前回のあらすじ
「鬼若とベルに、買出しを頼んだのじゃ」
ガチャ神の今日のひとこと
「せっかくならば、恵方ロールケーキを食べたいのじゃ」
鬼若とベルの豆論争があった翌日、つまり今日は二月二日節分だ。
結局、色々と言い争っていたものの、ベルは鬼若の希望通り豆を買っていたようだ。
なんだかんだいって、ベルは鬼若の事を気にかけているのかも知れないな。
喧嘩するほどなんとやら、ってヤツだろうか。
そんな風に思い返しながら、俺は寮の厨房で、ヨウコと共に材料や用具の確認をしていた。
今回、ヨウコに恵方巻の作り方を教えてもらうために、どこか借りられないものかと管理人さんに相談してみれば、「昼食後なら使っていいよ」と言ってもらえたのだ。
学校に無理言って、家庭科室を借りようかと考えていたが、ダメ元でも聞いてみるもんだね。
事前準備も必要だし、近場を借りられるに越したことはない。
それに、寮の厨房の設備なら機材も大きくて助かる。なにせかなりの量を作る予定なのだから。
「しかし、材料の肉や卵が、レトルトの袋に入ってるとは思わなかったよ」
「あら? 熊さんも、調理実習で何度か目にされたはずでは?」
「そうなのか? まくら姿になる時に色々あって、記憶が曖昧なんだよね」
いつもの言い訳をしながら、作業台の上の材料の山をあらためて見る。
この世界では、獣人の来訪者に配慮して、野菜以外の食材は全て「なんちゃって食材」らしい。
そりゃ、鶏の獣人が居るのに、鶏肉や卵を食べるのは反感を買うだろうし、当然か。
しかし、この「なんちゃって卵」などの原料って、なんなんだろうね。
味と安全性さえ保障されていれば、気にしない方がいいのだろうけど。
そう思いながら、ヨウコが事前に下準備してある乾物系の材料や、昨日買ってきてもらった材料、必要な調理器具の最終確認などを終えた頃、イナバがやってきた。
「まくらさんこんにちは。もしかして、早すぎましたか? すみません」
「いや、準備も終わった所だから大丈夫。
というか、遅れてきたわけでもないし、ちくいち謝らなくていいぞ」
「すっ……。スミマセンッ」
結局謝るんかーい! なんてツッコミを入れるのはやめておこう。
まぁ、こういう奴なんだってことで、俺が慣れるようにした方が早いしな。
そうだ、そんな事より、ヨウコにイナバのことを紹介してやらないとな。
「ヨウコ。こいつが、最近俺と契約したイナバだ。よろしくな」
「はじめまして、ヨウコと申します。本日は、よろしくお願いしますね」
「えっ……。あっ、はい。よろしくお願いします」
イナバは人見知りを発症したのか、ヨウコの姿を見るなり挙動不審になっている。
昨日の買出しの時に一緒に居たから参加させたものの、イナバは外した方が良かったかもしれないな。本人のためにも。
友達の友達と遊ぶ事になって気まずくなるあの空気。そんな気まずさに押しつぶされそうな俺に、救世主たちがやって来た。鬼若とベルだ。
その後あまり間を置かずして、カオリとクロもやってきて、全員が揃った。
ヨウコは、いつも通りの丁寧な口調で自己紹介をしているが、ベルとは年末に顔を見ていたのもあるし、レシピを交換し合う相手ともあって、すぐに打ち解けたようだ。
「それじゃ、さっそくだけど、厨房を借りられる時間も限られてるし、始めるか」
俺の言葉で静まった所に、「では皆さんこれを」と、ベルがなにやら大きな袋を取り出した。
中身はと言えば、エプロンと三角巾だったのだが、今日ベルが早く来なかったのは、この準備のためだったのだろうか。
などと思いながら出されたエプロンを付ければ、なんだか給食の配膳当番を思い出し、懐かしい気持ちになる。
そんな俺を、「かわいい!」と言いながらカオリ、クロ、ヨウコの三人は端末で写真を撮りまくっていた。
ベルは当然といった顔をしているが、俺としては何をしても可愛くなってしまうこの姿も、なかなか考え物だ。もっと、リアル志向の熊にしてもらった方がよかっただろうか?
