爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

430連目 ヨウコの料理教室

公開日時: 2021年1月12日(火) 12:05
文字数:2,727

前回のあらすじ

「鬼若とベルに、買出しを頼んだのじゃ」


ガチャ神の今日のひとこと

「せっかくならば、恵方ロールケーキを食べたいのじゃ」

 鬼若とベルの豆論争があった翌日、つまり今日は二月二日節分だ。

結局、色々と言い争っていたものの、ベルは鬼若の希望通り豆を買っていたようだ。

なんだかんだいって、ベルは鬼若の事を気にかけているのかも知れないな。

喧嘩するほどなんとやら、ってヤツだろうか。



 そんな風に思い返しながら、俺は寮の厨房で、ヨウコと共に材料や用具の確認をしていた。

今回、ヨウコに恵方巻の作り方を教えてもらうために、どこか借りられないものかと管理人さんに相談してみれば、「昼食後なら使っていいよ」と言ってもらえたのだ。

学校に無理言って、家庭科室を借りようかと考えていたが、ダメ元でも聞いてみるもんだね。

事前準備も必要だし、近場を借りられるに越したことはない。

それに、寮の厨房の設備なら機材も大きくて助かる。なにせかなりの量を作る予定なのだから。



「しかし、材料の肉や卵が、レトルトの袋に入ってるとは思わなかったよ」


「あら? 熊さんも、調理実習で何度か目にされたはずでは?」


「そうなのか? まくら姿になる時に色々あって、記憶が曖昧なんだよね」



 いつもの言い訳をしながら、作業台の上の材料の山をあらためて見る。

この世界では、獣人の来訪者に配慮して、野菜以外の食材は全て「なんちゃって食材」らしい。

そりゃ、鶏の獣人が居るのに、鶏肉や卵を食べるのは反感を買うだろうし、当然か。


 しかし、この「なんちゃって卵」などの原料って、なんなんだろうね。

味と安全性さえ保障されていれば、気にしない方がいいのだろうけど。



 そう思いながら、ヨウコが事前に下準備してある乾物系の材料や、昨日買ってきてもらった材料、必要な調理器具の最終確認などを終えた頃、イナバがやってきた。



「まくらさんこんにちは。もしかして、早すぎましたか? すみません」


「いや、準備も終わった所だから大丈夫。

 というか、遅れてきたわけでもないし、ちくいち謝らなくていいぞ」


「すっ……。スミマセンッ」



 結局謝るんかーい! なんてツッコミを入れるのはやめておこう。

まぁ、こういう奴なんだってことで、俺が慣れるようにした方が早いしな。

そうだ、そんな事より、ヨウコにイナバのことを紹介してやらないとな。



「ヨウコ。こいつが、最近俺と契約したイナバだ。よろしくな」


「はじめまして、ヨウコと申します。本日は、よろしくお願いしますね」


「えっ……。あっ、はい。よろしくお願いします」



 イナバは人見知りを発症したのか、ヨウコの姿を見るなり挙動不審になっている。

昨日の買出しの時に一緒に居たから参加させたものの、イナバは外した方が良かったかもしれないな。本人のためにも。


 友達の友達と遊ぶ事になって気まずくなるあの空気。そんな気まずさに押しつぶされそうな俺に、救世主たちがやって来た。鬼若とベルだ。

その後あまり間を置かずして、カオリとクロもやってきて、全員が揃った。


 ヨウコは、いつも通りの丁寧な口調で自己紹介をしているが、ベルとは年末に顔を見ていたのもあるし、レシピを交換し合う相手ともあって、すぐに打ち解けたようだ。



「それじゃ、さっそくだけど、厨房を借りられる時間も限られてるし、始めるか」



 俺の言葉で静まった所に、「では皆さんこれを」と、ベルがなにやら大きな袋を取り出した。

中身はと言えば、エプロンと三角巾だったのだが、今日ベルが早く来なかったのは、この準備のためだったのだろうか。

などと思いながら出されたエプロンを付ければ、なんだか給食の配膳当番を思い出し、懐かしい気持ちになる。


 そんな俺を、「かわいい!」と言いながらカオリ、クロ、ヨウコの三人は端末スマホで写真を撮りまくっていた。

ベルは当然といった顔をしているが、俺としては何をしても可愛くなってしまうこの姿も、なかなか考え物だ。もっと、リアル志向の熊にしてもらった方がよかっただろうか?

