前章のあらすじ
「ネコ耳鬼若サンタという、怪物が生み出されてしまったのじゃ」
ガチャ神のきょうの一言
「研修はもう嫌じゃ……。研修はもう嫌じゃ……」
「よう鬼若、楽しんでるか?」
「おっ、爺さんどこ行ってたんだ? 今日の主役だろ?」
「何言ってんだ、今日は主役なんていないさ。
ちゃんと招待状にも、忘年会だって書いてあっただろ」
俺は、サンタの爺さん主催の忘年会へと招待されていた。
会場のサンタ工場の山積みにされていたプレゼントは、子供達に配られ姿を消していた。
代わりにいくつものテーブルが並べられ、それぞれに豪華な料理や飲み物が所狭しと並んでいる。
そして期間工エルフや、その他関係者達が思い思いに食事をしたり、仲間達と談笑していた。
立食パーティーと言うらしいのだが、椅子もなく歩き回る事ができるようになっている。
けれど、俺はこの工場に知り合いが多く居るわけではないので、立ちぼうけだ。
カオリ様やクロ、ベルも見当たらず一人で黙々と、普段は口にできないご馳走を食べていた。
手紙など貰う事のない俺に、淡い木苺色の招待状が届いたのは数日前の事。
金のインクが伝える内容は、クリスマスの手伝いをしてくれた皆を集めての、お疲れ様会へのお誘いだ。
去年もこういう会をやっていたのだろうか。クリスマス自体を手伝ったわけではないので、前は招待されなかっただけかもしれない。
しかし、こういう会をすると、何か“重大発表”をしてしまわないか不安になる。
例えば爺さんがサンタを引退するなんて話とかな……。
少なくとも今年の事件のせいで、爺さんは既に警報発令対象となっている。
出席者は、爺さんの人柄を知っているからこの場にいるが、普通ならば避難している所だろう。
それもあり、忘年会の給仕をしている喫茶店とバーの店主、あとその兄弟達からは、俺がプレゼント配りを手伝ったのもあって、「引退されたら来年はサンタをしてくれ」とすでに頼まれたくらいだ。
一体、どこからその話が漏れたのだろうか。
「それでも、爺さんが居ないと意味無いだろ」
「これでも主催者なんでな、ちょっと裏にも用事があんだよ。
それよりも、ちょっと外で話そうか」
パーティーの主催とあって、スーツをビシッと着こなした爺さんは、俺をベランダへと誘う。
俺もセルシウスに頼み、パーティーに着ていく服を見繕ってもらったのだが、やはり爺さんと違って背伸びしている雰囲気が出ている。
しかし、セルシウスに頼んだせいで「コーディネート代」として色々買わされて、結局サンタ工場でのバイト代はほとんど消えてしまった……。いや、その話は今はいいか。
満天の星空の下、爺さんは白い息を吐きながら、様子を伺うように聞いてくる。
「……実際にサンタやってみて、どうだった」
予想はしていた。爺さんも俺に引き継がせようとしているのだろう。
けれど俺には、爺さんほどの志を持ってやっていけるとは、到底思えなかった。
「大変だったけど、楽しかったかな。いい稼ぎにもなったし」
「そうか……」
これは本心だ。空を飛ぶように駆け抜け、プレゼントを届けるのは気持ちよかった。
それに、稼ぎは本当に良かった。クロと共に爺さんの足元を見て、バイト代をふっかけてやったからな。
けれど爺さんは無給だ。俺が今後やるなら、割に合うといえるだろうか。
「お前は……。やりたい事、見つかったか?」
「爺さんみたいに、損得抜きにしたやりたい事は見つかってない。
けど今は、主様の側に居ても恥ずかしくない存在になりたいと思ってる」
「……。そうか、なりたいモノが見つかったか」
「そんな、大それたもんじゃないけどさ……」
自分勝手に生きていた俺に、他人のために生きる道があると見せてくれた。
そんな爺さんになら、少し恥ずかしい、この胸のうちを見せても良いと思えた。
