爆死まくら

ガチャで爆死したおっさん、ゲーム世界に転生する。運0で乗り切る異世界ライフ
島 一守
島 一守

310連目 サンタ達の忘年会

公開日時: 2021年1月6日(水) 12:05
文字数:2,531

前章のあらすじ

 「ネコ耳鬼若サンタという、怪物が生み出されてしまったのじゃ」


ガチャ神のきょうの一言

 「研修はもう嫌じゃ……。研修はもう嫌じゃ……」



「よう鬼若、楽しんでるか?」


「おっ、爺さんどこ行ってたんだ? 今日の主役だろ?」


「何言ってんだ、今日は主役なんていないさ。

 ちゃんと招待状にも、忘年会だって書いてあっただろ」



 俺は、サンタの爺さん主催の忘年会へと招待されていた。


 会場のサンタ工場の山積みにされていたプレゼントは、子供達に配られ姿を消していた。

代わりにいくつものテーブルが並べられ、それぞれに豪華な料理や飲み物が所狭しと並んでいる。

そして期間工エルフや、その他関係者達が思い思いに食事をしたり、仲間達と談笑していた。


 立食パーティーと言うらしいのだが、椅子もなく歩き回る事ができるようになっている。

けれど、俺はこの工場に知り合いが多く居るわけではないので、立ちぼうけだ。

カオリ様やクロ、ベルも見当たらず一人で黙々と、普段は口にできないご馳走を食べていた。



 手紙など貰う事のない俺に、淡い木苺色の招待状が届いたのは数日前の事。

金のインクが伝える内容は、クリスマスの手伝いをしてくれた皆を集めての、お疲れ様会へのお誘いだ。

去年もこういう会をやっていたのだろうか。クリスマス自体を手伝ったわけではないので、前は招待されなかっただけかもしれない。


 しかし、こういう会をすると、何か“重大発表”をしてしまわないか不安になる。

例えば爺さんがサンタを引退するなんて話とかな……。


 少なくとも今年の事件のせいで、爺さんは既に警報発令対象となっている。

出席者は、爺さんの人柄を知っているからこの場にいるが、普通ならば避難している所だろう。


 それもあり、忘年会の給仕をしている喫茶店とバーの店主、あとその兄弟達からは、俺がプレゼント配りを手伝ったのもあって、「引退されたら来年はサンタをしてくれ」とすでに頼まれたくらいだ。