いや、リアルな熊がエプロンを着けた姿というのは、可愛さが面白さに変わるだけだな。



 そんな事はあったが、調理を始めれば、ヨウコは分かりやすい指示を出していたし、それをベルは、熱心にメモを取りながら作業している。マジメに和食をマスターしたいようだね。


 俺や鬼若、イナバも手伝っていたが、あまり役に立たなかったな。

むしろ、寿司を巻く時に「中の具材が崩れないように強めに巻きます」なんて説明を聞いた鬼若が、おもいっきり力を入れてしまい、具材が弾丸のように発射され、ベルの頬を掠めたものだから、一触即発の事態になったしな。


 そんな様子を見てビビったイナバは、逆にゆるく巻きすぎて、持ち上げた途端崩壊したのだから、「こいつら面白い失敗するなぁ」と眺めていたのだ。



 うまく作れたのはやはり女性陣だな。

ヨウコの感覚で説明されるからね、鬼若相手なら「全てを繊細に扱ってやれ」とでも言わないと、破壊してしまうんだよ。

クロもカオリに手伝ってもらいながらだけど、上手く作っていたな。鬼若達、クロに惨敗だぞ。


 俺はといえば、可もなく不可もない、いたって普通の巻き寿司を作り上げた。

「このクマハンドでどうやって作ってるんだ?」と言いたげなクロに見つめられながらね。


 クマハンドといっても、ベルの羽衣製なので自由に形も変えられるし、力加減も思いのままだ。追加機能もあるのだが、それはまだ練習中。

ともかく、よほど細かい作業でない限りは問題ない。実際授業中ノートを取るのに、ペンが握れないなんていう苦労もしてないからね。

この姿にバージョンアップして、本当に色々とやりやすくなったよ。

今までが悲惨だっただけだけどね……。



「では皆さん一本ずつ巻けましたし、試食しましょうか。ええと、今年の恵方は……」


「南南東だな」


「ごしゅじん、エホウってなんですか?」


「えっと、恵方巻きは切らずに、恵方に向かって食べるルールなの」


「それと、食べてる間は喋っちゃダメで、願い事をするみたいだな」


「願い事……、ですか」



 そういえば、初詣に節分に、さらには七夕と……、日本人ってイベントのたびに願い事してるよな。

事あるごとに願われる神様も大変だろうなぁ。まぁ、願えばなんでも叶えてくれるような神ではなさそうだけどね。

あっ、でも俺は一つ何でも叶えてくれる枠を持ってるんだった。

けど、まだ内容考えてないし、今は無心で、保留のままにしてもらえるよう考えながら食べるとしよう。



 しかし、皆が同じ方向を向いて巻き寿司をかじっている姿は、なんとも奇妙な光景だよな。

その中でも鬼若は、強く巻きすぎたのと本人の体格ががっしりしてるのもあって、細巻きを食べているように見える。


 イナバもイナバで、小柄なのと、ゆるく巻きすぎたのをもう一枚ノリで補強したのもあって、太くて海苔が多い。

口に入れる事すら苦労しているみたいだ。喉につまらないといいんだけど……。

巻き寿司って、中の具材の準備がめんどくさいんだよね。


「作った事ある言いぶりじゃな」


天地創造と同じ海苔で作ってみた。


「……ワシにツッコミ役をさせる気じゃな?」


うん。先月ボケに回れなかったから。


「理由が酷いのじゃ……」


それで、黒くて太いモノを咥える儀式なんですが。


「黒い塗りつぶしを、海苔と呼ぶらしいのう」


あっ、ボケ被せでボケ役を奪う気だな!?


「で、誰で想像したんじゃ? 色々な人物がおるぞ?」


やっぱ、カオリかな~。


「ツッコミ拒否じゃと!?」


それじゃあガチャ神ちゃんは?


「もちろん鬼若じゃ!」


腐ってやがる!!


「外注さんこと中の人は、誰を想像したのかのう?」


『……クロ』


「おまわりさんこっちなのじゃ!!」


やはりケモナーはブレないなぁ……。

ところで、実は今回本文がなろう版と変わってるよね?


「なろう版じゃと?」


ガチャ神ちゃんは触れなくてヨシ!


『何を見てヨシ! と言ったんですか?』


話が進まない気がするから俺が言うか。

節分の日付と、恵方が2021年仕様となっております。


『今年の節分はなぜか二月二日らしい』


色々細かい決まりがあるんだねぇ……。

そして章月と投稿月がちょっと前に逆転したね。


『毎日2投稿以上で颯爽と駆け抜けるノベリズム版』


ストックの消滅が早い早い。


「いったいおぬしらは、何の話をしておるんじゃ……」

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