いたので、問題ありません」
「アルダさん。そういうのって気になるからさ、一応話してもらえる?」
カオリも気になったのか、珍しく催促する。
さて、その杞憂というものが、今後問題にならなければ良いのだが……。
ワンポイント情報が2つになってやがる……!
「ワシもちょびっと頑張ってるのじゃ。昇進はよはよじゃ!」
欲望に忠実すぎて、昇進させていいものか悩むんですが。
「こういうのはちゃんとアピールすべきなんじゃ。クロのようにの」
しれっと内容も絡めてくるとは……。
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