一体、どこからその話が漏れたのだろうか。



「それでも、爺さんが居ないと意味無いだろ」


「これでも主催者なんでな、ちょっと裏にも用事があんだよ。

 それよりも、ちょっと外で話そうか」



 パーティーの主催とあって、スーツをビシッと着こなした爺さんは、俺をベランダへと誘う。

俺もセルシウスに頼み、パーティーに着ていく服を見繕ってもらったのだが、やはり爺さんと違って背伸びしている雰囲気が出ている。


 しかし、セルシウスに頼んだせいで「コーディネート代」として色々買わされて、結局サンタ工場でのバイト代はほとんど消えてしまった……。いや、その話は今はいいか。


 満天の星空の下、爺さんは白い息を吐きながら、様子を伺うように聞いてくる。



「……実際にサンタやってみて、どうだった」



 予想はしていた。爺さんも俺に引き継がせようとしているのだろう。

けれど俺には、爺さんほどの志を持ってやっていけるとは、到底思えなかった。



「大変だったけど、楽しかったかな。いい稼ぎにもなったし」


「そうか……」



 これは本心だ。空を飛ぶように駆け抜け、プレゼントを届けるのは気持ちよかった。

それに、稼ぎは本当に良かった。クロと共に爺さんの足元を見て、バイト代をふっかけてやったからな。

けれど爺さん本職は無給だ。俺が今後やるなら、割に合うといえるだろうか。



「お前は……。やりたい事、見つかったか?」


「爺さんみたいに、損得抜きにしたやりたい事は見つかってない。

 けど今は、主様の側に居ても恥ずかしくない存在になりたいと思ってる」


「……。そうか、なりたいモノが見つかったか」


「そんな、大それたもんじゃないけどさ……」



 自分勝手に生きていた俺に、他人のために生きる道があると見せてくれた。

そんな爺さんになら、少し恥ずかしい、この胸のうちを見せても良いと思えた。



「主様は、俺の事をちゃんと見てくれていて……。

 俺に“どうあるべきか”を押し付けるんじゃなく、

 俺が“どうありたいか”それを考えてくれる人なんだ。

 そんな主様の行く先に、俺は付いていきたい。

 だから、主様に釣りあう俺になりたい。ただそれだけだ」


「いいじゃねえか。十分な理由だ」



 爺さんはニッと笑いかけ、バンバンと俺の肩を力いっぱい叩いた。



「俺だってサンタ始めた頃はさ、食うに困ってる子供達にパンを配ったのが始まりさ。

 それも“名乗らず、人知れず配るのが格好いい”なんて、今思えば恥ずかしいよな。

 けどそれがいつの間にか、こんなでっけぇイベントになったんだ。

 お前だって、今は取るに足りないと思ってるかも知れねぇけどよ……。

 いつか、それが大きな何かに変わるだろうよ」



 そうやって、大きく育ったサンタと言う存在を、爺さんは手放すと言うのだろうか。

たとえ志が無かったとしても、それをより大きく育てる事は、俺にもできるんじゃないだろうか。



「爺さんはさ、サンタ辞めるのに心残りってないのか?」

 



「……ん? なんで俺が辞める事になってんだ?」


「えっ? そういう話じゃなかったのか? 警報出るようになって、続けられないんじゃ……」


「あぁ、それか。それならもう解決したさ。端末で確認してみな」



 そう言われ、俺は学園運営局うんえいの来訪者警報情報を確認する。

そこに記されていたのは「警報解除」の一文だった。



「は? なんで? 学園運営局うんえいが何かしたのか?」


「そうだな……。付いて来な」



 そういって連れられたのは、にぎやかなパーティー会場を通り過ぎた先。

重厚感のあるドアの向こう。会議室と書かれた部屋だった。



「あっ、鬼若君。ちょうどいいところに……」


「カオリ様? どうかされましたか?」



 中に居た人物は、カオリ様と見慣れぬ少年。少年は青い目を腫らし、泣いているようだ。

いや、よく見れば、ただの少年ではない。肩あたりまで伸びた金髪の中に、垂れた兎のような耳がある。

見た目こそ人間だが、恐らくは獣人だ。それに、服装がセルシウスと同じ高等部の制服だった。

主様やカオリ様とは違うので、学区が違うのだろう。



「一体、どういう状況ですか」


「とりあえず、まくま君を何とかしてほしいな……」


「主様?」



 カオリ様の目線の先、そこには机に力なく横たわる主様の姿があった。



「主様っ!? 一体何があったのです!? 敵襲ですかっ!?」



 持ち上げ揺さぶっても反応はない。

まるでまくらに成り果ててしまったようだ。


 ただ、小さく、本当に小さな、空気の漏れるような声で「ガチャは悪い文明……。ガチャは悪い文明……」そんな呪文が聞こえてきた。

ガチャ神、研修からの帰還。


「あれは何の罰ゲームだったんじゃ……」


あ、読んでる人に説明しないとね。

研修内容なんですけどね、ちょっとしたお遊びですよ。

“5億年ボタン秒速16連打するまで帰れま戦!”

っていう、ホントに軽いお遊びですよ。


「ただし記憶リセットは無しじゃ……。ただの拷問じゃ……」


1度も16連打/sできなかったね。


「たとえ神の精神力でも、できるわけないのじゃ……」


最終的に、俺が代わりに16連打したんだけど。


「それだけで80億年じゃ……。もう嫌なのじゃ……」


今回はこの辺で勘弁してやるか。

なんだかんだで頑張ったガチャ神ちゃんには、プレゼントをあげないとね?


「また、とんでもない拷問のプレゼントなのじゃろう……?」


すげー人間不信になってやがるな。いや俺、人間じゃないけど。

ま、条件付きだからあながち間違ってはないかな。


「受け取るかは、内容を聞いてからにしてもよいかのう……?」


じゃ、その件は今度って事で。

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