「主様は、俺の事をちゃんと見てくれていて……。
俺に“どうあるべきか”を押し付けるんじゃなく、
俺が“どうありたいか”それを考えてくれる人なんだ。
そんな主様の行く先に、俺は付いていきたい。
だから、主様に釣りあう俺になりたい。ただそれだけだ」
「いいじゃねえか。十分な理由だ」
爺さんはニッと笑いかけ、バンバンと俺の肩を力いっぱい叩いた。
「俺だってサンタ始めた頃はさ、食うに困ってる子供達にパンを配ったのが始まりさ。
それも“名乗らず、人知れず配るのが格好いい”なんて、今思えば恥ずかしいよな。
けどそれがいつの間にか、こんなでっけぇイベントになったんだ。
お前だって、今は取るに足りないと思ってるかも知れねぇけどよ……。
いつか、それが大きな何かに変わるだろうよ」
そうやって、大きく育ったサンタと言う存在を、爺さんは手放すと言うのだろうか。
たとえ志が無かったとしても、それをより大きく育てる事は、俺にもできるんじゃないだろうか。
「爺さんはさ、サンタ辞めるのに心残りってないのか?」
「……ん? なんで俺が辞める事になってんだ?」
「えっ? そういう話じゃなかったのか? 警報出るようになって、続けられないんじゃ……」
「あぁ、それか。それならもう解決したさ。端末で確認してみな」
そう言われ、俺は学園運営局の来訪者警報情報を確認する。
そこに記されていたのは「警報解除」の一文だった。
「は? なんで? 学園運営局が何かしたのか?」
「そうだな……。付いて来な」
そういって連れられたのは、にぎやかなパーティー会場を通り過ぎた先。
重厚感のあるドアの向こう。会議室と書かれた部屋だった。
「あっ、鬼若君。ちょうどいいところに……」
「カオリ様? どうかされましたか?」
中に居た人物は、カオリ様と見慣れぬ少年。少年は青い目を腫らし、泣いているようだ。
いや、よく見れば、ただの少年ではない。肩あたりまで伸びた金髪の中に、垂れた兎のような耳がある。
見た目こそ人間だが、恐らくは獣人だ。それに、服装がセルシウスと同じ高等部の制服だった。
主様やカオリ様とは違うので、学区が違うのだろう。
「一体、どういう状況ですか」
「とりあえず、まくま君を何とかしてほしいな……」
「主様?」
カオリ様の目線の先、そこには机に力なく横たわる主様の姿があった。
「主様っ!? 一体何があったのです!? 敵襲ですかっ!?」
持ち上げ揺さぶっても反応はない。
まるで本物のまくらに成り果ててしまったようだ。
ただ、小さく、本当に小さな、空気の漏れるような声で「ガチャは悪い文明……。ガチャは悪い文明……」そんな呪文が聞こえてきた。
ガチャ神、研修からの帰還。
「あれは何の罰ゲームだったんじゃ……」
あ、読んでる人に説明しないとね。
研修内容なんですけどね、ちょっとしたお遊びですよ。
“5億年ボタン秒速16連打するまで帰れま戦!”
っていう、ホントに軽いお遊びですよ。
「ただし記憶リセットは無しじゃ……。ただの拷問じゃ……」
1度も16連打/sできなかったね。
「たとえ神の精神力でも、できるわけないのじゃ……」
最終的に、俺が代わりに16連打したんだけど。
「それだけで80億年じゃ……。もう嫌なのじゃ……」
今回はこの辺で勘弁してやるか。
なんだかんだで頑張ったガチャ神ちゃんには、プレゼントをあげないとね?
「また、とんでもない拷問のプレゼントなのじゃろう……?」
すげー人間不信になってやがるな。いや俺、人間じゃないけど。
ま、条件付きだからあながち間違ってはないかな。
「受け取るかは、内容を聞いてからにしてもよいかのう……?」
じゃ、その件は今度って事で。
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