いや、リアルな熊がエプロンを着けた姿というのは、可愛さが面白さに変わるだけだな。
そんな事はあったが、調理を始めれば、ヨウコは分かりやすい指示を出していたし、それをベルは、熱心にメモを取りながら作業している。マジメに和食をマスターしたいようだね。
俺や鬼若、イナバも手伝っていたが、あまり役に立たなかったな。
むしろ、寿司を巻く時に「中の具材が崩れないように強めに巻きます」なんて説明を聞いた鬼若が、おもいっきり力を入れてしまい、具材が弾丸のように発射され、ベルの頬を掠めたものだから、一触即発の事態になったしな。
そんな様子を見てビビったイナバは、逆にゆるく巻きすぎて、持ち上げた途端崩壊したのだから、「こいつら面白い失敗するなぁ」と眺めていたのだ。
うまく作れたのはやはり女性陣だな。
ヨウコの感覚で説明されるからね、鬼若相手なら「全てを繊細に扱ってやれ」とでも言わないと、破壊してしまうんだよ。
クロもカオリに手伝ってもらいながらだけど、上手く作っていたな。鬼若達、クロに惨敗だぞ。
俺はといえば、可もなく不可もない、いたって普通の巻き寿司を作り上げた。
「このクマハンドでどうやって作ってるんだ?」と言いたげなクロに見つめられながらね。
クマハンドといっても、ベルの羽衣製なので自由に形も変えられるし、力加減も思いのままだ。追加機能もあるのだが、それはまだ練習中。
ともかく、よほど細かい作業でない限りは問題ない。実際授業中ノートを取るのに、ペンが握れないなんていう苦労もしてないからね。
この姿にバージョンアップして、本当に色々とやりやすくなったよ。
今までが悲惨だっただけだけどね……。
「では皆さん一本ずつ巻けましたし、試食しましょうか。ええと、今年の恵方は……」
「南南東だな」
「ごしゅじん、エホウってなんですか?」
「えっと、恵方巻きは切らずに、恵方に向かって食べるルールなの」
「それと、食べてる間は喋っちゃダメで、願い事をするみたいだな」
「願い事……、ですか」
そういえば、初詣に節分に、さらには七夕と……、日本人ってイベントのたびに願い事してるよな。
事あるごとに願われる神様も大変だろうなぁ。まぁ、願えばなんでも叶えてくれるような神ではなさそうだけどね。
あっ、でも俺は一つ何でも叶えてくれる枠を持ってるんだった。
けど、まだ内容考えてないし、今は無心で、保留のままにしてもらえるよう考えながら食べるとしよう。
しかし、皆が同じ方向を向いて巻き寿司をかじっている姿は、なんとも奇妙な光景だよな。
その中でも鬼若は、強く巻きすぎたのと本人の体格ががっしりしてるのもあって、細巻きを食べているように見える。
イナバもイナバで、小柄なのと、ゆるく巻きすぎたのをもう一枚ノリで補強したのもあって、太くて海苔が多い。
口に入れる事すら苦労しているみたいだ。喉につまらないといいんだけど……。
巻き寿司って、中の具材の準備がめんどくさいんだよね。
「作った事ある言いぶりじゃな」
天地創造と同じ海苔で作ってみた。
「……ワシにツッコミ役をさせる気じゃな?」
うん。先月ボケに回れなかったから。
「理由が酷いのじゃ……」
それで、黒くて太いモノを咥える儀式なんですが。
「黒い塗りつぶしを、海苔と呼ぶらしいのう」
あっ、ボケ被せでボケ役を奪う気だな!?
「で、誰で想像したんじゃ? 色々な人物がおるぞ?」
やっぱ、カオリかな~。
「ツッコミ拒否じゃと!?」
それじゃあガチャ神ちゃんは?
「もちろん鬼若じゃ!」
腐ってやがる!!
「外注さんこと中の人は、誰を想像したのかのう?」
『……クロ』
「おまわりさんこっちなのじゃ!!」
やはりケモナーはブレないなぁ……。
ところで、実は今回本文がなろう版と変わってるよね?
「なろう版じゃと?」
ガチャ神ちゃんは触れなくてヨシ!
『何を見てヨシ! と言ったんですか?』
話が進まない気がするから俺が言うか。
節分の日付と、恵方が2021年仕様となっております。
『今年の節分はなぜか二月二日らしい』
色々細かい決まりがあるんだねぇ……。
そして章月と投稿月がちょっと前に逆転したね。
『毎日2投稿以上で颯爽と駆け抜けるノベリズム版』
ストックの消滅が早い早い。
「いったいおぬしらは、何の話をしておるんじゃ……」
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